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【第三部番外編連載中】王鳥と代行人の初代お妃さま  作者: 梅B助
第一部 黄金の水平線の彼方
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それぞれから見た王鳥妃は 1

 それから今後の予定などを話し合い、空がオレンジ色に染まった頃にソフィアリアはアミーを伴って部屋に戻って行った。


 窓の外の夕日を眺めながら、今日は王族を前にソフィアリアが気後れするだろうからと婚約証書の作成と予定を伝えるだけで終わらせる筈だったのだが、気付けば全員そんな事も頭から抜け落ちて随分と話し込んでしまった。

 ただでさえ今日一日でいろんな事をいっぺんに話したのだ。疲れてしまっていないかと心配でならない。


 代行人と王鳥、フィーギスとプロムスと、それに何故か自分はフィーギスの侍従だとばかりに後ろで控えていたラトゥスのお馴染みの五人で、いつものように執務室に集まる。

 室内に入った途端フィーギスは定位置のソファでゴロリと横になり、腕で目を覆い大きく深呼吸をした。いつもダラダラはするが基本澄ましているフィーギスがここまで疲れている姿は少し珍しい。王城で狸どもとやり合ってきたと言った時すらここまでではない。



「いやぁ〜本当に参った。彼女に絡め取られるかと思ったよ。王もリムも、とんでもない奥さんを選んだね?」


「奥さっ⁈ ……選びたくて選んだ訳じゃない。王が連れてきてしまったんだ」



 何度口にしても落ち込んでしまう。ソフィアリアは普通の貴族としてこの先平穏な人生を歩める筈だった人なのに、ここに迎えてしまった事で余計な苦労を背負わせてしまった感が否めない。

 ソフィアリアは気にしなくていい、嬉しいと言ってくれたが、当の代行人はずっと罪悪感が消えてくれなかった。



「あのな? 構ってほしいのはわかるが、そうやって事あるごとに顔を曇らせるのは鬱陶しいからやめろ。その度にソフィアリア様がおまえのフォローをする羽目になってんだろうが」



 プロムスにそう言われるとグッと息が詰まる。構ってほしくてしている訳ではないが、余計に負担をかける事なんてもちろん本意ではない。少しは強くならねばと息を吐いて、罪悪感を振り払うように首を横に振った。



「そんな事をしているのかい?」



 ケラケラとおかしそうに笑うフィーギスはここで気を抜き過ぎだと思う。あまりの行儀の悪さに、一人掛けソファで腕を組んで顎に指を添え、深く考え込んでいるラトゥスにジトリと睨まれていた。



「……出来るだけ気をつける」


『まあ、我が妃にドロッドロに優しくされるのは心地がよいからな。さもありなん』



 脳に直接語りかけてくる王鳥すら、ニンマリと笑みを含んだ声音で話し、目元を嫌な風に細める。代行人を揶揄(からか)っているのと、散々甘えていたのでその感覚を思い出して和んでいるのだろう。思わずイラッとするのは仕方ないと思う。



「なんだ。ベッタリだったから予想はしていたが、王はすっかり陥落していたのか。これは、セイド嬢に対する迂闊(うかつ)な事は言えないねぇ」



 その言葉に、フィーギスがソフィアリアに対して何か思うところがあったという事に驚いた。代行人から見ればいきなりこんな地位に立たされたというのに、全てを受け入れて立場を明確に理解し、未来を見据える事の出来る文句のつけどころがない素晴らしいご令嬢だと感じたのだが。

 正直察しがよくしっかりし過ぎていて、出会って二日目の自分こそが何故か励まされているくらいだ。

 このあたりは本当に情けなくなるので、もっとしっかりしなければと思う。王鳥はベタベタと物理的に甘えているが、代行人は精神的に甘えているような気がしてならない。



『陥落も何も余が連れてきた妃ぞ。だが、人間如きの(つたな)い見解に(もと)づく発言程度で不敬を言い渡す程、余は狭量(きょうりょう)ではないよ。妃もそんなにヤワではあるまい。発言を許す。申してみるがよい』



 そして王鳥は相変わらず、愛情を示しつつも全面的に護る気はないなと思った。

 ソフィアリアに対してどんな発言が出てくるのかわからないのに、それを口にする事を許してしまう。そしてそう言うからには酷い暴言でも本当に許すのだろう。そんな奴だと長い付き合いの中で知っていた。

 代行人(しか)り、愛情を持って崖から突き落とし、必死に這い上がる様を愛でるような奴である。ソフィアリアには必要以上に怯えさせない為に大鳥と人間は人間と愛玩動物のようなものだと話したが、正直そんなに生易(なまやさ)しいものではない。

 人間よりずっと高みにいる存在故の傲慢(ごうまん)さがあり、実際その実力も兼ね備えているので、たまに支配下に置かれているのを自覚して恐ろしさすら感じるのだ。人間が手綱を引けるような存在では絶対にない。

 なのに代行人という人間を介してでしか声が聞けないが為に、あろう事か軽んじる人間が居る。一代前までは代行人も王鳥のただの操り人形に過ぎず、王族との直接の対話すら拒んでいた為、意思を持って王鳥と会話出来る人間すらおらず、長い間誰もその事に気付いていないというゾッとする状況だった。

 フィーギスはそれを自覚していて、人間の代表として負けず対等に立つ為にあえて軽い言い争いをしているみたいだ。そういう所がやはり未来の国王として立つ教育を受けた、立派な人間だなと尊敬の念すら抱いていた。本人には絶対言わないけれど。


 代行人も代行人らしくある為にそれに(なら)うが、小馬鹿にされてあしらわれている気がしてならない。王鳥に気に入られているといっても所詮(しょせん)はただの……孤児だ。

 まあそれでも王鳥からの愛情を感じない訳でもないので嫌いではないのだが。ソフィアリアがこんな王鳥の本性を見ればどう思うだろうか。……やはりあの穏やかな笑顔で優しく受け入れるような気がする。彼女も彼女で、肝が据わり過ぎているのだから。



「――おやおや。王は君の妃に対する見解を、私達にお望みなのだね? いいとも。だが何を言っても決して怒らないと約束してくれたまえよ?」



 王鳥の言葉を聞けないプロムスとラトゥスの為に、自然な会話となるようにフィーギスは王鳥の言葉を幾分(いくぶん)か柔らかくして説明した。

 こういう話術も見事だなと羨ましく思う。代行人は代行人らしく、王鳥が話しているかのように擬態する事しか出来ない。


 フィーギスの言葉を聞いてプロムスはギョッと青ざめ、ラトゥスは渋い顔をしていた。この二人は王鳥に対して比較的ラフに接する事が出来るが、それでも王鳥の最愛への意見を目の前で話す度胸はないようだ。

 特にプロムスは新婚であり、妻であるアミーを溺愛しているから、自分より自分の愛する人を傷付ける危険性をよく理解している。



『許す。余が許可を出しているのだから、思ってもいないおべっかなぞ使えばその方が恐ろしい事になると思え』


「――お世辞やごますりはいらないんだね。ああ、ちゃんと理解しているさ。素直な言葉を口にするから、そう怒らないでくれたまえよ。全く、君の怒りのツボはわかりにくいねぇ」



 ヘラヘラと笑いながら空気を軽くするようにそう言ったフィーギスの言葉で、ソフィアリアについてのみんなの意見を話す事になった。

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