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【第三部番外編連載中】王鳥と代行人の初代お妃さま  作者: 梅B助
第二部 夜空の天人鳥の遊離
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弟の心変わり 3



「君は大した役者だな」


 夜会で聞き込みをした結果、ウンザリとするような事実が出てきたので精神的な疲労を感じつつ、帰りの馬車の中でラトゥスにそんな事を言われた。


「そうでしょうか? 本心と表面上の顔が違うのは、貴族では普通では?」


「違いないが、君はずば抜けているように思う。ソフィアリア様もなかなかのものだったが、君の方が上手(うわて)だろう。……プロディージが社交デビューしても、タロウニオと同一人物だとは思われないはずだ。今日は助かった。礼を言う」


「お役に立てたのなら幸いです」


 そう言われれば悪い気はしない。とりあえず、プロディージと頭の悪そうな放蕩(ドラ)息子タロウニオが同一人物だとバレないのなら、この疲労感も報われるというものだ。


 ふと、そういえばメルローゼが、姉が頭の悪い田舎娘らしいという噂が流れていると憤慨(ふんがい)していた事を思い出して、一瞬遠い目をしてしまった。王鳥妃(おうとりひ)としてそう振る舞っているらしいが、頭の悪い田舎者になりすます事を思いつくあたり、考える事は似ているようだ。


「……しかし、まさかこんな結果が出てくるとは思わなかったな」


 ラトゥスが夜会で収集した情報を思い出したのか、困ったように溜息を吐いていた。プロディージもついウンザリした表情を晒してしまう。そのくらい、厄介な話を聞いてしまったのだ。


「……フィーギス殿下やフォルティス卿の周りには、ピンとくる方はいらっしゃらなかったのですか?」


「あの年代の者はだいたい引退して、領地に戻っているものだ。それに、おそらく活動していた期間だって、かなり限定的だったのではないだろうか?」


 なるほどと思い、(うなず)く。流行っていたのが主に下位貴族だという事もあるのだろうが、知っている人は知っている話なので、どこかで小耳に挟む事もあったかもしれないのに、ラトゥス達は今まで一切知らなかった話らしい。それを踏まえると、かなり局地的な流行だったのかもしれない。

 それに、アーヴィスティーラなんていう暗殺組織の名前を知る者もそう居ないはずだ。活動は国外の方が長く、国内では一部の高位貴族と、裏家業を知りたがるろくでもない家くらいか。それと今日知った話を結びつけるのは、難しいだろう。


 そんな事を話し合っている間に、馬車はラトゥスの屋敷に到着したらしい。プロディージはここに大屋敷からの馬車を回してもらっているので、乗り換えて帰路に着く予定である。


 ラトゥスが馬車から降りるのを見届けて、プロディージも降りる。隣に大屋敷の馬車が停めてあるのを確認し、帰る前に挨拶を済ませようと、ラトゥスと向かい合った。


「フォルティス卿、本日はいい経験をさせていただきました。明日もよろしくお願いいたします」


「不快な扱いをしたのにそう言ってくれるのなら、僕も救われる。君の身に付けている変装技術や話術は、社交界でも必ず役立つだろう。立場を持たない人間なら、僕は君を雇いたいと思ったくらいだ。……明日も頼む」


「ええ、お任せください。では、本日は失礼します」


 それだけ言うと頭を下げ、大屋敷の馬車に乗り込む。さすがに代行人の乗る馬車ではないが、この馬車もプロディージが新たに買った馬車より随分と乗り心地がい……少しイラッときたのは内緒だ。


 走り出した馬車の車窓からラトゥスにもう一度頭を下げ、今日得た情報を紙にまとめながら、考え事をしていた。

 なにか、途轍(とてつ)もなく嫌な予感をひしひしと感じるのだ。





            *





 疲れた身体に甘い物を欲して、風呂と着替えを済ませて食堂へと向かった。プロディージにも男性の使用人をつけようかと姉は言っていたが、セイドでは自分の身支度は自分でやっていたし、(わずら)わしいし、機密文書を読み込むので断ってしまったのだ。

 これだけ大きな屋敷なので、食堂には使用人が常駐しているはずだとあたりをつける。いなければ使用人棟や別館にも食堂があると聞いたので、もう遅い時間だが、ギリギリまだやっている時間のはずだ。そう信じたい。


 まずはいつもの食堂に出向き、扉を開けると明かりがついていた。まだ誰か居るんだなとほっとするが、部屋を見回して見つけたその人物に、思わずジトリと視線を投げかけてしまった。


「……何してんのさ、姉上」


「あら、おかえりなさい。お仕事お疲れ様」


 ふわりとしたいつもの表情を浮かべ、部屋の隅のソファに座って本を読んでいたのは、夜着姿の姉だった。ショールを羽織っているとはいえ、ここにいていい格好ではないだろう。通いの家政婦以外は家族しか居なかったセイドの屋敷ではないのだから。


「料理人は?」


「ここはもうお仕事は終わりよ。仕えるのがリム様とわたくしだけだから、晩餐(ばんさん)を終えたら使用人棟か別館の食堂の応援に行ってもらっているの。どうしても食べたくなったら、自分で作るか別の食堂に行くわ」


 わたくしはまだ行った事がないけど、と笑って立ち上がると、厨房の方に歩いていく。なんとなく、プロディージもその後に続いた。


「夜会で疲れたから甘いものでも食べたがると思って。あまり食べる事の出来ない、とびっきりのものがあるのよ?」


 くすくすと楽しそうに厨房の箱から何かを取り出している姉の言葉にグッと(うめ)いてしまった。さすがというかなんというか、考えはお見通しらしい。


 トレーに何か見慣れないものを置いて運ぼうとしたので、すかさず取り上げる。


「ありがとう。ロディは相変わらず紳士的ねぇ」


「近くで観察したいだけだから」


 なんて、可愛くない言葉が口から飛び出てくる。長年の癖というものは、色々とどうしようもない。


 食堂に戻ってきて向かい合った場所にそれぞれ並べ、席に着く。観察したが、添えられた棒クッキーといちごしかわからず、この白いものが何なのか知らない。


「これは?」


「アイスクリームよ。今日のデザートだったの。今は冬だけど、冷たくてとっても美味しいわよ。氷菓子なんて滅多に食べる事が出来ないでしょう?」


 思わず目を見張った。朝、メルローゼに夏には氷菓子が大屋敷内で流行ったと話しているのを聞いたが、これがそうらしい。氷なんて高級品だし、高位貴族でもなければ家に常備していない。更に氷菓子なんて、氷山のある領地でしか食べられないものだ。


「へぇ〜、これがそうなんだ?」


「ええ。溶けないうちに食べましょうか。いただきます」


 そう言って姉はひと足先に手を合わせ、食べ始める。プロディージも手を合わせ、いただきますと挨拶をしてから、その魅惑のスイーツをスプーンで(すく)い、口に運んだ。


「……美味しい」


 そして見た目以上に甘くて驚いた。砂糖を入れて煮詰めた牛乳の濃厚な味と、食べ慣れない冷たい食感がとても美味である。一瞬で好きになって、思わず夢中になって食べていた。


 対面で姉が、微笑ましそうにくすくす笑っているのも気付かずに。


「一気に食べると頭がキーンと痛くなるわよ?」


「いっ⁉︎」


「ほら、もう。だから言ったじゃない」


 もっと早く言えとギロリと(にら)み、キンキン痛むこめかみを抑える。身体も冷えるし、たくさん食べられるものではないらしい。非常に残念である。

 まあ、本来は高級品なのだ。そう気軽に食べられるものではないので、ゆっくり味わって食べる事にする。


「明日はシャーベットを用意しておくわ。でもロディはアイスクリームの方が好きそうね?」


「ふーん? だったら両方作っておいてよ」


「まあ! なんて我儘(わがまま)な子なのかしら。でも、ふふっ、お願いしておくわ。ロディのそんなお顔、滅多に見られないもの」


 そう言われてギュッと眉根を寄せる。無意識だったが、よほど締まりのない顔でも(さら)していたのか。よりによって姉の前で大失態だ。

 面白くなくて、そのまま無言で食べ進める事にする。姉も空気を読んだのか、黙々と食べ進めていた。


 そうしていたら早々に食べ終えてしまった。名残惜しいが、今日はこれまでらしい。でも疲労感しか生まない夜会のご褒美がこれなら、悪くないと思った。


 器を厨房に持っていき、洗う。個別で使った食器は自分で洗うのがセイドでは当たり前だったので無意識だった。


「あら、ありがとう」


「お礼を言われる事じゃないし。じゃ、僕はもう行くよ。ご馳走様」


 そう言って出て行こうとすると、姉にスッとバスケットを差し出される。


「……何?」


「今日は徹夜をするのでしょう? 全部ではないけれど、頼まれていたものを作っておいたから、お夜食にでも食べてね」


 そう言われて目を丸くする。セイドにいた頃は徹夜で本を読んでいたら怒られたのに、まさか応援されるとは。自分の為ではなく、調査の為だからだろうか。


 バスケットを(のぞ)くと、フィナンシェとミニタルトと小さなパイ。どうやら昨日、オーリムと言い争っていた時に言った言葉を覚えていたらしい。

 心が(くすぐ)ったくて、不快だ。朝、ガゼボでオーリムにも言われた事もあるし、素直にお礼も言えないプロディージはつい、ニッと口角を上げ、可愛げのない言葉を言い放ってしまう。


「さすが姉上。よくわかってる」


「ええ。だってわたくし、お姉ちゃんだもの。……頑張ってね」


 微笑まれながらポンっと肩を叩かれ、姉は行ってしまった。だからプロディージはお礼の言葉ひとつ、結局言えなかったのだ。


 バスケットの中身にホクホクしつつ、機密文書の置いてある執務室へと向かいながら、考え込んでいた。

 どうやら姉はわざわざプロディージをねぎらう為だけに食堂で長時間待っていて、甘い物を欲するだろうと想定し、アイスクリームまで用意して、帰りを待っていてくれていたらしい。


 更にフィーギス殿下が持ってきてくれた資料を徹夜で読む事も考えて、半分軽口で言った焼き菓子までわざわざ作ってくれていた。


 セイドにまだ姉が居た頃は甘受していた事だ。けれどこれは仕方ないから受け取ってやる、なんて態度で貰える優しさでは絶対にない。オーリムに甘えていると指摘されるまで、その実感すらなかったのだから、つくづくどうしようもない人間だと思う。


 いい加減、姉にしてしまう反抗期の子供のような態度は改めるべきなのだろう。本当はセイドにいる間にそうしなければいけなかったのに、その機会を逃したのはプロディージの甘えのせいだ。

 もうすぐ誕生日を迎え、成人を迎えるのだから。いつまでも子供のまま、甘えたな弟のまま、姉の庇護下に居続けるなんて事は出来ないし、矜持(きょうじ)が許さなかった。



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