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【第三部番外編連載中】王鳥と代行人の初代お妃さま  作者: 梅B助
第二部 夜空の天人鳥の遊離
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二人の言い争い 2



「候補に、ですか」


 確かに手っ取り早いとは思っているけれど、相談役で済ませられるならその方が嬉しいと思っていたので落胆は大きい。やはり甘かったようだ。


「王はペクーニア嬢が新たに婚約を結ぶのも困るらしいからね。相談役だと婚約までは口出し出来ないだろう? イン・ペディメント侯爵家と婚約して、ペクーニア商会ではなくペディ商会としてこの大屋敷に出入りされるのは目に見えている。私は政敵をこの大屋敷の相談役にするのは良しとしないよ」


 言われて、それもそうだと思う。どうも今日のソフィアリアは冷静ではないらしく、思考が色々とおかしいと自覚し始めた。


 フィーギス殿下もそれを見抜いているのだろうし、オーリムにもバレているのか心配させてしまっている気がする。


 首を振って、気持ちを落ち着かせるように深呼吸した。


「……申し訳ございません。少し冷静になりますわ」


「構わないとも。いつも助けてもらっているのだし、今日くらいゆっくりしたまえ。……私としてはペクーニア嬢を矢面に立たせて相談役か側妃か曖昧(あいまい)な噂を流して、どこかで正式に発表出来ればいいと思っているのだけどね?」


「シーズン終了後で大きな夜会が無いのが痛いな」


 腕を組んで溜息を吐くラトゥスの言う通り、社交シーズンの終わりにある大舞踏会は終わり、今は冬の季節だ。王城勤めの高位貴族など島都に残っている貴族も居るとはいえ、ほとんどの貴族は領地に帰ってしまっているので、夜会はそう頻繁には開催されていない。


「我がペクーニアで開きましょうか?」


「無難だけど、子爵家だとそこまで人を集められないだろう? 噂を流すとはいえ、あまり集客は期待出来そうもないね」


「……人が多く集まる場がよろしいのでしたら、今度、商会の忘年会と営業を兼ね備えた大きな夜会がありますけれど」


 微妙な顔でそう答えるメルローゼに、そういえば毎年、冬の季節の頭に商会の集まりがあるのだと言っていたのを思い出した。平民貴族問わず商会持ちはほぼ参加していて、商会員が多く集まるのだから、新しい情報や商品目当ての貴族や富豪も多く参加するのだとか。


 ちなみに冬の季節の頭という忘年会というには中途半端な時期に開催するのは、商会の集まりだからだ。

 商会にとって冬の季節の後半から年明けの五日までは年で一番の書き入れ時なので、冬の前半から準備に追われる。なので忙しくなる直前に毎年開催しているらしい。


 発表するならこの上なくいい場所だろう。大屋敷の行商の話についての発表も、急成長を遂げているペクーニア商会のご令嬢であるメルローゼの事を発表するのも申し分ない。

 ただし、メルローゼが微妙な顔をする通り、今回ばかりは難があるのだ。ソフィアリアもどうなのだろう?と首を傾げる他ない。


「もしかして、ペディ商会主催の夜会の事か?」


 ラトゥスの問いに、メルローゼはコクンと頷く。


 そう、その夜会、主催が(くだん)のペディ商会――イン・ペディメント侯爵家主催なのだ。まだ正式に結んでいなかったとはいえ、横から婚約者を掻っ攫う事になってしまったので、どんな妨害があるか、何が起こるか予想がつかない。


 それに――


「その夜会、毎年王妃殿下も参加なさっているんだよねぇ」


 主賓が裏にいるだろうと思われる王妃殿下である。この夜会の参加は派閥の垣根を越えるが、これではわざわざ敵地に(おもむ)くようなものである。


 ふと思う。


「もしかしてその夜会で、メルとイン・ペディメント侯爵家のご子息との婚約を発表するつもりだったのかしら?」


「……ええ、おそらく」


「確か侯爵家の次男で商会の跡取りだっけ?」


「……はい」


 ギュッと眉根を寄せる表情は、どこか悩みや戸惑いを感じさせた。その事に首を傾げる。


 ソフィアリアは会った事がないので貴族名鑑でしか知らないが、相手の名前はラクトル・イン・ペディメント。メルローゼの十歳年上の二十六歳。高位貴族にありがちな、容姿端麗な男性だ。島都学園での成績も上位に食い込んでいたあたり、真面目で優秀な人なのかもしれないと予想。

 メルローゼも商会主催の夜会に出ていた筈だし、彼と面識があるのかもしれない。というより、何かあったんだろうなと思う。あとで話を聞いてみる方が良さそうだ。


「政敵だから深く関わる事もなかったが、悪い感じはしなかったけどねぇ」


「実際、第二王子派にしておくには惜しいくらい誠実な男だ。おそらく、家の事情に巻き込まれたんだろう」


「そうかい。……さて。ペクーニア嬢の事を発表するにはこの上なくいい場所ではあるが、どうやって潜り込むかな?」


 そう言ってトントンと組んだ長い足を指で叩くフィーギス殿下の様子にキョトンとしてしまう。そんなの、楽でもっともらしく、手っ取り早い簡単な方法があるではないか。悩むまでもない。


「……まさか、わたくしをお留守番にするおつもりですの?」


「フィアッ⁉︎」


 オーリムにギョッとされてしまった所を見ると、そもそも連れて行く選択肢すらなかったらしい。その事には思わずムッとしてしまう。


「まあ! 酷いわ。大鳥関係者としてメルの事を紹介するのに、わたくしを除け者にするだなんて、あんまりだわ」


「俺が行けば済む話だ。どんな危険があるのかもわからないのに、そんな所にフィアを連れて行けないし、王だって許さないだろ」


「リム様が出席する夜会に婚約者であるわたくしを連れて行かないなんて、そんな非常識な事はダメよ。わたくし、絶対行きますからね」


 どんな理由であれ、大きな夜会は基本的にパートナーの同伴が必須だ。夫婦、婚約者、親子兄弟、知人の優先順位で異性の同伴が求められる。

 今までは代行人という特殊な立ち位置に居た為オーリムは見逃されていたのだろうが、ソフィアリアという婚約者がいる現在、それはもう通用しない。ソフィアリアの事を(ないがし)ろにしていると受け取られてしまうのだ。


「それともリム様はこれ幸いと、わたくしよりもメルのエスコートをご希望なのかしら?」


「それはない」


「……私も嫌だけど、秒で断られるのも腑に落ちないわね……」


 そう言って渋面を作るメルローゼを他所に、ソフィアリアとオーリムの譲れない睨み合いは続く。


「ピ」


「っ! はあっ⁉︎ なんでだよっ!」


 驚いたように王鳥に視線を向けるオーリムの反応に、つい笑みが浮かぶ。多分王鳥は連れて行けと言ってくれたのだろう。


「いいのかい、王? 君達の大切なお妃さまを敵の……それも王妃殿下の御前なんかに連れて行ったりして」


「ピーピ」


 フィーギス殿下の言葉を聞いて、そういえば主賓が王妃殿下ならご挨拶しなければならないんだなと一瞬目が遠くなる。デビュタントの時に一言お話させていただいたが、所詮儀礼的な言葉一つだった。おそらく王妃殿下は覚えていないだろう。


 が、この前の大舞踏会では国王陛下と王妃殿下のファーストダンスの時に共に踊り、相手はオーリムの身体を借りた王鳥だったので大層派手なダンスで注目を攫ってお二人を霞ませてしまい、更に王妃殿下しか身につけてはいけないティアラを身につけて行って案の定睨まれたのだ。元々フィーギス殿下以外の王族は大鳥を良く思っていないとはいえ、王妃殿下の中で王鳥妃(おうとりひ)の印象は最悪だろう。

 しかも今回、王妃殿下の何かしらの策略を潰してしまっている。嫌いな相手と接触するチャンスを不意にするとは思えなかった。ただの印象だが、王妃殿下はそう理性的な人ではなさそうだし、きっと何か仕掛けてくるだろう。


 それがわかっていて、王鳥は何とか出来ると信じて送り出してくれるのだ。その信頼が嬉しかった。


 無事連れて行ってもらえるようだし、オーリムが反対意見を出す前に手をパンっと合わせて、今後の計画を提案しておく事にする。


「という事ですので、どうぞ無知な男爵令嬢の好奇心をお使いくださいな。わたくしがお願いした事でしたら、勢力図なんかまるっと無視した行動だってお許しいただけるでしょう?」


 ニッコリ笑って首を傾げるとオーリムとメルローゼはあからさまに嫌な顔をして、フィーギス殿下は助かると言わんばかりの爽やかな笑みを浮かべていた。ラトゥスも頷いてくれたし、助けにはなれている筈だ。


「お義姉様、まさかあの噂は本当なの? 王鳥妃(おうとりひ)様は無邪気で学がない田舎娘なんて、何かの冗談よね……?」


「あら、ふふふ。社交界ではそんな風に広まっているのね。とっても嬉しいわ」


「何故そんなでたらめな事が広まっているのよっ!」


「わざとよ。初代王鳥妃(おうとりひ)がそういう人間だったと言われれば、次代以降の王鳥妃(おうとりひ)の負担が軽くなるもの」


「でも……もったいないわ。お義姉様はどんな所に嫁いでも困らないようにって研鑽(けんさん)を積んできたのに」


「実際王鳥妃(おうとりひ)になっても困る事にはなっていないのだから充分よ。だからその噂はそのままにしておいてね?」


 しょんぼりしてしまったメルローゼの髪を撫でる。


 どんなところに嫁いでも、のあたりで一瞬部屋の空気がピリッと張り詰めたような気がしたのだが、本当にソフィアリアのいない応接室でプロディージに何を教えられたのやら。


「ありがとう、セイド嬢。遠慮なく使わせてもらうよ」


「ええ、お好きなようにお使いくださいませ」


「……また変な噂なんか流したら承知しないからな」


「もう懸想してるなんて流さないよ。理由もないし。事前に知らせておいたとはいえ、もうすぐマーヤが来てくれるのだから、彼女の立場を悪くするような真似は二度としない。誤解で悲しませるのも本意ではないからね」


 ピクリと揺れるメルローゼに、あっと思ったのも束の間。止める間もなくメルローゼはフィーギス殿下の方を向き、鬼の形相で睨み付けていた。


「……その話、本当ですわよね?」


 フィーギス殿下は本日二回目のそんな表情に首を傾げつつ、探るような笑みで頷いて答える。


勿論(もちろん)。私は何か、君の気に触ってしまったかな?」


「ええ、ええっ! とってもっ! 私から愛しのリースを奪うだけでは飽き足らず、よりによってお義姉様を愛人にするだなんて何の悪夢なのですかっ! 次代の王としてはご立派でも、私、あなたを許せませんわっ‼︎」


 顔を真っ赤にしながら一方的に敵意を剥き出しにし出したメルローゼに、さすがのフィーギス殿下もポカンとしていた。まだ興奮が冷め止まないメルローゼはなおも睨み続けているし、子爵令嬢が王太子殿下を怒鳴りつけるという事態に部屋の空気はシーンと静まり返る。


「フィアはフィーの愛人なんかではない。二度とそんな事言わないでくれ」


「ビー」


 微妙にズレた事を言い始める未来の旦那様達にもキッと視線を投げつけ、わなわなと震えている。


「当然ですわ! 最近はやや沈静化してきておりますが、大舞踏会以前はそんな噂で持ちきりだったので穏やかではいられませんでしたわよっ! セイドベリーの売り上げも危ういところでしたし、何より我が国の王太子殿下が私のリースも敬愛するお義姉様も囲うなんて事になれば、私は寝返っておりました!」


「メル、落ち着いて。本人の前で謀反宣言はどうかと思うわよ」


「ペクーニアは関係ありません! 私の心の問題ですわっ!」


 すっかり血が上っているようだ。この調子だとソフィアリアが大屋敷にいる間、癇癪(かんしゃく)持ちのメルローゼはさぞや荒れたんだろうなと察してしまう。


 頬を膨らませてぷりぷり怒ってる彼女の背を撫でながら宥めつつ、さてどうフォローを入れようかとフィーギス殿下の方に視線を向ければ、まだ驚いたように目を見開いてメルローゼを凝視していた。


「……君のいうリースとはまさか……」


「マヤリス・サーティス・コンバラリヤ王女殿下。コンバラリヤの第一王女で、大変不本意ですが、あなた様の婚約者ですわ!」



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