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新しい研究対象

「エピローグ〜恋の結末〜5」の後。ソフィアリア視点。



王鳥妃(おうとりひ)さ〜ん!」


 セイド一家が帰った後。久々に大鳥達との面会を済ませた客室棟前の広場で、そう呼び止められた。

 その呼び名を使う人物は、この大屋敷では一人しかいない。


「あら、サピエ先生。どうかされましたか?」


 振り返ってそう問えば、サピエは何かいい事があったのか、微笑を浮かべていた。その神々しいまでの美しさに、ソフィアリアについていた侍女がほうっと溜息を吐くほどの愛想を振り撒いている。


 そういえばフィーギス殿下達にクラーラが鳥騎族(とりきぞく)になったと報告したあの日以来、サピエの姿が見えなかったなと思った。

 女性初の鳥騎族(とりきぞく)という新たな観察対象が出来たので、もっと頻繁に姿を見せるかと思っていたのに、クラーラと接触していた様子すらない。思い返せば、少し不思議である。


「ようやく引き継ぎと研修が終わったんで、このままセイドの方々の護衛をしながら、そのままあちらに赴任する事になったんスよ! だから、そのご挨拶に」


 どうやらしばらく姿を見せなかったのには、そういう理由があったらしい。


 彼と一緒にやって来た大鳥のウィリは、身体に荷運び用のバッグを付けられ、側には大きなバスケットが置かれている。そこに、セイドに引っ越す際に持っていく荷物でも詰められているのだろう。


 旅支度を終えたその姿を見て、浮かべていた笑みの中に少し哀愁が混じってしまうのは、仕方ない。


「まあ、そうでしたか。今日行ってしまわれるのですね。少し寂しくなりますわ……」


 悲しげにそう言えば、サピエは変わらずニコニコしたままで、首を横に振った。


「そんな顔しなくて大丈夫っスよ。多分週に二回くらいは、こっちにも顔を見せにくるっスから」


「あら? そんなに頻繁に、こちらに来られるのですか?」


「検問所と巡回の当番が、セイドの赴任に変わっただけっスからね。あっちが中心になるっスけど、こっちにも研究対象はまだまだ多いんで、時間を作って来るつもりっスよ!」


 そう言ってキラキラと見つめてくるこちらの研究対象の一つは、ソフィアリアだと察する。

 普通に生活しているだけなので面白味はないと思うのだが、ソフィアリアの行動で大鳥に及ぼす影響などを観察するのが、サピエにとっては楽しいらしい。


 ソフィアリアも常に人目を気にしなければならない貴族としての教育の賜物か、観察対象になるくらいなんともないので、次代のプレッシャーにならないよう、過分に持ち上げさえしなければ、記録として残すのも、学会で発表するのも、お好きにどうぞと開けっぴろげにしていた。


 なんにしても、会えるペースは今までと変わらないかもしれないのは、朗報だ。


「それは嬉しいですわ。……ところで、ウィリ様の伴侶の大鳥様は、今日はご不在ですか?」


 そう言ってあたりを見回す。


 ウィリはサピエとの仕事で出払っている事もあるが、その伴侶には契約した鳥騎族(とりきぞく)はいない。

 いつもウィリが帰ってくるのを健気に待っているのに、今日は姿が見えなかった。

 今は仕事中判定なのかと首を傾げていたら、サピエは何故か嬉しそうに、目をキラキラさせている。


「奥さんなら、今日も双子ちゃんを見守っているっスよ」


「まあ! ピー様もヨー様も、今はクーちゃんがずっと連れ歩いているのに、ですか?」


「独り立ちするまでは、ずっと見守るっスからね。その前に鳥騎族(とりきぞく)を選んじゃって少し困惑してるみたいっスけど、クラーラ嬢ごと、見守る事に決めたそうっスよ」


 街中では騒ぎにならないように姿は消してるんスけどね、と笑っていた。


 サピエの講習によって得た知識だが、大鳥は子供が孵化(ふか)すると、独り立ちを迎える約十年間、両親は目を離さないように側で見守るらしい。

 ウィリの伴侶は自身の子である双子だけではなく、クラーラまで見守ってくれているという。独り立ちをする前に契約を結んだ大鳥が今までいなかったので、その習性は新発見なのではないだろうか。サピエが目を輝かせて喜ぶのも当然である。


「そう、クーちゃんまで。ありがとうございます、ウィリ様。伴侶の大鳥様にも、わたくしが感謝していた事をお伝え願えますか?」


「ピ!」


 いいらしい。額を差し出してきたから、感謝の気持ちを込めて、よしよしと存分に撫でさせてもらった。ウィリの気持ちよさそうな表情が可愛い。


「あー! ウィリっちが浮気してる〜」


「ピスっ⁉︎」


「浮気者め。奥さんに言いつけて、二人で拗ねてやるっスからね〜」


「ピーピー」


 唇を尖らせてツンとそっぽを向くサピエに、ウィリは鳴いて許しを乞うように、サピエの背中に額を擦り付けている。

 悪い事をしたかな?と思ったが、サピエが半笑いなので、戯れているだけのようだ。


「……だからクラーラ嬢の事は、常にウィリっちと奥さんが護っているようなものなので、安心してほしいっス」


「ええ、とっても心強いですわ」


「といっても、魔法を使い始めたら双子ちゃんの方が強くなるんで、今だけの保険にしかならないっスけどね」


 そう言って苦笑する。双子がいつ魔法を使えるようになるのかは不明だが、侯爵位だ。きっと、男爵位の両親よりも、強い子に育つのだろう。


 ふと、心配事が浮かぶ。


「クーちゃんも、同じ頃に魔法を使えるようになるのでしょうか?」


 鳥騎族(とりきぞく)になれば、魔法を使えるようになる。当然、クラーラだって例外ではないだろう。

 今は双子が赤ちゃんだからか使えないようだが、時間の問題だ。魔法を行使するという感覚がわからないので未知の世界だが、危険はないのか、幼い感情のままふるってしまい、大変な事になるのではないかと心配になった。


 魔法ではないが、鳥騎族(とりきぞく)となった事で身体能力が上がったのだ。ただでさえ走り回る元気な子だったのに、そのスピードは常人では追い付けず、また体力も底なしになってしまったらしい。

 そのせいで大屋敷滞在中も、クラーラ付きをお願いしたベーネから要望があり、鳥騎族(とりきぞく)にも一人付き添ってもらう事になったのだ。手当てを追加したが、色々と申し訳なかったなと思う。


 そんな風に既に迷惑を掛けてしまっているが、魔法となると、周りに掛かる迷惑はその比ではないだろう。ましてや侯爵位なのだから、下手すれば大惨事だ。


 今更それに思い至ったソフィアリアはサッと青くなったが、サピエは安心させるように笑みを深め、首を横に振る。


「オイラも気になって代行人様に聞いたんスけど、双子が独り立ちするまで、クラーラ嬢の魔法の使用は、王鳥様の許可制にするんですって」


「王様の許可制?」


 どういう事か分からずはて?と首を傾げると、サピエは立てた人差し指をくるくる回して、説明してくれた。


鳥騎族(とりきぞく)が魔法を使う時、まず契約した大鳥様に許可を得るって話は覚えてるっスか?」


「ええ。こういう魔法を使いたいって心の中か言葉で伝えて、人が使える範囲ならそのまま、使えない範囲だと、必要性があると判断されれば、大鳥様が代わりに使ってくださるんですよね?」


「正解! 普通はそうなんスけど、クラーラ嬢も双子ちゃんも判断能力の乏しい子供なんで、魔法を使いたい時は、まずクラーラ嬢が双子ちゃんに願って、双子ちゃんを通して監視している王鳥様が双子ちゃんに許可を出せば、双子ちゃんはクラーラ嬢に許可を出せる感じで様子を見ようって事になったんス」


「二重の許可が必要になるんですねぇ」


 なるほどと(うなず)く。それだと子供の軽はずみな判断で魔法を使ってしまい大惨事、なんて事態は防げるだろう。


「爵位違いなんでいずれ手に負えなくなるかもしれないっスけど、魔法の使い方と大鳥様に関する知識はオイラが教えるつもりなんで、よろしくっス」


「まあ! サピエ先生には所長としてのお仕事もありますのに、よろしいのですか?」


「まあ、そっちはほどほどに周りに投げますんで……」


 すーっと気まずそうに目を逸らされる。所長として赴任するのは歓迎でも、書類仕事は嫌なんだなとくすくす笑った。

 といっても元は侯爵家嫡男として、高度な教育を受けていた人だ。仕事をこなすのは訳無いが、半分趣味である大鳥の研究に専念したいので、時間を取られるのは嫌といったところか。


「ならいいのですが。クーちゃんの事、よろしくお願いいたします」


 姉として、丁寧に頭を下げる。


 それを見たサピエが困ったように頰を掻いているが、どんな事情であれ、妹がお世話になる事には変わらないのだから、このくらい当然だろう。


「頭を上げてください。オイラもクラーラ嬢にお話を聞きたいし、双子ちゃんと仲良くしてくれて嬉しいんで、おあいこっスよ」


「そう言っていただけて、ありがたいですわ。でも、ふふ。親子揃って鳥騎族(とりきぞく)様をお選びになった大鳥様って、今回が初めてなのではないですか?」


「そうなんスよ! あっ、いや、今までも多分いたと思うんスけど、独り立ちを迎えるとどの子が親子なのか、さっぱりわからないっスからね」


 それもそうかと思い、(うなず)く。


 ソフィアリアが交流し始めたここ半年程で知った子は覚えていられるだろうが、それ以前の子は全然わからない。親子関係が希薄な大鳥も言わないだけで、案外今も鳥騎族(とりきぞく)の中に居たりするのかもしれないなと思った。


「……つまり、オイラも研究対象なのでは⁉︎ なんかクラーラ嬢の事も、娘のように思いはじめてきた気がするっス!」


「あらあら。クーちゃんもピー様もヨー様も、親がいっぱいで幸せ者ですわねぇ」


「そう思うと、ラトゥスくんもちょっと憎たらしいっスね〜」


「うふふ、ラス様にお舅さん気取ってみるのも、いいかもしれませんね?」


「名案っスね!」


 ソフィアリア的には冗談のつもりだったのだが、サピエは含みのないキラキラ眩しい笑顔を浮かべていたので、本気にしてしまったかもしれない。


 ますますややこしくなった身の上に、ちょっと申し訳ないなと思いつつ、でもラトゥスならきっと受け入れてくれるだろう。彼はとても懐の広い人だから。


 ――後日、いきなりサピエに「オイラの可愛い三人娘はそう簡単には渡さないっスよ!」と謎の啖呵(たんか)を切られたラトゥスはまた遠い目をする羽目になるのだが、今はまだ知らないお話だった。




ラトゥスの面白お兄さん化が止まらない問題。彼周りの相関図はもう無茶苦茶だよ!


実はソフィアリア視点は今年初だったりします。

というか台詞ありでの登場すら、ベーネの番外編でチラ見せした振りです。

主人公なのですが、第二部は特に群像劇風だったのと、本編でだいぶ語り尽くしたので、番外編は他のキャラの隙間を埋めたいなと。


とんでもない幼女(?)三人組をセイドに帰しちゃって大丈夫?という問題と、サピエ途中から居なくなってたの問題の解決編。

クラーラと双子には常に双子の両親のどちらかが見守っており、王鳥の監視がついています。

まあこの時点では誰も知りませんが、実は双子はもう魔法が使えるので(クリスマスパラレル番外編参考)、うっかり両親は振り切ってしまうかもしれませんが。双子は侯爵位だし、王鳥が監視しているので、大丈夫かと黙認しているのかもしれません。


ちなみにクラーラが魔法を使う事は、子供のうちは原則禁止にしているようです。

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