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おてんばお嬢様のお世話係 後編

2話連続投稿しております。お読みの際はご注意ください。

本編の裏側。ベーネ視点。



「うん、よろしく。あっ、僕はクルス」


「あー、そうそう。そんな名前だったわね。クルスの相方は男爵位のティメオ様だっけ? 初めて契約成立の瞬間を見たから、なんとなく覚えてたわ」


「ベーネさんもあの時、見ててくれたのか」


 途端、嬉しそうに目を輝かせる。それが年齢より幼く見えて、思わず笑ってしまった。彼にとっても、いい思い出らしい。


 最近では頻繁に見られるようになったが、初めてソフィアリアが大鳥と人間を繋いだ瞬間だったから覚えていた。一羽の大鳥がクルスをずっと見てると話しかけて、二人で大鳥に近付いていた場面を、後ろから見守っていたのだ。


 本当に鳥騎族(とりきぞく)を誕生させてしまうのだから、うちの王鳥妃様(ソフィアリア)はすごいと誇らしい気持ちになったし、目の前で契約したクルスとティメオの事も印象に残っていた。

 だから鳥騎族(とりきぞく)秋波(しゅうは)を送る気がないベーネでも、この男の事は覚えていたのだ。……まさかこんな感じで役立つ事になるとは思わなかったけれど。

 

「まーね。てか、ベーネでいいよ。十九歳のあたしより、多分年上でしょ?」


「だったら同じ歳だよっ⁉︎ ……えっ、僕、老けてる?」


「二十代前半くらいだと思ってたから、別にそうでもないかな。まあ呼び捨てでいいけど、あたしの方が勤務年数は長いから、ちょっとは敬ってね。て事ではい、さっさと抱えてダッシュ! 広場のどっかの木ね」


「はいはい」


 手を広げて催促すると、ヒョイっとお姫様抱っこをされる。代行人の身体を乗っ取った王鳥がよくソフィアリアを抱えているが、あっちは子供抱っこだったのに、クルスはこっちなのか。


 躊躇(ためら)いもなく首に腕を回すと赤くなったから、本当に女慣れしてないようだ。


 だからつい、ぷっと吹き出してしまった。


「そんな真っ赤になっちゃって、ちゃんとこの任務をまっとう出来んの?」


「悪かったね、こんなんで。まあ、やれるよ。絶対落とさないけど、念の為しっかり捕まってて」


「よろ〜」


 そう言ったの合図に、クルスは走り出す。クラーラはおろか馬並みに速くて、思わず「お〜」とケラケラ笑ってしまった。


「何このスピード。やば」


「怖いかい?」


「大丈夫っぽい。あっ、みっけた」


 あっという間についた広場を見渡すと、大鳥が一本の木に集まっているので、すぐにわかった。きっとクラーラと子供達は、あの木の上にいるのだろう。


 侍女を抱えて全力疾走してるというこちらも、鳥騎族(とりきぞく)希望者を中心にギョッとされたが、まあ気にしない。たしかに妙な事をしている自覚はあるので、当たり前の反応だ。


 下ろしてもらうと、大鳥をかき分けながら木に近付く。後ろをついてきてくれるクルスに度胸あるなと苦笑されても、お仕事が優先だ。


「お嬢様ー、いますー?」


 すぐに見つからなかったので思い切って呼んでみると、ひょこんと三人は姿を現した。もうだいぶ上だ。


「ベーネお姉しゃん! こっちこっち、はやくー!」


「ピー!」


「ピヨー!」


 そう言って笑顔でぶんぶんと手を振る三人は、ベーネにも登ってくる事をお望みらしい。一緒に遊ぶと言っていたが、やっぱりかーと遠い目をした。協力を要請して大正解である。


「だって。クルス、頼める?」


「えー……本当にこの木に登るの? 大鳥様の植えた木だから、触れるのも御法度なんだけど……」


勿論(もちろん)。お嬢様の望みだからね。ほら、早く」


 ぐずぐず言っているクルスの首に手を伸ばそうとすると、慌てて抱え上げてくれた。が……


「ちょっと。お姫様抱っこで木のぼりは無理じゃない?」


「あっ、そっか。ごめん」


 ジトリと睨んでそう言えば、目を丸くして、慌てていた。顔も赤いし、動揺し過ぎだなと溜息が漏れるばかりだ。


「ピ!」


 慌てて下ろそうとする前に、一羽の大鳥がこちらにやってくる。

 ベーネはソフィアリアみたいに大鳥の見分けはつかないが、この大鳥には見覚えがあった。


「あっ、えっと、あなたがティメオ様ですっけ?」


「ピ!」


「うん、正解。乗せてくれるのかい? ティメオ」


「ピー!」


 なんとなくご機嫌な様子なティメオは嬉しそうに鳴くと、ふわりと視界が浮上してギョッとする。「うへぃ⁉︎」なんて可愛げのない声を漏らしながら、思わずクルスにしがみついてしまった。

 ティメオの首の後ろに座るクルスの前に、横乗りの形で抱えられ、ようやくほっと落ち着ける。


 動揺してしまったからか、クルスにくつくつと笑われてしまったではないか。大変屈辱である。


「何? 今の声」


「うっさいわねー、さっさと登る!」


「はいはい」


「ピーピー」


 半笑いのままの返答に、はたっと今更我に返る。今のベーネとクルスはティメオの上だ。当然、この姿勢で上に登ると言う事は――……


「ぎゃあああああっ⁉︎」


 独特の浮遊感がして、思わず叫んでしまった。実に可愛くない声だが、そんな事言っていられない。まあベーネは常時、叫んだらこんな声なのだけれど。


 ベーネは大鳥に乗り、空を飛んでいた。ソフィアリアは楽しいと言い、アミーは怖くて気を飛ばすと言っていたが、ベーネは気を失うほどではないが、アミー寄りらしい。まさかそんな事を知る日が来るとは思わなかったが。


「怖い?」


「怖いわよ!」


「僕も最初は腰が抜けたよ。何回か飛んでるうちに慣れてくるから、頑張って」


 知っている。ベーネは二人の契約の瞬間に、立ち会っていたのだから。それに、何回も飛ぶ予定はないと言おうと思ったが、恐怖心を抑えるのに必死で、言うのを忘れていた。


 やがてクラーラ達のいる近くの枝にとまり、魔法で太い木の枝に下ろされると、クラーラはパッと笑いかけてくれた。


「ベーネお姉しゃん、やっときたー! お兄しゃんは、お姉しゃんのだんなしゃま?」


「ピ?」


「ピヨ?」


「いや、違いますよっ⁉︎ はじめまして、クラーラお嬢様。僕はクルスで、あの子はティメオと申します。ベーネのお手伝いをさせていただいております」


 なんだか妙な勘違いをされてしまった。必死に否定されて思わずイラッとしたが、まあいい。


「そっか〜。はじめまして! クーはクラーラ! こっちがピーたんで、こっちはヨーたんだよー」


「ピー」


「ピヨー」


 あちらが自己紹介をしている間に何度か深呼吸してようやく気分が落ち着いた頃、ベーネはクラーラに問いかけた。


「よくここまで登ってこれましたね?」


 下を見ると心臓がヒュンッと縮むのであまり見ないようにしているが、この場所は大屋敷の屋根が見えるくらい高い。建物だと五階相当だろうか。


 クラーラは子供達を抱えながら、ニコニコ笑っていた。


「うん! さいしょはピーたんとヨーたんとパタパタのぼってきて、とちゅうからはピョンピョンしてきたの! すごい?」


「いや、めっちゃすごいですけど! あまり危ない事はしないでくださいよ? 怪我なんてしたら、大変なんですからね!」


 こんな元気な子だが、貴族のお嬢様だ。もう婚約したらしいし、そんな子に怪我なんてさせたら、ベーネは物理的に首が飛んでも文句は言えない。まあ、ソフィアリアなら許してくれると思うが。

 それもあるが、何よりクラーラが怪我なんかして痛い思いをするのが、一番嫌だった。だから、心配なのだ。鳥騎族(とりきぞく)は頑丈らしいが、痛くならない訳ではないだろう。


 わかっているのかいないのか、クラーラはにっこり笑ったまま、大きく(うなず)いた。


「うん、きをつける! それよりベーネお姉しゃん、みて! きれいなまちが、とってもよくみえるの!」


 そう言って指を指した方向に視線を向けると、思わず息をのんだ。


 小高い丘の上にある、更に高い木の上からは、聖都も島都もよく見えた。大屋敷に上がってくる馬車の中からも景色はよく見えるが、動きで視界がブレず、更に高い所から眺める景色が、こんなにも綺麗だとは。


「うわあ〜、ヤバい、超綺麗!」


「うん! やばくて、ちょーきれーなの!」


「お嬢様、二度とそんな言葉を使わないでくださいね。ほんとマジ、私が怒られますから」


「あい……」


 ショボンとさせてしまったが、仕方ない。ベーネの言葉遣いが荒いのが一番悪いのだが、クラーラに真似されたら、さすがにソフィアリアにも怒られるだろう。こんな楽しく好条件な仕事を失う訳にはいかないのだ。


「お嬢様相手に厳しすぎじゃない?」


(しつけ)の必要さに、平民貴族関係ないでしょ。……お嬢様、一番悪いのは、いけない言葉を使ったこのベーネなんです。だから、私の真似なんてしちゃダメですよ?」


「ベーネお姉しゃんは、とってもやさしいもん! でも、めっ!ってされたから、クー、もういわないよ?」


「ピ」


「ピヨ」


「ふふ、お嬢様は、本当にいい子ですね。……綺麗な景色ですね、お嬢様」


 そう言って視線を、街に戻す。ベーネな景色を眺めて楽しむような柄ではないが、今日は素直にそう思えた。この景色はクラーラの思いつきと、クルスの助けがなければ、一生見る事が出来なかったからだろうか?


「うん! きれいなけしきを見たみんな、もっとなかよしさん! お兄しゃんと、ティメオしゃまもよ?」


「僕達もですか? ありがとうございます、お嬢様」


「ピ!」


 どうやら足に使った彼等の事も、クラーラの中ではお友達扱いらしい。こうやって人の懐に飛び込むのが上手いところは、さすがソフィアリアの妹だなと感じさせた。


 この日は飽きるまで、この木の上から景色を楽しみつつ、ずっとおしゃべりをしていた。なんだか本当に仲良くなれた気がするから、クラーラの言う通りだ。

 ベーネが初めて筆頭として仕えたお嬢様がこの子なのは、とても幸運な事だと、そんな風に思っていた。





 クラーラが帰るその日まで、ベーネはクルスとティメオに助けられながら、楽しくお仕えした。


 なお、この縁がきっかけで、クルスとはよく会うようになる。まさか、意味深に近くでウロウロしているなんて事はないだろうが……まあ、悪い気はしない。


 あと、ティメオまでよく近付いてくるようになった。


 ――大鳥の背中に乗る事を許されるのは、契約した鳥騎族(とりきぞく)とその伴侶だけとベーネとクルスが知ったのは、だいぶ後。

 初めてベーネが空を飛んだあの日にはもう、ティメオはベーネをクルスの伴侶と定めたのだと知ったのは、もっと後の事だった。



本日は投稿予定時刻からずれてしまい、申し訳ございませんでしたm(_ _)m


クリスマス特別編を書いている時、そういえばクラーラは身体能力が上がっていたなと思い出し(本編では触れなかったので)、ベーネはお世話出来たんだろうか?と軽い気持ちで書いたのですが、思いの外筆が乗り、なんか勝手にラブコメがはじまりました。


ベーネは明るくさっぱりしている反面、ちょっとノンデリ気味で口が悪く、気が強いです。

登城を許されているのでもっとキチッと出来ますが、クラーラに簡単にと乞われたので、半仕事半プライベート仕様でした。クルスには完全にプライベートですね。職場違いですが、ベーネの方が先輩なので、敬語なしでした。


クルスとティメオは、第一部番外編「大鳥との交流と鳥騎族誕生」に出てきた二人です。まさか君達が再登場するとは……。

ベーネもちょっと肝っ玉母ちゃん気味ですが、まあまあ可愛いので、うっかりミスでも付き合えと言われ、抱えて走りながら一緒に過ごし、その気になったのかもしれません。

それを先回りしたティメオは、ベーネを伴侶扱いし始めましたとさ。


この二人のラブコメというか再登場は未定ですが、まあ将来的にいい感じになるのではないでしょうか(*´-`)

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