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十七歳の朝 前編

本日から第一部の頃と同じように、毎週月・金曜日の6時に第二部番外編を更新します。

第三部開始まで番外編をお楽しみいただければ幸いです♪


時系列は「聖都?島都?デート!」の午前中。ソフィアリア視点です。



「お誕生日おめでとう、フィア。妃である其方(そなた)には特別に、余が一番に言祝(ことほ)ぎに出向いてやったぞ。感謝するがよい」


 パチリといつもの時間に目が覚めたソフィアリアの目に真っ先に飛び込んできたのは、オーリムの姿を借りた王鳥の不遜(ふそん)な笑みだった。

 彼は当然のようにソフィアリアの寝室に居るだけではなく、当たり前のようにベッドに潜り込み、ソフィアリアを抱き締めながら、寝顔を堪能していたらしい。勿論(もちろん)、昨夜はいつも通り一人で寝たはずなのにである。


 色々言いたい事も聞きたい事もあったが、とりあえず全て脇に置いて、一度落ち着く為に深呼吸をする。


 そして王鳥に優しい目を向け、微笑み返した。


「おはようございます、王様。ふふっ、ありがとうございます。今年は王様が一番乗りですわね?」


「当然であろう? 余を出し抜くのは、ラズでも許さぬよ」


「またそんな事を(おっしゃ)って。王様はラズくんに、よく先を譲ってしまわれるではありませんか」


「出し抜かれるのと、余が寛大(かんだい)な心で譲ってやるのは、別ぞ」


 そう言って額を合わせ、お仕置きとばかりにグリグリされるので、くすくす笑ってしまった。


 一応まだ婚前なので色々よろしくない状況ではあるし、こう見えて心臓が壊れないだろうかと思ってしまうくらいドキドキしているのだが、それ以上に幸せな事には違いないのだ。王鳥の言う通り、今日はソフィアリアの十七回目の誕生日なのだから、こっそりイチャイチャする事くらいは許してもらおう。これでも弟のプロディージ相手でなければ隠し事は得意なので、誰かに見られなければ、きっと隠し通せるだろうから。


「さて、ではそろそろ戻るよ。ラズにバレるとうるさいからな」


 そう言ってむくりと起き上がり、ベッドから出て行く王鳥にパチリと目を瞬かせる。


「あら? 今日は代わりませんの?」


 こういう時、王鳥は接近したまま身体を返し、照れて真っ赤になるオーリムを揶揄(からか)って()でているのに、今日はやらないらしい。珍しいと思うのと、オーリムに会えないガッカリ感で、ついそう呼び止めてしまった。


 王鳥は少し寂しそうなソフィアリアの様子に気付いたらしく、苦笑して手を伸ばし、ポンポンと(なだ)めるように頭を撫でてくれる。


「そうしたいのはやまやまだが、楽しみにしておったラズの計画を邪魔するような無粋な真似も出来ぬからな」


「まあ! ふふっ、それは楽しみですわ。なら、この事は二人だけの秘密ですわね?」


 悪戯(いたずら)な目をして人差し指を立て唇に当ててポーズを取ると、王鳥もニンマリ笑って、同じようにポーズをとってくれる。


「うむ、余と妃だけの秘密だな?」


 そう言ってお互い笑い合う。二人だけの秘密という言葉を、王鳥は気に入ってくれたようだ。


 明日から冬になるという秋の九十日目。ソフィアリア十七歳の誕生日は、そんな幸せな秘め事から、幕を開けた。





            *





「お、おはよう、フィア。そのっ、誕生日、おめでとう」


 友人兼ソフィアリア付きの筆頭侍女であるアミーを中心に、朝の身支度を手伝ってくれた侍女達からたくさんのお祝いの言葉を貰って、幸せな気持ちで朝食の場に出向くと、少し緊張気味にギクシャクとした声で、もう一人の未来の旦那様からそうお祝いの言葉をもらった。


 ソフィアリアはニコニコしつつ、言葉を返す。


「ありがとう、ラズくん。ふふ、どうしてそんなに緊張しているのかしら?」


 そう言って首を傾げてみせると、オーリムはうっと(ひる)んで目を泳がせていた。顔が真っ赤で大変可愛らしい。


 今朝王鳥から聞いて何か用意している事は知っていたが、会った事は内緒なのでとぼけておく。とはいえこの様子だと、知らなくてもすぐ察せただろうが。


「ビ」


「――――ああ、わかってる。そう急かすな」


 いつまでもまごついていたので、王鳥から頭頂部を突かれせっつかれている。「はやくしろ」とでも言われたらしい。


 ――そう、王鳥が居るのだ。朝食の場にと連れてこられたここは、いつもの食堂ではなく、綺麗に整えられた中庭を一望できるガゼボの前。つまり外だった。このガゼボの中は大鳥の魔法で、夏は涼しく冬は暖かいと、快適に過ごせるようになっているのだ。

 そんなガゼボで今日は特別に王鳥も入れて、三人で朝食を楽しめるらしい。朝食の時間、王鳥は見回りとして空を飛び回っており、どちらにせよ食堂には人間しかは入れないので、三人で朝食を摂るのは初めてだ。いつもはオーリムか、たまにオーリムの身体を借りた王鳥と給餌を楽しむくらいだったので、嬉しくて仕方ない。

 アミーにここに連れてこられた時は首を(ひね)りつつワクワクしたものだが、意味がわかるとふわふわと多幸感に満たされた。オーリムと、きっと王鳥も考えてくれたソフィアリアお誕生日お祝い計画は、もう始まっているようだ。


 ここで待っていたオーリムはずっともじもじしていたが、王鳥に言われてようやく決心がついたらしい。顔を上げてソフィアリアを見つめると、背中に隠すように後ろ手で持っていた花束を、ばっと勢いよく差し出してくれた。

 ちょっと勢い良過ぎて目を丸くしたが、すぐにパッと表情を明るくさせる。両手でオーリムから花束を受け取ると、ふわりと微笑んだ。


「まあ! なんて綺麗……! ラズくんが用意してくれたの?」


「あ、ああ。庭師と相談しながら、作ってみた」


「まあまあ! ラズくんがご自分で?」


 なんと用意を頼んだ訳ではなく、オーリム自らが手掛けた花束だったらしい。今度こそ驚いて、目をまん丸にしながらオーリムの顔と花束を交互に見つめた。

 オーリムは照れて(うつむ)きながら、コクリと(うなず)く。その耳は真っ赤だった。


 オーリムが落ち着くのを待つ間、ソフィアリアは視線を手渡された花束に固定し、ニマニマしながらじっくり観察する。


 五本のピンクの薔薇と一本の鮮やかな赤色の薔薇がメインらしく、その周りをピンクのカーネーションとかすみ草で彩られた、女の子らしい可愛らしい花束だ。オーリムはソフィアリアが可愛らしいものを好み、そんなソフィアリアが特に好きらしいので、オーリムらしいプレゼントだなと思う。


 それに、この花に込められたメッセージだってそうだ。


「ねえ、ラズくん。このお花達の花言葉も、勿論(もちろん)受け取っていいのよね?」


「あ、ああ…………知っていた、のか……」


「ええ、一通りは覚えているわ」


 ますますギクシャクしてしまったオーリムの様子に笑みが溢れる。こっそり送りたかったらしいが、残念ながら花言葉の暗記は、この国の貴族の教養の一つだ。当然、ソフィアリアだってきちんと身に付けているし、特に薔薇の花は、友人兼未来の義妹が好んでいたので、よく知っている。


 ピンクの薔薇の花言葉は「上品」「温かい心」「可愛い人」、五本の薔薇の花言葉は「出会えた幸福」。合わせると「可愛く気品のある優しい君に出会えてよかった」という意味だろうか。

 ソフィアリア自身に向けただろうメッセージは褒められ過ぎていてなんだか(くすぐ)ったいが、それがオーリムの気持ちなら受け取って、精進を重ねようと思った。


 赤――特に鮮やかな紅色の薔薇の花言葉は「熱烈な恋」、一本の薔薇の花言葉は「一目惚れ」。合わせると「一目見た時から恋焦がれています」だが、オーリム的に言い直すと「セイドで一緒に過ごしたあの日から、ソフィアリアに焦がれている」という感じだろうか。もしくはデビュタントに参加したソフィアリアを遠目で見た時に見惚れてくれたらしいので、前者も合っているのかもしれない。

 これはオーリムの恋心を表しているのだろう。言葉も態度も照れが強くてなかなか表に出てきてくれないけれど、オーリムらしいまっすぐな言葉は、いつもソフィアリアの心を鷲掴みにするのだから、罪作りな人だ。こうして、ますますオーリムに恋をしてしまう。


 そして合わせた六本の薔薇の花言葉は「あなたに夢中」。昔から変わらず、今もソフィアリアを好きでいてくれているらしい。

 ピンクのカーネーションは、ピンクの薔薇と少し似ていて、それに「感謝」が付く。かすみ草も「感謝」と、あと「幸福」。「無邪気」は昔のソフィアリア向けで、あの頃のソフィアリアだって好きだったというメッセージだろうか。


 この花束に込められた熱い想いに、ほうっと溜息が漏れる。心がふわふわしていて、思考が働かない。なんて嬉しい誕生日プレゼントなのだろう。


「ピ!」


 と、ぼんやりしていたら王鳥の鳴き声と共に、目の前にもう一つの薔薇の花束が現れたので、慌てて受け取る。


「まあまあまあ! 王様もわたくしに?」


「ピィ」


 屈んですりすりと頬擦りされたので、どうやらそうらしい。ソフィアリアも両手が塞がっているので、感謝の気持ちを込めてスリッと頬擦りし返すと、お返しとばかりにますますすりすりしてくれるのだから、可愛い旦那様だ……ちょっとよろけたが、オーリムが慌てて肩を支えてくれた。


「ありがとうございます、王様。ふふっ、嬉しいですわ」


 そう言って微笑み、王鳥から貰った花束を見つめる。


 王鳥の花束はシンプルだ。オーリムがくれたものと同じ紅色の薔薇の花が十一本――十一本の薔薇の花言葉は「最愛」と「宝物」。それが、王鳥がソフィアリアに向けている感情だと、そういう事だろう。


「わたくしは幸せ者ねぇ。大好きなお二人から、こんな素敵な想いを贈られたんだもの。最高の誕生日だわ」


「そ、そうか。喜んでもらえて嬉しい」


「ピ」


「あと、今日のデートの時に着て欲しい服を部屋に届けてある。俺と王からだ」


「ピピィ」


「まあまあまあまあ! お洋服まで!」


 つい胸の高鳴りが抑え切れず、高揚した気分のまま目を輝かせて、そう返事を返していた。今日はオーリムがお昼からの時間を丸々開けてくれたので、聖都と島都に降りて三人でデートをする予定なのだ。

 その際に着る服まで用意してくれたらしい。なんとも至れり尽くせりの誕生日ではないか。


「二人とも、本当にありがとう。お洋服も楽しみだけど、初めてのお昼の街デート、とっても楽しみね!」


「そうだな。俺も街に降りるのは久々だ。……フィアと歩ける日が来るとは、夢にも思わなかった」


 そう言って愛おしさと嬉しさが()()ぜになった笑みを向けられたから、ソフィアリアはドキドキした。その笑みに見惚れて仕方ない。


「ピーピ」


 そうして甘い雰囲気で見つめ合う二人を、王鳥も優しい目で見守ってくれていたのだった。




ソフィアリアお誕生日の午前中のお話でした。長くなったので、後編もあります。

第一部の本編でチラッと花を贈る話が出たのに結局どこでも使う暇がなかったので、その回収も兼ねたソフィアリアの誕生日のお話。ついでに第二部で出てきたメルローゼやガゼボも登場です。

王鳥は自由過ぎるし、オーリムは思春期のボーイ過ぎている……!

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