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【第三部番外編連載中】王鳥と代行人の初代お妃さま  作者: 梅B助
第一部 黄金の水平線の彼方
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満月の初デート 1

 今日の夕食もフィーギス殿下達と執務室で摂るらしく、ソフィアリアも部屋で摂っていた。

 昼間の話し合いでは無駄にまだるっこしく遠回しな発言で話を長引かせた自覚はあるのだ。仕事を押させてしまっただろうかと申し訳ない気持ちになる。



「……気にしなくとも、殿下方が来た日はいつもそうしておりますので。うちのロムも含めてあの四人は旧知の仲なのです。そんなに大した話もしていないかと」


「そう? ならいいのだけれど。ありがとう、アミー」



 食後の紅茶をいただきながら、そう労ってくれたアミーにお礼を言う。アミーはこくりと頷き、部屋の隅で待機し、どこかぼんやりしていた。

 そんな様子に気付いて首を傾げつつ、でも自分から話したいと思ってもらえるまで待つ事にする。なんでも話せる仲になるには、まだ出会って日が浅い。

 それに、ソフィアリアが助けなくてもプロムスが彼女の様子に気付いてくれるだろう。そしてきっと上手く救い出してくれる。そんな相手がいるのだから、なんでもかんでも首を突っ込む事はない。


 ふと、そういえば大事な事があったのを思い出した。両手をパンっと合わせて、アミーに一つお願い事をする。



「そうだわ、アミー。わたくし、ノートが二冊欲しいの。日記をつけたいのだけれど、今あるかしら?」


「日記用のノートですか? あったかと思います。……少々お待ちください」



 そう言って部屋を出ていって、しばらくして戻ってきた。



「お待たせいたしました。これでよろしいでしょうか?」



 そう言って持ってきてもらったノートは外側が革張りの、本に近い高級感溢れるノートだった。こうくるとは思わず、目をパチパチさせる。

 だけどちょうどよかったかもしれない。だってこのノートはこれから長期的に、それも数百年単位で保管しておいてほしい代物だ。



「とても立派なノートね。ありがとう、アミー」


「いえ。王鳥妃(おうとりひ)様の日記なら後世残されるかと」


「ふふ、ちょうどそんな感じにしたかったの」



 とても察しのいい侍女だ。今後の成長が楽しみだと思い笑みを浮かべると、アミーは首を捻っていた。



「ですが、何故二冊なのですか? 予備でしょうか?」


「これはね、二種類書きたいの。ある程度勉学に触れた人用と、子供でもサラッと読める用に」



 そう説明しても納得いっていないのか、まだ不思議そうな表情をしていた。ソフィアリアは言葉を続ける。



「もし今後また王鳥妃(おうとりひ)が選ばれた場合、どんな子が選ばれるのかわからないでしょう? 大人なのか子供なのか、女性か男性か、貴族か平民か……。だからもし、選ばれた人がある程度勉強をした人だったら詳細に書かれた日記の方が参考になるし、勉強が苦手な人だったら簡単に書かれている方が読みやすいじゃない? だから二冊必要なの」



 今後の事を考えた時、真っ先に思いついたのがこうして記録を残す事だった。何をすればいいか途方に暮れた時、前例があればある程度助けになる筈だ。実際前例のないソフィアリアは手探り状態なのだから。

 だから読みやすいように日記をつけようと思ったのだ。内容は同じでも二種類、異なる文章で。

 この日記がいつか、未来の誰かの助けになればいい。



「……なるほど。これからも二冊分書かれるおつもりですか?」


「もちろんよ。でも、わたくしの日記が後世残るなんて、少し恥ずかしいわね」



 頬を染めて困ったように微笑んでみせると、アミーはなにやらソワソワと言いたげにしていた。

 そんな様子を見て言いやすいように、ふわりと表情を柔らかくして首を傾げてみせる。



「なあに? 苦情でもなんでも遠慮なく言ってくれた方が嬉しいわ。言われないと改善出来ないもの」


「いえっ、苦情なんて滅相もございません! ただ……今日一日お側でソフィ様の事を見させていただいて、とても素敵で立派なお方過ぎて、侍女として未熟な私がついている事が、少し恥ずかしいと思ってしまったのです……」



 だんだんと声が小さく意気消沈してしまったアミーに首を傾げる。それは崇拝が過ぎるし、確かにまだ辿々(たどたど)しくはあるが、気が利くし、きちんと侍女のお仕事はこなせていると感じていた。

 そこでふと思い至る。



「そんな事はないし、アミーにはずっとそばに居てほしい気持ちは絶対変わらないから誤解しないでね? もしかして、他に侍女はいないのかしら?」


「おりません。そもそも私もソフィ様が来るまでは下働き上がりのメイドです。……メイドの中でソフィ様と年が近く、この大屋敷内に定住していて、比較的知識もあったので任命されただけで、本来侍女になれるような人間ではありません」


「あらまあ。そうだったの……」



 この大屋敷、そもそも入れる人間が限られているし入れ替わり立ち替わりも激しいので、屋敷の規模のわりにはあまり人がいない。それに内部に入れる人間も平民が多いので、貴族の屋敷のようにピシッと礼儀作法が行き届いた人ばかりが働いている訳でもないのだろう。


 ここはそもそも主人が神様的な存在で近寄りがたい王鳥と代行人で、客として来るのもフィーギス殿下とラトゥスくらいだ。その二人の相手はプロムスがしているのだろうし、この大屋敷が社交の場になる事もまずないので特に問題はないのだが、いずれは女主人として立つソフィアリアは家政を任される……事になるかもしれないので、少し気になると思うのはでしゃばり過ぎだろうか。



「わたくしも元々は侍女が付くような生活を送っていた訳でなないから、侍女はつかなくてもいいのだけれど。でもアミー一人だとお休みも取れないから困ってしまうわよね。いずれ産休も必要になるし」


「産っ⁈ いえ、あのっ……まだ、予定はありませんので……」



 真っ赤になってしまった。可愛いとにっこり笑いつつ、でもそういう訳にはいかないと首を横に振る。



「それでもお休みは必要よ。……わかったわ。明日代行人様に伺いを立ててからになるけれど、希望者を募ってわたくしが侍女の手解きをするわ」



 昔覚えた知識が無駄にならずに済みそうだとつい笑みが浮かんでしまう。今後の予定を脳内で立てつつそう言うと、アミーは目を丸くして、困惑していた。



「えっあの、ソフィ様が、ですか?」


「ええ。わたくしも侍女の経験はないのだけれど、いずれ行儀見習いに出るかもしれないからって勉強はしておいたの。実務経験はないからわたくしの持つ知識だけになるのだけど、それでもよかったら教えるわ」



 とりあえずそれで大部分は(しの)げる筈だ。それに来季には大舞踏会もあるし、王城に連れて行くならちゃんとしておいた方がいいと思う。



「ですがソフィ様、お忙しいですよね……?」


「そうねぇ。当面は覚える事が多いからつきっきりは難しいかもしれないけれど、わたくしが本を読んで覚えている間、勉強したり延々と同じ動作を繰り返して身に染み込ませる、みたいな事なら可能だと思うの。大舞踏会が終わったらもう少し余裕が出来ると思うから、それまではそれで我慢してね?」



 首を傾げて笑ってみせたらアミーは恐縮しきって、でもどこか嬉しそうに口元をモニュモニュさせて頭を下げた。



「ありがとうございます。ソフィ様の侍女として恥ずかしくないように精一杯勉強させていただきます」


「ふふっ、代行人様に聞いてからだから、まだどうなるかわからないけどね? でも、決まった時はよろしくね」



 ソフィアリアがそう言うと、頭を上げてはにかんで笑ったアミーの顔がとても愛らしいと思った。

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