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【第三部番外編連載中】王鳥と代行人の初代お妃さま  作者: 梅B助
第一部 黄金の水平線の彼方
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認められない二夫一妻 1

 ――それからの日々は、(せわ)しなくも幸せな時間を毎日過ごしていたように思う。


 朝起きてオーリムと朝食を食べながら、昨日の事を報告する。要望があれば相談し、共に解決策を模索する。(なご)やかというより事務的な会話になってしまい、婚約者同士が朝食でする会話じゃないとアミーとプロムスに呆れられたが、それでも二人で解決に向けての話し合いはとても楽しかった。


 数日に一度は王鳥がオーリムの身体で迎えに来て、以前のように抱えられながら食堂に運ばれ、また二人きりになると給餌(きゅうじ)を受ける。始めのうちは照れさせられるような事ばかりされたが、何度かこなすうちに慣れてきて、照れる回数が減った事に王鳥は(むく)れていたが、内心はずっとドキドキしていたので許してほしい。オーリムに戻った瞬間パニックになるのは、結局避けられなかった。


 午前中は温室で王鳥と引っ付きながら、大鳥に関する本や貴族名鑑を覚える(かたわ)ら、有志の侍女を教育していく。

 言葉遣いに行儀作法、文字の書き取りに一般教養と、平民には馴染みのないものが多く、覚える事はたくさんあったのに、よく着いてきてくれたなと思う。

 侍女希望の一人が流行に造詣(ぞうけい)が深く、田舎育ちのソフィアリアはお願いして逆に教えてもらい、みんなにも広めてもらった。そんな感じで逆に学ぶ事もあり、とても有意義だった。


 ついでに合間の休憩時間にみんなで一緒にお茶会をして、雑談をしながら親睦(しんぼく)を深めつつ、何か働くうえで困った事や要望がないかを聞き出す。

 始めのうちは侍女希望の子達だけだったが、そのうち仕事の手が空いた侍女希望の子の友達や色々な業種の使用人、最終的には別館の人達や鳥騎族(とりきぞく)、大鳥までたまに来るようになり、大屋敷のみんなと随分親しくなったし、集まった人達の間にも、新たな交流が生まれたようだ。


 それになんと言ってもずっと王鳥とは引っ付いていたので少し親しみやすさも感じてくれたようで、気軽に声を掛けたり応答する人が出てきてくれた事は本当によかったと思う。


 休憩時間のお茶会は、毎日たったの二十分程だったが、各方面から色々な要望が集まるので、解決策をみんなで模索しつつ、最終的には朝食の場で、解決したものも未解決なものもオーリムに持っていく。そんな毎日だった。その時間は一番忙しくて来れないオーリムが、少し羨ましそうにしていた。


 昼食もみんなで摂る事も、そして時間が合えば執務室に(おもむ)いてオーリム達と摂る事も増えてきた。会話の内容は朝食の延長のようなものだったか、過ごせる時間が増えたのは嬉しかった。


 昼食後の時間は日によってやる事が区々(まちまち)で、サピエの大鳥に関する講義だったり、やってきたフィーギス殿下達に政敵の事を聞いたり、たまに意見を求められてオーリムや王鳥、ラトゥスも交えて討論会のような事も何度かした。王鳥妃(おうとりひ)の立場で政治に触れるのは如何(いかが)なものかと思ったが、王鳥妃(おうとりひ)の名前を出さない、匂わせない、使わない事を条件に話を聞くだけ聞いておいた。

 おかげでここに来る二人ともすっかり親しくなり、一緒に食事を摂るようにまでなった。二人とも毒の心配もなく出来立ての温かい食事を本当に嬉しそうに食べるので、なんだか不憫に思ったのは内緒だ。


 講義も来客もない日は勉強は程々にして、庭園や広場、森に足を運んで大鳥達に積極的に顔を見せるようにした。

 ついでに歩き回って運動不足も解消しておく。セイド領にいた頃は領内を自分の足で見回っていたので、ここに来てからは少々(なま)り気味なのが気になったのだ。


 たまに鳥騎族(とりきぞく)の訓練も見学させてもらい、超常的な動きに感嘆(かんたん)しつつ、時たま訓練に参加するプロムスや、最近ここでの訓練も積極的に参加するようになったオーリムの姿に、アミーと二人してポッとなって、他の侍女に笑われたりもした。

 オーリムは見惚れられている事に照れて、でもいつも以上に気合いが入っていると、プロムスに揶揄われていた。そんなプロムスも、アミーに勇姿を見せられてご満悦な様子だ。


 鳥騎族(とりきぞく)の中ではプロムスが一番強く、オーリムは拮抗(きっこう)しているものの半分以上は負けてしまうようだ。本当はプロムスが鳥騎族(とりきぞく)隊長をやるべきなのに、彼はオーリムの侍従をするから辞退したとグラン隊長から聞いた。


 忘れてはならないのが夜の差し入れの為の料理の時間。ソフィアリアのレシピを中心に、料理長に教わったり、一緒にどうかと誘った侍女達から故郷のレシピを聞いたりして、色々なものを作った。

 アミーは料理が出来なかったらしく、じゃあ毎日どうしているのかと聞けば、小さい頃から使用人棟や別館の食堂通いで、自宅のキッチンが使われる事はほとんどなかったらしい。ソフィアリアの料理のついでに一緒に作るようになってそこそこ上達し、プロムスに(いた)く感謝された。


 晩餐はオーリムと、稀にフィーギス殿下達と摂った後はお風呂で侍女に身体を磨かれる。やはり女性らしく美容に詳しい人が多くて、面白半分で磨かれたおかげで、ここに来てから随分と色艶が増したと思う。

 ソフィアリア自体はそこまで頓着(とんちゃく)しないが、みんな楽しそうだし、なにより王鳥とオーリムには綺麗だと思われたい恋心を抱えているので良しとしよう。


 そして一番の楽しみである夜デートだ。雨や仕事が押して出来ない日もあったが、オーリムの訓練を見守ったり、王鳥に飛んでもらったり、ベンチで三人引っ付いて仕事を抜きにした個人的な事を語り合ったりととても幸せな時間を過ごした。


 昼間に作ったお菓子もここで渡して、王鳥にもオーリムにもとても喜んでもらえたので、ソフィアリアも嬉しくなった。王鳥は料理長から教わった堅焼きクッキーが、オーリムはソフィアリアの作ったパイが特に気に入ってくれたようだ。


 空を飛ぶ際は防壁を徐々に解いてもらって、風や揺れを(じか)に感じ、最終的にはほぼ防壁なしで飛ぶオーリムと同じくらいを普通に楽しめるようになった。


 何度か話に聞いていた(かご)というものにも乗せてもらい、名の通り人が入れる大きさのそれを、取っ手部分を王鳥が掴んで飛んだ。これはこれで楽しかったが、やはり王鳥は直接触れていないというのが不満らしく、あまり採用されなかった。ソフィアリアも王鳥の背に乗る方が好きだった。


 余談だが、アミーも宣言通り飛ぶ訓練を別館でしているらしい。プロムスもキャルも上機嫌で、キャルなんかは飛んでも気を失わないようになったら、プロムスとは契約解除してアミーと契約し直そうとしていたらしいのだが、プロムスが鳥騎族(とりきぞく)じゃないならキャルには乗らないと脅してしょんぼりしていたと聞いた。


 契約解除後に別の人と再契約というのをこんなに身軽にやろうとする大鳥はキャルがはじめてだと王鳥は苦笑していた。普通だと契約は数百年単位で間隔を空けるようだ。


 そうして夜デートを重ねるうちにオーリムもだいぶ慣れてきたらしく、以前よりも照れる回数が減って、ベンチで引っ付い座るのも慣れたようだ。嬉しい反面、オーリムを照れさせるのが好きなので少し寂しいと思ってしまった。朝食の時の王鳥も、こんな気持ちなのかもしれない。


 特に恋人のような触れ合いはないが、笑顔も増え、婚約者としていい関係を築いていた。この三人で歩む未来を信じていたと思う。

 ただ、オーリムの過去に関する話は決して触れられない事だけが、ずっと気がかりだった――

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