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ペクーニアのお兄様達

「鈴蘭のお姫さま1」の前あたり

ソフィアリア視点



 船に乗船した次の日の朝。すっかり快調したように見えるアミーの様子を喜びつつ、朝食を食べ終えたソフィアリアは、船長室の扉をコンコンコンとノックした。


「失礼します。お兄様方、いらっしゃいませんか? ソフィアリアです」


 そう声をかけると、バタバタとした人の気配と、バタンと勢いよく開く扉。


「ソフィちゃん!」


「うわ〜、マジもん? 超おひさじゃん!」


 そう言って姿を現したのは、非常にチャラ……煌びやかで派手な装いが相変わらずな、美形二人組だった。


 ソフィアリアは二人に向かって、ふふと微笑む。


「本当ですね。ご挨拶が遅れて申し訳ございません。この度は船に乗せていただき、ありがとうございました」


「いーっていーって! むしろ超ありがとう! 王鳥様のおかげで出来る無料で安全な航海、むさ苦しい護衛を乗せなくて済む分空いたスペース、その分積める新たな品物!」


 うっとりしながら新たな商品に想いを馳せている、もう一人よりほんの少し背が高く、父譲りの茶色の髪と母譲りの赤い目を持つこの男性は、リヴィッド・ペクーニア。ペクーニア子爵家嫡男で、メルローゼの兄である。


「こっちが得しちゃってるよ〜。マジサンキューだわ。あっ、行商の方も超儲かっちゃってるよ。大鳥様効果、マジヤバい!」


 そしてもう一人の語彙力が乏しく筋肉質な方は、母譲りの黒髪に父譲りな茶色の目を持つディーン・ペクーニア。ペクーニア子爵家次男で、メルローゼのもう一人の兄だった。


 勉強ばかりしていたソフィアリア達とは違い、二人は商売の事を学びながら遊び歩いていたので、あまり接点はないのだが、それでも、ペクーニアの家の人達とは家族ぐるみでお付き合いをしていたので、昔馴染みである事には変わりない。王鳥とオーリムとの結婚が決まる前あたりから二人は外国に行っていたので、会うのは一年振りくらいだろうか。


 勉強は不得手だったらしいが、二人ともメルローゼと同じくらい商才に長けていて、お金儲けが大好きなのである。


 あと……


 二人は同時に跪き、ソフィアリアの両手をそれぞれ手に取ったかと思うと、うっとりとした表情でソフィアリアを見上げた。


「なにより美しいソフィちゃんにこうして会えた、この幸運に感謝」


「ほんと、超綺麗になったよね〜。王鳥妃(おうとりひ)様マジぱないわ」


「この滑らかな手に口付けてもいい?」


「チューしていい?」


 そう問うものの、ソフィアリアの答えを待たず、そっと手の甲に顔を近付けて――


「いい訳あるかっ⁉︎ 人の妃になに考えてんだっ‼︎」


 触れる直前、オーリムの腕の中に回収されたので、するりと二人の手から離れていった。


 メラメラと怒りに燃えるオーリムの姿を見て、二人はピシリと固まる。


「だっ、代行人様⁉︎ えっ、本物……ですか?」


「髪色ヤバいの、地毛ですかっ⁉︎」


「当たり前だっ‼︎ ……フィア、なんなんだこいつらは?」


 腕の中に囲われながらくすくす笑っていると、オーリムにジトリと睨まれてしまう。つい昔のままに受け入れそうになっていたが、もう許される事ではないのだなと思い、それがなんだか嬉しかったのである。


 けど、オーリムがそんなに警戒する必要はないと、ふわりと微笑んだ。


「メルのお兄様達よ? 背の高い方が嫡男のリヴィッドお兄様で、筋肉質な方が次男のディーンお兄様。今回は船を貸してくださったのだから、こいつなんて言ってはいけないわ」


「……そこは感謝している。けど、フィアに触れるのは許さない」


「あらあら。お兄様達にとっては女性を口説くのは、挨拶みたいなものよ? 会えばアミーにもきっとするし、一番熱烈なのはメルが相手の時なのに」


 二人にとってソフィアリアは特別ではなくその他大勢と一緒。それくらい、女性が大好きなのだ。女性に優しくこの顔なので、大層モテていた。

 学園に通っていた時も勉強が大変だったから社交を疎かにしたと聞いたが、多分女性と遊んでいたのではないかと思っている。まあ、ただの憶測ではあるが。


 あと、世界中のどんな女性よりも二人が愛してやまないのは、メルローゼだ。二人とも度が過ぎるというくらいメルローゼを妹として愛していたので、それはもうプロディージに対してあたりが強かった。まあ、それはプロディージの自業自得だし、あたりは強くてもそれなりにプロディージの事は認めていたようなので、言うほど嫌っていない様子だったが。


 オーリムはそれを聞いても、眉間の皺が取れないようだ。たとえただの挨拶だろうと、ソフィアリアだけが特別ではなかろうと、冷静に見ていられる訳がなかったよねと、気分が昔のままだった自分を反省する。


「……アミーを口説いたら、本気で船が沈むぞ?」


「そんな事…………」


 ない、とは断言出来ないなと思った。キャルにしてもプロムスにしても、それだけの力があるのだ。そして二人とも、同じくらいアミーへの執着心が強い。


 途中で黙りこくったソフィアリアに、二人は顔を青くする。


「悪かった! 船に乗ったお嬢様達には、気軽に挨拶しないから!」


「この船超たけーから、沈めないでっ⁉︎」


「おや? 挨拶してくれないのかい? つれないねぇ」


 いつの間に来ていたのか、フィーギス殿下がにこやかな笑みを浮かべながら、ひょっこりと顔を出す。その後ろには、呆れた表情を隠さないラトゥスもいた。


 そんな二人の顔を見て、メルローゼの兄達は絶望したような暗い顔になってしまったので、知り合いだったのだろうか?と首を傾げる。

 フィーギス殿下達は飛び級していたので次男のディーンとは同級生だったが、成績の事があってクラスは違うし、接点はなかったはずなのに。リヴィッドなんて、学年すら違う。


「フ、フフフフィーギス殿下っ⁉︎ フォルティス卿っ⁉︎」


「久しいな。まさか学園を出てからも、相変わらずか?」


「いえっ、あのっ⁉︎」


「特にリヴィッド卿は嫡男なんだから、そろそろ身を固めないと危ないのではないかな? まだ婚約者すらいないみたいだけど。言っておくけど、婚外子を嫡男と認めるのは大変だからね?」


「いや、それはロディとメルのとこから養子をと……」


「なるほど。そうやって自分達は生涯、学園に居た時と同じように女性の間を渡り歩くつもりか。学園を出た後だから、もう止めはしないが」


「ははっ、お互い積もる話があるみたいだし、船を降りる前に楽しくお喋りでもしようではないか」


「嫌だあああぁぁっ⁉︎ お説教コースじゃないですかああぁぁ〜」


 そう言って二人はフィーギス殿下とラトゥスに押されるような形で船長室に連れ込まれ、パタンと扉を閉められてしまった。


 畳み掛けるような四人の応酬に呆気に取られていたが、とりあえずひらひらと手を振って見送る。


「……知り合いだったのか?」


「わたくしも初めて知ったわ。同級生だったディーンお兄様だけでなく、リヴィッドお兄様とも知り合いだったのね〜」


「なんとなく、ろくでもない理由みたいだけどな。

まあ、もう挨拶はいいだろ」


 そう言って口付けを受けそうになっていた両手をゴシゴシと擦るのだから、(くすぐ)ったい。


「上書きする?」


「こんなところで出来るかっ⁉︎」


 出来ないらしい。色々と残念である。


 そんなお約束の応酬をした後、船長室の扉を見ながら、メルローゼの兄達に思いを馳せる。


 本当は昨日のうちに挨拶したかったのだが、下船する直前まで訪ねて来るのは控えてほしいと、呆れたような表情をしたメルローゼに伝えられた。お礼なら、ペクーニアから一緒に乗ってきたプロディージに散々言われたからと。

 色々いいのだろうか?と首を傾げていたが、なるほど、フィーギス殿下達に会いたくなかったからだったらしい。会っても最低限の時間で済むよう、この時間を指定したのだろう。


 久々に会えたのでオーリムを紹介し、思い出話に花を咲かせたかったのだが、そういう事情があったなら仕方ない。オーリムもあの二人に警戒心を抱いてしまったようだし、またいつか機会は訪れるだろうと、その場を後にした。




第二部番外編「酷くて、酷いだけではないあなたが」で話題にのぼった、フィーギス殿下たちが学生時代に追いかけ回していたメルローゼのシスコン兄達の紹介でした。ビックリするくらい貴族らしからぬ二人だな…まあ、根は商人寄りなので(言い訳)


この話は元々第三部本編に入っていたのですが、兄達がここでしか登場しないのでカットになりました。

第三部で未回収だったメルローゼの悩みの伏線と合わせて、第四部で再登場予定ですと予告しておきます。

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