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【第三部番外編連載中】王鳥と代行人の初代お妃さま  作者: 梅B助
第一部 黄金の水平線の彼方
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初代王鳥妃として 4

 紅茶を飲みながらしばらく休憩とばかりに談笑し、半分ほど飲み終えた頃合いでフィーギス殿下が顎に手を当て、あからさまに探るような視線を向けてきた。



「にしてもセイド嬢は肝が据わっているね。いくら王命とは言えこんな王の妃だなんて、泣き暮れても仕方ないと思うのだが」


「ビピッ⁈」



 心外とばかりに声を荒げる王鳥を宥めるようにそっと撫で、大丈夫という言葉の代わりに深くもたれかかった。



「そうでしょうか? これ以上光栄で幸福な嫁ぎ先はないと思いますわ。……まあ、少々驚きました。我が家に王命が下る事も、王鳥様と代行人様のお妃様にと望まれる事も予想しておりませんでしたもの」



 王家からの封書が届いた時の家族の様子は、それはもう大変な事になっていたなと思い出した。今では笑い話だ。

 王家からという事実だけで震え上がる小心者の父にポカンと固まるのんびり屋の母、いち早く内容を改めて深刻な顔をする将来有望な弟に、お城からのお手紙だとキャッキャとはしゃぐ小さな妹。


 四日前に別れたばかりなのに、なんだかもう懐かしい。



「無茶を言ってすまない」



 またそう言って落ち込んでしまった代行人に笑みを返し、首を横に振る。どうもこの代行人は背負い込みと後ろ向きが過ぎると思う。今後はもっと自己肯定感を高めてあげなければとこっそり誓った。



「驚いただけで嫌ではないのです。今では素敵な未来の旦那様達と出会えて幸運だと感じておりますわ」


「そ、そうか……」



 ついでに照れ屋だ。こういう表情を見ていると、代行人という役割を担う雲の上の人というよりも、年頃の普通の少年のように身近に思えるので結構好きだなとソフィアリアは思う。



「はは、見せつけてくれるねぇ。私も隣国に亡命したくなってきたよ」


「フィーギス殿下に亡命されると国が滅びますのでおやめください。隣国は亡命出来る程平和でもいい国でもないでしょう」


「王がいなくてマーヤがいるだけで、心の安寧は保たれるとも。その分、身の危険だけは倍増するけどね!」



 フィーギス殿下は今までよっぽど酷く王鳥に振り回されてきたようだ。そしてマヤリス王女に会えなくて寂しいらしい。そんな殿下の婚期を遅らせてしまった事は本当に申し訳なく思う。


 それにしても、殿下の後ろに控えていた彼の声を初めて聞けたなと思う。今更だが、侍従だと思っていた彼の正体に思い至る。

 おそらく彼はラトゥス・フォルティス伯爵令息。水色の異国混じりの髪色と暗い青の瞳が特徴的な、フィーギス殿下の乳兄弟でありご学友で、今は側近だった筈だ。クールな表情とスラっとした風貌で人気があると聞いた事がある。

 フォルティスの名の通り、彼の実家はフィーギス殿下の母のご実家の分家だった筈。貴族なのにこの大屋敷に入れるなんて珍しいなと思った。大鳥は後ろ暗い事をする人間とその親族を毛嫌いするので、基本的に大なり小なりそういった事はやっている貴族はここに入れる人の方が稀だ。

 もちろんソフィアリアやフィーギス殿下のような、特例で出入り出来る人もいるのだが。

 つい視線を向けたらバッチリ目が合ってしまったので笑って目礼しておいた。どうやら観察されていたらしい。別段困る事もないし、気付いたからと言ってわざわざ追求する理由もないから知らないフリをしておこう。



「王子って大変だな」


「まあね。半分は君の相方のせいなのだけど。……話を戻すが、セイド嬢がすんなり受け入れてくれて本当に助かったよ。嘆き悲しむ女の子を生贄(いけにえ)に捧げるような真似は、さすがの私も良心が痛むからね」


「ビィ〜」



 フィーギス殿下の物言いがよほど不服なのか、まるで仲の良さをアピールするかのように王鳥は顔を擦り付けてくる。それは可愛いのだが、少し(くちばし)を肩口に掠めさせて、あわよくばを狙うのはやめて欲しいとやんわり静止しておいた。



「そんな君にささやかな礼ではあるが、私は出来るだけ君に協力し、力になりたいと思っているのだよ。もちろん限度はあるのだが、何か私に出来る事はあるかい?」


「まあ! フィーギス殿下はわたくしにも振り回されるおつもりなのですか?」


「セイド嬢だったら大歓迎だとも」



 軽口かと思えば結構本気らしい。そしてなんでも叶えてくれそうな反面、なんとなく試されているのはわかった。悪い気はしなくて、むしろそういう慎重さを持つフィーギス殿下が次代の王でよかったとすら思うの生意気だろうか。



「……何かあれば俺が叶える」



 ボソリと小さな声で発せられた、対抗意識を持ってくれたかのような代行人の言葉に気持ちが少し浮つく。ニコニコしながら、早急に必要な事は何かを考えてみた。



「リムでは限度があるだろう? ああそうだ。来季の社交シーズンの終わりにやる王城主催の最後の舞踏会で王鳥妃(おうとりひ)のお披露目をするからそのつもりでいてほしい。これだけは、拒否権は与えられないよ」


「……あらまあ」



 思わず頬に手を当てる。それはシーズン最後だからと貴族ほぼ全員が一堂に会する大舞踏会の事ではないか。そこで一身に注目を集める事になるだなんて、一男爵令嬢には気が重い。

 が、もうただの男爵令嬢ではいられないのだ。必要ならいくらでも頑張ろうではないかと己を叱咤(しった)し、笑みを浮かべて姿勢を正した。



「ええ。必要な事なのでしたら謹んでお受けいたしますわ」 


「ありがとう。逃げられなくてよかったよ」



 悪戯っぽくそう言って笑った瞳の向こうに何か含みを感じて、なるほど何かあるのかと察した。が、まだ見ないフリをしておく事にする。

 どうせ逃げられないなら気にしても仕方がないし、他にも色々備えておかなければならないので、そこに気を回す程の余裕もないのだ。



「聞いてないんだけど」


「ビィ」



 フィーギス殿下の企みに気付いていない、嫌そうな代行人と王鳥を見ていると、それはフィーギス殿下の独断らしい。

 なら全て終わった後のフォローもしなければいけないかもなと心に留めておく。ソフィアリアに出来るのはそのくらいだろう。



「今初めて言ったからね。リムでも王でもいいから、人間の余興に付き合いたまえ。これはセイド嬢の立場を明確にする為に必要な事だよ」



 そこまで言われると渋々了承したようだ。――とても嫌そうではあるが。二人とも貴族嫌いだから、ソフィアリアを貴族達の好奇の目に晒したくないのだろうと思うのだが、過保護だなぁと苦笑してしまう。



「王城主催の最後の舞踏会なら大舞踏会ですよね? わたくし達も踊るのでしょうか?」


勿論(もちろん)。ついでに私とも踊ってくれたら嬉しい。――――嫌だと言うが、君の要望に応える為には私の地位も確立しておかねばならぬのだから協力したまえ。他の奴らには絶対触らせないから。ね?」



 嬉しいと伺いを立てつつ決定事項らしい。協力は(やぶさ)かではないのだが、国で一番人気のあるフィーギス殿下と踊ると女性からの視線が痛そうだなと遠い目になる。

 また言い争いが始まった王鳥とフィーギス殿下の間に挟まれつつそんな事を思っていた。

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