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楽しいお食事会 後編

「セイドの双生4」の冒頭。ソフィアリア視点。前回の続きです。



「ああ、そうでしたわ。代行人様は、ソフィのラズくんなんですわよね?」


 クラーラが服にこぼしてしまったクリームを拭き取りながら、マイペースな母が突然そんな事を言い出す。

 おそらく間に「お友達の」や「話にのぼっていた」などの単語が入ると思うのだが、うっかり言い忘れてしまったようだ。母はよくこういう間違いをしてしまう。


「あ、ああ……まあ、うん」


 そんな事知る(よし)もないオーリムはそのまま受け取ったようで、「ソフィのラズくん」という単語に赤くなり、動揺して目をキョロキョロさせた後、(うつむ)いてコクリと小さく首肯してくれた。


 それを見たソフィアリアも、表情をだらしなく緩ませてしまった。言い間違いではあったが、王鳥とオーリムはソフィアリアのもので、ソフィアリアは二人のものなのだから、何も間違いではないだろう。それを照れ屋なオーリムが肯定してくれた事が嬉しかったのだ。


「クーもラズくんを、しってるわ! お姉しゃまがおはなししてくれた、もう会えないくらいとおくに行ってしまった、はじめての人間のおともだちだったんでしゅって。こんなとおくに、おひっこししていたのね〜」


 片手を上げて無邪気にそう言うクラーラに困ったように笑いつつ、頭を撫でる。ここに引っ越しした訳ではなかったのだが、今はそれでいいだろう。


「そ、そうか。話していたのか……」


「聞くとソフィは酷くしょんぼりしてしまいましたから、少しだけですが。代行人様は、その時にソフィを好きになってくださったのですか?」


 あまりにもまっすぐ聞くから、オーリムは今度こそ耳まで真っ赤になってしまった。クラーラに「まっかっかだ〜」なんて笑われているが、それに反応する余裕はないらしい。


「ま、まあ、あの時はどちらかと言えば憧れというか、綺麗なお姫さまに一緒に暮らそうって言われて、浮かれてたというか……」


「姫じゃなくてただの頭のおかしい男爵令嬢なので、二度と姫なんて言わないでください。あと、うちに連れて来たら、僕が追い返していましたよ」


「うるさい。頭のおかしいなんて言うな。それに、許されなかったくらい、今はわかってる」


 オーリムとプロディージの間に、バチバチと激しく火花が散る。プロディージは昔のソフィアリアが今以上に嫌いだったから、昔からソフィアリアを唯一無二としていたオーリムとは、ここばかりは相容れないだろう。それは仕方ないと思う。


「ソフィも貴族令嬢ですので、いずれ政略結婚をしなければならないとは覚悟しておりましたが、まさか王鳥様と代行人様のもとへ嫁ぐ事になるとは思いませんでしたの。でも、昔から知っていた人に好きだと望まれて嫁げるのでしたら、幸せな事ですわね」


 そんな二人の険悪な雰囲気をものともせず、母はふわふわ笑いながらそう言った。


 結婚は王鳥の独断であり、最初は抵抗していた事を思い出したらしいオーリムは一瞬渋い顔を見せたが、幸せそうな笑みを浮かべて、もう一度大きく首肯した。


「ああ。俺も夢みたいだって、今でも思う」


「夢だったらよかったのに」


「いちいちうるさいな」


「ラブラブだ〜! だいこーにんしゃまも、お姉しゃまとここで、イチャイチャしてましゅの?」


 目をキラキラさせながら無邪気にそんな事を言い出すクラーラに、オーリムはますます真っ赤になって言葉を詰まらせる……それが余計に含みを持たせる事になっているが、それに気付く余裕はないのだろう。


 そんなオーリムにプロディージが白い目を向け、クラーラの期待に満ちた眼差しで回答を待っている。


 だから助け船を出す為に――という言い訳を使って、ソフィアリアは存分に惚気(のろけ)る事にした。頰を両掌で包み、ふふふとご機嫌な笑みを漏らす。


「ええ! そうよ。毎日幸せに、イチャイチャしているわ」


「おお〜!」


「フィ、フィア⁉︎」


 助け船を出したのに、何を言うんだと言わんばかりの抗議の声を上げるオーリムに、何故止めるのかとムッと頰を膨らませる。家族に大切にされて幸せだと伝えて安心してもらえるいい機会なのに、邪魔しないでもらいたい。


 そんな事を思っていたからつい、余計な事まで口から滑り落ちてしまったのだろう。


「まあ! していないと言うの? 酷いわ、毎夜あんなに三人で楽しく――」


「ま、毎夜っ⁉︎」


「あらあら」


「は?」


 とんでもない発言を口にするソフィアリアに父は慌て、母は目を丸くし、弟に(さげす)んだ眼差しを向けられた事で、ソフィアリアも「あら」と我に返る。浮かれていた気分に水を差され、誤解を招く発言をしてしまったらしい。珍しく、ついうっかりである。


「ちっ、違うっ⁉︎ 夜、武術の訓練を終えた俺と王とフィアの三人で庭でのんびり話して、最後に空を飛んでるだけだっ!」


 それに一番慌てたのはオーリムだ。家族の前でとんでもない暴露をされ、真っ赤になりながら大袈裟に首を横に振り、訂正を入れる。


「お空っ! お姉しゃま、夜になるとお空を飛んでるの?」


 妙な空気が流れている事にも気付かないクラーラ一人だけが無邪気にますます目を輝かせながら、ソフィアリアを見上げる。すっかり大鳥に夢中なようだから、毎日一緒に空を飛んでいる事が羨ましいのだろう。


 話の流れを無理矢理変える為に、ソフィアリアはクラーラにニコリと笑って(うなず)く。


「ええ、そうよ。王様の背中に乗って、リム様と三人でデートをしているの」


「いいなぁ〜」


 頭を撫でてあげながら、ついでにソフィアリアも誤解を解いておいた。母は相変わらずふわふわと笑っているだけだが、父は「そ、そっか」と目を泳がせながらほっとしているようだった。なんとも父親らしい反応である。


 まあ、それでも納得しない人はいるのだが。


「あのですね…………ああ、なんかもういいや。これに(かしこ)まるのも馬鹿らしい」


 当然、貴族としての体裁を重んじるプロディージが許してくれるはずもなかった。


「あのさ、いくらもう一緒に住んでるからって、まだ婚約期間中なんだけど? その辺わかってくれてる訳?」


 ジトリと睨んでくるプロディージは、とうとうオーリムを代行人として扱う気もなくしてしまったらしい。貴族として目上の代行人を敬う気持ちが消えてしまったようだ。

 まあ、多分オーリムは王鳥とは違い、それを相手に強く求めるような事はしないだろうし、許してくれると思うが。ソフィアリアもいつかこうなると予想していたが、随分早かったと目をパチパチさせた。


 オーリムは素で話すようになったプロディージを気にする事なく、気まずそうに目を逸らす。ソフィアリアもオーリムも、婚約期間中の貴族の距離感ではない事なんて、一応理解しているのだ。


「……わかってる。別に何もやましい事なんかしていない」


「口ではなんとでも言えるよね」


「うふふ、証拠を出してって言われても困るけれど、ロディ達よりも健全なお付き合いをしているのよ?」


 これ以上追求されると両親の前でそんな事を言われるオーリムが不憫だし、ソフィアリアの失言が大元なので、笑みを浮かべながらプロディージを牽制しておく事にした。強く睨まれたが、痛くも痒くもない。


 たしかにソフィアリア達は毎夜密着しているし、最近はキスの応酬なんて事だってしているか、本当にそれだけなのだ。よく目撃していたので知っているが、プロディージとメルローゼは婚約期間中という節度は守りつつ、ソフィアリア達以上に進展している。それに、照れ屋なオーリムとは違い、プロディージは手が早いではないか。

 その事は両親だって知らない。それ以上オーリムに追求するなら、ソフィアリアだって()()()()バラすと(あん)(ほの)めかせば、渋々引っ込んでいった。代わりにソフィアリアへの視線が冷たいが、通常運転なので今更気にする事はない。


「ねーねーだいこーにんしゃま」


「……なんだ?」


 急に大人しくなったプロディージに首を傾げていたオーリムは、クラーラの呼びかけに表情を優しくして応えていた……やっぱりちょっと面白くないと思ってしまう。


 そんなソフィアリアに気付く事などなく、二人は会話を続ける。


「おーとりしゃまには、どうやってのるの?」


「人によるが、首の後ろあたりに飛び乗るか、大鳥の魔法で乗せてもらうんだ」


「クーものせてもらえるかなぁ?」


「いや、すまないが」


「クー、危ない遊びはダメだって、いつも言ってるよね?」


 空を飛ぶ事に興味を持ち始めたクラーラに焦っていたら、ピシャリとプロディージがそう言ってくれて一安心した。叱られたクラーラがしょんぼりしてしまったが、こればかりは仕方ない。大鳥は契約した鳥騎族(とりきぞく)と伴侶しか乗せないので、どのみちクラーラには無理なのだ。


「クー、大鳥様に乗る人はね、お仕事で乗っているんだよ? 神様にわがままを言って、困らせちゃダメ」


「お姉ちゃんはね、王鳥様のお妃さまだから、特別に乗せてもらえるの。それに大鳥様は神様だから、遠くから眺めて、いつも見守ってくれてありがとうって、お礼を言うくらいにしましょうね」


「そっか〜……。うん、ざんねんだけどクー、わがままなんていわない! だいこーにんしゃま、ありがとうくらいは、おつたえしてもいいでしゅか?」


 両親にも注意されてしまったから、クラーラはきっともう乗りたいなんて言わないだろう。焦りを滲ませていたオーリムもほっとしたように、肩の力を抜く。目を柔らかく細めて、(うなず)いた。


「大鳥は乱暴にさえしなければ、危険はない。近くに寄って見ればいい」


「近づいてもいいんでしゅか?」


「ああ」


 その言葉にぱあっと表情を明るくさせる。ニコニコ嬉しそうに笑って、キラキラの笑顔を見せてくれた。


「ありがとう、だいこーにんしゃま! いっぱいい〜っぱい! ありがとうをいうね!」


「……急に礼を言われても大鳥は困ると思うが、まあ、交流を楽しめばいい」


「はい!」


 るんるんと楽しみを隠しきれない表情で、パクリと手に持っていたフルーツとクリームを詰めたパンを食べる。そんな可愛い妹に、オーリムは心から和んでいるようだった。……やっぱり夜に、きっちり問い詰めようと思う。


「姉上、デザートは?」


「そうねぇ、そろそろ持ってきてもらいましょうか」


「……ずっと気になってたんだが、ロディは甘い物しか食べてなくないか?」


「うっわ気持ち悪。何? ずっと見てた訳?」


「気持ち悪いとはなんだ! 目についただけだ!」


 そう言ってまた仲良く言い争いを始めた二人をくすくすと笑う。人を遠ざけがちな二人が対等に、気兼ねなく言い争いをしている姿がなんとも微笑ましかった。思った通り、出会ったばかりなのに随分と気を許したらしい。本人達は、否定するだろうけど。





 運ばれてきた珍しいデザートを囲みながら、オーリムと両親と弟妹の交流は続く。この日の食堂は賑やかで、思っていた以上にみんな打ち解けて、楽しい時間を過ごせた事が、とても嬉しかった。



前回の続きでした。

ソフィアリアの欠点が発動です。ここで夜デート自慢をしたせいで、クラーラが空に憧れを持ち……?なのかもしれません。と言っても、言わなくても、大鳥に興味津々なので、結果は変わらなかったかもしれませんが。


事あるごとに始まる思春期のボーイVS反抗期のボーイ。喧嘩するほどなんとやらってやつです。


次回の更新日がクリスマスなので、特別編をお送りします!と珍しく次回予告してみる。

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