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【第三部番外編連載中】王鳥と代行人の初代お妃さま  作者: 梅B助
第一部 黄金の水平線の彼方
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大鳥へのお披露目と鳥騎族 5

「王鳥様って嫉妬するんスねっ!」


 と、突然ぬっと横から別の人が目を輝かせながら割り込んできた。

 彼はグランと一緒に前に立っていた人で、黄緑色の長髪を後頭部で(まと)めており、黄色の瞳に青白い肌も相まって、全体的に色素が薄く(はかな)さを感じさせる中性的な美人さんだった。その見た目から好奇心を隠さず王鳥を見つめる表情と、軽快な口調のギャップが凄い。


「……何故ここに居る? サピエ。おまえはあと半季は検問所当番だろ?」


 ジトリとオーリムが彼――サピエを(にら)むと、彼はニヘラと悪びれもせず相好(そうごう)を崩した。


「えー? だって今日は初の王鳥妃(おうとりひ)様のお披露目で、大鳥様がたくさんいらっしゃるんスよ? オイラが来なきゃ誰がくるんスか〜」


 そう言ってヘラヘラしているサピエに、オーリムは呆れたように溜め息を吐く。


「……あっ! もしかしてあなたが大鳥様の研究をされているという鳥騎族(とりきぞく)の方ですか?」


 そういえば昨日、今は検問所に詰めている騎族(きぞく)の中に大鳥の研究者が居ると言っていた。きっと彼がそうなのだろう。


「はい、そうっスよ! はじめまして、王鳥妃(おうとりひ)様。オイラはサピエ・ティア・スキーレ。お会い出来て光栄、同じ時代に生存出来て感謝感激っス!」


 あっけからんと言う言葉とは裏腹に、彼は実に優雅に右手を取り、手の甲にキスをするフリをした。


「ぴ⁉︎」


「なっ⁉︎」


 それを見た王鳥とオーリムが同時に眉を吊り上げ、オーリムは手を素早く引き剥がし、王鳥は(くく)られた髪を思いっきり引っ張った。


「いだだだだだっ⁉︎ ちょ、ただの挨拶でする振りっスから‼︎ 禿げるっスよ⁉︎」


「毛根は諦めろ」


「根っこからいくっスか⁈」


 嫉妬してくれて嬉しいと思ったが、それより聞き捨てならない事を聞いて目を丸くしてしまった。


「まあ! ティア・スキーレ卿でいらっしゃいましたか」


「あー、そうっスけど家督(かとく)従兄弟(いとこ)に譲って、半勘当されてるようなもんスからサピエでいいっスよ」


 自然と優雅な仕草が出来、美麗な見た目の彼は貴族だったようだ。貴族がここに入れる事も稀なのに鳥騎族(とりきぞく)とは、歴代でもそう居ないのではないだろうか。

 それもティア・スキーレと言えばミドルネームがあるので高位貴族だ。確か侯爵だったと記憶している。


「一応跡取りだったんスけど、十五の時に大鳥様に出会って惹かれて、勉強もせずこっちに通い詰めてたら外されちゃったんスよね〜。まあ万々歳なんスけど。それから三十年間大鳥様一筋っスよ!」


 ケラケラ笑ってそう言うが、さらりと語られた衝撃的な情報に、ソフィアリアは笑みを浮かべたまま首を傾げる事しか出来なかった。


「……三十年?」


「サピエは四十五のおっさんだ」


「そうっスけどひでぇっスね!」


 この二十代前半くらいにしか見えないサピエは、とんでもなく若作りだったようだ。世の中いろんな人がいるものだなぁとつい遠くを見つめてしまう。どちらかと言えば、年齢より年上に見られてしまうソフィアリアから見れば、大変羨ましい。

 ふと、サピエの側には大鳥が居ないなと思ってキョロキョロと辺りを見回した。


「サピエ様の大鳥様はお出かけ中なのですか?」


「ウィリっちは新婚ほやほやなまま伴侶と引き離されたんで、今頃夫婦水入らずじゃないっスか? ここに来るまでの木の上に、夫婦で暮らす巣があるんス」


「まあ! 先程見かけたましたわ。どちらの子かしら?」


「黄緑のウィリ。(くらい)は男爵位っスよ」


 どうやら来る途中で手を振った子だったらしい。髪色と同じ大鳥と契約したなんて、随分と運命的ではないか。


 彼は大鳥の研究者というのだから、当然大鳥について詳しいのだろう。もちろん今ではないが、大鳥同士も結婚するのか、子供が出来るのかとか色々聞きたい事が山ほどある。


「ウィリ様ね。覚えましたわ。わたくし、大鳥様について色々知りたいのです。いつかサピエ様のお話、聞かせてくださいな」


「もちろん大歓迎っスよ!」


「……まあいいか。サピエ。検問所当番は交代してしばらくの間外すから、週に何度かフィアに講義を頼む」


「マジっすか⁉︎ やったー! オイラも王鳥妃(おうとりひ)について色々と知りたいっスから、これからよろしくお願いするっスよ」


 ニカっと嬉しそうに笑ったサピエは、本当に大鳥が好きなようだ。一応大鳥はソフィアリアの民らしいので、そう思ってもらえるのは素直に嬉しい。ソフィアリアも笑顔になった。……ところで、王鳥妃(おうとりひ)について聞きたいとは、何を聞かれるのだろうか?どちらかと言えばソフィアリアも知りたい。


 ――その後、ここに居る全員の大鳥と鳥騎族(とりきぞく)の方一人一人と丁寧に挨拶をした。最初は緊張していたが、なんとか気持ちを(ほぐ)して、最後は楽に話してもらえるようになっていたと思う。

 大層な肩書きを持っているが、ソフィアリアはここに来たばかりの十六歳の小娘なのだから、(かしこ)まる必要なんてないのだ。


「……人心掌握術ぱねぇな」


「誰でも分け隔てなく好意を持たれるっていい事よ」


 プロムスとアミーが後ろでボソリとしていたやり取りがつい耳に入り、執務室で人心掌握云々(うんぬん)と話したのが誰かわかってしまったが、まあその通りなので笑って流しておいた。




            *




 全員と話し終える頃には夕方になっていた。残りは会えば紹介してくれるらしく、サピエが大鳥の事をもっと話したそうにしていたが、今日はお開きとなった。


 という訳で、本館と程近い所で本日最後のご挨拶だ。


「……キャル!」


 プロムスが嬉しそうに声を掛けると、キャルと呼ばれたキャラメル色の大鳥は「ピ!」と、それはもう恋人に会えたかのように嬉しそうに飛んできた――アミーの方に。

 両手を広げたプロムスを華麗にスルーして隣のアミーに寄るとベッタリと引っ付いて、頭を(かが)め頭頂部に一生懸命頬擦りをしている。アミーは無の表情でされるがままになっていた。


 ソフィアリアは三人のやり取りに片頰に手を当て目を丸くし、オーリムは残念な物を見るようにプロムスを見て、何の対向意識なのか、ソフィアリアは王鳥にぐいぐい魔法で引っ付けられていた。さすがに少し痛い。


「……キャル様はアミーの大鳥様だったかしら?」


「ピ!」


「違ぇよ⁉︎ キャルも嬉しそうに返事すんなっ!」


 さすがに無視をされたプロムスはいつもの侍従然とした態度を取り繕えなかったのか、キャルと呼ばれた大鳥に寄ると、なんとか振り向かせようと必死になっている。


「キャル。おまえはオレにその好意を向けるべきだと思うぜ? だってせっかくその色でオレの前に現れたって事は、オレの為に生まれてきたって事だろ? ――――違う? 馬鹿言うなよ。だってな――」


 延々と屁理屈を並べて、如何(いか)にプロムスはキャルが好きで、キャルはプロムスを愛すべきかを説いていた。が、全くいい返事がもらえないのか、全て不発に終わっているみたいだ。なんだかだんだんと可哀想になってくる。


「……必死に口説き落としたって聞いて、お会いするのを楽しみにしていたのに」


「大鳥……キャルは、プロムスが連れてきたアミーに一目惚れして、ずっと声を掛け続けていたんだ。……正直アミーアミーとうるさいくらいだったな……まあ今もだが。で、あまりにもアミーが(こた)えないから、最後にはプロムスがアミーと結婚するから、オレと契約すればアミーと契約したも同然とか言って、キャルは渋々それで妥協した。まあ、口説き落としたというのも多分間違ってはない」


「あらまあ」


 なんて残念な顛末(てんまつ)。キャラメル色の君を口説き落としたと聞いた時はロマンを感じたものだが、現実はそう甘い物ではなかったようだ。


「――いつでも契約破棄するだぁ⁉︎ まだ言ってんのか! いいか、アミー。絶対(うなず)くんじゃねーぞっ‼︎」


「もうあんなにうるさかった声が聞こえないから、(こた)えようがないわよ」


「よーし。――――おい待て、何してやがる。マジでやめろよっ⁉︎」


 どうやら大変な事になっているらしい。正直、ソフィアリアの前でのプロムスはいつも澄まし顔なので、こうして彼本来の姿を見られるのはちょっと楽しい。


「アミーは鳥騎族(とりきぞく)に興味はないの?」


 ここまで熱心なら、折れてあげてもよかったのではないかと思った。プロムス理論で言えば逆また(しか)りで、アミーが契約すれば結婚するプロムスと契約したも同然になるのではと思ったのだ。


 だがアミーは首を横に振る。


「たとえ契約しても私は空を飛べないので不履行になっていたかと。それに、今まで女性の鳥騎族(とりきぞく)は居なかったそうです」


「そうなの?」


 思わずオーリムの方を見れば、彼はコクンと(うなず)いた。


「ああ。今までもたまに希望者は居たみたいなんだが、どういう訳か女性との契約は避ける傾向にあるらしい。王にも聞いたが、理由は教えてくれない。……フィアやアミーを見ていれば、嫌いな訳ではなさそうなんだがな」


 腕を組んで首を(ひね)るオーリムは本当に知らないようだ。王鳥が口を開かないなら、きっと教えてくれる事はないのだろう。……アミーがもし(こた)えて、空が大丈夫ならどうなっていたのか気になる所ではあるが。


「そういう訳でして、史上初の、という肩書きが重かったので(こた)えませんでした。まあどのみち飛べませんし、興味もなかったので」


「ピピっ⁈」


「うるさい。――ですから、史上初という肩書を背負って懸命に立っていらっしゃるソフィ様を、その、尊敬しております……」


 そこまで言われる程の事ではないと思うが、そう言われると悪い気はしない。ついふにゃりと情けない表情になってしまう。


「ありがとう。わたくしは支えてくれる人達がいるから頑張れるの。だから、これからもよろしくね?」


「はい、生涯お仕えいたします」


 そう言って柔らかく微笑んだアミーはとても可愛かった。――たとえ話している間、ずっとキャルに擦り寄られていて、そんなキャルを振り向かそうと必死なプロムスがずっと視界の端にチラついていたとしても。


「う〜ん。アミーとキャル様は同じ色だから、まるでキャル様はお母さんっ子の息子さんのようね?」


 なんとなく思った事を口にすれば、途端プロムスは動きを止める。


「…………オレの息子か。ありだな」


「こんなに大きい、産んだ覚えのない長男とかいらないから」


「ピィ〜」


 なんにしても、この夫婦と大鳥もなんだかんだ三人仲が良さそうでなによりである。つい微笑ましくて、笑みが深まってしまった。

 願わくば、ソフィアリア達三人も負けないくらい仲良くやっていきたい。


「羨ましいわね、リム様?」


「これがか……?」

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