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【第三部番外編連載中】王鳥と代行人の初代お妃さま  作者: 梅B助
第二部 夜空の天人鳥の遊離
157/427

それぞれの道 7

激しい戦闘描写と児童に性的暴行を加えた後ような残酷な描写があります。

苦手な方はご注意ください。



 弟は数年ぶりに故郷に帰ってきました。


 連絡もなく突然帰ってきた弟に、兄とかつては女の子だった夫人はとても驚きましたが、二人は涙ぐみ、帰ってきた弟を歓迎しました。


 久々に家の中に足を踏み入れた弟は驚きました。弟が住んでいた頃よりも内装は立派になり、羽振りがいいと一目でわかる生活をしていたからです。

 どうやら継いだ家も成功を収め、また学生時代から続けていた『あるもの』が驚くような収益をあげていたようでした。


 弟も大出世しましたが、兄はその比ではありません。きっと家業は兄が継いで正解だったのでしょう。――そう自分を納得させました。


 そしてなんと、長年子宝に恵まれなかった兄夫婦のもとにようやく子供が出来たというのです。もうすぐ産まれるのだと話す兄夫婦は、家業も成功させ、家族も増え、幸せの形そのものでした。


 笑顔で見送られた弟はそのまま家から離れ、人のいない所で最愛のパートナーを呼び出すと、何だか釈然(しゃくぜん)としない思いを抱え、そのパートナーの()()()()()()()()。結局、二人に最愛のパートナーは紹介しませんでした。


 会いに来るべきではなかったと後悔しながら、パートナーに乞われたので自分達三人の事を教えました。


 ――そこでパートナーから、信じられない事を聞いたのです。





            *





 夜闇にまぎれた遥か上空で、オーリムは古びた廃屋敷を見据えていた。


 今まで制圧してきたどの拠点よりも内部に人気(ひとけ)が多いのは、ここが島都に程近いからか。よく中心地のお膝元でこんな事が出来たなと呆れるしかない。


 が、表情を引き締めると指示を飛ばす事にした。


「一班は北門を制圧後、内部に侵入し一階の制圧を。建物に入ってすぐの地下に武器庫があるから、まずはそこを抑えてほしい。二班は東門を制圧し、内部すぐの場所にある階段から上がり、二階を制圧。三班と四番は正面から突入し、正面階段から三階へ。五班は無理をしない程度に玄関付近で残党狩りを頼む」


「「了解!」」


 そう言って飛び降りていく鳥騎族(とりきぞく)を見送り、自分も剣と短剣を両手に出現させる。一番得意なのは槍だが、室内での戦闘だと大体この二振りを使う事が多い。勿論(もちろん)状況によるが。


「ロム、最上階にそのまま突入するぞ」


「りょーかい」


 軽い返事を聞きながら、オーリムもプロムスと共に最上階のバルコニーに着地すると、扉を破壊しながら内部に強行突破する。


「なっ、なんだっ⁉︎」


「きゃあああああっ‼︎」


 内部は最上階丸々を使った広い一室だった。かつてはここで舞踏会でも開催されていたのかもしれない。


 甘ったるい匂いと、目に飛び込んできた見たくもない酒池肉林に顔を(しか)めながら、鋭い目で彼らを射抜いた。


「投降する者はバルコニーに出ろ。抵抗する者は容赦しない」


「ちっ、なんでここがっ⁉︎」


 バタバタと半裸でバルコニーに出た者を除いて三十名程が残り、武器を手にしていた。おそらく正面の大男が大将なのだろう。


「ロムは右を」


「りょーかいっと!」


 ニッと好戦的な笑みを浮かべたプロムスが手に持った剣で切りつけて来た剣を受け止め、軽く払って吹き飛ばした。


 そんな様子を横目で見つつ、オーリムも近くにいた者から死なない程度に切り伏せていく。


 正面で打ち合わせていたら、後ろから切り掛かってきた者を右手に持つ短剣でガードして受け流しつつ、その短剣を右肩に投げつけて突き刺した。正面の奴は力任せに押し飛ばして柱に打ち付け、次に切り掛かってきた奴は剣を大きく振って数人まとめて薙ぎ払う。


 背中から一突きしようとした者の刀身を後ろ足蹴りでへし折り、側面に回り込んで裏拳を顔面に直撃させて気を飛ばし、正面に見えた者を一閃する。


 裏拳を繰り出した方の手に再度短剣を出現させて一度立て直すと、次々と切り伏せていった。


 途中、油断したプロムスの背に切り掛かかろうとした人が見えたので剣をぶん投げて相手の肩を貫通させ、ガラ空きになったオーリムの左側に居た人物はプロムスの投げたナイフが手のひらに突き刺さる。


 プロムスの方がコントロールが繊細だなと面白くない気分になったが、振り払って再度武器を構え直すと、最後の一人と対峙した。


「無駄にタフだな」


「面倒だ」


 残ったのはやはり大将だった。周りを片付けながら途中で何度か打ち合ったが、致命傷はお互い与えきれなかったらしい。


 プロムスは苦笑して、オーリムはウンザリした様子に腹を立てたようで、唸りとも叫びとも取れる奇声をあげながら襲いかかってくるのを二人で左右に避けながら、オーリムは左足を、プロムスは右肩を貫いた。


 バランスを崩した大将の背中に回り込んで足蹴りで床に引き倒しながら、剣を槍に変えて棒の部分で頭を強打し、気を失わせる。プロムスは念の為、逃走防止の為に右足も貫いていた。


 妖しげな甘い香りと血の匂いが混ざった異臭に不快感を感じる。この程度、息を荒げるまでもないのだが、戦闘で気が(たかぶ)るのはどうしようもなく、プロムスとお互い肩で息をしていた。


「んじゃ、ちょっくら下を手伝いに行くか」


「ああ」


 バルコニーの奴らは大鳥が見張っているので放置して、階下に向かおうとした途端。


 ガタンと音が鳴り響いてオーリムとプロムスは同時に武器を構えると、音の鳴った方を鋭く睨みつける。


 場所は乱れた大きなベッドの下。まだ誰か隠れているのかと身構えて、注意を払いつつ、そのベッドを渾身の力で上へと蹴り飛ばした。


「ひえぅっ⁉︎」


 そこに居たのは武器を持った男ではなく、上半身裸の細い少年だった。まだ十歳くらいだろうか。

 その事に驚き、慌ててプロムスがベッドを倒れてこないように押さえると、オーリムは子供の手を引いて、何もない所に避難させる事にする。


「っ⁉︎」


 少年の手を掴んだ途端、言いようのない不快感を感じたがなんとか気持ちを捻じ伏せて、何もない場所で手を離す。


 触った手が何処(どこ)となくピリピリするのを疑問に思っていた。


「何だ、あんたは?」


 だからそう尋ねたのだが、少年はオドオドとした涙目で、その場で正座をする。そして妙に綺麗な所作で深々と頭を下げ始めた。


「違うんですっ! ぼくはただ、お使いに来たらここに連れてこられてっ、ここで…………。でも突然の襲撃が怖くて、ついここに隠れてしまったんですっ! お願いします、信じてくださいっ!」


 そう言ってボロボロ涙を流すので、プロムスと顔を見合わせる。


 よく見るとベッド脇にこの少年の服らしき物が落ちているし、剥き出しの上半身には鬱血痕(うっけつこん)らしきものが散らばっている。突入時のこの部屋の惨状を考えれば、何となく事情を察して顔を(しか)めた。


「あー、災難だったな? 悪い夢でも見たと思って、今日の事は忘れろ」


 そう言ってプロムスは少年を慰めようとしたのか、頭にポンッと手を乗せると


「うおっ⁉︎」


 プロムスもあの感覚を感じ取ったのか、すぐに手を避ける。手と少年とを交互に見比べ、オーリムに視線を向けてきたので、とりあえず首を縦に振っておいた。


「……あんたは何だ?」


 何故そんな事になるのかわからずに再度そう尋ねると、涙を止めようとしたのか目を必死に瞬かせ、もう一度深々と頭を下げ、言った。


「ぼ、ぼくはミクスですっ!」


「いや、名を聞いた訳ではないが……」


「み、身元ですか……? ぼくは今、ペディ商会とその侯爵さまの従者をしておりますっ!」


「はあっ⁉︎」


 こんなところで思わぬ名前が出てきた事によりプロムスが素っ頓狂な声をあげ、オーリムは逃げ出さないように両肩を掴む。

 ゾワゾワとした不快感が手を通じて全身に広がるが、今はそれどころではないので後回しだ。


「ひいっ⁉︎ な、なんですかっ?」


「ペディ商会の人間だというのは本当か?」


「う、ウソついてませんっ! 今日は商会ではなく侯爵さまのお使いですが、手紙を届けに来ただけなんですっ! 捕まるような事は何もしてませんっ!」


 切々と訴えかける少年――ミクスに嘘はないように思う。触れた時の独特な感触がなければ、普通の少年だ。


 けれど。


「なんで侯爵の使いがここに居るんだ? ここがどこだか、わかってんのか?」


 そう、それが疑問なのだ。


 ここは王鳥が指定したアーヴィスティーラの拠点の一つだ。イン・ペディメント侯爵家とアーヴィスティーラは情報的には繋がりがあるのは間違いないが、まだ何の証拠も出て来ておらず、繋がりがあるなんて知られる訳にはいかないだろうに、何故こんなあっさりと見つかるような真似をしたのか。


「わ、わかりません……。来たら古いお屋敷で、ガラの良くない人と繋がりがあるんだなとは思いましたが、ぼくは言われた事をやるだけですから……」


 ビクビクしながらそう言うので、子供だから油断して怪しまれないだろうと思ったのか、不要になれば切り捨ててもいい人間だと思われたのか。

 細い身体を見て、なんとなく不憫に思えてしまう。


「とりあえず服を着ろー。寒いだろ?」


「は、はいっ!」


「で、その手紙はどうした」


 いそいそとシャツとベスト、コートを着ている最中に話しかけられたミクスは困ったような表情を浮かべ、コートの内ポケットから手紙を見せた。


 オーリムはそれを、当然のように奪い取る。


「あっ! ダ、ダメですよっ! ぼくが怒られます!」


「俺は王……王鳥の命を受け、王太子の許可で動いている。見せなければあんたは反逆罪だ」


「ひえっ⁉︎」


 とりあえずそう言って黙らせ、中身を(あらた)める。


「…………は?」


 途端、絶対零度の不機嫌そうな声音と威圧感が漏れ、部屋の温度が物理的に下がるのを感じた。

 プロムスはそんなオーリムに近寄り、落ち着かせるようにポンっと肩に手を乗せる。


「落ち着け。何書いてあったんだ?」


「……あとで教える。今はまずい。ミクス」


 ともすれば爆発しそうな怒りを必死で抑え込み、オーリムは今まさにコートを着終えたミクスを見て、言った。


「あんたはきちんと手紙を届けて、俺達とは入れ違いになった。それが事実だ」


「えっ、でも……」


「ミクスが黙っていればバレない事だ。嫌ならあんたを三日間牢で監禁しなければいけないし、その先はろくな事にならない。もちろんこの事は他言無用だ。わかったな?」


 念を押して脅しを掛ければ、ミクスはピャッ!と飛び上がり、真っ青なままコクコクと頷く。


 オーリムも一度首肯すれば、下の階の制圧が全て完了した鳥騎族(とりきぞく)がここに報告に来た。身内の重傷者なしで、難なく制圧出来たようだ。

 事前に連絡しておいた島都の兵士も今、到着したらしい。


 それぞれにこれからの指示を飛ばし、最後にオーリムはミクスを見る。


「ミクスも帰れ。もう遅いし、島都の兵に近くまで送らせる」


「うえぃ⁉︎ い、いいんですかっ⁉︎」


「ああ。ただし先程の言葉は王鳥も聞いている。破れば命の保障は出来ないから、今日あった事は全て忘れろ。いいな?」


「わ、わかりましたっ!」


 シュバっと立ち上がり、右手をまっすぐ上に挙げてそう誓ったのを確認し、兵士達がバルコニーに居る人間を連行するついでにミクスの事も引き渡した。


 ミクスは礼か先程の脅しの事かはわからないが、ペコペコと何度も頭を下げ、連れられて行ってしまった。


「……よかったのか? あのガキ、なんか変だぞ?」


「今はな。どうせ近いうちにまた身柄を拘束する事になる。……それより今は、何事もなく帰ってもらわなければならない。今は油断させて、必ず侯爵を――黒幕を捕まえてやる」


 思わず手に持った封筒を握りつぶそうとして、慌てて手を緩めた。これは重要な証拠となるものだ。


 プロムスに目を(すが)められたので何も言わず手紙を差し出し、自分で読むよう促した。ここで口に出すような真似は一切出来ない。

 プロムスは受け取ると中身をザッと読んで、ギョッとしたように目をかっ開く。


「っ! はあっ⁉︎」


「声に出すなよ? ……終わったらフィーの所に見せに行く」


 難しい顔をしてそう言えば、プロムスも神妙に頷いた。


 捕縛は島都の兵士達に任せているので、あとは鳥騎族(とりきぞく)達とこの廃屋敷を隈なく調べ、何か見つからないかと調査する必要があるのだ。

 もちろん仕事は丁寧にしたが、今は手紙の内容が気になり、この日ばかりは酷くもどかしい思いをする羽目になった。





 ――商会の夜会を二日後に控えたこの日の夜、オーリム達が制圧したアーヴィスティーラの拠点の一つからは、島都に近いだけあって多くの物が証拠として回収された。

 またこの日になって、ようやく今のアーヴィスティーラの本拠地が判明する。


 場所はセイド領の近く。オーリムは明日の早朝、本拠地を叩き潰す事を皆に通達すると、鳥騎族(とりきぞく)達を大屋敷に帰し、プロムスを伴って王城のフィーギスの元へと飛んだ。


 本日回収した中でも最重要となる証拠は、オーリムがミクスというペディ商会の従者の少年から回収した一通の手紙。

 内容は、ペディ商会主催の夜会の襲撃計画と――その襲撃の混乱に乗じて、王鳥妃(おうとりひ)ソフィアリア・セイドを暗殺するよう書かれた、現王妃殿下からの依頼書だった。




念の為言っておきますが、ミクスは未遂です。

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