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酷くて、酷いだけではないあなたが

「エピローグ〜恋の結末〜5」の後。メルローゼ視点。



 大屋敷を発つ直前に、プロディージにプロポーズをされた。邪魔が入るのは嫌だから、プロディージの誕生日が来たら、先に籍だけ入れておこうかという打算的な物言いと表情に反して、手と声が緊張で震えていた、そんな不恰好なプロポーズだった。

 差し出された薔薇の花束は、昔約束をしていた百八本ではなかったし、大屋敷の玄関前、しかも公衆の面前というロマンのかけらもない場所だったけど、メルローゼの心はどうしようもなく早鐘を打ったのだ。学園を卒業したら正式にプロポーズをすると言っていたが、おそらく印象に残るのは今日だろうなと思うくらい、嬉しかった。


 当然、了承した。プロディージはメルローゼの両親にも認められるように、今日、タウンハウスに立ち寄ってくれるらしい。


 誓いの一本をプロディージに返した十一本の赤い薔薇の花束を抱えて、幸せいっぱいの気持ちで帰ってきたメルローゼの様子で両親も察したらしく、ご機嫌に準備をして――兄二人は意味深に指をポキポキ鳴らして――、セイド家の来訪を待っていた。


 ところが先程王家からの先ぶれがあり、セイド家と一緒に、フィーギス殿下がついてくるという。その事に呆然としたのは言うまでもない。

 たかだか成り上がりの子爵家のタウンハウスに、王太子殿下が訪問する日がくるとは。


 大慌てで使用人に通達をし、ぽかんと惚ける皆を叱咤しつつ、出迎える準備をした。


 ほぼ内輪だけの集まりだったはずなのに、どうしてこうなった。


「また横槍が入らないとも限らないし、最終的に私のもとに届くのだから、過程を省いた方が安全で、効率的ではないかな?」


「……なにも言っておりませんわ」


「それだけ不満が顔に出ていれば、心の内を察するのは容易だよ」


 優雅に外国から取り寄せた高価な紅茶を堪能しているフィーギス殿下に、勝手に心を読むなと怒りたい気持ちを、扇を握り締めて必死に耐えた。ミシリと鳴った音は、気のせいだろう。


 ――ここは島都にあるペクーニアのタウンハウスの貴賓室。


 フィーギス殿下が引き連れてきた侍従や護衛には、部屋の外での待機を命じ、部屋に残ったのはペクーニア家の者と、今日来る予定だったセイド一家。そこに追加でフィーギス殿下と、大屋敷で顔を合わせたフィーギス殿下の側近として有名なラトゥスの計九名と大鳥の双子という異例の集いに、遠い目をする。

 たった二人の高貴なお客様の追加のせいで、プロディージの訪問を心待ちにしていた幸せな気分が台無しだ。


「ところで、ペクーニア卿二人はどうしたんだい? 出迎えの時までは姿が見えたのに」


「……申し訳ございません、フィーギス殿下。(せがれ)二人は急に仕事を抱え、飛び出して行きました。何かご用がおありでしたか?」


「逃げたな」


「はは、二人とも相変わらずだねぇ。まあ、いいとも」


 そのやりとりを聞いて思い出したが、兄のうち次男の方が、飛び級をしていたフィーギス殿下達と同級生だったと言っていた。

 が、長男の方は何も聞いていない。学年違いで身分違い、フィーギス殿下は高位クラスで兄は下位クラスという縁遠さだったのに、知り合いだったのだろうか?


 首を傾げていたら、察してくれたフィーギス殿下に苦笑された。


「……あの二人は顔だけはよかったから、学園で度々(たびたび)女性関係の問題を引き起こしていてね。生徒会長として、何度(いさ)めたかわからないのだよ」


「遊び相手を弁えていたのは、幸いだったな」


「愚息が大変申し訳ございませんでしたっ!」


 両親と、流れでメルローゼも頭を下げる。兄二人が女好きなのは昔からだが、まさか学園でフィーギス殿下達の手まで(わずら)わせていたとは思わなかった。


 勉強についていくのに必死で、ろくに社交は出来なかったと言っていたのに、本当に、何をしているのか。


「はは、まあ、あれも学園のいい思い出だったと、美化しておく事にするよ」


「一応貴族なのだから、いつの間にか家族が増えていた、なんて事にならないよう、願っておく」


「……言い聞かせておきます」


 さらりと怖い事を言わないでほしい。知らないうちに甥か姪がいたなんて事態は、勘弁願いたいものである。


 フィーギス殿下がカップを置いて、姿勢を正したのを合図に、部屋の空気が一気に引き締まる。メルローゼもつられて、姿勢を直していた。


 フィーギス殿下は隣に座るラトゥスから紙を一枚受け取ると、向かい合うメルローゼとプロディージの前に、それを置く。


「婚姻届だよ。これに署名してしまえば、君達は晴れて、戸籍上は夫婦となる。――その前に、いくつか言っておきたい事があるんだけどね?」


 そう言って足を組み換え、探るようにじっとメルローゼを見つめるものだから、困惑するしかなかった。


 おそらく大多数の人が、国一番の美貌を誇る王太子殿下に見つめられるというこの状況を羨望するだろうが、メルローゼはプロディージにしか目がいかないので、全く嬉しくない。というか、メルローゼにとってフィーギス殿下は、色々と敵である。


「……なんですの?」


「ペクーニア嬢は本当に、プロディージなんかと結婚する気かい?」


「なんかっ⁉︎」


 キッと眉を吊り上げ、その美貌を睨み付ける。なんとなくフィーギス殿下は、プロディージの将来性に目をかけているんだなと思っていたのに、なんて言い草だ。


 いくら不敬だと罵られようと、我慢ならない。


「お言葉ですが。ディーは顔が良くて、ペラペラペラペラ罵詈雑言(ばりぞうごん)を思いつくほど頭が回って、顔がよくて、横か上に立つ人間には嫌味ったらしいのに、庇護者と定めた相手には、とびっきり優しいんですのよっ! あと、顔がいいっ!」


「ははっ、プロディージの顔が、ペクーニア嬢好みだって事だけはわかったよ」


「よかったな、ロディ。ペクーニア嬢が、君の顔が好みで」


「……そんなに僕の顔だけが重要だった訳?」


「えっ? ディーを手放しで褒められるところなんて、顔くらいじゃない?」


 昨日も散々中身は最悪だと言ったじゃないかとキョトンとした顔を見せれば、プロディージは眉根を寄せ、複雑そうな表情をしていた。何故だ。


「まあ、顔が好きなのはわかったけどね。私としては、君達をこのまま結び付けていいのかは、疑問に思っているのだよ。プロディージの婚約者への対応は、あまりにも酷いものではなかったかな? 私に判断を委ねられていたら、間違いなく否を突き付けるよ」


「……やはり、認めていただけませんか?」


「ものの例えで、今回の件は私に決定権はないよ。それは君がペクーニア子爵に頭を下げて、伺いを立てるべき事だろう?」


 胡散臭い笑みを向けられたプロディージは、その言葉にグッと胸を詰まらせる。


 そして目を閉じて深呼吸をし、目を開けた彼は、見た事がないくらい、真剣な表情をしていた。盗み見ていたメルローゼが、思わずドキリと胸が高鳴らせてしまうくらいに。


 プロディージはそのまま父と身体ごと向かい合うと、深々と頭を下げていた。


「ペクーニア子爵。今まで散々、あなた方の大切なメルローゼ嬢を泣かせ、私の都合のいいように利用してきた事を謝罪します。誠に申し訳ございませんでした」


「ん〜、そうだねぇ。ロディくんはメルと同じくらい、ソフィちゃんも大事だったみたいだからねぇ……」


 父は何を考えているのか読みにくい笑みを浮かべ、自身のたぷたぷした二重顎をさする。

 父もそれは気付いていたのかと、正直驚いた。


「あの、ペクーニア子爵。その、ぼ……私も、もっと強く、ロディを叱るべきでした。こんなのだけど、ロディの父親なのだから、もっと強く出なければならなかったのに……。私からも、謝罪しますっ。申し訳、ございませんでした!」


「元はといえばわたくしが自分の事ばかりで、せっかく生まれてきてくれたロディを、ちゃんと構ってあげなかったせいですわ。ロディから母親失格と思われてしまっていても、母親なのだから、向き合わないといけなかったのにね。そのせいでメルちゃんに、辛い思いをさせてしまいました。……申し訳ございません」


「クーもね、お兄しゃまにメル義姉たまにもっともっとやさしくしてねって言ったのよ? お兄しゃま、イチャイチャはするけど、お口がダメダメだったの。クーももっと、お兄しゃまをめ!しなきゃだったのね。メル義姉たま、ごめんなさい……」


「ピー……」


「ピヨー……」


 まさか一家総出で謝られるとは思わず、目を丸くする。自分の所業で家族に頭を下げさせたプロディージは後悔しているような悲痛な表情をしており、歯を食いしばり、より深く頭を下げていった。


「家族は悪くありません。己の立場も弁えず、周りの忠言にも耳を貸さずにメルローゼ嬢に辛く当たり、恩を仇で返す判断を下したのは私自身です。重ね重ね、申し訳ございませんでした」


 そう言って頭を下げ続けるセイド一家をどうするのかと隣を――両親を伺えば、父は相変わらずの笑みを浮かべ、母は扇を開き、父と同じような表情でプロディージを見ていた。


 見ていられなくて(いさ)めようと口を開こうとしたが――


「ねえ、ロディくん。メルの性格を知っていて?」


 母が唐突にそう言うものだから、驚いて皆、顔を上げる。


「……はい。根っからの商人であり、商魂たくましく、またその為なら努力を惜しまな――」


「ああ、綺麗な言葉は結構よ。……これはわたくし達が甘やかしたせいなのだけど、メルは高飛車なくせに思い通りにならないとすぐに泣く子で、癇癪(かんしゃく)持ちでしょう?」


 なんて、いきなりメルローゼの欠点をあげつらい始めたから、当然ムッとしてしまう。


「ちょっと、お母様!」


「ほら、ご覧なさい。本当の事を言っただけで、すぐ怒るんだから」


「急に悪口を言うお母様が悪いのよっ!」


「だからね、メルには一度手酷い失恋でもさせて、少し痛い目を見せないとって思ったの」


 しれっと言い放ったその言葉に、カチリと表情を強張らせ、思いっきり目を見開く。ずっと心強い味方でいてくれたと思っていた母の思わぬ言葉に、足元がガラガラと崩れるような錯覚を覚えた。


「……お母様?」


「好きな人と婚約して、態度を改めるなら良し。それでも変わらないままなら、いずれ見限られるだけよ。わたくし達は、そのどちらでも良かったのよ」


「そうやって利用するのに、セイドはちょうど良かったんだ。知名度がなく、家格も下で、なにより支援を必要としていたからね。メルの欠点が浮き彫りにされやすく、何かあってもお金で解決出来る」


「誤算だったのは、ロディくんも困った子で、メルよりも悪者になってしまった事かしら?」


「それと、セイドが可能性の宝庫だった事だね。こちらが手放すのが惜しいと思うような掘り出し物になるとは思わなかったよ」


 なんて事ないように両親からさらさらと口に出てくる言葉に、わなわなと震えがはしる。


 この婚約はメルローゼの恋心を汲んだが(ゆえ)に結ばれたのではなく、メルローゼの成長の為に利用しただけだった。

 その事実が、こんなにも悲しい。


「お父様、お母様、それはっ」


「ありがとうございます、子爵、夫人。ですが、私達の為に、慈悲などおかげにならないでください。そこまでされてしまえば、セイドはペクーニアに対して、あまりにも不誠実です」


 メルローゼの言葉を遮るように、プロディージが言葉を紡ぐ。その意味がわからなくてプロディージに視線を向けたが、プロディージはまっすぐ、両親だけを見つめていた。


 その視線を追うように両親を見れば、両親は、困ったように微笑んでいた。


「……やっぱりロディくんに嘘は通じないね?」


「嘘なんて、最初から必要ありませんよ。私がペクーニアへの恩義を忘れ、メルローゼに対して、あまりにも甘えが過ぎていた。その事実だけで充分です」


「でもね、メルにも悪い所はあったのは本当よ? ロディくんが誠実な人だったら、きっとメルこそが悪者になって、嫌われていたでしょうね。だからわたくし、代わりに悪者になってくれたロディくんを、嫌いになれないの」


「それにね、恩義を忘れたなんて思う必要はないよ。セイドのおかげで、かなり儲けさせてもらった。王鳥様に認められて、これからの伸び代だって天井知らずなんだから、むしろこちらが感謝しなければいけないくらいさ」


 その言葉をぐるぐる考えて、どうやら両親はプロディージの――全員で頭を下げたセイド一家の事を想って、ペクーニア側もセイドを利用した悪だったという喧嘩両成敗に落ち着けようとしたのかと、ようやく察した。この婚約はやはり、利害の一致で結ばれた打算的なものではなく、メルローゼの為でいいのだろう。


 それに、両親の言った事だって本当の事だ。


 商売が絡まなければ短慮で癇癪持ち、婚約によってセイドを助けてやってるという思いも少なからず持っていたので、プロディージがこういう人でなければ、きっと高飛車な態度をとって嫌われていただろう。むしろ今もプロディージに好かれている事だって、奇跡だ。


 それに、セイドを立て直す過程で、ペクーニアが儲かったのも事実だ。これからのペクーニア商会の発展も、約束されたようなものである。


 思わず浮かんだ笑みのまま、再度プロディージを見れば、心なしか目に涙の幕が張られていて、手を強く握り締めていた。責めて、罵られて、手が出ても仕方がなかったのに、両親はそうしなかった。それどころか、双方悪い所があったからと、水に流してくれた。

 その優しさが嬉しくて――責められなくて、余計に苦しい。多分、そう感じているのだろう。


 でも、もういいだろう。許しは得たのだから、これから挽回出来るはずだ。プロディージと、メルローゼの二人で。


「……ディー? 今日は謝罪をしに来たの?」


 優しくそう問うと、プロディージは気持ちを切り替えるように、一度目を瞑る。

 そして瞼を上げると、今度は謝罪ではなく懇願の意を込めて、深々と頭を下げた。


「ペクーニア子爵、夫人。私は今までの行いを反省し、これからはメルローゼ嬢に対して誠実な態度を示し、誰よりも幸せになっていただけるよう、全力で愛を捧げます。そしてセイドとペクーニアをより発展させ、充実した生活の保証をお約束いたしましょう。ですのでメルローゼ嬢を、ローゼを、私にください」


 その誓いの言葉が誰よりも嬉しかったのは、メルローゼ自身だ。胸が苦しくて、思わず胸元を強く握り締めていた。


「ふふ、もう結婚したいのね?」


「正式に結婚をするのは、予定通り、学園を卒業してからになりますが。これからの事を考えて、私の誕生日と同時に、籍だけは入れておきたいと考えました」


「そうだねぇ。また圧力が掛けられたら大変だし、その方が安全かもしれないね。……いいよ、じゃあ、とりあえず籍だけね」


「結婚式を終えるまで、手は出しちゃダメよ?」


 妙にいたずらな目をした両親にそう言われ、プロディージは珍しく、少し頰を赤くしていた。


「当然です。……ありがとうございます、誓いは必ず守ります」


 そう言ってまた頭を下げていたから、実は婚約を結んだ日と、大屋敷では激しく手を出された後だなんて、言いそびれてしまった。


 ――意味をよく理解していなかったと知ったのは、結婚を直前に控えるくらい、あとの話だった。


「話はまとまったかい? 私は君達の新たな縁談の用意だってあったんだけどね?」


「必要ありませんわ! 私は絶対ぜ〜ったい! ディーのお嫁さんになるんですからっ!」


 だからいらないという気持ちを込めて、牽制するように強く睨みつける。もう王族から婚約にケチをつけられるのは懲り懲りだ。

 まあそんな牽制すら、さらっと流されてしまったが。本当に、いけ好かない王太子殿下である。


「わかったよ。では私とラスが立会人を引き受けるから、婚姻届に署名したまえ。プロディージの誕生日がきたら、正式に受理しよう」


「ありがとうございます。心強い限りです」


 プロディージが笑みを浮かべ、署名していく。メルローゼと、当主である両家の父も署名し、最後はフィーギス殿下の確認を受けて、この婚姻は成立したも同然だろう。

 書類上だが、これでプロディージと結婚したんだと思うと、じーんと胸が熱くなった。


 プロディージを見れば、パチリと目が合う。同じ想いだったのか、自然と微笑みあっていた。


「ピーたん、ヨーたん、お兄しゃまとメル義姉たまが、イチャイチャしているわ。クー達もしょうらいはトー様とあんなふうに、イチャイチャしようね〜」


「ピ〜」


「ピヨ〜」


 三人はキラキラした笑顔でヒソヒソと内緒話をしているが、残念ながら部屋は無音なので、丸聞こえである。思わず赤くなってしまったので、視線を逸らし、パタパタと手で顔を仰いだ。


 愛称はそれでいいのかとか、幼いクラーラと大鳥の双子の三人とイチャイチャするのかとか、色々な思いでラトゥスを覗き見たら、遠い目をしていた。

 よくわからないが、大変だなと心の中で合掌する。


「では、婚姻の話はこれで決着がついたという事で。次は――」


「フィー、時間だ」


 まだ何かあるのかと構えたが、その時間はないらしい。王太子殿下のスケジュールは分刻みだと噂で聞いたが、本当なんだなとぼんやり思った。そのわりに、今日は突然来たが。


 フィーギス殿下は不服そうにラトゥスをジトリとした目で睨みつけていたが、どうにもならないようで、ラトゥスは首を横に振る。


「……ああ、そうかい。なら、そろそろお暇するよ。急に来てすまなかったね、子爵」


「とんでもございません。我が家に王太子殿下が足を運んでくださった事は、この上なく栄誉な事です」


「そう言ってもらえて助かるよ。……これで少しでも、周りへの牽制になればいいけどね」


 どうやらフィーギス殿下がここに来た理由は、立会人と婚姻届を預かるという他に、ペクーニアは王鳥だけではなく、フィーギス殿下も目を掛けていると知らしめる為でもあったらしい。たしかにこの訪問の噂は、瞬く間に広がるだろう。


 サラサラと小さな紙に何かを書き、その紙を父の前に置くと、立ち上がる。

 覗き見た紙には声に出さないようにという注意書きと、ソフィアリア達の結婚式前後にお忍びで、先生達に会いにくるという事が書かれていた。


 ソフィアリアは結局話したんだなと苦笑する。この様子だと、先生達の代わりにフィーギス殿下の保護者を気取ろうとしていたという話も、してしまったのかもしれない。見た事もない第一王子殿下を長年そうやって子を心配する母の(ごと)く想っていたのを、メルローゼは知っていた。


 プロディージもそれを察したのか、複雑な表情をしている。


 父は笑みを浮かべながら(うなず)き、同じように立ち上がったので、メルローゼ達も続いた。


「お見送りいたします」


「ああ」


 外に出ていく後ろ姿を追おうとすると――


「僕達も帰るよ。誕生日に、ペクーニアにもう一度挨拶に行くから」


 プロディージがそっと、そんな事を言う。たしかに今日中に発つのなら、そろそろ行った方がいいだろう。


 だかと、首を横に振る。


「ディーのお誕生日なんだもん。私達が行くわ」


「でも今はうち、改装中でうるさいよ?」


「だからよ。私のお屋敷にもなるんだから、変えられそうな所は、今のうちに変えてもらおうと思って」


 そう言うと予想外だったのか、キョトンとしている。その顔が少し馬鹿っぽくて、意外と可愛い。


「……ローゼの理想通りにしてって言ったのに?」


「それはそうだけど、私、普通の令嬢じゃないもの。私は必要でも他の人にはいらないわよねって色々諦めたんだから。ていうか、次の婚約者と住む新居を元婚約者に考えさせるのは、今考えても酷いと思うわ!」


「でもこれを考えている間は、恨みつらみだとしても、僕の事を考えてたでしょ?」


「まさかそれ狙ったのっ⁉︎」


「そうだけど?」


 なんて奴だとぐぬぬと睨む。プロディージはニッといたずらが成功した子供のように笑って、ドンマイと言わんばかりにポンポンと頭を撫でられた。


 でも、恨みつらみではなかったが、間取り図を考えながら、ずっとプロディージの事を考えていたのは事実だ。

 まさかそう仕向けられたとは思わなかったが、おかげで気持ちを整理出来たのだから、いい時間ではあった。


 それに、間取り図を考えるのは純粋に楽しくて、いい気分転換にはなっていたのだ。


 やった事は酷いが、酷いだけではなかった。だから結局許せてしまう。まるで、プロディージ本人みたいに。


 そう思うメルローゼは、どうしようもなく、プロディージが好きなのだろう。他の人には共感してもらえなくても、それがメルローゼの本心だ。




夜会ではもう復縁を望んでいる風だったメルローゼ両親の胸の内。

もしくはプロディージ謝罪回、本編で回収しきれなかった事を添えて。


父はメルローゼの気持ちを汲んだのと、彼はあくまでも商人なので、セイドを手放したくない気持ちが強いんじゃないかなと。当然、金を生み出すのが上手なプロディージもわりとお気に入り。

暴言については、まあメルローゼもだしなって感じで、そういう年頃だよねと微笑ましく見守っていました。


母はこのままだとメルローゼが人を傷付けるのを危惧していたけど、逆に傷付けられて、これで少しは自分を鑑みてくれないかなと期待していた感じです。

反省する前にプロディージが悪いという雰囲気が出来上がってしまったので、ちょっと2人に任せすぎたなと反省。それでもメルローゼはプロディージが好きみたいだし、プロディージもメルローゼが好きだと気付いていたので、上手く復縁してくれないかと見守っていました。


プロディージが酷い人だとプロディージが悪で、酷くない人だとメルローゼが悪になっていた。

プロディージが酷いまま、でも酷いだけじゃないから、上手く結婚まで出来た、そんな2人の恋物語は、多分、これでおしまいです。

本編番外編で語り尽くしたので、今後は脇役カップルに戻ります……多分。


余談ですが、メルローゼ兄は今後本編で登場予定です。まだ殴ってないからね。いや殴るんかいて話ですが。

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