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三人一緒にどこまでも

「セイドの双生4」のお食事会と執務室での口喧嘩の間。ソフィアリア視点。



「ごめんなさいね、王様、ラズくん。忙しい冬に、わたくしの家族を招く事になってしまって」


 セイド一家とのお食事会を終えた執務室。フィーギス殿下が来る時間までまだ余裕があるので、この部屋にはソフィアリアと王鳥、オーリムの三人しか居なかった。プロディージは書庫で、アミーとプロムスは出迎えの準備だ。


 誰か来るまで身を寄せ合いたい王鳥の計らいで、夜デートの時のようにぴったりくっ付いて座りながら話している最中に、今更申し訳なく思っててしょんぼりすれば、謝罪が口から溢れ出てしまう。


 突然謝罪を受けたオーリムは不思議そうに目を瞬かせ、首を横に振った。


「フィアのせいではないだろ? フィーが勝手に呼んで、準備に大変な思いをしたのはフィアだ。俺も王も何もしていない」


「でも冬だから、お仕事が忙しかったのでしょう? さっきだって一緒にお昼を摂る為に、朝早くから起きて、お仕事をしていたみたいだし、無理をしていない?」


 覗き見たオーリムの顔色はいつも通りだが、ソフィアリアは心配していた。


 ここにも当てはまるのかは不明だが、冬の季節は領地を任されている貴族も、商会を経営する商人も、街にある商店や工房だって、年末の総決算や最後の売り込みなどで、どこも大忙しなのだ。


 本当ならば、セイドを任されているプロディージも、ここに来る余裕なんてない。島都に入学試験に来る事すら、頭を悩ませていたくらいだったのに。

 セイドの方はフィーギス殿下が臨時の代官を派遣してくれたらしいが――それを理由に探りを入れている事はわかっているが――、大屋敷ではそうはいかない。

 代行人の仕事は代行人であるオーリムにしか出来ないので、代われる人がいないのだ。だから時間を作ろうと思えば、睡眠時間を削って通常業務を早めに終わらせ、時間を捻出するしかなくなる。


 オーリムは察していないが、それもこれもソフィアリアが怪しい言動で、フィーギス殿下の気を引いていたせいなのだ。先生の頼みとはいえ、まさかこの多忙な時期に動き出すとは思わず、各方面に申し訳なさが募っていた。謝っても、もうどうする事も出来ないが。


 ソフィアリアの気落ちした顔を見て、オーリムは腕を組み、少し考える。


「俺は別に、冬が特別忙しいなんて事はない。確かに大屋敷や検問所の総決算はあるが、まとめられた資料を、王と一緒に目を通すくらいだ。大鳥絡みの事件があった後の方が、よほど多忙になる」


「……本当に?」


「嘘をつく理由はないだろ。とにかく、最近は事件もないし、むしろ退屈なくらいだったから、今で良かった。だから無駄に気に病むな」


「ピ」


 そう言って珍しく頭をポンポンされて、表情が緩んだ。王鳥にも頬擦りされて、二人から慰めてもらえたソフィアリアは、幸せいっぱいだ。

 そんな優しさを向けられるから、ソフィアリアこそ全てを話せない事情がある事に、胸が苦しくなってしまう。神様である王鳥は知っているかもしれないが、フィーギス殿下の思惑にすら気付いていないくらいまっすぐ素直なオーリムには、まだ隠し事だらけだ。

 本当にソフィアリアは、優しい英雄様を(だま)す、卑怯(ひきょう)な悪人にしかなれない。


 卑屈になり始めた気持ちに(ふた)をするように首を横に振って、ふわりと微笑んだ。慰めてもらえて気持ちが楽になった、そう受け取ってもらえたらいい。


「なら、いいのだけれど」


「ピピー」


「――――ああ、そうか。どうせ平和な毎日にただ浸っているくらいなら、もっと出掛ければよかったのか」


 気が利かなかったと苦笑するオーリムに、ソフィアリアはパチパチと目を瞬かせる。王鳥に何か言われたらしいが、なんとなくソフィアリアにとって、都合のいい事を言われたような……?


「……ラズくん?」


「いや、王に言われて、フィアをずっと大屋敷に閉じ込めていたのが悪かったなって反省した。この前のデートの時みたいにもっと出掛けていれば、時間は作ろうと思えば作れるって、わかってもらえたのになって」


「お出掛けは嬉しいけれど、いいの?」


「長期でなければどうにでもなる。王に乗っていくから日帰りでも、宿泊込みでも。いっそ国外に飛び出してみるのもいいな。何かあってもすぐ帰れるんだから、大屋敷にずっと居る必要もないだろ」


 優しい顔をしながら語ってくれた夢のような話に、先程の罪悪感が消えて、多幸感だけで心が満たされるのだから、ソフィアリアも困ったものだ。どうしようもなく幸せで、目までじーんと熱をもつ。


 泣きそうなソフィアリアに気が付いたのか、オーリムは困ったように笑いながら髪を()き、王鳥もその反対側で、同じように(くちばし)で器用に髪を()いてくれた。


 悪人であるソフィアリアには、もったいないくらい優しい旦那様達だ。もったいなくても手放す気なんか、これっぽっちもないけれど。


「わたくしね、セイド以外は近隣領地とこの前のデートしか、出歩いた事がないの。旅行なんて初めてだわ」


 笑みを返しながら、空いているオーリムの手を取って、ギュッと握り締める。行ってみたい、そんなおねだりをするかのように。


 オーリムも目を柔らかく細めて、ギュッと握り返してくれた。王鳥は髪を()くのをやめて、額を肩口に埋めてぐりぐりと甘えてきてくれる。


「俺も、仕事でいろんな場所に行くが、観光も旅行もした事がない。子供の頃はフィー達と聖都に降りたりもしたが、最近は全然だ」


「まあ! もったいない」


「興味がなかったからな。でも、フィアと王と一緒なら、きっと楽しい。な?」


「ピ!」


 そう言って三人で、穏やかにくすくすと笑い合う。そんな未来が、とても楽しみだった。


「……わたくしは、コンバラリヤ大国にある、温泉療養地に行ってみたいわ。今は冬だし、温泉がとても気持ちよさそう。あっ! 三人で一緒に――」


「入らないからなっ⁉︎」


 真っ赤になって、断固拒否されてしまった。だろうなと思ったが、とても残念である。王鳥と二人で、しょんぼりと肩を落とした。


 隣国のコンバラリヤ大国にある火山の側には、湯治で有名な温泉療養地がある。もとは独立国家だったが、コンバラリヤ大国に侵略されて統合された後、自治区として独立した場所だ。

 温泉もだが、かなり独特な文化を築いており、いつか行ってみたいと思っていた。会えるかわからないが、今はそこにソフィアリア達に教育を施してくれた先生達も居る。ソフィアリアの行きたい場所第一位だ。


「……一緒に風呂は無理だが、あそこは独特だから、いつか観光に行こう。それで許してほしい」


「ふふ、ええ。楽しみねぇ」


「ピィ〜」


 しばらくそうやって話しながら和やかな時間を楽しんでいた頃、突然オーリムにぐいっと強く手を引かれる。

 成長途中でも硬さを感じる男らしい胸に引き込まれたのを目を丸くして見上げると、ニッと勝ち気な笑みが見えた。


 少し頬を赤くしながら、ふわりと微笑み返す。


「王様は、どこか行きたい場所はございますか?」


「そうだなぁ、寒空に浮かぶ虹色の極光に、一面宝石かと見紛う神秘的な洞窟、天と地が鏡張りになる湖面……美しい景色が見られる場所は、知識としては知っておるよ。絶景を眺めて絆を深めるのもよかろう」


「そうですね。三人で見ると、より一層美しく感じるはずですもの。素敵な思い出が出来そうですわ」


 想いを馳せてふふふと微笑めば、コツリと額同士が合わさる。間近で見た瞳の奥に違和感を感じたのは一瞬で、甘い表情に、胸が高鳴るのは当然の事だった。


「……王様?」


 せめて違和感を問うておこうと口を開いたが、ガチャリと、ノックもなしに扉が開いたから、そちらに注意が向いた。


「はぁ〜、ほんっとに信じらんない。あんな有益な資料をここにしか置いてないって何? そんなんだから信仰心が――」


 ぶちぶち文句を言いながら入ってきたのは、プロディージだった。どうやら書庫がよほど楽しかったらしい。その気持ちは、ソフィアリアにもわかる。


 だが、ソファで額を合わせ合うくらい接近しているソフィアリアとオーリムを見て、ピシリと固まってしまっていた。


 そしてオーリムの額が、だんだんと熱くなる。どうやら王鳥はオーリムに身体を返したらしい。よりによって、このタイミングで。


「あら、おかえりなさい、ロディ。ふふっ、大鳥様の本は、有益だったかし――」


「何してんの?」


 少し誤魔化すようにいつも通り話しかければ、見たくなかったと言わんばかりに、すっと蔑んだ目を向けてきた。そこでようやく、ヨロヨロとオーリムが離れた。その顔色は、赤いやら青いやら……。


 



 そこからオーリムとプロディージは、激しい言い争いに発展していたが、プロディージも大目に見てくれてもいいのに。それこそ、メルローゼとは二人きりの室内で、もっと過激な触れ合いをしていたのだから。

 まあ、口にすまい。だって今のソフィアリアは、王鳥とオーリムと三人で行く旅行に、想いを馳せるのに、忙しいのだから。





 ソフィアリア達はこの日から超多忙になる事なんて、まだまだ知らない事だった。




本編でソフィアリアはこの事謝ってなかったような気がするな〜という事で、一応謝らせる……という口実で、第三部の伏線をばら撒きながら、イチャつかせておきました。


いかんせんオーリムは大屋敷に引きこもって暮らしていたので、時間を作って外にデートに行くという発想が全くありませんでした。島都デートはソフィアリアの誕生日だったし。大屋敷内で一緒に過ごせれば満足していました。

ソフィアリアはオーリムに代わりがいない事を理解しているので、外に出掛けたいとは言い辛い&長年節制生活を余儀なくされていたので、外に出掛けるという発想がそもそもないというダブルパンチです。

二人の意見が一致した結果、大屋敷での引きこもり生活に……。


本日は別の話を更新予定でしたが、年内最後の更新だったので、安定の三人のイチャイチャで〆ました。

今年は王代妃をありがとうございました!来年はさっそく1日に更新です。よろしくお願いいたします。

それでは、良いお年を!(*^^*)

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