サンクトゥス・デイズ 前編【クリスマス特別番外編】
メリークリスマース(*^^*)
更新日がたまたまクリスマスだったので、特別番外編をお届けします。
色々計算したのですが、どうしたって作中では不可な話だったので、完全パラレル時空です。キャラクターの関係性は、第二部終了後になります。
雪がハラハラと舞い落ちる、大屋敷中を真っ白に染めた冬の二十五日の夕方。ソフィアリアは玄関前の広場にこの日の為に用意された、賑やかに飾り付けられた木を眺めながら、本日の来客が来るのを待っていた。
冬の季節の三週間目の真ん中あたり――二十四日と二十五日は、このビドゥア聖島では『サンクトゥス・デイズ』と呼ばれる祝祭日なのだ。本日はその二日目である。
平民と貴族とでは若干意味合いが異なるが、教会の礼拝に参加し、一年の無事と国を護ってくださっている大鳥に、今年最後の感謝の祈りを捧げるというのが共通の認識だ。その為、この二日間は教会がとても賑わう。
その後は平民にとっては教会が出店しているバザーや、そのバザーにあやかって教会周辺では屋台が並ぶ『サンクトゥスマーケット』と呼ばれる、年内最後のお祭りを楽しむ日となる。
貴族もお祭りを楽しむ人も居るが、どちらかというと教会に今年最後の献金をする日という印象の方が強い。
貴族の当主は現金を、それに連なる貴族夫人や令嬢は直接献金先の教会に赴き、バザーで売ってもらう為の品物――主に着なくなったドレスを解いて作った刺繍入りの布製品など――を寄付し、売上に貢献する。全員ではないが、一緒にバザーの店先に出る人もいたりする。そういう社会貢献の日なのだ。
あとは飾りつけたモミの木『サンクトゥスツリー』と呼ばれる木を家に飾り、夜はサンクトゥス料理の定番であるローストされたお肉やグリューワイン、シュトーレンなどのご馳走様を囲み、家族団欒を楽しむ。十歳以下の子供は様々な名目のもと、家族からプレゼントを贈られたりもする。
サンクトゥス・デイズとは、そういう一年最後の特別な祝祭日なのである。
ぼんやりと今日という日を思い返していたら声を掛けられて、振り返る。その相手に、愛しさが多分に含まれた熱い眼差しで、ふわりと微笑んだ。
「お仕事お疲れ様でした、ラズくん。プロムスは?」
「先に温室に行って、料理を並べている。アミーと、ついでにキャルも一緒だ。……フィアのはどれだ?」
「一番上の、王様の作ったお星様に結んでいる夜空色のリボンよ。ラズくんのセイドベリー型のオーナメントも一緒に飾られているわね」
「ああ、本当だ……フィアのリボンは、刺繍入りなのか?」
「ふふ、そんな物欲しそうな目で見ないでくださいな。あれは今日、この日の為に用意したのだから、あげられないわ」
大きなサンクトゥスツリーの頂上、星とセイドベリーのオーナメントに結ばれたリボンをじっと見つめるオーリムに、くすくすと笑う。惜しんでくれる気持ちは嬉しいが、これは飾る為に用意をしたものだから、諦めてもらうしかない。
あらためて、大屋敷中のみんなでこの日の為に飾った、大きなサンクトゥスツリーを眺める。サンクトゥス・デイズの一環として、こういう風にモミの木を飾りつけて、サンクトゥスツリーを用意するというものがある。これは、飾り付けられたものも含めて、大鳥への捧げ物なのだ。
大屋敷でこんな風にサンクトゥスツリーを飾るのは初めてなのだそうだ。今までサンクトゥス・デイズを大屋敷で楽しむなんて事はしてこなかったらしく、大屋敷での生活を楽しんでもらいたいソフィアリアが、この二日間を大屋敷でも特別な日にしたくて、提案してみた。みんなノリノリで参加してくれたので、満足のいく結果になったと言えるだろう。
そしてソフィアリアも知識として知っていたが、地方によって、飾りつけるものが違うのだ。共通するものは、可燃性であるという事くらいである。
様々な場所から集った人達がこの大屋敷にはいるので、サンクトゥスツリーに何を飾るかで揉め、だったら各々好きなものを持ち寄って飾ろうという事になった。だからこのサンクトゥスツリーは、とても賑やかな感じに仕上がっている。
ソフィアリアのいたセイド周辺では男性は木彫りのオーナメント、女性は刺繍入りのリボンだった。どんなに小さく、簡単なものでもいいので大鳥への感謝を込めながら一人一つ手作りし、木に飾る。「うわ〜面倒くさいですね〜」とは、侍女のベーネ談だ。たしかに、聞いた中では、一番用意が大変かもしれない。
だからソフィアリアはいつも通り、刺繍入りのリボンを選んだ。王鳥とオーリムはサンクトゥスツリーの飾り付け自体初挑戦らしく、ソフィアリアのアドバイスをもとに、二人して木のオーナメントを手作りしていた。大変だったみたいだが、木彫りの楽しさに目覚めていたようなので、何よりである。
島都ではお花が一般的らしく、大屋敷には島都出身の人が一番多いので、色とりどりの花が飾られたサンクトゥスツリーは、とても華やかになっていた。他にはハンカチ、お菓子、綿や羽根飾りなど、雑多な感じがなかなか目に楽しい。
なお、これを準備していたところを大鳥達に興味津々で見られていたので説明すれば、大鳥達も真似をして、客室棟前の広場にモミの木を用意し、同じく好きなように飾り付けて遊んでいた。おかげであちらでは今、大小様々な大きさのツリーが点在していて、歩くだけで楽しい広場へと変貌している――大鳥への捧げ物を大鳥が用意しているという不思議な事になっているが、そもそも大鳥達はサンクトゥス・デイズの意味なんて知らず、人間が勝手にやっている事なので、楽しければそれでいいのだ。
ちなみにこのツリーは二十五日の夜に、聖火を灯すと称して、燃やしてしまう。だから可燃性の飾りなのである。そしてオーリムが物欲しそうな目で見ていたのも、ソフィアリアが刺した刺繍を最後は燃やしてしまうからだったという訳だ。
ツリーの用意の他にも、食堂ではサンクトゥス料理であるローストされたお肉とグリューワイン、シュトーレンを無料提供していた。ソフィアリアから日頃の感謝を込めて私財を投入したからか、甚く感謝された。喜んでもらえたのなら、ソフィアリアも幸せである。
そんな訳で、大屋敷では昨日から今日にかけて、サンクトゥス・デイズ一色なのだ。
「――――王が帰って来た」
オーリムのその言葉と共に、大きなバスケットを持った王鳥が姿を現した。バスケットを地面に置くと自身もストンと着地し、「ピ!」とご機嫌に鳴いて、いつものようにソフィアリアに頬擦りをしながらくっ付いてくる。
「おかえりなさいませ、王様。お迎えに行ってくださってありがとうございます」
「ピー」
労いを込めてスリスリと身体を撫でていたら、バスケットの中からピョコンと姿を現した人に、思わず目を丸くした。
「あー! お姉しゃまが、イチャイチャしているわ!」
「ピー!」
「ピヨー!」
そう言って軽々とバスケットから飛び降りて、華麗に着地の姿勢をしてみせた人は――三人は、妹であるクラーラと双子の大鳥、ピーとヨーだった。三人同じポーズなのがちょっと可愛い。
ではなく……
「あらあら、クーちゃんも来たの?」
「行くって聞かなかったからね。勝手に双子と飛んできそうだったから、仕方なく同行を許したって訳」
そう言ってクラーラが顔を覗かせたバスケットから新たに顔を出したのはプロディージと、その腕に抱えられたメルローゼだった。二人の訪問は予定通りだったので驚きはないが、大事そうにお姫様抱っこをしているプロディージにニッコリと笑ってしまう。メルローゼは今回も空への恐怖心が克服出来ず、眠らされて連れてこられたらしい。
「ふふ、今日はラス様もいらっしゃるから、ちょうどいいわ。メルの為にお部屋を用意しましょうか?」
「ピ」
「はっ! ……きゃあああっ⁉︎ ななっ、何してるのよ、馬鹿っ!」
気を失ったメルローゼの為にそう言ったが、いらない気遣いだったようだ。王鳥があらかじめ何かしていたのか、合図一つで目を覚ました。
「別に。空にいる間はずっと膝に抱えて、寝顔を見ていただけ――」
「ほんとに何してんのっ⁉︎」
「いてっ」
目を覚ました途端プロディージの腕の中にいたメルローゼはパニックになっているが、すっかり仲良しになっているようなのでニコニコが止まらない。そんなソフィアリアの様子に「フィア?」とジトリとオーリムに睨まれても、幸せな光景である事間違いなしなのだ。
「お目覚めかしら、メル? ようこそ大屋敷へ」
「あっ、お義姉様! ……ところで、何、このツリー?」
離したくなさそうなプロディージの腕からなんとか抜け出したメルローゼは、腕に抱えられている時にでもプロディージの顔と共に視界に入って気になったのか、賑やかなサンクトゥスツリーを呆れたように見上げる。
「ここには色々な所から来た人が集まるから、こうなったのよ。楽しいでしょう?」
「統一感なさ過ぎて、逆にありな気がしてきた。小さいサイズで一回売りに出してみる?」
「お菓子を飾りつける事を決めた人は馬鹿なの?」
なんとも自分の欲望に忠実な二人だ。これでも神様への捧げ物なのだから、欲を含んだ目で見るのは、どうかと思うが。
ちなみにクラーラは先程から双子と一緒にツリーを見上げて、周りをちょこまかと走り回りながら、キャッキャと楽しそうにはしゃいでいた。セイドとは違うツリーの飾り付けに、すっかり夢中らしい。
「クラーラ嬢、あっちの広場には、大鳥達が用意したサンクトゥスツリーがたくさん植えられている」
そんなクラーラを、オーリムはつい目で追ってしまっている。オーリムの言葉に、クラーラはより一層、目をキラキラと輝かせた。
「ほんとうっ⁉︎ みに行きたい、行こう、お姉しゃま!」
「ピピ」
「ピヨ」
「ダメよ、これからパーティで、皆様集まってくださるんだから。でも温室の窓から見えるから、そこからゆっくり見ようね」
「うん!」
そう、今夜はこの大屋敷の温室で、サンクトゥス・デイズに便乗したささやかなパーティをする事になっているのだ。
クリスマスという語源を考えるとファンタジー世界では使いづらいので、それを模した祝祭日にしました。日本ではなく海外式なのに、何故かどんと焼き要素が含まれています。
こういう架空の文化を考えるのは楽しいです。
文化の説明をしていたら思いの外長くなって、肝心のパーティが書けなくなったので、本日中に後半を投稿します。時間は未定です。申し訳ないm(_ _)m




