テストとご当地グルメ 3
午後から選択科目のテストがある為、マヤリス王女はペコペコ頭を下げながら、行ってしまった。
もうテストがないソフィアリア達は滞在している屋敷に帰ってもいいのだが、今日の夕方にはテストの採点が終わり、順位が張り出されるらしいので、それまで学園に留まる事にする。
せっかくなので、学園内の見学をしようと思った。一応留学生として来ているので、その方が自然だろう。
ここで案内をかって出てくれたのが、学園長だった。マヤリス王女に頼まれたらしく、わざわざ学食まで迎えに来てくれる。
「皆様、いきなりのテストではございましたが、本日はお疲れ様でした」
「なに、授業を受ける前に私達の実力を知ってもらえるのだから、いい体験だったよ。案内も、楽しみにしているよ」
「お任せください。……ところで、アミーさん」
不意に学園長に名前を呼ばれ、アミーはきょとんとしている。
「……はい」
「よろしければ、私の腕に掴まっておいてくれないかしら? 最近足腰が弱っていて、もしかしたらフラついてしまうかもしれないもの」
「そういう事でしたら、お任せください」
「ありがとう。ごめんなさいね、体調があまりよくなさそうなのに」
「先程一休みして快調しましたので、お気になさらないでください。では、失礼いたします」
そう言って腕を支えて……というか、絡めて先頭を歩いていた。アミーは戸惑っているようだが、されるがままに身を委ねておけばいいと思う。
学園長はああ言っていたが、どう見ても健康体だ。ああやって一番身分が低く標的にされそうなアミーを学園長の加護ありと知らしめる為に、わざとやっているのだろう。学園内では一番権力を振るえるのは、当然学園長なのだから。
プロディージがそんな二人の事を探るように見ているのが気になるが、憶測しか立てられないので黙っている事にする。今は素直に学園見学を楽しんでおけばいいだろう。
学園長の案内のもと、ソフィアリア達が実際に使いそうな教室や施設を中心に回っていく。途中でテストが終わったらしい生徒と適当に会話を交わし、なんとかあしらったつもりだったが、つかず離れずの所でゾロゾロとついて来ていた。
まあ、割り込まれるよりいいかと放置しておく。
「こちらが音楽室でございます。皆様には四日後、こちらで授業を受けていただく事になる予定です」
「ははっ、楽しみだねぇ」
「……国の威信にヒビが入るな」
遠い目をしているフィーギス殿下とラトゥスは、芸術方面の実技がからっきしなのだと話に聞いていた。どうやら実際に見る機会に恵まれそうだ。
「……おい、どうする? 楽器なんて触った事もねーぞ」
「俺なんか実際聞いた経験すらあまりないが」
「私もあまりない。困ったわ」
大屋敷の昔馴染み三人組も、微妙な顔をしていた。
ソフィアリアはプロディージとメルローゼの方を見て、明るく笑う。
「楽器を触るのは久しぶりね。また三人で演奏会が出来るかしら?」
「お義姉様、違うわ。リースも入れて四人よ!」
「さり気なく僕まで巻き込むのはやめてくれない?」
プロディージはジトリと睨んでくるが、バイオリンの腕前は相当なので、お披露目しないのはもったいないと思う。
「フィアは楽器を弾けるのか?」
オーリムが目を丸くしているので、笑みを深めてコクリと頷いた。
「ええ、貴族の嗜みだったから、一通りは出来るわよ。一番得意なのはチェンバロかしら?」
「聞きたい。楽しみだ」
ワクワクした表情で目を細めるオーリムに、笑顔を返す。
ソフィアリア達三人は先生指導のもと、楽器のあるメルローゼのお屋敷で、それなりに腕前を磨いてきたつもりだ。セイド領やペクーニア領で慰問として演奏して回っていた日々がとても懐かしい。
ふとオーリムは、窓の外に視線を向ける。
「リム様?」
「いや、多分王も話は聞いているだろうが、今の俺はどんな反応をしているのかわからないからな。いつもならいの一番に反応しただろうにって思うと、ちょっと」
「ふふ、寂しいわね?」
「少し。まあ、帰ってからな」
少し恥ずかしそうにそう言うオーリムは、なんだかんだ言っても王鳥大好きなのだから、とても可愛い。
その後も美術室や生徒同士でお茶会をする際のサロンルームや立派な庭園。修練場は、オーリムとプロムスが興味深そうにしていた。どうやらここも使う機会があるらしい。
そして忘れてはならないのは、ここである。
「こちらの建物は全て、学園内の人間全てに貸し出し可能な図書館となっております。この国以外にも他国の本も存在し、所蔵数は二億以上とも言われております」
まるで有名な劇場のような大きな白亜の建物の内部は、全て図書館として使用されているのだから、空いた口が塞がらない。
「凄いね。我が国最大の図書館でも、これほどではないよ」
「見習いたいものだな」
フィーギス殿下達すら目を輝かせるのだから、相当である。ソフィアリアはそれを聞いて、島都にあるらしい図書館という場所には行った事がないと思い至った。いつか行ってみたいと記憶しておく。
ソフィアリアもこの光景には胸を弾ませるのだが、残念ながらゆっくり本を楽しむ余裕はないだろう。時間があれば、いくらでも読み耽りたいところなのだが……。
「……授業なんかいいから、ここに引きこもっていたい」
「ディー、絶対ダメだからね」
学園長に聞こえない声量で聞こえた会話は、聞き流す事にした。
また少し歩いて、最後はおしゃれなカフェに案内される。
「本日はお疲れ様でした。こちらのカフェにも、王族専用ルームがございます。マヤリス王女殿下ももうすぐ終わるかと思いますので、こちらでお寛ぎになってお待ちください」
「感謝するよ、学園長。楽しい時間だった」
「そう言っていただけて、ようございました。アミーさんも、ありがとう」
「いえ。お役に立てて光栄です」
「充分よ。……では、わたくしはこれで失礼いたします。また何かありましたら、遠慮なくお呼びくださいませ」
そう言って去って行ってしまったので、その背中を見送る。優美で優しい学園長だった。
ちょうどおやつ時を少し過ぎたあたりだったので、歩き回った事もあり、言われた通りカフェで休んでいく事にした。プロディージが図書館と同じくらい、目を輝かせている。
まずはオーリムが内部の警戒の為に、扉を開けようとした瞬間――
「きゃっ⁉︎」
ちょうど買い物を終えた生徒が出てくる所だったらしく、運悪く扉にぶつけてしまい、相手は驚いた拍子に手に持っていた飲み物を落としてしまった。
「すまな……」
だがその相手を見て、オーリムもソフィアリア達も、思わず頰を引き攣らせる。
「いいえ、あたしが悪かった――」
そして何故か相手もオーリムを見て、絶句していた。
ぶつかった相手は、肩口で切り揃えられたピンクブロンドの髪と、大きな琥珀色の目をした可愛らしい少女――昨夜遠目で見たばかりのミウムだった。
「……えっ、誰?」
ミウムは訝しげな表情でオーリムを見上げ、その発言に場の空気が凍りつく。
オーリムは関わりたくないとばかりに無表情を貫いていた。
「すまない、飲み物を弁償しよう。店員」
「はっ、はい」
「これで彼女に新しい飲み物と詫びの菓子を。余った分は迷惑料として受け取ってほしい」
「か、かしこました。すぐにご用意いたしますので!」
多過ぎる代金を受け取って、店員はそそくさと去ってしまった。
店内にいた他の客からも注目され、半分野次馬根性で、半分固唾を飲みながらこちらを伺っている。
当然だ。ミウムは他国の留学生、それも王族の行く道を遮っただけでなく、「誰?」なんて堂々と言ってきたのだ。人が人ならば、不敬罪で捕らえられてもおかしくない状況である。
「決着はついたね? なら、さっさと中に入ろうではないか。君も、気をつけたまえ」
発言に、と含めて笑うと、フィーギス殿下はプロムスを連れて中に入って行ったので、ソフィアリア達も後に続く。
「えっ、ちょっ、待っ⁉︎」
なにか引き止めるような声が聞こえた気がしたが、全員で聞こえなかったフリをした。詫びなら、充分過ぎるくらいしただろうから。
お読みいただきありがとうございました。
次回5/3(金)更新分から第三部完結まで、毎日6時更新に変更になります。
もうしばらくソフィアリア達の学園生活を見守っていただけますと幸いです(^-^)




