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歓迎パーティでの婚約破棄 2



「どう、王様、ラズくん? わたくしの制服姿、似合うかしら?」


 まるで鈴蘭の花のようなスカートを摘み、二人に向かって小首を傾げながら笑顔を振り撒く。


「ピ!」


「あ、ああ……可愛い」


 王鳥は満足そうに(うなず)き、オーリムは口元をモゴモゴしつつ小さく答え、常時より顔を赤く染めていた。お気に召してもらえたようで、なによりだ。


「学園といえば、お揃いの制服よねぇ」


 そう言ってソフィアリアは、今着ている王都学園の制服を見下ろした。


 黒の差し色が入った白いジャケットと、黒いフリルのついた鈴蘭を模した白いロングスカートがとても可愛い。靴底と紐には黒を使われた白いブーツの三点セットさえおさえれば、あとは自由に気飾ってもいいらしい。

 ソフィアリアはフリルブラウスと夜空色のリボン、背中についているリボンは大鳥関係者らしく長く二股に分かれさせて、スカートには紺色をフリルをもう一段増やした。

 ビドゥア聖島の禁色と装いに関して知っている生徒はあまりいないだろうと判断しての、王鳥妃(おうとりひ)らしさのあるアレンジだ。仮に知っている人がいたとしても、準男爵夫人らしく無知を装うなりすれば、問題はない。


「ラズくんも、カッコいいわ」


 そう言ってうっとりしながら舐めるように見回せば、さすがに真っ赤になっていた。


 男子はロングジャケットらしく、長くなったがデザインは女子とあまり変わらない。トラウザーズの裾は鈴蘭のようにモコモコした模様が入れられ、隙間に黒が差し込まれている。男子はブーツではなく、革靴らしい。

 オーリムはロングジャケットの後ろに切り込みを入れて二股に分かれさせ、裏地にこっそり紺を忍ばせて、中はいつも通り黒のベストと紺色のシャツを着ていた。こちらもさりげなく代行人らしいアレンジだ。


「ネクタイはしないの?」


「……鬱陶しいからな」


「ふふ、自分で結べなかった?」


「…………そんな事、ない」


 図星らしい。視線を逸らしたオーリムに、王鳥と二人でくすくすと笑う。


 でもと、ソフィアリアは自分の頰に手を当て、残念そうに溜息を吐いた。


「わたくしが毎朝、結んであげたのに」


 毎朝旦那様のネクタイを結んであげるだなんで、なんとも新妻らしい行動ではないだろうか。曲がったネクタイを直してあげたり出来るかもしれないと期待していたのに、まさかのノーネクタイだなんて。


 オーリムも言われるまで気付かなかったようで、衝撃を受けたように目を見開いて、固まってしまった。その手があったか、という事だろうか。


 それがおかしくて、またくすくすと笑ってしまうのだった。





            *





 全員集まってから再度馬車で移動し、今度は学園内の多目的ホールへと向かう。王城で余計な時間を使ってしまったのでバタバタしていて、落ち着く暇もない。

 もう少し余裕が出来たら、みんなの個性が出ている制服姿を眺めたりもしてみたかった。特にプロムスは大変身を遂げていて、とても気になっているのだ。


 ようやく一息つけたのは、多目的ホールの控え室だった。もう夕方に近い時間だが、昼食すら食べる暇がなかったので、この隙に軽く食べておく。これからの事を考えれば、夕飯だって遅い時間になるだろうから。


「わざわざ歓迎パーティまで開かなくてもよかったのよ?」


 マフィンを食べながら、マヤリス王女にそう言っておいた。


 どうやらこの後、生徒の授業や放課後の課外活動が終わるのを見計らって、留学生の歓迎パーティを開催するらしい。

 今週限定で他国から留学生が来る事は知らされているものの、それが誰なのかは隠しており、この場でお披露目をするのだとか。

 お忍びなので大事にせず、そっと教室の片隅に招いてくれる程度でも良かったのだが、立場上そういう訳にもいかないのはわかる。けれど、歓迎パーティやお披露目はやり過ぎだと思う。


 マヤリス王女はソフィアリアからの言葉に、申し訳なさそうな顔をしていた。


「わたしも、時期が時期だけにどうかと思ったのですが」


「時期が時期?」


「明日、学年末テストがあります」


「テストだあっ⁉︎」


 驚き過ぎて思わず素で叫んでしまったプロムスは、はっと我に返って口元を押さえる。アミーにジトリと睨まれていた。


 まさかの事実に、ソフィアリア達も目を瞬かせる。


「それは、ご迷惑をお掛けしたわね?」


「いえ……重なってしまうとは思いませんでしたので。授業より先にテストを受けていただく事になってしまうのですが……」


 小さくなって申し訳ございませんとしょんぼりしてしまい、こちらこそ申し訳なくなる。テストの時期なんて急に変えられるものではないので、ソフィアリア達が悪いだろう。


「つまり僕達は、テスト前日の夜という大事な時間に横槍を入れてくる、迷惑な留学生という事なるのか」


「テストの成績が悪ければ、僕達のせいにされるのですね。かえって良かったのではないですか? もっともらしい言い訳が出来て」


 何故か悪戯心を刺激されたらしいラトゥスとプロディージが、どこか楽しそうにしていた。


 まあ、来てしまったものは仕方ない。真っ先にテストを受ける事になるとは思わなかったが、先に実力を知ってもらえるいい機会になったと、前向きに捉える事にする。


「だったら尚更、パーティなんてやってる暇はないだろ」


「わたしもそう訴えたのですが、夜会好きなヴィリックが歓迎の気持ちだと言って聞いてもらえなくてですね……」


「ああ、なるほど。ヴィリック殿のせいだったのか」


 納得したとばかりに(うなず)いたフィーギス殿下は、慰めるようにマヤリス王女の髪を撫でていた。


 名前の出たヴィリックとは、この国の第二王子の事だ。人柄は知らないが、夜会好きという事で派手なイメージを抱く。

 ただ、彼は除籍間近だと聞いていたので、色々大丈夫なのかと思わなくもないのだが……。


 どこか心配そうな表情をしていたのを、フィーギス殿下は察してくれたらしい。場を明るくするように、朗らかに笑った。


「まあ、ヴィリック殿が歓迎の意を示してくれたのだから、せっかくだし乗っかっておこうではないか。明日はテストだし、生徒の息抜きにも――」


 コンコンコンと扉がノックされ、フィーギス殿下は言葉と身内向けの愛想を引っ込める。気持ち警戒しながらプロムスは立ち上がると、応対に出てくれた。


 扉を開けると、オーリムと似たキリッとした上がり眉が特徴的な、質の良さそうな制服を身につけた精悍な青年と、上品なご夫人が立っていた。


 フィーギス殿下が(うなず)いて入るよう促したので、知り合いらしい。ソフィアリアもなんとなく正体を察した。


 プロムスが脇に逸れると青年は堂々と入ってきて、夫人は青年から半歩下がった場所でカーテシーをする。


 ソフィアリアも立ち上がってその場でカーテシーをし、ラトゥスとプロディージが膝をつき首を垂れたのを見て察したらしく、メルローゼとアミー、扉の近くにいたプロムスも、その場で最敬礼をした。


「歓談中失礼する。久しいな、フィーギス殿」


「やあ、レイザール殿。お邪魔しているよ。学園長、顔をあげ、楽にしたまえ」


「皆も、先程のように座ってほしい」


 そう言われたので元の位置に座って、声の主を見上げる。


「皆に紹介するよ。彼はレイザール・サーティス・コンバラリヤ第一王子。この国の王太子さ」


 フィーギス殿下の紹介を聞いて、やはりそうだったのかと笑みを浮かべ、目礼した。


 レイザール・サーティス・コンバラリヤ第一王子殿下。母親と同じアッシュグレーの髪と父親と――マヤリス王女と同じアメジストの瞳を持つこの御方が、この国の王太子だ。歳はソフィアリアと同じ十七歳だったと記憶している。

 フィーギス殿下の印象では頼りない感じだったが、思っていたよりも堂々としているように見える。眉の形がオーリムと同じだから、少し色眼鏡を掛けてしまっているのかもしれないけれど。


 フィーギス殿下が元々顔見知りだったラトゥスとプロムスを除いた初対面のメンバーのうち、一番位が高いオーリムから順番に紹介してくれる。それを見る限り、どうやらここに来た二人は、国王陛下も知らなかったオーリムとソフィアリアの正体をきちんと把握しているようだ。


 その間にレイザール殿下も、空いた席に腰を下ろしていた。


「我が国の事に巻き込んでしまってすまない。協力に感謝する」


 それには曖昧に笑って流しておく。レイザール殿下にどう伝わっているのか不明だが、ソフィアリア達はこの国の問題解決の手助けをしにきた訳ではない。王鳥の言った世界の歪みが解決できそうなら片付けていくかもしれないが、コンバラリヤ王国の問題には関与しないつもりだ。マヤリス王女を正式な手順でビドゥア聖島に連れて帰る事が出来れば、それでいいのだから。


 フィーギス殿下も笑って流していたので、そこまでは伝えていないらしい。


「この方はこの学園の学園長であるエミア・アカード夫人だ」


「お初にお目にかかります。エミア・アカードでございます。偉大なる大鳥様がおわすビドゥア聖島から、遠路はるばるよくお越しくださいました。我が学園は貴方様方を、心より歓迎いたします」


 丁寧な挨拶を聞き、この国では女性でも学園長になれるんだなと思いつつ、記憶を辿る。たしかアカード姓は侯爵家だったはずだ。この国ではビドゥア聖島とは違い王族しかミドルネームはつかないので、間違ってはいないはず。

 人当たりの良さそうな表情と、大鳥を敬ってくれた事でなんとなく好印象を抱く。学園長は一人一人の顔を覚えるよう、じっくりと目を合わせていた。


 ――ふと、なんとなく違和感を覚える。悪い意味ではないと思うのだが、何か心に引っ掛かる事があった。


「……ああ、そういう事ね」


 辛うじてソフィアリアの耳に入るくらいの声量でプロディージがそう呟いたのを聞いたので、やはり何かあって、見つけたらしい。


 チラリとプロディージを見たが、プロディージはまっすぐ学園長を見ていて、その正体はソフィアリアにはわからなかった。



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