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お妃さまはお姫さまっ⁉︎

お待たせしました!

本日から毎週月・水・金曜日の6時に第三部番外編を更新します。

第四部開始まで番外編をお楽しみいただければ幸いです♪


本編開始前。オーリム視点。



「おはよう、ラズくん!」


 とある日の朝。日課である朝練を終えて汗を洗い流し、いつも通りソフィアリアと朝食を食べようと食堂に行くと、そこにはセイドで出会った頃の八歳のソフィアリアがいた。色々と意味がわからない。


「……フィア?」


「ええ、ソフィよ! お顔を忘れちゃったのかしら?」


「忘れるわけないが」


 出会った頃のソフィアリアの事は、再会するまでの八年間、毎日のように思い返していたのだ。当然忘れる事なんて出来ないし、たとえ変装していたとしても見つけられる自信がある。


 ……いや、今はそうではなく。


「そんなところでぼんやりしていたら、せっかくのお料理が冷めてしまうわ」


「あ、ああ……」


 てててとこちらに寄ってきたかと思うと、小さな手がオーリムの指を掴んでぐいぐい引っ張ってくるから、オーリムもなんとなくついていく。

 いつもの席に着席し、ソフィアリアは当たり前のようにオーリムの膝の上に収まっていた。子供体温でホカホカしていて、いつもと違う自然な甘い香りがして、なかなか至福である。


 ……いや、そうではなくて。


『何をしておる。さっさと食べて、余のもとにも妃を連れて来るが良い。いつまで独占する気だ』


「毎日午前中いっぱいは独占していて、俺より王の方が一緒にいる時間が長いだろっ!」


『小さき事をゴチャゴチャとうるさいのぅ……。言い訳はいいから、さっさとせよ』


「くっ……!」


 なんだか腑に落ちないが、王鳥の言う通りにしないとぐちぐちうるさそうなので、言う通りにしてやる事にした。


 ソフィアリアは既にパンを手に取って、ちみちみと手で千切りながら、美味しそうに食べ始めている。


「王様とのお話は終わった?」


「ああ。えっと、食べにくくはないか?」


「う〜ん、いつもよりパンが遠いくらいかなぁ? でも今日のソフィは小さいから、一個で充分よ」


「そうか。取ってほしければ遠慮なく言え」


「ありがとう! ラズくんはとっても優しいねぇ〜」


 ソフィアリアにそう褒められるのは悪い気はしなくて、ニヤケそうになる頰を必死に抑えながら、黙々と手を動かしていた。


 ソフィアリアは食べながら、些細な出来事でも本当に楽しい事に出会ったかのように話してくれる。いつも通りでいて、いつもより無邪気な様子なのが大変微笑ましかった。


 ……そう言えば、何か大切な事を忘れているような……?


 まあ、ソフィアリアと楽しく朝食を食べる時間以上に大切な事はない。オーリムはこれ以上深く考えるのはやめた。





            *





 午前中はみんなと勉強会や大鳥との交流会に勤しんできたらしく、王鳥を含めた三人で昼食を一緒に食べながら、その時の様子をコロコロと表情を変えつつ教えてくれた。見ていて飽きない可愛さだ。


 今日はプロムスが休みなので、そのまま執務室で三人で過ごす。王鳥が頭にソフィアリアを乗せて遊んでいて、グラグラ揺れ動く中でバランスを取るのが楽しいらしいソフィアリアのキャラキャラと楽しそうな笑い声が響いて、なんとも癒されるなと思っていた。出来る事なら毎日こんな時間を過ごしたいものである。


「あっ、ラズくん! そこ、間違えているわ」


 ソフィアリアは王鳥の頭から身を乗り出したかと思うと、オーリムが処理している書類を指差す。


「ん? どこだ?」


「ちょっと待ってね!」


 うんしょうんしょと王鳥の頭から背中を伝って降りてきたかと思うと、オーリムの膝の上によじ登ってこようとする。脇の下に手を入れて引き上げてやればお礼を言われ、膝の上に収まったかと思うと、書類の一ヶ所をトントンと指差した。


「ここ! ここを間違えてしまうとこっちもおかしくなって、次からもちょっとずつ計算がずれていくでしょう? それを放っておいちゃうとね、いずれ膨大な額の損失が出て、大変な事になってしまうわ」


「ああ、ほんとだ。すまない、教えてくれてありがとう」


「どーいたしまして! でも、ソフィもここで遊んでばかりもダメだよね。ちょっとだけお手伝いしてもいーい?」


「助かるが、出来るのか?」


「書類を日付順に並べたりたり、あとは記入欄に書くだけの状態に準備しておいたり、簡単な事なら出来ると思うの!」


「そうか。よろしく頼む」


「おまかせくださいな」


 胸に握り拳を当てて、むふーと得意げな顔をしたソフィアリアは、王鳥が持ってきてくれた一人掛けの丸椅子ににクッションを置いて高さを調節すると、空いているスペースでオーリムがまだ手をつけていない書類を手に取る。王鳥はソフィアリアの背もたれになって、時折髪をいじって遊んでいるようだった。


 やった気になれるならいいと大して期待していなかったのだが、ソフィアリアから回ってきた書類はどれも綺麗に整頓され、添えてあったソフィアリアのメモの内容ままを書き記して判を捺せば済む状態になっていて、驚くほど早く書類を捌く事が出来るようになっていた。これには呆気に取られるばかりだ。


『くはっ。さすが余の妃だ。そなたより優秀であるな?』


「うるさい。……王がフィアは優秀だってさ。俺もすごく助かっている。フィアは凄いな」


 それを伝えるとルンルンと上機嫌に動かしていた手を止め、王鳥とオーリムを交互に見てニッコリ笑った。


「お役に立てているならよかったわ! 間違えているかもしれないから、ちゃんとチェックしてね?」


「見ているけど、今のところ大丈夫だ。書類仕事はセイドでもやっていたのか?」


「うん! 先生に見てもらいながら、ロディと毎日頑張っていたわ」


「そっか。偉いな」


 その言葉には肯定も否定もせずニコニコ笑って、また書類に手を伸ばす。やって当たり前、やらなければならない事だったから褒められるような事ではないと思いつつ、オーリムの感想を否定するのも違うと判断したのだろう。


 オーリムもソフィアリアの境遇を知っているのでなんとなく察するものがあり、これ以上深掘りするのはやめておく事にした。


 この日の仕事は驚くほど早く終わったのは言うまでもない。





            *





「はい、どーぞ!」


 夜デートの時間。今日はいつもより長く一緒にいられただけでも充分幸せだったのに、夜食が大好物であるセイドベリーのスティックパイだった。


「ありがとう。今日はいい日だな」


「ピ」


「ふふ、よかったわ。ソフィも今夜は食べちゃおうかしら」


 いつもは見た目を維持する為とか理由をつけて食べないのに、今日はソフィアリアも食べる事にしたらしい。王鳥に食べさせる分のほかに、ソフィアリアの分も手に取っていた。


「「いただきます」」


「ピー」


 かつてソフィアリアがセイドで教えてくれた食前の挨拶を済ませ、くっつきながら並んでスティックパイを食べる。ここはセイドの川辺ではないが、なんだかあの日に戻ったみたいだ。


 まあ今は王鳥もいるし、オーリム一人だけ大きくなってしまったけれど……そういえば、何故オーリム一人だけ大きいのだろうか?

 なんだか余計な考えに思い至りそうだったが、自分の分を食べ終えたソフィアリアが王鳥にスティックパイを食べさせながら、くあ〜とあくびをしていたから、その考えは霧散した。


「眠いのか?」


「ん〜」


 そう言ってコックリコックリと船を漕ぎ出す様子が可愛くて、オーリムはふっと笑って、ソフィアリアの頭を自身の膝に優しく引き寄せる。


「まだ子供だもんな。部屋に運んでやるから、もう寝てていい」


「ピーピ」


「んふふ、ありがとう〜」


 そうふにゃりと笑ったかと思うと、よほど眠かったのか、そのまますやすやと寝てしまった。


『寝付きが良いのぅ。寝顔のなんと()い事か』


「あんまジロジロ見るな」


 と言うオーリムだってソフィアリアから目が離せず、頭を撫でる手が止まらないのだけれど。


 しばらく二人で寝顔を観察していたが、そろそろふかふかなベッドで寝かしてあげようと抱き上げると、起こさないように……という言い訳をしながら、ゆっくりとソフィアリアの部屋に向かう。王鳥もギリギリまで一緒に居たいようで、ソフィアリアを眺めながらついてきた。


『のう、ラズ』


「なんだ」


『何があっても護ってやらねばな。何者でもないそなたをラズという一人の人間たらしめてくれた、余達の小さな姫を』


「当たり前だろ」


 そう、当たり前の事だ。どんな奴もソフィアリアにかすり傷一つつける事は許さない。その刃から護る事こそ、オーリムの絶対的な使命なのだから。


「おーさま……ラズく……だいすき〜……」


 まるで二人の誓いの返事のように、むにゃむにゃと可愛い寝言を言うものだから、二人してニヤけた顔が戻らなくなってしまったのだった。





            *





 王鳥にベッタリしがみついたソフィアリアはオーリムの話を聞き、ぷくーと頬を膨らませながら、冷たい視線を送ってくる。


 そんな風に縋ってもらえる王鳥が羨ましくて妬ましい。どうすればオーリムにもそうしてもらえるだろうかと思考を張り巡らせながら、その冷たい視線の意味を考えないようにした。


 ……いや、無理だろう。現にオーリムは冷や汗が止まらなくなってしまっているのだから。


「ラズくんって、本っ当に小さな頃のわたくしが大好きよねっ!」


「プピィ」


「ちっ、違うっ⁉︎ あっ、いや、違わないけどっ! でも今のフィアより好きとか、そんなんじゃ……‼︎」


「どうかしらね? あまり夢を見ないと言っていたラズくんが夢にまで見て、しかもしっかり内容を覚えているくらいだし、相当お好きなように思えるけれど」


「ププー」


「誤解だっ‼︎」


 ――そう。小さな頃のソフィアリアと大屋敷で過ごす、そんな夢を見たのだ。あまりにも幸せだったので嬉々とソフィアリアに報告してしまったのが全てもの間違いだったのだろう。まさかここまでヤキモチを焼いて、拗ねてしまうとは。


 ……実はちょっと可愛いなんて思っているけど、素直にそれを言うと余計に王鳥の方に寄ってしまう気がしているので、言わないようにする……もしかしたらオーリムのそんな考えも、お見通しかもしれないが。





第三部の終盤がピリついていたので、緩衝材として軽いお話から始まりました。

第三部番外編もよろしくお願いします(^^)


カップルの片方が幼児というあるあるネタを、本編で散々やった夢を絡めつつ。

8歳のソフィアリアの精神年齢が5歳のクラーラ並みなのは境遇のせいなのと、所詮オーリムの夢の話なので、現実と妄想が混ざってます。

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