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それが運命の恋と言うならば

金(土)曜日は更新せずに申し訳ございませんでしたっ……!

後日埋め合わせします。



「運命の出会い6」の中盤

プロディージ視点



 人柄を考えれば意外だと思われるだろうが、プロディージは『運命の恋』というものがあると信じていたりする。


 理由は単純明快。プロディージ自身がメルローゼ(奥さん)を一目見ただけで心の全てを持っていかれたからという実体験からくるものだ。それさえなければ、きっと鼻で笑い飛ばしていたタイプだろう。


 強烈に惹かれる相手と出会い、その全てが上手くいくとは思っていないが、それでもきっと運命には抗えない。完全に縁が断ち切れるその日まで、なんとか結び付こうとする。

 プロディージにとってはメルローゼ。フィーギス殿下にとってはマヤリス王女がそうであるように、姉にとっては王鳥とオーリムがそうなのだろうと思っていた。一目惚れではなかったようだが、なにせ神様が無理矢理結び付けた運命だったので、三人の運命は誰よりも強固なのだと考えていたのだ。


 ……どうやら全て、勘違いだったようだけれど。


 手を取り合った二人を視界に入れないように去っていった姉の背中を見送った後、プロディージの腕をへし折らんばかりの強さで握り締めてくるメルローゼの手を、ポンポンと撫でて宥める。


「折れるから」


「だって……だって……!」


「気持ちはわかるけどね。……まさかこうなるとは思わなかったよ」


 そう言って侮蔑を隠しもせず睨み付けた先では、熱に浮かされたような表情でコンバラリヤ王国の次代の王妃となるはずのリスティスと踊っている『ラズ』本来の姿をしたオーリムがいた。


 オーリムが何か囁くと、無表情なリスティスの頰がほんのりと赤く染まり、熱が伝染する。世界には二人しかいないような錯覚を覚える甘い雰囲気を……反吐が出るような思いで見ていた。


 溜息を吐いて、くしゃりと自身の前髪を乱暴に握り締める。


「姉への恩情を愛情と勘違いしてたってところかな? 恩どころか、随分面倒な状況にしてくれたもんだよね」


「最っ低……!」


「ああ、最悪だ。さて、これからどうなるかな」


 と(つぶや)いてみたものの、結果はわかりきっているけれど。


 オーリムがあれほど強く惹かれた相手なのだから、きっと王鳥もそうなるのだろう。となるとリスティスはビドゥア聖島に招かれる事になる。それがどういう形かはわからないけど、姉が追いやられる事には変わりない。

 男爵令嬢でありながら王族より位が上の王鳥妃(おうとりひ)に選ばれておいて、他国の公爵令嬢に寵愛を奪われたのだ。位だけみれば公爵令嬢の方が上に立つのに相応しいと思われるのは当然であり、王鳥と代行人も公爵令嬢を選んでいる。勘違いから選ばれた姉は嘲笑の的になる事は免れない。世間から見れば学の足りない無邪気な男爵令嬢という評判らしいので、尚更だ。


「お義姉様の事、どうする気なのかしらねっ!」


 メルローゼも同じような事を考えていたらしい。プロディージの腕から扇子の方に力のぶつけ先を変えたせいで、ミシミシと嫌な音を立てている。


 その問いには、肩を竦める事しか出来ないけれど。


「さあ? いっそ手放してくれたらいいんだけど」


「えっ、お義姉様、帰ってきてくれるのっ⁉︎」


「喜んでるところ悪いけど、フィーギス殿下が許さないよ。もう姉上が王鳥妃(おうとりひ)だって広く伝わってしまっているから、今更撤回は無理。お飾りとしてそのまま据え置くでしょ」


「くっ、またもフィーギス殿下なのねっ……!」


「まっ、王鳥様が追い出せと言い出したら話は別だけど、流石にそんな事しないんじゃないかな」


 プロディージの王鳥の印象は傲慢不遜でいけ好かない神様だが、そこまで鬼畜ではないだろうと思っていた。勘違いだったとはいえ自ら縁を結び、今まで愛情をもって妃として接していた相手だ。いらなくなったからといって捨てるような真似はせず、一時の寵愛を与えた相手として、それなりの待遇でその場に据え置いてくれる。


 いっそ捨ててくれた方がメルローゼも……ついでにプロディージも喜ぶし、セイドとしては自由が利いたけど、王鳥が返すと言い出してもフィーギス殿下が全力で阻止するだろう。なにせ姉が色々な意味でお気に入りなようだから。


 まあ、お飾りに据え置くつもりなら、プロディージは手段を選ばずに姉を回収するつもりだけど。セイドを第二の聖都にするつもりなのだから、寵愛を得られなかった王鳥妃(おうとりひ)の住処として充分だろう。

 否とは言わせない。あれだけ執着しておきながら、姉を運命としなかったオーリムが悪いのだ。


「今までいなかった王鳥妃(おうとりひ)に無理矢理選んでおいて、お飾りにするつもりなのっ⁉︎」


 それはあんまりではないかと涙を溜め始めるメルローゼを慰めるよう、そっと肩を抱く。


「ほんとだよね。後入りしてきたあれは外の人間だから大屋敷にでも引きこもってればいいけど、うちは嘲笑の的じゃん」


「理不尽過ぎるわ!」


「……ごめん、ローゼ。嫁いできて早々こんな事になっちゃって」


 今後の事を憂いて溜息を吐けば、ふと視線を感じてその先を辿る。

 するとメルローゼが大きな瞳をよりまんまるにさせてこちらを見ているのだから、こぼれ落ちないか心配になる……ではなく。


「……なに?」


「素直に謝るディーって、やっぱり違和感」


「悪かったね、今まで謝りもしなくて」


「今更そんな事言われてもどうしようもないわよ。……あっ、セイドベリー、売れなくなるかしら?」


 メルローゼもようやく姉以外の事にも思考が働いたのか、眉根を寄せて難しい顔をする。


「普通に美味しくて保存もきくからある程度残ると思うけど、少なくとも社交界では縁起が悪い物として嫌厭(けんえん)されるんじゃない?」


「ああ……あなたはお飾りですよって意味として使われそう……」


「まっ、どんな形でも使われるなら売れるしいいけど、今まで通りの利益は見込めないかな」


「そうよねぇ〜。貴族相手はそれでもいいけど、なんとか平民の皆様の同情を引けないかしら?」


 扇子で口元を隠したメルローゼは、現状維持以上を貫く為の今後の算段でも立ててくれているのだろう。ありがたい話ではあるが、王鳥に捨てられた姉を使って何をするつもりなのかと苦笑する。


 まあ、姉なら償いとか言って許すのだろうけど、プロディージ的にはあまり姉ばかりをあてにするのもどうかと思ってしまうのだから、なんだかんだ言っても姉に甘い。


「……ローゼは『運命の恋』ってあると思う?」


 ぼんやりと二人を睨みつけていれば、思わずそんな(つぶや)きが口から漏れていて、はっと口元を抑える。

 だが一足遅かったようでメルローゼの耳に届いてしまい、先程よりも目を丸くしながらこちらを凝視するものだから、その視線から逃れるようにそっぽを向いた。


「ロマンス壊しのディーの口から、なんか凄い言葉が出てきたっ⁉︎」


「……なに? ロマンス壊しって」


「だってディーったら、私がお義姉様に貸した恋愛小説を(ことごと)く否定したじゃない!」


 確かにした。まだ姉が出ていく前の話だが、メルローゼと話題を共有出来ればと思い、姉に貸していた本を勝手に読んでみたのだ。プロディージも読書が好きなので、口喧嘩に発展せず友好的な話が出来るとっかかりになればいいと期待して。

 が、その内容はプロディージには到底受け入れられないものばかりだった。ロマンスという綺麗な名前で飾り付けた非常識で頭に花が咲いた恋物語のどこに面白さを見出せばいいのかわからず、結局批判する事しか出来なくて、反対に喧嘩の元になってしまったのだ。

 どうやら姉も理解が及ばなかったようで、そのうち期待通りの感想を得られないと悟ったメルローゼは、その手の本を持ってくる事はなくなった。実はメルローゼも素直に楽しめなくなっていたと知ったのは、つい先日の事である。


 ロマンスに否定的なプロディージの口から『運命の恋』なんてむず痒い言葉が出れば、それは驚くだろう。プロディージ自身も言うつもりはなかったのに、つい口を滑らしてしまったのだから仕方ない。開き直って、胸を逸らしながら腕を組んでやった。


「あれとは全く違う種類の話でしょ。頭に花畑が出来上がっている創作物と、実際にある現象を一緒にしないで」


「頭に花畑が出来上がっているって何よっ⁉︎ ……ん? 実際にある現象?」


 コテンと首を傾げながらジロジロこちらを見上げてくるメルローゼの視線に、さすがに居た堪れなくなってくる。意地でも目を合わせてやるものかと、視線から逃れ続けた。


「ディーは『運命の恋』があるって思ってるの?」


「……悪い? 実際今もリムがこうなってるし、僕がローゼと初めて会った時の経験でもあるから言ってるんだけど?」


「……はあ、経験……」


 よくわかっていない言葉のように意味を咀嚼(そしゃく)して、ようやく飲み込めた頃にはボンっと頰を瞬く間に真っ赤に染めて、カッとこちらを見上げてくる。


「経験っ⁉︎」


「だから、そう言ってるじゃん」


「そっ、そそそうなんだっ⁉︎ ディーにとっては私がそうなのっ⁉︎」


「うるさいなぁ。何回も似たような事言わせないでよね」


「そっ、そうねっ……!」


 モジモジし始めたメルローゼに気恥ずかしさを感じつつ、もうこの話は終わりと言わんばかりに二人の方に視線を戻す。


 メルローゼとコソコソ話している間に、曲は終盤に差し掛かっていた。そろそろオーリムの役目も終わるだろうと踏んだプロディージは緩みきった気を引き締めると、オーリムの方に歩み寄る。当然、目元を吊り上げたメルローゼも一緒だ。


「……私も身に覚えがあるから、あると思うわ」


「……そっか」


 その答えに動揺しそうになったものの、こんな時に嬉しさが湧くのだから、恋とはどうしようもない。どうしようもないからといって、あれは絶対に認めてやらないけど。


 曲が途切れ、お互い名残惜しそうな視線を隠しもしないまま手を離し、向かい合って礼をするオーリムとリスティスの姿を、すぐ側で眺めていた。


「ありがとうございました。この御恩は生涯忘れません」


「いや。君を助けられたのなら、俺にとっても幸いだ」


 一人称に外向きの『私』ではなく、内向きの『俺』を使うのかと冷笑しながら、いい雰囲気をあえて壊す勢いで、つかつかと靴を鳴らしながら近寄っていく。無作法なんて知った事か。

 音を警戒するようにこちらを見るオーリムの頰をぶん殴りたい衝動に駆られながら、はっとした様子のリスティスに向けて歪な笑みを向けた。


「失礼。これがお役に立てたようで、ようございました」


 次期王妃となる公爵令嬢相手に、他国の男爵令息如きが先に話しかける禁を犯しながら、二人の距離を引き離すようにオーリムの二の腕を掴んで後ろに引く。


 敵視を隠さないプロディージにすっと目を細めるリスティスは、プロディージがオーリムの婚約者の弟だと知っているようだ。彼女の義妹であるルルスのような頭の足りない愚かな令嬢でなくてよかったと言うべきか……どのみちプロディージが敬うべき相手ではない、政敵と言っていい存在と認定したけれど。


「……いえ」


「もういいですよね。では、御前を失礼しますよ。これはミゼーディア公爵令嬢の目に触れていい身分の男ではありませんので」


「そんな事っ」


「失礼します」


 何か言おうとしたが気付かなかったフリをして、オーリムを引き摺るように歩き出す。


 少し歩いた所で、同じくオーリムを見ていたのだろう無表情のプロムスとアミーと合流し、更にその先にいたラトゥスが視線で二階へと促したので、先導してくれる背中についていく。

 フィーギス殿下もレイザール殿下と一言二言話してラトゥスに並ぶから、一緒に尋問してくれる気らしい。レイザール殿下は踊った二人と周りの雰囲気に気付いていないのか首を捻っていたけれど……難しい顔をした側近の方がまだ賢そうだなと、ぼんやり思った。


 二階の天幕の内側まで来ると、前に投げ飛ばす勢いでオーリムの二の腕を放す。ひ弱なプロディージの力では微かによろけるだけだった事にイラッとしたから、今度はその胸倉を掴んでやった。


「随分と楽しそうだったじゃん?」


「っ、ちがっ⁉︎」


「言い訳なんか聞く気はないから」


 そう蔑んだ目で睨み付けてやれば、オーリムはようやく何をしていたのか自覚したように、顔を真っ青にさせていく。


 まるで被害者と言わんばかりの様子なんて、はっと鼻で笑い飛ばしてやるだけだ。


「僕はあんたと政略結婚させたつもりはないんだけど? 政略的な観点から見れば王鳥妃(おうとりひ)なんて、リスクばかりじゃないか」





 ――プロディージは『運命の恋』というものがあると知っている。


 プロディージにとってメルローゼがそうであり、メルローゼにとってプロディージがそうだったように、オーリムにとって姉がそうだというならば……そして姉を幸せにしてくれるというのであれば、たとえ身分不相応でも溜息を吐きながらその背中を押して、仕方ないから祝福もしてやろうと思っていた。


 けれど、違うというのであれば話は別だ。


 オーリムにとっての運命の恋の相手があの女ならば、不要な姉は返してもらう。

 王鳥妃(おうとりひ)としては有用でも、フィーギス殿下にとって利になる相手だとしても、プロディージの知った事ではない。姉が傷付くばかりの場所にずっと置いておく程、蔑ろに出来ない大切な姉だ。


 それでもオーリムにとって姉こそが運命の相手と言うのなら、運命に抗って証明してみせてほしい。


 その姿を、最後まで見届けてやるまでだ。



意外とロマンチックな一面もあったプロディージのお話。まあ超限定的ですが。

ロマンチックついでにシスコンも炸裂しております。

本編であまり触れなかった、あのままだとソフィアリアの立場はどうなっていたのかという説明もさせていただきました。まあ、ものっ凄くいらない立場に立たされて惨めな思いをしてしまうよねという。

オーリムと王鳥の寵愛は奪われてしまっても、大鳥達は王鳥妃ではなくソフィアリアが好きなので、変わらず懐かれたままなのが救いかな〜という感じです。

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