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運命の出会い 4



「おかえり、二人とも。ミゼーディア嬢が登校してきたみたいで、そちらにも挨拶に向かったんだが、すれ違わずに会えたかな?」


 教室に着くなりフィーギス殿下にそう尋ねられて、思わず否定したい欲求に駆られる。

 その気持ちに蓋をしながら、ニコリと微笑んだ。


「ええ、ご丁寧な挨拶をしていただきましたわ」


「……ソフィ様?」


 そんなソフィアリアの醜い胸の内を察したのか、ラトゥスからの観察するような視線が突き刺さる。


 ソフィアリアは必死に誤魔化して、首を傾げてみせた。


「何でしょうか?」


「いや……いい」


 様子のおかしさは気付かれたかもしれないが、今は追求しないでくれた。その配慮がありがたい。


「ソフィ、次はホールに移動よ。行きましょう!」


「ふふっ、ええ」


 メルローゼが無邪気に手を引いてくれたので、便乗してオーリムから手を離す。

 ――そういえば道中、一度も口を聞かなかったなと、今更思い出した。





           *





 五限目は社交ダンスの授業だ。昼の授業は初めてだなと新鮮な気持ちを感じながら、初日に歓迎パーティを開催した多目的ホールに移動する。

 集まっていた生徒の人数が音楽の時間の倍以上だったので、合同授業だったらしい。なんとなく二学年分はいる気がして、という事は一つ下の彼女もいるのだろう。


 これは、波乱の予感がした。


「では皆様。いつも通りファーストダンスはパートナーと、次は自分がどの程度踊れるか理解する為に同位の者と、最後は高位貴族の皆様はどんな相手でもリード出来るように、下位以下の皆様は上に合わせてよりステップアップ出来るように位違いの方を誘い、合計三回踊って見せてください」


 どうやら今日は実力テストを兼ねていた日だったようで、そう指示される。


 ダンス自体は問題ないのだが、ソフィアリアとアミー、マヤリス王女の、パートナーが鳥騎族(とりきぞく)である三人は、少し困った事になった。


「ねえ、リム様。わたくしは王様が認めた人しか踊れないわよね?」


「当然だろ」


 昼休みの出来事には蓋をして、普段通りを心掛けてオーリムに話しかけると、いつも通りの声音できっぱりとそう言われて少しだけ心が浮上した。


 大鳥は独占欲が強いので、鳥騎族(とりきぞく)とその伴侶も他人と長く接触する場合は、大鳥からの許可が必要なのだ。つまり契約した大鳥が認めてくれた人としか踊れないのである。

 プロムスが鳥騎族(とりきぞく)だと周りに公言しているアミーはともかく、表向き鳥騎族(とりきぞく)希望者という形でプロムスの部下になっているオーリムが伴侶のソフィアリアと、昨日契約したばかりでビドゥア聖島に帰るまで公言しないつもりのフィーギス殿下が未来の伴侶であるマヤリス王女は、誘いを躱すのは大変そうだ。


「いっそ身内で済ませてしまいましょうか?」


 その方が楽なのではないかと思いソフィアリアは提案してみたのだが、微妙な反応を返された。


「こちらとしてはその方が都合がいいが、留学の意義が問われそうだな……」


 遠い目をしたラトゥスの言う通り、せっかく他国に留学したのに身内でばかり固まるのはあまりよくないだろう。名目上だろうと筋くらいは通さなければ、ビドゥア聖島の品位すら問われそうだ。そこまで思い至らず反省する。


 とりあえず二曲目以降の事は後回しにして、それぞれパートナーの手を取った。相手のいない人はファーストダンスを飛ばしていいようで、ラトゥスだけは誘いを断りながら、壁際に控えている。

 護衛の為か隣にマーニュが立っているが、彼もこの場に婚約者はいないのだろうか? まあ地位から考えていない訳ないだろうから、年下なのかもしれない。


 曲が始まったので踊り出す。オーリムとはまだ片手で足りる程度しか踊っていないが、お互いすっかり身体に馴染んでいるなと表情を綻ばせた。


「リム様と踊るのって、なんて幸せなのかしら!」


「ああ、俺もだ」


 そう言って柔らかく細められた目にはいつもの熱を確認出来て、ソフィアリアの荒れた心が瞬く間に修復されていく。なんとも単純な恋心だ。


「でも今日のリム様はラズくんだから、いつもよりドキドキしてるみたい」


「こっちの方が好きか?」


「王様とお揃いの姿だって素敵よ?」


「あっちの方が見られる容姿らしいけどな」


「リム様はリム様なのに、みんな見る目がないわ」


 誰にも聞こえないように、ダンスをしながらこそこそと話す時間はとても楽しい。顔を見合わせてくすくす笑い合っていた。

 周りから見て相思相愛の夫婦に見えていたらいい。そう願ってそっと、オーリムの左手の薬指につけている指輪に触れた。少し触れただけで簡単に揺れてしまう、大事な指輪を。


「……早くサイズ直ししたい」


「手袋の下につけないの?」


 そうすれば落とす心配はなくなるのではないかと思って言ったのだが、むっとされてしまった。


「それだとパッと見夫婦感がなくて嫌だ。ちゃんと周りに見せびらかしたい」


「あらあら」


 見せびらかしてくれていたらしい。なんだか擽ったくて、ますます笑みが深まるのだった。


 ――レイザール殿下とリスティスペアとすれ違った一瞬、オーリムの目線がそちらに引き寄せられた気がした。


 曲が終わると向かい合って礼をし、腕を組んでみんなの所に戻ってくる。まず上機嫌な表情でグラスの水を飲んでいるプロムスと、真っ赤になったアミーが視界に入ってきた。


「ふふ、ダンスを楽しめたようね」


「ええ、最高でしたよ」


「…………」


 アミーはふいっと顔を逸らしたが、照れているだけだろう。可愛い子だ。


 学園に来るにあたって、プロムスとアミーにも社交ダンスを教えておいたのだ。急拵えだったが二人の努力の甲斐あって、まずまず見られそうな形になった。準男爵位なら充分過ぎるくらいだろう。


「ごきげんよう、アミー」


 聞き覚えのある声がアミーを呼び、視線を向けた。


 そこに立っていたのは情報収集の為のお茶会で、下位貴族の中に混ざっていた唯一の伯爵令嬢だった。名前はたしかイリーチア。ソフィアリアが要注意だと認定したご令嬢だ。


 表向きの立場は彼女が上なので、アミーとソフィアリアはイリーチアに頭を下げる。


「ごきげんよう、イリーチア様。またお会い出来て光栄です」


「ふふ、本当ね。ねぇ、アミー。次のパートナーは決まっているかしら?」


「……いえ」


「なら、アミーには私のクラスメイトを紹介してあげるわ。代わりに私とあなたの夫が踊ってもいいかしら? これでお互い、爵位違いの方は合格出来るのではなくて?」


 そう言ってプロムスを見上げる視線の熱を隠しもしないのだから、やはりかと真顔になってしまう。

 お茶会をしている時から、アミーに対してどことなく棘があるのは気付いていた。プロムス狙いなのかもしれないなと警戒していたが、案の定だったかと心の中で溜息を漏らす。


 これは、厄介な事になりそうだ。


 アミーはプロムスを見上げ、プロムスは首を横に振ったので、毅然とした態度でイリーチアと対峙している。


「申し訳ございませんが、お引き受けしかねます」


「あら、何故?」


「夫は大鳥様と契約した鳥騎族(とりきぞく)です。契約した大鳥様の許可が出ない者とは、夫婦共々踊る事は出来ません」


「説得してちょうだい」


「大鳥様は神様であらせられるので、人の身である私ごときでは出来かねます」


 きっぱりと拒絶すると、イリーチアは眉を吊り上げる。


 そろそろ割って入るべきかなと思っていると、パンッと近くで何かが弾けたような音がして、その音に驚いた生徒から悲鳴があがった。

 視線を向けると、プロムスが手に持っていた水入りのグラスが粉々に砕け散っている。おかげで右手がびしょ濡れだし、欠けたガラスで手を切っていないか心配だ。


 そんな事気にしていないとばかりに、プロムスはニッとニヒルな笑みを浮かべる。


「申し訳ございません、イリーチア嬢。我が大鳥様はお怒りのようです」


「っ! なっ⁉︎」


「ご覧の通り人に触れる事が叶いませんので、これ以上怒りを買う前に、早急にお引き取り願います」


 グラスの残骸をテーブルに置き、謝罪の意を込めて左胸に手を当てて頭を下げれば、顔を青くしたり赤くしたり忙しい彼女は、逃げるように去って行った。

 厄介そうな人物を追い払えたのはいいが、これで二人にはもう誘いが来ないだろう。誘おうと隙を窺っていた人だかりが、一斉に散ってしまったのだから。


 アミーはジトリとプロムスを睨む。


「やりすぎ。キャルじゃないでしょ」


「穏便に済ませた方だろ。キャルに任せたら、ホールごと消し飛ぶ」


「まったく。……怪我してない?」


「へーき」


 そう言って手を一振りすると、手が乾いていた。駆けつけた清掃員に詫びて、汚した床を片付けてもらう。


「では、同格の方は、わたくし達で交換しましょうか?」


「いいですよ。リム、必要以上にアミーにくっ付くなよ?」


「わかってる。そっちこそ、フィアにベタベタするな」


 という事で、プロムスとアミーは身内で済ます事にしたようだ。注目株だったが、こうなっては仕方ない。護衛の準男爵位だし、大目に見てもらおう。


 その後身分違いの方はアミーはラトゥスを、プロムスはマヤリス王女にお願いして、二人のダンスは合格点をもらえたようだ。



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