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【第三部番外編連載中】王鳥と代行人の初代お妃さま  作者: 梅B助
第一部 黄金の水平線の彼方
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認められない二夫一妻 6

 大舞踏会を明日に控えた、もうすぐ日付が変わろうというその時間。

 今日は夜デートもなしにして、明日に備えて早寝したものの二時間程で起きてしまい、それからなかなか寝付けずにいた。


 と、コンコンと窓をノックされ、ビクリと肩を強張らせる。

 寝室にはバルコニーはなく窓のみで、この部屋は階でいうと二階なのだが、高さ的には実質三階だ。それもこんな時間である。警戒しない訳がない。

 部屋から出て助けを呼ぼうとベッドから立ち上がり、ネグリジェの上からショールを羽織ると、そっと音の鳴った窓から遠ざかるように部屋を出る。と――


「……王様?」


 バルコニーには王鳥が居て目を見開いた。王鳥とパチリと目が合うと、彼は視線を寝室の窓の方に向けて、しばらくするとふわりと人影がその方向から現れて、なお驚く。


 彼はニッと笑い、内側にある鍵を指差す。少し迷ったが、仕方がないので戸惑いのまま頷き、鍵を開けた。


「こんな夜中にどうされたのですか? リム様は」


「眠っておるから安心するがよい。余と妃の二人きりだ」


 オーリムの姿を借りた王鳥は、当然のように中に入ってくる。もう少しで満月という月を背に、王鳥はソフィアリアをまっすぐ見つめていた。夜着姿の為かいつもより首周りが開けており、その姿は少し艶めかしい。

 王鳥とはもう実質結婚してるようなものとはいえ、こんな時間で、ソフィアリアも今はネグリジェ姿だ。好きな人の一人なのだが、今は色々と困ってしまう。


「あの、さすがに今はいけませんわ」


「何がだ? ……ああ、夜這いではないぞ。余は人間の子作りはせぬから、こやつにしてもらうがよい」


 そうなのか。……いや、そうではなくて。


 あまりの発言に顔を真っ赤にしながら、とりあえずコクコク頷き、けれどやっぱり何をしに来たのかわからず、首を傾げてしまう。明日は早いと知っていると思うのだが。


「では一体……?」


「そなた、答えを見つけたな?」


 目を見開き、顔を強張らせる。だがすぐに空気が抜けるようにしょげて、俯いてしまった。胸が痛くて、思わずショールをギュッと握りしめる。


 泣きそうなソフィアリアに王鳥はふっと笑いかけ、その腕の中に抱き寄せた。そして慰めるように背を優しく叩く。


「……わたくし、また罪を重ねたわ」


「そうだな」


「どう、自分を許していいのか、もうわからないの」


 声が震えた。けれど今日は目を腫らす訳にはいかないから、涙は耐えるように彼の肩に額を乗せる。


「そなたもこやつと同じ事を言うのだな」


 そう言ってくつくつ笑う王鳥に顔を上げる。その表情は誰よりも優しく、ソフィアリアだけを見つめていた。


「リム様も?」


「こやつの性格は知っておろう? そなたの何十倍も卑屈で、とんでもない根暗ぞ」


「何ですか、それ」


 思わずふっと笑う。確かに少し後ろ向きだが、オーリムは真面目なのだ。真面目だから……その場に留まる事しか出来なくなってしまったのだろうか。


 ギュッともう一度、王鳥に縋りつく。今度は柔らかく髪を梳いてくれた。


「……わたくし、リム様にひどい事を言ってしまったわ」


「こやつは気にしておらんよ。勝手に自分を責めただけだ」


「そんなつもりじゃなかったの。今も昔もわたくしは無知で、無自覚のまま人に危害を与えてばかりね」


「それに気付いて取り戻そうと、身を削って懸命になれるだけ、人間の中では上等な方ぞ。……なあ、妃よ」


 グイッと(あご)を掴まれて、無理矢理顔を上げさせられる。


 ふわりとバルコニーの窓から風が入ってきて、彼の髪を優しく巻き上げた。背に流された長い二股の髪が風に踊る。

 月光に明るく照らされて、一瞬彼の髪の色が変わったように見え、その色にギュッと下唇を噛んだ。だがそれを見た王鳥が唇を親指でクイッと下に引き、解してしまう。


「答えを見つけたそなたがそれをどうするかは、好きにするがよい。立ち止まって眺め続けるもよし、見つけた事に満足して引き返すもよし。忘れて、新しい何かを求めるもよしだ」


「……なんですか?それ。王様らしくないです」


「余は余のした事は後悔せぬ。だが、拗らせた原因になった事は少々気にしておるからな。……こやつに会うたばかりの余は、今よりも人の心を理解するのが下手だったのだ」


 そう言って寂しそうに笑ってしまったから、ソフィアリアは思わず彼の頬を両手で包んだ。そしてふにゃりと不恰好に微笑んでみせる。


「……わたくし達、いつも失敗ばかりですわね」


 その手を上から重ねて包み返し、王鳥は目を細めてうっとりと頬擦りをした。


「失敗とは認めぬよ。認めなければ、それは失敗ではない。結果は全て受け止める度量はあるからな。余は、そなたらと違ってうじうじだけはせぬのだ」


 あまりに傲慢な物言いにくすくす笑ってしまう。けれど、とても王鳥らしい。


「それはお羨ましい事ですわね。……もう少しだけ、胸をお貸しくださいな。わたくし、最後はちゃんと貴方様の真の望みを叶えに行きますから」


 そう言えば、コツリと額が触れ合う。たまにされるこれは何回やられてもなかなか慣れず、つい赤くなってしまう。今はお互い薄着なので尚更だ。


「王様、恥ずかしいですわ」


「本当はキスをしたいのだがのぅ。こやつが妃とやっていない事を余が勝手にするとうるさいから、今はこれだけで我慢しておるのだ。キスくらいさっさとしろと、妃からも言うてやるがよい」


「そんな事を言ってしまえば真っ赤になって、数日顔を見ていただけなくなってしまいそうです」


 なんとなく口にした言葉だったが、本当にそうなりそうで思わずふふっと笑ってしまう。王鳥もニッと満足そうに笑った。


「王様。慰めに来てくれてありがとうございます」


 ギュッと抱き締めると、王鳥もギュッと抱き締め返してくれて、すぐにふわりと離れる。

 オーリムの姿を借りた王鳥は、本来の王鳥の背に飛び乗り、その頭上からソフィアリアを見下ろした。


「そなたは余の妃だ。当然の事をしたまで」


「まあ! 嬉しいですわ。……ねえ、王様。わたくし、あなた様にも恋をしているのです。それだけは、忘れないでくださいな」


 (なび)く髪を手で押さえ、少し照れながらの告白に、王鳥は幸せそうに微笑んだ。


「存分に恋しがるとよい。余はそれ以上の愛を返そう。大鳥はとても一途で、愛情深いのだ」


 それだけ言うと飛び立ってしまった。


 そんな後ろ姿をソフィアリアはしばらく見送り、今度はぐっすり寝付けそうだと心から安堵した。


 



 ――大舞踏会が迫ってくる。何かが大きく変わり、全てが終わってしまいそうなそんな予感にソフィアリアは……覚悟を、決める事にした。

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