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【第三部番外編連載中】王鳥と代行人の初代お妃さま  作者: 梅B助
第二部 夜空の天人鳥の遊離
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初恋のやり直し 3



 ソフィアリアが行ってしまったのを名残惜しく見送りながら、王鳥の上から降りる。姿を消していた為、突然現れたオーリムと王鳥にプロディージがギョッとしたのも一瞬で、すぐに呆れたような視線を投げかけられた。


「……何、オーリムも覗いていた訳?」


「フィアに無事を報告しに来たんだが、大事な話をしていたから声をかけるタイミングがなくてな」


 ギュッと眉根を寄せ、バツが悪そうに視線を逸らす。


「姉上にわざわざそんな報告いる?」


「俺がしたいだけだ」


「ふーん。なら、さっさと行けば」


 興味なさそうに突き放され、少し考えてから、ぼんやり机の上のお菓子を食べているプロディージの向かいに座る。


 案の定ギロリと睨まれた。


「……何?」


「フィアの事は名残惜しいが、今はロディに言いたい事と聞きたい事がある」


 そう言うと鬱陶(うっとう)しそうに睥睨(へいげい)してくるが、追い出されないところを見ると興味は引けたらしい。なら、遠慮なく話を続ける事にする。


「じゃあ言いたい事。フィアはもうロディの姉じゃない」


「…………は?」


 半眼で何言ってんだこいつと言わんばかりの視線を受けたが、何よりも大事で一番重要な事だから譲るつもりはない。


 オーリムは言葉を続ける。


「昨日フィアにも言ったが、今のフィアは俺と王の妃で王鳥妃(おうとりひ)だ。残念ながらロディの姉なんてやっている余裕はない」


「ピ!」


 腕を組み堂々と言い切ると、しばしの薄ら寒い沈黙の後、呆れたようにポツリと呟かれた。


「……馬鹿なの?」


 その言葉が一瞬胸を貫きそうになるが、意地で跳ね除ける。そんなオーリムにプロディージは更に言葉を連ねた。


「うん、オーリムは馬鹿だった。知ってた。……あのさ? 嫉妬か何か知らないけれど、血縁関係なんて嫌でも切れる事はない訳。そんな事が出来るなら、クソジジイと姉上は真っ先に切ってるし、大体僕は――」


「そうやって言い訳をして、いつまで姉離れしないつもりだ? 甘えるのも大概にしろ。俺の周りに姉妹が居る人間というのがフィアくらいしかいなかったから見た事はないが、ロディみたいな奴を『シスコン』と言うんだろ?」


 そう指摘してやった途端、ピリッと空気が張り詰めて鋭く睨み付けてくるが、撤回してやらない。何も間違った事は言っていないと断言出来るからだ。


「……僕がシスコンとか、オーリムは目も節穴な訳? 僕にとって姉上は目の上のたんこぶで恨みの対象。はっきり言ってしまえばいない方がマシな存在。それがどうしてシスコン扱いされなきゃならないのさ? 冗談でも笑えないよね」


「フィアも慕われている自覚がなかったみたいだが、まさかあんたも自覚がないのか?」


 昨夜空を飛んで話を聞いた時に感じた事だ。ソフィアリアは多分、プロディージから執着される程好かれているとは思っていない。


 無遠慮に甘えてくるので、ある程度懐いてくれているのは察しているようだが、それと同じくらいかそれ以上は嫌われていると思っているようだ。察しのいいソフィアリアがオーリムでも気付いた好意を見逃しているのが不思議で、ずっと心に残っていた。


 まあ、今ならなんとなくその理由は察したが。でもそれは、オーリムにとっても王鳥にとっても見逃せない事だ。だから手は打っておきたい。


 プロディージもプロディージで毒舌で照れ臭さを隠したのかと思ったが、異様に張り詰めた雰囲気と変わらない表情を見ると、どうやら本気で言っているらしい。その事に驚いて、けれど血の繋がりを感じて苦笑する。


 ならまずは、自覚を促してやらなければ始まらない。


「フィアからロディの事はある程度聞いた。愛情を確かめる為に酷い態度をとって自分に向けられる愛情を測ると。辛く当たってしまうのはロディなりの愛情表情なんだと。……その理屈で言えば、ロディが誰よりもキツいのがフィアだから、その分誰よりも愛が重い事になるだろ」


 思いっきり嫌そうに顔を(しか)めているが、間違っていないと思っている。


 プロディージのソフィアリアに対する暴言と態度の悪さは相当だ。ソフィアリアがオーリムを慰めただけで狂信者だと怒り出した時には意味がわからなかった。……正直今でも意味がわからないが。

 もしそれが姉を誰にも取られたくないが(ゆえ)の行動なら、多少はわかる気がしなくもない。

 だからと言って譲るつもりはさらさらないが、そうだとすればプロディージのソフィアリア好きはメルローゼに並ぶのではないかと思っている。


 それに、そう思う気持ちはよくわかるのだ。


「俺もそうだったが、フィアから与えられる無償の愛は安易に人を陥落させる。言葉と行動で惜しみなく愛情を注いでくれて、何も言わなくてもほしい言葉と行動をくれて、気持ちを察して先回りして待っていてくれる。それでいて見返りは一切求めてこないし、どれだけ酷い事を言ってもそれは変わらない。特に昔の俺やロディみたいな愛情に飢えた子供なら、そんなフィアに簡単に絆されて溺れるからな」


 自分で言ってうんうんと頷いてしまった。


 セイドで初めて会った時、近寄るのも(いと)う薄汚いスラムの孤児だったラズという子供を普通の子と変わらないように接し、優しくしてくれた。

 大屋敷で再会した際、ろくに事情を話さないオーリムに自然と寄り添って励まして、王鳥と二人に恋をしたと言って精一杯の恋心を惜しみなく向けてくれた。


 そんなソフィアリアに憧れを抱き、それが恋に変わるまで時間は掛からなかったのだ。それほどオーリムはソフィアリアの心地よい愛情に溺れきってしまっていた。


 オーリムは親というのが物心ついた頃から居た事がないし、周りもそういう人間ばかりだったので詳しくは知らないが、王鳥(いわ)く、まるで母親のような愛情の注ぎ方をするのがソフィアリアという人間らしい。


 どんなに自分を律していても、自分の事を甘やかしてくれる人間には案外弱い。特に心に何か抱えて疲弊している程、ズブズブと溺れるように堕ちていく。

 ソフィアリアはその権化のような存在だが、程度も弁えているので堕ちきる事はない。だがそのギリギリまで甘やかして優しくしてくれる。絆されるなという方が無理な話であろう。


 プロディージだって生まれた時から祖父に無視をされて、両親はソフィアリア奪還に気を取られて寂しい思いをしていたと聞いた。正直両親の方はプロディージが望み過ぎなだけで、きちんと愛されていただろうにと思わなくもないのだが。

 教師は頑張れば褒めてくれたらしいが、それは無償の愛とは呼ばない。


 そんな愛情に飢えたプロディージがソフィアリアに愛情を向けられて、絆されない訳がないのだ。


 ソフィアリアの事を考えて思わず頰が緩みそうになっていたら、プロディージは呆れたように溜息を吐いた。


「勝手に一緒にしないでもらえる? 僕はあの人が本当に嫌いなだけだから」


「嫌いな相手に手作りの菓子なんて強請(ねだ)らないだろ。俺と王にとってフィアの手料理は特別だが、フィアはプロでもなんでもないし、この大屋敷には料理人だっている。何故わざわざ嫌いな相手に誕生日の菓子なんて頼む?」


 そう言うと忌々しげに睨むのだから、案外わかりやすい奴だ。それらしい言い訳を並べつつ、けれど行動は矛盾している。これで心底嫌いだなんて無理があるだろう。


 まあ本人も複雑なのだろう。生まれてからずっと憎んでいた相手に誰よりも優しくしてもらえて、愛情を向けられる。

 嫌いなのに絆されて、結局感謝も素直に示せないまま、気持ちのやりどころを決定づける前に引き離されてしまった。


 だからといって、オーリムも王鳥もソフィアリアを返すつもりは一切ないが。


「認めないならなんでもいいが、いつまでも好き勝手に甘えるのだけはもうやめろ。そんな調子だからフィアは気にして弟離れもなかなか出来ないし、ロディもいつまで経っても自立出来ないんだろ」


「そもそも姉上に甘えているつもりはないんだけど?」


「無自覚なら、なおタチが悪い。ペクーニア嬢にあんな事を言ったのも、どうせまた二人でフィアに会えるからって気が緩んだせいでもあるって考えたんだが、間違っているか?」


 グッと息を詰まらせる所をみると図星らしい。だから半眼で呆れたように睨み返してやった。


 プロディージがここに来るのは決定事項だったが、島都学園の入学試験があるからメルローゼもいずれ島都にやってきて、近くに来るので友人であるソフィアリアに面会しに行くだろうというのは予測出来たのだろう。もしくは会いに行きたいと聞いたのかもしれない。


 最後の喧嘩で言い放った言葉はメルローゼも大概だが、プロディージの言葉はなお酷いし、メルローゼのような(もっと)もらしい理由もない。プロディージの執着心を見ていると、本音ですらないのだろう。

 なら何故そんな事が言えたのかと考えれば、おそらくどんなに酷い喧嘩をしてもソフィアリアが助けてくれると思ったからだ。もしかしたらそうやって、メルローゼだけではなくソフィアリアの気も引きたかったのかもしれない。


 誤算だったのは第三者の介入で婚約解消されたうえにソフィアリアから突き放され、更にメルローゼが心変わりしそうになっている三重苦を味わっている事か。正直自業自得だとしか思わないが、それでも妙に放っておけないのだ。

 こんな奴でもソフィアリアの弟だからか、彼女が可愛がっているからか、もしくは王鳥の言う双生(そうせい)というのが関係しているのか。


 なんでもいいが、大事な弟を突き放すような事しか出来ないとしょんぼりしてしまっているソフィアリアの為にも、さっさと立ち直ってどうにか前を向いてほしいものである。


 こうしてソフィアリアに会う時間すら割いたのだ。多少の協力はしてやらなくもないと思っていた。


 まあ、その実態はソフィアリアにはさっさと弟離れしてもらって、これから先共に歩むオーリムと王鳥にだけ心を砕くべきだという下心も大いにあるのだが。


「言いたい事はこれで全てだ。フィアにいつまでも甘えるな、いい加減姉離れしろ。これに尽きる」



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