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あの頃の代行人

「セイドの双生1」のオーリム視点。



『五歳になる妹は元気で……ラズくんと会った頃のわたくしと似ているかも? 当時のわたくしよりかは賢い子だけれど』


 昨夜の言葉に、期待しなかったと言えば嘘になる。セイドで出会ったお姫さまはラズにとっては憧れで、心の支えで、全てだったのだから。

 そんな昔のソフィアリアにそっくりな妹。期待しない訳がないではないか。


 まあ、その期待が顔に(にじ)み出過ぎていたのか、何よりも一番であるソフィアリアから、浮気者のレッテルを貼られたが。


 妹、それも五歳の幼子に浮気をする気は全くないが、会うのは楽しみだった。それこそ、ソフィアリアが気が合いそうだと言っていた弟の何十倍もだ。


 そして実際に妹――クラーラを見た時の衝撃は、忘れられない。


『……よろちくおねがいします』


 ぽかんと王鳥を見上げながら、ちょこんと礼儀正しくカーテシーをしてみせるクラーラに、すっかり目が釘付けになったのだから。





            *


 



『うむ? 今更気付いたが、此奴(こやつ)、まさかラズの双生(そうせい)か? なんとも数奇な巡り合わせよのぅ』


 王鳥が真っ先に名乗ったソフィアリアの弟であるプロディージを見ながら何やらぶつぶつ言っているか、何の事だかわからないし、そんな疑問は今はどうでもいい。


 ソフィアリアそっくりだと言っていたクラーラは、本当にソフィアリアをそのまま小さくしたような見た目をしていた。強いて違いを探せば、ソフィアリアの方が優しく垂れ下がった目をしていて、クラーラの方がややくりっとした丸い目をしている事だろうか。大きな違いは髪型くらいだ。


 たしかに似ているが、ソフィアリアが心配していたように、クラーラに昔のソフィアリアの面影を感じる事はなかった。オーリムが長年焦がれた憧れのお姫さまは唯一無二で、似ているだけでは投影出来ないものらしい。


 それはいいのだが、それよりももっと由々しき事態が、オーリムの心の中で巻き起こっていた――そのせいでじっと見つめてしまい、ソフィアリアから誤解され、あとで()ねられるのだが、今は知らない事だ。


 なんとか取り繕って話した後、先を歩くオーリムの背後で繰り広げられた仲良し姉妹のやりとりが、更なる追い打ちをかけてくる。じっくり眺めたかったのだが、当然ながら前を歩くオーリムには見えないので、会話から二人の様子を想像する事しか出来ないのが残念だ。何故先を歩いてしまったのかと、今更後悔した。


『……なあ、王。セイド嬢はフィアに似てるよな?』


 チラチラとソフィアリアと、その腕に抱えられたクラーラを盗み見ながら、心の中で王鳥にそう尋ねる。

『セイド嬢』はここに来たばかりのソフィアリアに対する呼び名だったが、この国の貴族の名前は親しい者しか呼ばないので、クラーラが幼子だろうが貴族なのだから、そう呼ぶのは当たり前の事だ。それに今はソフィアリアの事は特別な愛称で呼ぶ事を許されているので、(まぎ)らわしいなんて事もないだろう。


『クーをそう呼ぶのは止められると思うが、まあ姉妹だから、少し似た気を(まと)うてはおるな。余は人間を見た目で判断せぬからあまり似ているとは感じぬが、見た目こそを重視する人間には、似ているように見えるのだろう』


『だったらあれは、俺が助けるべきだよな?』


 浮ついた心のままに素っ頓狂な返答をするオーリムに、王鳥が溜息を吐いているが、オーリムはそれどころではない。


 盗み見たソフィアリアのクラーラを抱える手が少し震えているように見えたので、クラーラを抱えて歩くには重いのだろう。隣で義父がそんなソフィアリアを気遣っているとはいえ、出来る事ならオーリムこそが隣に並び立ち、代わりにクラーラを抱えてあげたかった。


『待て待て。隣にはクーの実父がおるのに、ここで其方(そなた)が助ける意味がわからぬ』


『だが』


『ただでさえ不安がっている妃の悋気(りんき)を不必要に刺激するでないわ。余は其方(そなた)の介入を許容せぬぞ』


 そう言われては動けなくなる。動いたところで王鳥に身体を操られて終わりだ。あの二人の側に寄り添えない事が、とても悔しかった。


『何が悔しいだ。他人の子を見ながら意味のわからぬ妄想をするでない。クーは其方(そなた)らの子ではないぞ』


 呆れたようにそれを指摘され、カッと頰が火照る。


 そう、オーリムはクラーラを見た瞬間、ソフィアリアの子供を連想したのだ。きっとソフィアリアにそっくりな娘が居ればこんな子だというオーリムの理想を具現化した存在が実在した。冷静でいられる訳がない。


『セイド嬢は義妹だ! 他人じゃない!』


『伴侶の姉妹なぞ全くの他人ではないか。ほんに、人間は無駄に縁付きたがるのぅ。まあ、どちらにしても、さっき会ったばかりの義妹にそこまでする義理はない。クーの両親もおるしな』


『けどな』


『なら、義弟にも同じ事をしてやるのだな?』


『それはない』


 それを聞いて、すんっと冷静になる。あの男は貴族然としており、なんだかいけすかない。それに、ソフィアリアの事を酷い目で(にら)んでいたので、印象も最悪である。

 本当にあれが穏やかなソフィアリアの弟で、可愛らしいクラーラの兄だというのか。あれと気が合うというのか。


 そうやって義弟の事を考えたおかげで少し冷静になり、気分が落ち着いてきたようだ。たしかにここでオーリムが出張るのは不自然だろう。だから手助けは諦める事にする。


 とはいえ、落ち着いた後でも脳裏に浮かぶのは、やはりソフィアリアとクラーラの事だ。


 ソフィアリアにそっくりで、でも違う存在のクラーラ。ソフィアリアのクラーラを見る温かな眼差しは母性に(あふ)れ、抱え上げた時の仲睦まじさは、オーリムの心に幸せを運んでくれた。

 そんな二人の姿は、オーリムがラズだった頃からずっと憧れていた『親子』の理想像そのものだった。あと足りない父役は、ソフィアリアが母役なら、オーリムしか(にな)う人がいない。

 だから隣に並んで、理想の『家族』というのを擬似的に実現させたかったのだが、王鳥は許してくれないらしい。


『そうやって意味のわからぬ暴走をする年頃よなぁ。まあ、それで幸せなら、ほどほどに妄想に(ふけ)るが良い。だだし、行動に移す事は許さぬからな』


 呆れたようにそう言った王鳥の言われるまでもなく、オーリムはしばらく、幸せな妄想に浸っていたのだった。




本編書いてた頃からずっと書きたかったお話でした。第二部でスーパーなダーリンさん見習い程度には頑張っていたオーリムを台無しにしている気がしますが、多分気のせいでしょう。

根拠のない自信に満ち溢れ、都合のいい妄想をおっ始める思春期のボーイを書くのはとっても楽しい!

弁明をすれば、オーリムは家族というものに強く憧れてます、とだけ。


何気にここで双生の事を聞き流してます。ちゃんと詳しく聞いておけば、後の惨事は緩和出来ただろうに……多分。

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