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この羞恥は何のため?

「鈴蘭のお姫さま4」の裏側

アミー視点



 コンバラリヤ王城で一波乱あったものの、大惨事の現場を放置する事にして、アミー達は学園に向かう為に馬車に乗っていた。


 港から王城への移動もそうだったが、護衛役のプロムスとオーリムは二台に分かれた馬車それぞれに乗って任務を熟さなければならない為、二人のパートナーであるアミーとソフィアリアも必然的に分かれる事になる。


 という訳で、プロムスを除いて唯一話しかけやすいソフィアリアとは同乗出来ず、フィーギス殿下とその婚約者であるマヤリス王女と乗車する事になったアミーは、人見知り(ゆえ)にギクシャクしていた。侍女教育の賜物か、それを顔に出すような事はなかったけれど。


「萎縮し過ぎだろ」


 アミーの隣、扉側の席でくつくつ笑い出したプロムスを、ギロリと睨みつける。確かにその通りだが、何故わざわざバラすような真似をするのか。


「あの、アミーさん。わたしは確かに身分的に王族ですが、この通り大した威厳もないですし、年下ですので、どうか気軽に接してください」


「……ご要望とあらば承ります」


「うう、そうですよね。そうなりますよね……」


 人差し指を合わせてしょんぼりしてしまった可憐なマヤリス王女の姿を見て罪悪感に駆られ、視線を彷徨わせる。


 マヤリス王女を傷付けたい意図は決してないのだが、自身の性質(ゆえ)か、侍女教育の成果か、ソフィアリア以外の貴族相手だと身分を取り払って接するという行為に、ある種の畏怖を感じずにはいられないのだ。それがたとえ、上からの命令だとしても。


「ははっ、アミーも今やすっかり侍女という立場が板に付いたようだね。この半年間で随分と見違えたよ」


 そう言ったフィーギス殿下は、昔からの目に眩しい美貌を優しく和らげながら、微笑みかけてくれた。


 プロムスが嫌がるので直接会話した記憶はあまりないのだが、年下の子を慈しむように見るその表情は、昔から変わらないなとぼんやり思う――実はそういう表情を見られる人が限られている事に、アミーは気付いていない。


「……恐れ入ります」


「あれ? アミーさんは昔から侍女だった訳ではないのですか?」


「はい、元は下働き上がりのメイドでした」


「そもそも大屋敷に来る貴人なんてフィーとラスくらいですし、使用人も鳥騎族(とりきぞく)もほぼ平民なんで、侍女なんて大層なものは必要なかったんですよ。ソフィアリア様が来るなら必要かと思って、アミーには侍女になってもらったんですがね」


 そう言って苦笑するプロムスの言う通り、今ならソフィアリアも侍女を必要としない人だとわかる。身支度も仕事も本来ならば自分一人で出来るところを、逆に侍女に気を遣って、仕事を割り振ってくれるような人だ。


「私では力不足だと落ち込んでいたら、ソフィ様自ら侍女教育をしてくださり、それなりに見られるようになりました。ですので、そう誤解していただけたのは嬉しく思います」


 そう言ってぎこちなくマヤリス王女に微笑みかけると、マヤリス王女は目をキラキラさせながら、うんうん(うなず)いている。


「お姉様の教育の賜物なのですね!」


「……お姉様?」


 何故そんな呼び名を?と首を傾げていたが、頰を両手で挟みながらほわほわしていたマヤリス王女には、その疑問は届く事はなかった。


 きっと憧れでもあるのだろう。メルローゼを介して昔からお互いを知っていたようだし、その気持ちはよくわかると、自己解決する事にした。


「ほんと、ソフィアリア様は人たらしだよなぁ……」


 そう苦笑いしているプロムスの事は、静かに睨んでおいたが。


「ロム、アミー」


 フィーギス殿下がそう一言発しただけで、緩み始めた空気がピンと張り詰めるのだから、やはり権力者は常人とは一線を(かく)すという感想を抱きつつ、姿勢を正す。


 隣ではプロムスも同じようにしながら、目を眇めていた。


「なんだ、改まって?」


「先程は不快な思いをさせてすまなかったね。アミーもあんな二人に詰め寄られてしまって、さぞ怖い思いをしただろう?」


「我が国の者が無礼を働いたのに、それを諌める事も出来ず、申し訳ございませんでした」


 どうやら今回、このメンバーで同乗する事になったのは、先程の謝罪をしたかったからというのもあったらしい。それを口にしたフィーギス殿下は頭こそ下げなかったが申し訳なさそうな表情をしていて、マヤリス王女は丁寧に頭を下げてくれた。


 が、王族より位の高い代行人の侍従で鳥騎族(とりきぞく)というそこそこいい地位を持つプロムスはともかく、王鳥妃(おうとりひ)の侍女とはいえただの平民であるアミーには、最高権力者二人が謝罪するというこの状況は困惑が勝る。


「頭をお上げください、マヤリス王女殿下。私は、その、気にしておりませんので……ソフィ様に助けていただきましたし」


「私もあれに目をつけられていたのは存じておりましたし、気にしてませんよ。まあ、あんなふうに強行突破してくるとは思いませんでしたがね」


「王族とあろうものが、お恥ずかしい限りです……」


「あの部屋にマーヤと私以外の王族はいなかったけどね」


「それはそうなのですが」


 二人の会話の詳細は不明だが、あまり立ち入らない方がいい深い事情でもあるのだろう。ソフィアリアにも権力者の事情を詮索するのはやめた方がいいと言っていたし、聞かなかった事にする。


「もう城内には立ち入る事はありませんのでご安心くださいませ、アミーさん。……あっ! あとプロムス様の大鳥様にも、謝罪させていただいた方がいいですね!」


「いえ、結構です」


 ぐっと胸の前で握り拳を作るマヤリス王女の決意したところを悪いが、思わぬタイミングでキャルの存在を仄めかされて、すんっと気持ちが凪いでしまうのは仕方ない。大屋敷に来てからずっと、キャルには付き纏われているのだから……さすがに迷惑とまでは、思っていないけれど。


 マヤリス王女に不思議そうな顔をされたが、気にしない事にする。


「さて、謝罪はこんなものでいいかな?」


 と、フィーギス殿下は対面に座っているマヤリス王女相手ににこやかにそう言ったかと思うと、腕を引いて抱き止め、ヒョイっと膝の上に乗せてしまった。


 突然の行動に呆気に取られているうちに、ようやく自分の身に何が起こったのか自覚したマヤリス王女は、瞬間的にぼんっと顔を真っ赤にさせる。


「またですか、ギース様っ⁉︎」


「ははっ、当然ではないか。マーヤの定位置はここだろう?」


「何故そうなるのですかっ⁉︎」


 あまりの恥ずかしさに両手で顔を覆い隠してしまったマヤリス王女を見て、はっと我に返った。一瞬当たり前の事なんだなと受け入れそうになったが、そんな訳ではないらしい。


 ではこの状況はなんだろう?と首を捻った。


「謝罪はもう済んだし、マーヤはペクーニア嬢とソフィばかり相手にしていないで、私にもっと構ってくれるべきだと思うのだよ」


「ギース様に寂しい思いをさせてしまったのは謝りますが、何もお膝に乗せなくてもいいではありませんかっ!」


「婚約者なのだから、水臭い事を言うものではないよ」


「尚更ダメですよ⁉︎ この近さは不適切ですっ!」


「一国の次代の王が適切だと判断したのに、それを疑うのかい?」


「はっ、一理ありますね!」


 一理あるのかと内心突っ込みながら、始まった二人の応酬を困惑した目で見守っていたら、アミーも突然ぐいっと腕を引かれる。


「……え?」


 そして気がつけばマヤリス王女と同じように、プロムスの膝の上で大事そうに抱えられていた。これにはさすがに、かあっと頰に熱が集まっていく。


「ちょっ……! なにしてんのよっ!」


「だってアミー、マヤリス王女殿下を羨ましそうに見てたろ?」


「見てないわよっ⁉︎」


 何故そうなるのかとぐいぐいと胸を押しても、力でプロムスに勝てるはずもなく。むしろニヤニヤ意味深に笑われて、ますますギュッと抱えられるばかりだ。


「いーな、これ。癖になりそう」


「ならないでっ!」


「だろう? ロムならわかってくれると信じていたよ」


「ううっ、なんで団結されるのですか……」


 マヤリス王女はとうとうしくしく泣き出してしまった。心配ではあるが、アミーも羞恥で涙目なので、どうしてあげる事も出来ない。


 馬車の対角にそれぞれ座って、パートナーを抱えて好きなように愛でながら惚気話に花を咲かせる時間は、学園内の滞在する屋敷に着くまで飽きる事なく続いた。

 一体どうしてこうなったのか? わからないが、同じ羞恥に晒された者同士、マヤリス王女と心の距離が縮められたのだから、まあよしとしよう。


 ……もしかしたらそれを狙ったのではないかと、思わなくもないけれど。でもこんな方法は、やっぱりどうかと思うのだ。




人見知りアミーが「歓迎パーティでの婚約破棄1」のように、マヤリス王女と手を取り合って意気投合するまでのお話でした。


オーリムに足りないスーパーなダーリンさん成分をフィーギス殿下とプロムスが担って溺愛体質なもので、そんな二人が揃い、それぞれの最愛が近くにいるとこうなります(?)

おかげさまで、アミーは一番縁遠かったマヤリス王女とそれなりに仲良くなれましたとさ。

なお、わざと疑惑は半分その通りで半分は素です。気を遣っても気を遣わなくてもこうなります。

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