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【第三部番外編連載中】王鳥と代行人の初代お妃さま  作者: 梅B助
第二部 夜空の天人鳥の遊離
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喪失の未練 8



「……ぼくの母は国を転々とする移動演劇の劇団員で、ぼくも途中まではそうだったんだ。少しだけ自慢になってしまうけれど、ぼくの演技は色んな人に認められて、次期団長はぼくかもなんて言われた事もあるんだよ?」


「まあ! では先程もヨーピ様になりきっておられたのですか?」


「うん。ヨーピはちょっと子供っぽい奴で気性が荒くて、とても寂しがり屋だったんだ。ぼくから見れば、だけどね」


 そう言って目を細めて笑う表情にはヨーピへの慈愛が込められていて胸が締め付けられる。終わりが悲劇でも、ヨーピはドロールの事を目的を果たす為の手段としか扱わなくても、それでもドロールは全てを知っている今だってヨーピを想ってこんな表情をする。その優しさが一方通行だった事が切ないと思った。


「ぼく達の居た劇団は小さかったけれど、それなりに有名だったと思う。けれどぼくが大屋敷に来る一年前――今からだと三年前かな? 島都に滞在していた際に爆発的に人気になった演目があって……その内容が気に入らないって理由で、王妃に劇団ごと潰された」


 そう言ったドロールの表情はとても悔しそうで、同時に悲しみに満ち溢れていた。ドロールは所属していた劇団が大好きで、同時に役者の仕事が天職だったのだろう。それを理不尽な形で取り上げられたのだから当然の反応だと思う。


「ただの架空の国の王子と公爵家のご令嬢の、よくある恋物語だったんだけどね。王妃はよほど気に食わなかったのか、劇団員は見つけ次第、殺されかねない勢いだった。だからみんな、劇団員だった事を隠すしかなかったんだよ」


「……ああ、そうでしたか」


 設定を聞いただけで何故現妃がそんな理不尽な凶行に及んだのか理解した。王子と公爵家のご令嬢。身分的にはこの上なく妥当だが、それは国王陛下と前妃――フィーギス殿下の両親の関係でもある。

 陛下は前妃の事は愛さずに完全な政略結婚だったのに、二人とは関係のない架空の話に出てくるただの設定すら、現妃はブームになる事を許さなかったのか。随分と余裕もなく心の狭い事だ。


 そしてますます自分の中の現妃の好感度が下がっていくのがわかった。本当に、ろくな事をしない人である。


「けれど途中で母は病に倒れてあっけなく死んじゃって、ぼくは身を隠して生きる為に大屋敷へと足を運んだ。使用人として働き始めてすぐにロムと仲良くなって、代行人様の侍従を目指してるって聞いて純粋に凄い人なんだなと思ったんだ。だってあの代行人様に仕える気なんだから。そう言うとロムはけらけら笑って、そんなに凄い奴じゃない。そう思うなら実際会わせてやるよって軽く言って、会ったのがリムだった」


 そう言った目元は本当に優しくて、その出会いはきっといい思い出だったのだろう。ソフィアリアも笑みを深め、静かにそれを聞く。


「初めて会った時のリムはクールな人なのかなって思った。動じないし、あまり周りに関心持たないし、見た目は子供なんだけどやっぱり代行人様ともなるとどこか人間味がなくて、ロムはああ言ったけどそんなものなんだなって」


「まあ……」


 思わず悲しげな溜息が漏れた。少しソフィアリアが大屋敷に来たばかりの頃を思い出したが、失意の最中にいたオーリムはもっとぼんやりしていたのだろう。長い間そういう時期があったのだと、ソフィアリアは聞いて知っていた。


「でも、最初だけだったけどね。それから三人で過ごす機会が増えるとリムは案外普通の少年で、ロムの嘘にぼくと二人してすぐ騙されるから、なんとなくお互い単純な性格をしているなって思ったら親近感が湧いたんだ。そのまますぐに仲良くなって、ぼくもロムと一緒に侍従になると決めた頃に、リムの過去を聞いた」


 そう言ってじっと見つめられる。なんとなく、オーリムのお姫さまに会えて嬉しいと思われているのではないかと思った。そうだったら嬉しいと思ったソフィアリアの願望かもしれないが。


「少しずつだけど、リムの態度も軟化するのがわかって嬉しかったんだ。完全に立ち直らせる事はぼくには難しいだろうけど、少しでも気休めになればいいなって思ってた。そんなある日、ぼくはヨーピと出会った」


 そう言って悲しそうに笑うドロールの表情には、けれどヨーピに対する恨みなんて感じない。あんな事になっても、彼はヨーピに対して同情的なようだ。ソフィアリアにもなんとなくその気持ちはわかる。


「ぼくの父親が元鳥騎族(とりきぞく)隊長でセイド男爵家の嫡男、ぼくはセイドの正当な後継者だって言われても、正直ついていけなかったんだ。貴族になんてなりたくないし、顔も知らない父親が鳥騎族(とりきぞく)隊長だからなんだって話だしね。その父の境遇には同情する点もあったけど、でも共感は絶対無理だなって思った」


「絶対、ですか?」


「うん。それなりに幸せだったはずなのに、それを手放して復讐に生きるとか馬鹿じゃないかと思って。きっと大勢の人に迷惑を掛けて大き過ぎる罪を背負って、何やってるんだって会った事もない父を(ののし)りたくなった」


 少し怒っているかのような口調でそう言い放つドロールの瞳は力強く、心はどこまでもまっすぐだ。その(まぶ)しさに目を細め、そういうところにもオーリムとの共通点を見出す。


「そりゃ、ぼくだって劇団を潰した王妃の事を恨んでいたけど、でも大屋敷の生活を捨ててまで復讐したいかと言われれば、首を横に振るよ。ぼくは失くした過去よりも、当時の幸せの方が大事だったから」


 その言葉を聞いて、ソフィアリアはドロールという人間がどういう人だったのかある程度察する事が出来たような気がした。話したのは今日が初めてだが、ソフィアリアは父の従兄弟(いとこ)にあたるこの人に好感を抱く。

 一見頼りないけれど、優しく純粋でまっすぐで、それでいて自分というものをはっきりと持ち、周りに流される事は決してない。とても立派だが、残念ながら貴族には向かない人だなと思う。

 その人間性はオーリムとよく似ていて、意気投合するのもよくわかる。そんな人が当時のオーリムの近くにいた事を嬉しく思った。


 だからこそ、ソフィアリアは自分の存在に失望感を感じずにはいられないのだ。


「父には共感出来なかったけど、ヨーピは不憫だと思ったんだ。だからなんとか馬鹿な考えは捨てるよう説得してあげたかった。それが父の息子のぼくの役割とすら思ったんだよ。それに、ヨーピに協力するフリをすればリムのお姫さまをここに連れてこられるかもしれないって、リムも救えるかもしれないって甘い考えも持った」


 ああ、やっぱりかと泣きそうになる。


 だって二年前だ。二年前のオーリムは失意の中にいて、ぼんやりと毎日を過ごしていたと言っていた。ドロールはそんなオーリムの友人だったのだから、なんとか助けてあげたくて、当然そういう考えだって浮かんだのだろう。


「そうやって二つのものを欲張ったからダメだったのかなぁ。ヨーピの恨みは想像以上に深くて、ぼくは身体を思うように動かせなくなってしまった。必死にヨーピが身体と思考を乗っ取るのを阻止して、特に君を護る事だけは必死になったんだ」


「わたくしを……護る為」


「ぼくが勝手にやった事だから気にしないで。それにヨーピだって別に君に危害を与えたいんじゃなくて、セイドを乗っ取ってぼくと君を結婚させたかっただけだから、どちらかと言えばセイドを護るおまけみたいなものだったんだよ。君が気にする必要は全くない」


 そう言って頭を撫でられる。その手が本当に優しくて、思わず一筋涙が伝った。ドロールは泣かせたい訳じゃなかったのにと困ったように笑うが、ソフィアリアだって優しいドロールを困らせたい訳ではないのに、それがどうしようもなく難しい。


 気にしないように先を促すと、ドロールは(うなず)いてくれる。


「とりあえずヨーピを抑制出来るうちに、先に復讐相手のセイド男爵家の人間の現在を知って、殲滅の取りこぼしのないように調書を作りたいって言って時間を稼いだんだ。残念ながら本当に気休めにしかならなかったけど。それを父親が使っていたアジトに置いたあたりで、リム達がやってきた」


 そこから先は悲劇的で、思わず知りたくないと思ってしまう。けれどこれは王鳥とオーリムが関わり、セイドに深く関係する事だ。だからソフィアリアは逃げずに知らなければならない。何も知らないままはもっと嫌だ。

 だから涙を拭い、真剣な表情で聞き入る。ドロールはそんなソフィアリアの様子にまた、困ったように微笑んだ。


「そこから先はぼくは曖昧(あいまい)なんだ。どうやらヨーピに強く意識を支配されてしまったみたいで、気がつけばリムとロムと激しい戦闘をしていた。ぼくは必死になって止めようとしたけど、ただの人間が大鳥様に勝てるはずもないよね。何度か致命的になりそうな攻撃を逸らすのが精一杯で、ヨーピがヤケになって近くの街の一つを破壊しようとした時に、気が付けば心臓を槍で貫かれていた」


 ギュッと唇を引き結ぶ。泣くまいと、必死に堪えるのがやっとで、何も言う事は出来なかった。そんな弱い自分が本当に嫌になる。


「その時のリムとロムの絶望しきった表情がぼくの未練になった。単純な甘い考えで契約して、友人二人を傷付けてしまった事を心底後悔したんだよ。特にリムには追い打ちをかけるような真似をしてしまったからね」


 そう言ったドロールの言葉が苦しかった。


 失意の中、新しい友人を得て少しだけ前を向けたオーリムは、けれど最後にその友人を自らの手で討つ事になってどれほど辛かっただろう。友人だったドロールを救えずオーリムが手を汚すのを見ていたプロムスや、悲劇のきっかけを作った王鳥だって、きっと苦しんだ。


 なによりもドロールはただ、ヨーピに寄り添い、オーリムに元気を取り戻してあげたいと願っただけだ。なのに最期は元気になってほしいと願ったはずの友人の手で、その命を散らす事になってしまった。その無念は如何(いか)ほどのものだろうか。


「その後すぐにヨーピも王鳥様に討たれて、なんで今更殺すんだ、どうせならラーテルと殺してくれればよかったのにって嘆き悲しんでいた。消える一瞬まで、結局そうやって王鳥を責めていたんだよ」


 痛みに堪えるように奥歯を噛み締める。


 おそらくだが、王鳥は鳥騎族(とりきぞく)の力を使って好き勝手していたフラーテとは違い、傍に寄り添っていただけのヨーピは許してしまったのだろう。その甘さが、更なる悲劇を生むとは思わずに。


 せめてドロールが大屋敷に来たのがフラーテの事を思い出として消化できるくらい後だったのなら、ドロールの優しさがヨーピの喪失の傷を癒せたのかもしれない。

 けれどそう思うにはまだ時間が足りず、ヨーピはまだ冷静にはなれていなかった。王鳥の事だって許せなかった。


 もちろんドロールが悪い訳ではなく、ただタイミングが悪く、そんな現実がどこまでも優しくなかっただけなのだが。



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