終わりの夜会 1
「あらあら、とっても綺麗なお姫さまねぇ〜」
「お姉しゃまはフワフワかわいいねぇ〜」
「ピ!」
「ピヨ!」
自室にて。今夜の夜会の為に朝早くから全身磨かれていたソフィアリアは、おやつ時にやってきた母とクラーラ、双子の大鳥ピーとヨーに目を丸くした。
「まあ! お母様にクーちゃんにピー様とヨー様まで。わざわざ見に来てくれたの?」
今は爪を磨かれている為に動くことが出来ず、肩越しに振り返ってそう声を掛ける。母は何やらバスケットを持ってふわふわ笑っているし、クラーラと双子はトコトコと側に寄って来てくれた。
「お姉しゃまのふわふわドレス、おうとりたまの夜空みたいでとってもきれいねぇ。キラキラお星さまがとってもしゅてきだわ!」
「ふふっ、ありがとう、クーちゃん。このドレスはね、王様がお色を決めて、リム様がドレスの形を選んでくれた、旦那様二人の愛情いっぱいのドレスなの。素敵って言ってくれてとっても嬉しいわ」
触れてはいけないとちゃんとわかってくれているようで、一人と二羽はちょこまか周りを歩き回り、ちょっと離れた所で全方向から眺めていた。爪を磨いてくれている侍女達がそんなクラーラを微笑ましく見てくれている。
今日着るドレスは肩出しハイネックになっているプリンセスラインのデザインで、フリルとリボンが多めで全体的に甘め、主色が明るめの紺から水色のグラデーションで、その上にイエローの宝石が散りばめられていて、まるで夜空を切り取ったかのようだ。差し色の白も愛らしいデザインとなっている。もちろん背中には大鳥関係者だという証の、二股のチュールマントだって忘れていない。
形はオーリムが選び、色は王鳥が決めてくれたこのドレスは、着用する機会があるか微妙な予備のドレスだったのだが、デザインする際に王鳥とオーリムが大揉めし、二人の愛がふんだんに詰め込まれているから、着る機会に恵まれてよかったと思った。
今はまだ着けていないが、旦那様二人とソフィアリアの瞳の色と同じシトリンと濃薄の琥珀が使われたアクセサリーと、大舞踏会でオーリムから貰ったティアラを着用する予定となっている。
「旦那様達から愛してもらっているのね」
「ええ、とっても! ところでお母様、わたくしのドレスを見に来てくれただけなの?」
笑みを浮かべながら首を傾げてそう言うが、ソフィアリアは先程からバスケットの中身に期待していた。
視線でそれがバレたのか、母はふわりと微笑みながらバスケットを覆い隠していた布を取り払う。
「夜会の準備でお昼も食べる暇がなかったのでしょう? 厨房をお借りして、パンケーキサンドを作ってきたのよ」
「あーんしにきたのよ!」
「ピー」
「ピヨー」
現れたのは一口サイズのたくさんのパンケーキにクリームやジャムやフルーツなどの甘いもの、サラダや卵といったおかず系まで挟んである、母の得意料理だった。思わず満面の笑みになる。
「嬉しい! お母様のパンケーキってとっても美味しいもの」
「ふふっ、ここではいい材料を使わせていただいたから、家で作った物よりも美味しいと思うわ」
そう言ってさっそく一つ、卵とレタスを挟んだパンケーキサンドを口元に持ってきてくれたので、遠慮なく食べる。少々はしたないが、給餌はここ半年ですっかり慣れていた。
頬張るとシャキシャキのレタスと茹で卵に、甘しょっぱいフワフワなパンケーキのハーモニーが絶品で笑顔になる。クラーラがトントンとハンカチで優しく口元を拭ってくれて、至れり尽くせりだ。
「幸せな味がするわ。さすがお母様のパンケーキサンドね。クーちゃんもありがとう」
「えっへん! このセイトベリージャムは、あたくしがぬりぬりしたのよ。はい、あーん」
次はクラーラが口元に運んでくれたものを食べる。しっかり甘い生地と、このジャムに使われているセイドベリーは一昨日、大鳥達がお詫びに持ってきてくれた物だなと思った。大鳥が魔法で実らせたセイトベリーは、かすかに酸味も感じるのだ。
「クーちゃんがぬりぬりしてくれたからいつもより美味しいわ」
そうお礼を言うと一人と二羽は楽しそうにくふくふ笑っている。なんとも癒される光景だ。
その後もう三つほどパンケーキサンドを食べ、母の紅茶を飲ませてもらってお腹いっぱいになった。なんなら母のパンケーキなんてもう滅多に食べられないだろうから、少し食べすぎたかもしれない。
クラーラも食べたくなったのか、一つの生クリームとセイトベリーを挟んだパンケーキサンドをピーとヨーと分けて仲良く食べていた。
「そうそう。今持ってくるのはどうかと思ったけれど、ついさっき完成したから見てもらいたかったの」
そう言って母はバスケットの底に大事そうに箱に入れていた物を取り出し、中身をソフィアリアに見せてくれる。ソフィアリアは見せられた物に、大きく目を見開いた。
「これ……」
「ふふっ、今までで一番頑張ったのよ? 本番の日まで、ソフィに預けておくわね」
そう言って浮かべた母の慈愛の微笑みに、思わず泣きそうになってしまったのだった。




