リアポニア武具と罪作りな代行人
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「愛の形1」の序盤
ソフィアリア視点
プロディージとメルローゼと鉢合わせて腹ごしらえを済ませた茶屋を出て、また二人と別れたソフィアリア達は、リアポニアの大通りを歩き、楽しく観光していた。
「せっかくここまで来たのだから、あの店の視察は外せないよね」
誰もが見惚れそうな笑みを浮かべて一軒の店を指差すフィーギス殿下に、隣に控えるラトゥスは静かに頷く。
「ああ。何か使えるものがあるかもしれない」
そう言うラトゥスも無表情ながら目は好奇心を隠しきれていないのだから、なかなか珍しい事態だ。
「視察じゃなくてただの買い物だろうが。まっ、せっかくだし、入らなきゃ損だよな」
二人の様子をくつくつ笑いながら見守っていたプロムスだって、静かに中の様子を窺おうと首を伸ばすオーリムだって気になって仕方ないというのなら、そこまで惹かれるものはないソフィアリア達女性陣も行かないという選択肢はない。そう思って大通りから少し逸れたところにあった武器屋に足を向ける事にした。
店内に入って好奇心のままに行動する男性陣を、それぞれの最愛に寄り添いながら付き合う。
「これは、投げナイフの一種なのか?」
一つの武具を手に取ったオーリムはそれを物珍しげに眺めているから、ソフィアリアも一緒にオーリムの手を覗き込んでみた。
一見鞘のない両刃のナイフに見えるが、後部が輪状になっている不思議な武具だった。ソフィアリアはあまり武具に精通していないが、ビドゥア聖島では流通していないと思う。
「リム様も知らないの?」
「ああ。ここに紐でも通すのか? 何故だ?」
「失くさないとか、投げた後に手元に引き寄せる為にというところかしら?」
「投げた分は消して、新しく出した方が隙がないだろ」
「それが出来るのは、リム様や伯爵位以上の大鳥様と契約した鳥騎族だけじゃない……」
困ったように溜息を吐けば、オーリムは忘れていたのか、バツの悪そうに視線を逸らした。
「そちらは『苦無』と言いまして、リアポニア自治区のみで流通している道具なのです。ナイフと同じように使ったり、飛び道具として使用するほか、土を掘ったり岩間に差して登ったりと、登器としても使われているのですよ」
ふわふわ笑いながらそう解説してくれたマヤリス王女の言葉を聞いて、新たな知識を得られた事は嬉しく思ったものの、その用途に思い至ったソフィアリアは眉尻を下げる。
「まあ! 石造りの王城なんかだと安易に侵入されてしまいそうね。そのままこれで襲い掛かればいいし、これ一つで暗殺が出来てしまうわ」
「物騒な考えはやめたまえ」
「ビドゥア聖島に持ち帰らないようにしないとな……」
笑みを引き攣らせたフィーギス殿下と遠い目をしたラトゥスには悪いが、武器なのだから真っ先に危機意識を向けるのは当然だ。戦闘についてはほぼ素人であるソフィアリアですら容易に思いつく事なのだから、悪巧みをするような人間ならもっと早くこの考えに思い至るだろう。
「ええ。リアポニアでも『忍者』という影のような存在が使用する暗器の一つですので、その用途が正しいのですが……」
「リアポニアでは影を『ニンジャ』というのだね」
国が変わっても主に高位貴族以上につく裏方の汚れ仕事を担う影は存在するんだなと遠い目をしつつ、とりあえず見なかった事にして、そっと棚に戻して忘れる事にした。新たな知識は時として害をもたらしかねないと、そう実感しながら。
「リム様とプロムスが腰に差してる剣もだけど、リアポニアは武器も独特ねぇ」
雰囲気を変える為にアミーの側に行き、プロムスが手に取っている不思議な形状の剣を一緒に見てみた。
片刃の刀身に反りが入っているのが特徴的なその剣は、ソフィアリアが知る一般的な剣よりも細長い。レイピアに近いがあれほど細長い訳ではなく、持ち手も剣とそう変わらない形状だ。強いて言えば、鍔が円形なのが特徴的かもしれない。
あと、オーリムもプロムスも腰に二振り差しているのが少々気になる。オーリムは二刀使う事もあるが、プロムスは一刀しか使わない。そういう決まりなのだろうか?
プロムスはその剣を棚に返しながら、肩を竦める。
「私はあまり手に馴染まないですね。すぐ刃が欠けそうです」
「ロムは大雑把だものね」
「おう、よくわかってんじゃん」
理解を示されたプロムスに嬉しそうな表情で頭を撫でられても、アミーはすんっと無表情を保っていた。もっと大っぴらにイチャイチャしてくれていていいのに、実に残念である。
「これは剣ではなく刀っていうんだ。力任せに叩き斬る事と突き刺す事を想定した剣と違って、叩いて引く事を想定しているから、あまり力がなくても斬れる反面、ロムが言っていた通り力任せだと刃が欠けやすい」
キラキラした目でそう話すオーリムは、刀については知っていたらしい。ソフィアリアに教えられるのがよほど嬉しいのか、どこか得意げな表情をしている。
その様子が可愛くて、ついくすくすと笑ってしまった。
「刀については詳しいのね?」
「王に戦場に送られた時に、リアポニア出身の剣士……『サムライ』と名乗る人物が一方的に解説してくれた」
「あら、お友達?」
片頰に手を当てて、つい目をパチパチさせる。人見知りのオーリムにプロムス達以外に仲良くしている人がいたとは思わなかったと、少し失礼な事を考えてしまう。
不思議そうな顔をしたソフィアリアに、だがオーリムも首を傾げ、難しい顔をしていた。
「友達ではないと思う。敵側だったし、一方的にライバル認定されただけだ」
「ふふ、何度も顔を見合わせてライバルだと思われるくらい、何か感じるものがあったのよ。刀の事だって教えてくれたのでしょう?」
もし立場が違えばいい相棒として肩を並べていたのではないかと思うと、笑みを深めていた。戦場という過酷な場所でいい出会いがあったなら、少しは救われるだろう。
オーリムもかつてのライバルの存在を思い出したのか、笑みを浮かべているくらいなのだから。
「あの女が勝手に喚いていただけだ」
「……女?」
「ああ、女剣士……いや、サムライだったな。俺のところに真っ先に勝負に来てどうでもいい事を吐き捨てていく変な奴だったけど、こうしてフィアも知らない事を教えてやれたんだから、まあ悪くない出会いではあったんだろうな」
それはその女サムライとやらがオーリムに好意を抱いていたのではないかという言葉は、グッと飲み込んだ。オーリムだって気付いていない事だし、もう二度と会う事もないだろうから、わざわざ教えてやる必要もない。
そう、いい出会いではなく、ちょっとした事故のようなものだったのだ。そんな事の為に、ソフィアリアは悋気を感じてやらない。オーリムが昔から好きだったのはソフィアリアで、これからの最愛だってソフィアリアなのだから。
「フィア、嬉しいけど、ちょっと痛いんだが……」
手に力がこもってオーリムの腕を締め付けてるなんて、気のせいなのだ。
「……罪作りね」
「リムも女を引っ掛けてくるなんて芸当が出来たんだな」
「何の話だっ⁉︎」
昔馴染み夫婦も、余計な事は言わないでほしいものである。
日ほ…リアポニア自治区を楽しむソフィアリア達と、散々周りのせいで霞んでモテないと描写されていたオーリムのモテ話。
一応オーリムもイケメンではあります。ただスーパーなダーリンさん成分が弱すぎるのと、周りが顔面つよつよなせいで全く目立たないけどね!
気になる女サムライさんですが、残念ながら今後登場する予定はないです。ソフィアリアの言う通り、きっとオーリムが好きだったのでしょう。




