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【第三部番外編連載中】王鳥と代行人の初代お妃さま  作者: 梅B助
第二部 夜空の天人鳥の遊離
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夜空の天人鳥の遊離 6



「わたくしね、それなりに人に親切にしていたのだけれど、お友達と呼べるのはメルだけで、誰かに恋心を向けられたのは王様とラズくんが初めてでしたの。自分で言うのも何ですが、わたくしはモテて大変だったらしいお母様似で、とても男性が好む容姿もしていて、人にはそれなりに優しくもした。けれど不思議とね、異性から恋愛感情を向けられた事がないのです。……王様の仕業ですね?」


 そう言うと困ったように笑うから、それで正解なのだろう。


 ソフィアリアの母はその容姿から大層モテて、深窓の箱入り娘となるしかなかったのだという。幼少期からそんな調子だったので、父に嫁いでくるまで限られた人としか接せなかったのだそうだ――まあ、他にも理由はあったようだが。

 そんな美人で男性受けする豊満な肢体を持つ母の血を色濃く受け継いだソフィアリアは、だが全く男性から見向きもされなかった。それどころか女性の友達すら、まともに出来なかったのである。


 けれど嫌われていた訳ではない。むしろ必要以上に慕われて、まるで教祖かのように深い敬愛と崇拝を示された。

 正直ソフィアリアは困惑していたのだが、母のようにモテるのも困るので、そういうものだと受け入れて流す事にしたのだ。


 だが、それを流せないのがプロディージだった。嫌いな姉が恋情ではなく変な崇拝を集めて教祖かのように崇められる様を、酷く気味悪がっていた。そのうちセイドの領主の座すら奪われかねないと、ヤキモキしていたのもあったのだろう。現に次期領主はソフィアリアだと思っている人や、それを望む声は一定数あがってきていたのだから。

 嫌いな姉がそんな調子だったので、ますます捻くれたと言っても過言ではない。それは少し申し訳なく思う。


 けれど、どうやらそれも王鳥の仕業だと言われれば、色々と納得する。害意を阻めるなら、好意だって阻めるのだろう。そう思っての指摘だったが、どうやら当たりのようだ。


「……正しくは余がそう仕向けたのではなく、大鳥の伴侶だからなのだがな」


「伴侶だから、ですか?」


「左様。其方(そなた)も知っておろう? 大鳥は基本的に伴侶以外は親兄弟であろうが無関心だ。元々そういう性質であるし、お互い伴侶と定め合えば、伴侶以外から関心を向けられんように仕向ける気を、相手に(まと)わせる。動物でいうマーキングのようなものだな。だから複数羽で一羽を取り合うような真似はせぬのだ」


 それは初耳だったので驚いた。一途な性格なのは理解していたが、そんな特性まであったとは。大鳥とはとことん一対しか許さないらしい。


 大鳥とは違い、人間は四方八方に様々な形の絆を作る。親、子、兄弟、友人、恩人、知人……恋人や伴侶。人間の好意の形は一つではない。

 けれど大鳥は違うようだ。親も子も独り立ちすればお互い他人。兄弟なんて生まれた頃から既に他人で、伴侶以外を側に置く事はしないので、友すら得る事はない。人間から見れば寂しいその在り方が、大鳥にとっては普通なのだ。


 例外は自身が選んだ鳥騎族(とりきぞく)を慈しむ事と、王鳥と代行人を王として敬い、ソフィアリアを王妃と認め慕ってくれている事だろうか。


「昔から王様に護られていたわたくしも、その気を(まと)っているのですか?」


「……すまぬな。ここまで融通が利かぬとは思わなんだ。余が介入出来たのは、余が認めた人間とだけ関係を構築する事。好意を崇拝に変える事のみだった。それでも恋愛感情だけは、どうしても許容出来ぬのだ。其方(そなた)の人間関係は、余が管理しているといっても過言ではないだろうな」


 少ししゅんと落ち込んでしまった王鳥に、ふっと優しく微笑みかける。


「なんだ、たったそれだけの事で、わたくしから逃げようとなさったのですか?」


「それだけと流そうとするでないわ。今後もただの交友関係すら余に管理され続けるのだぞ? 好感を持たれた相手には崇拝を向けられ、近しい者は余が認めた者しか許容しない」


「そもそもわたくしは王鳥妃(おうとりひ)です。付き合う相手は厳選しなければなりませんから、王様が選んでくださるのなら、楽なだけではありませんか」


「好意を崇拝に捻じ曲げるのだから、その違和感を感じ取った人間は其方(そなた)を気味悪く感じるし、長くそれに晒されると、プーのように性格が曲がる」


「それだけは困りますが、王様が離れていくくらいならば、仕方ないと諦めますわ。わたくしが人との距離感に気をつけなければなりませんわね」


 ソフィアリアはどうなっても耐えられるが、周りが被害を被るなら話は別だ。


 けれど話を聞く限り、ソフィアリアが人と特別仲良くしたいと思わず、距離感や自分に向けられる感情に気をつけてさえいれば、何も問題はないように思う。

 友達が出来にくいのは寂しいが、言ってしまえば今まで通りだ。今まで通りがこの先一生続くだけ。何も問題ないではないか。むしろ原因がわかってスッキリしたくらいだ。


 そう思ってきょとんと間の抜けた表情を王鳥に向けていたら、深く長い溜息を吐かれ、コツリと額同士が合わさる。何が不満なのか、そのままぐりぐりされてしまった。


「……よいのか? 其方(そなた)はこのまままともな人間関係を構築出来ず、人とは少し違う異質な存在へと成るのだぞ?」


「王様が認めてくださればいいだけのお話ですし、大袈裟ですわ。それを思えば、わたくしにはお父様もお母様も、ロディやクーちゃんという家族も居て、メルとは義妹兼友人で、ここで出会ったフィー殿下やアミー達とは友人関係を築けていますもの。王様はきちんと配慮してくださっていたのですね?」


「余が認めた奴だけは特別にな」


「確かに小さい頃は、お友達が出来なくて寂しかった事もありましたが、ロディとメルが仲間に入れてくれましたし、わたくしは忙しかったので、二人くらいがちょうどよかったのかもしれませんわ」


 そう納得する事にした。友人が出来れば友達付き合いも欠かせないが、ソフィアリアは昔から多忙な日々を過ごしていたのだ。どのちみ浅く広く、知人の延長のような形でしか、人と縁を結べなかっただろう。

 多忙を理由に付き合いを疎かにし、領主の娘は付き合いが悪いなんて噂になったら目も当てられないし、きっとこれでよかったのだ。


「付き合いを無断で選別されて、不快ではないのか?」


「驚きましたが、そうしてくれなければ母のように外に出る事もままならなかったと思うと、嬉しいですわ。だってわたくしはお友達を作る事よりも、セイドの立て直しの方が重要でしたもの。それに、王様とラズくん以外からの恋愛感情なんて、持たれなくてよかったと思いました。わたくしには、二人だけ居てくれれば、それでいいのですから」


 それが王鳥の愛だとすれば、幸せだとすら思うソフィアリアは、この三人の恋に溺れきっていた。


「だから王様。わたくしから離れていかないでくださいませ。どうしても気になるというのならば、他の方から向けられたはずの愛情を、代わりに王様から欲しいと、そう欲張るのはいけませんか?」



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