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【第三部番外編連載中】王鳥と代行人の初代お妃さま  作者: 梅B助
第二部 夜空の天人鳥の遊離
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セイドの双生 5



「フィー?」


 事情を知らないオーリムは眉根を寄せてフィーギス殿下を睨む。


 ソフィアリアももちろん知らなかったが、やっぱりという気持ちの方が大きかった。


 注目を浴びたフィーギス殿下はいつもの笑みを浮かべたまま首を傾げている。


「何を根拠に言っているのだね?」


「色々ございますが、一つは姉からの手紙の内容が噛み合わない事があるからでしょうか。こちらの質問に答えない。姉からの質問に答えたのに繰り返し聞いてくるなど不自然な事が多かった。特に最近は呼び出された件で何度も質問をぶつけたのに全く答えてくれませんでしたので、どこかで抜かれているんだろうとは思っておりました。……本当にフィーギス殿下でなければ、王鳥妃(おうとりひ)である姉の手紙が盗まれている可能性がございますので調査をオススメさせていただきますが」


 プロディージの言っていた手紙の違和感は、ソフィアリアも感じていた事だ。

 両親や妹からだったらそういう手紙でも気にしないが、プロディージが質問の答えを書き忘れたり、何度も同じ事を問うような無駄な真似はしない。


 けれどソフィアリアが受け取る場合は、検問で弾かれて届かない可能性があったので、そんなものかなとも思っていた。抜かれているのか弾かれているのか不明だったので、表立って前者を疑うような真似はしなかったのだ。


「それだと検問で許可が降りていないだけの可能性もあるね」


「二つ目は最近セイドに潜り込んでくるネズミの質が妙によかった事です。姉上に王命が下ったあたりから湧いてくる様々な毛色の者を追い払ってきましたが、ここ最近は特に屋敷に潜り込んでくる程でしたので、よほどの高位貴族……(ある)いは王族関係の子飼いかなと推測しておりました。別に見られて困る物はないので見逃してもよかったのですが、面白くないのでうっかり追い払ってしまいましたよ」


 そう言ってのけるプロディージは相変わらずだなと苦笑する。


 祖父のいた十年近く前ならともかく、以降のセイドは調べられても別に痛くはないのだから、実害のなさそうなネズミ……諜報員くらい好きにさせてあげればいいと言っておいたのに、負けず嫌いの性格のせいで無視出来なかったらしい。そして彼は、隠されている物を見つけ出すのが妙に上手かった。


 これは、家族が招集された理由は王家の諜報員すら見つけ出してしまったプロディージにも原因があるのかもしれないなと思った。姉弟揃って怪しい動きを見せていたら、目をつけられるのは当たり前だろう。


「その事と手紙が抜かれている可能性がある事に何の繋がりを見出しているのかな?」


「領地に探りを入れるくらいなのですから、手紙くらい当然検めるでしょう。それと、フィーギス殿下と姉上の醜聞もですね。おかげで急増するネズミの処理も面倒なのに、我が領の特産品の買い手が減り、ここ半年程大変な思いをしましたよ。まあなんとかしましたが」


 少し心配していたが、やはりその事についてもセイド領に被害が及んだんだなと申し訳ない気持ちになる。


 半季程前、社交シーズン最後に王城で行われた大舞踏会でソフィアリア達はフィーギス殿下の策略に(はま)り大事件を引き起こした。

 その下準備の一つとして、ソフィアリアはフィーギス殿下を愛人にしているという噂を意図的に流されたのだ。他にもソフィアリアには碌でもない噂が付き纏っており、セイドの名前が悪いように広まってしまい、プロディージに迷惑をかけてしまったらしい。

 この大屋敷で再会した時、プロディージからずっと睨まれていたのはその恨みもあったんだなと思った。


「それは事実じゃない。フィーが勝手に流しただけだ」


 ムッと眉根を寄せて腕を組み、不機嫌そうな顔で否定するのはオーリムだ。ソフィアリアとフィーギス殿下の愛人騒動で一番嫌な思いをしたのが彼なのである。

 思わず顔が緩みそうになるが、ギュッと笑みを保って引き締める。オーリムは噂も嫌なくらいソフィアリアを深く想ってくれていて、その気持ちが嬉しい。


 ちなみに王鳥は実際にそうなってしまえばフィーギス殿下を躊躇(ためら)いもなく始末するだろうが、噂程度なら放置する。神様であるが故に真相を見抜ける王鳥は、人の間に流れる噂話など気にする理由はないらしい。


「……最近では姉の噂は全てデマという話が流れているので今更疑っておりません。けど、なくはない話だとは思っておりましたが、違っていて安心しましたよ」


「なくはない?」


「姉上ですから」


 ジトリと睨まれてしまい、困ったように笑う事しか出来なかった。肯定も否定もし辛い。


「それだけの迷惑を被ったのに姉に何度問い(ただ)しても全て無視をされましたし、醜聞の事を聞かれて困る相手が抜き取っているのだろうと考えました。この大屋敷に入れるか見極めたかっただけというわりには、本日こうしてフィーギス殿下と謁見させていただく事になり、今までの事も考えれば、姉だか私達だかは存じ上げませんが、我らセイドの者の事を何か知りたいのだろうなと思ったまでです」


 そこまで言われたフィーギス殿下はふぅーと大きく溜息を吐き、降参とばかりに軽く両手を挙げて苦笑する。


「まったく。本当に君達は姉弟だね? 中身なんてそっくり過ぎるくらいさ。……手紙は君がセイド領に帰る前に返そう」


「今更どちらでも構いませんよ。大した内容ではございませんので」


「……フィアとこいつの中身は似ていない。絶対にだ」


 嫌そうにそう釘を刺しながら、ここまでの話を聞いて、ようやくソフィアリアの家族を呼び出した理由が大屋敷に出入り出来るか見極めたいだけではなかったと知ったオーリムは、ギロリとフィーギス殿下を睨む。


 睨まれたフィーギス殿下は悪びれる事もなく飄々(ひょうひょう)としていた。


「フィー。俺はフィアの家族がここに入れるか確認したいとしか聞いていない。今度は何を企んでいる?」


「えー……。あれ本気で言っていた訳?」


 プロディージは呆れを隠しもせず溜息を吐く。


 そして壁際で控えているアミーとプロムスに視線を投げかけながら、言った。


「この部屋で馬鹿正直にそれを信じているの、オーリムだけだと思うけど。侍女と侍従も……少なくとも侍従の方は、フィーギス殿下の密偵の一人でしょう? 領地で見つけた人達ほど手馴れた感じはありませんが、部屋に案内された時からずっと観察されていた事くらい気付いてますよ」


 ソフィアリアはこの短時間でそれも勘付くプロディージの察知能力の高さは相変わらずだなぁと思っただけだったが、オーリムは目を見張り、バッと勢いよく二人を振り返る。


 アミーは驚いた表情で首を横に振り、隣に立つプロムスを見上げたが、プロムスはニッコリと笑い無言を貫いた。……それだと、肯定するのと大して変わらないだろうに。

 これは、あとで夫婦喧嘩だろうなと少し申し訳なく思いながら正面を向くと、フィーギス殿下は顎に手を添え、面白そうにプロディージを見ていた。


「なんだ。本当に侍従の方だけなんだ」


「……ロム?」


「私が無理言って頼んだのだよ。もう必要ないしやめさせるから、ロムを責めるのはお門違いだ。セイド卿……いや、名を呼んでも?」


「フィーギス殿下に名を呼ばれる栄誉、大変光栄に存じます」


「ではプロディージ、よくわかったね?」


 探るような視線をフィーギス殿下から感じ取っているだろうに平然としていて、なんでもない事のように軽く首肯してみせている。……なんとなく、そこに作為的な物を感じた。


「隠されている物を見つけるのが少し得意なだけです」


「その少し得意で王家のものをほいほい見つけられれば、(たま)ったものではないんだけどねぇ」


 本当に君達は、と苦笑する。実際二人揃ってやらかしているのだから、少しおかしな姉弟と思われるのは仕方ないだろう。


「……で? 色々と説明はしてくれないのか?」


 またソフィアリア絡みの事で黙って裏で動かれていた事に苛立ったのかピリピリしているオーリムは、そろそろ我慢の限界のようだ。


 宥めたいが、原因がソフィアリアなだけに少し返答に困る。更に怒らせてしまいそうだし、眉を八の字にさせて救いを求めるように王鳥を見上げれば、王鳥はふっと目元を和らげて屈み、スリっと頬擦りをして慰めてくれた。


 黙っていていいらしいが、本当にいいのだろうか?とも思ってしまう


「自分で考えれば? ほんと、よくそんなので今まで代行人という王族の上の位に立ててたよね」


 案の定火に油を注ぐプロディージ。少し判断を誤ったかもしれないと思ってももう遅いだろう。あとで精一杯慰めようと決意する。


 オーリムはキッとプロディージを鋭く睨みつけた。だが何か言う前にフィーギス殿下がオーリムを庇う。


「代行人は社交をする必要がないからね。こちらの面倒事が増えるから、必要な場以外は引きこもって代行人としての仕事だけを(こな)してくれた方が、色々と好都合なのだよ」


「それでも限度があるでしょう。現に私一人にさせてフィーギス殿下の妨げになっているようですし」


「そう思ってくれるなら遠慮してくれないかな?」


「お断りします。身内の恥を晒す気はありませんので」


 二人の会話を聞き、何かまずい事をしてしまったようだと察してしまったらしい。渋面を通り越して少ししょんぼりしてしまったオーリムの右手をとって、元気付けるようにギュッと握る。


「そんなに落ち込まないでくださいな。その為にわたくしがリム様に嫁ぐのよ? わたくしは身の危険がいっぱいだから、リム様に護ってもらわないといけないの。代わりに、頭を使う事はお任せくださいませ。二人でそうやって補い合って、それでも困ってしまったら側で見守ってくださっている王様に頼りましょう?」


「ピ」


 ふわりと笑って励ませば、王鳥も珍しくオーリムを励ましているかのように鳴いていた……頭頂部をツンツンと(くちばし)で突くのはどうかと思うが、王鳥なりの激励なのだ。きっと。そう信じよう。


「フィア……」


 力なく笑うオーリムに、だが溜息が一つ漏れる。


 プロディージは肘掛けに腕を掛けつつ、この上なく冷めた眼差しでソフィアリアを見据えていた。


「何そのくっそつまらない茶番。姉上の花畑勧誘能力も相変わらずだよね」


「……花畑勧誘能力?」


「実際そうでしょ。相手にとって耳障りのいい言葉を並べて優しい世界に引き()りこむ。そうして意味のわからない信者を増やして、気がつけば姉上が女王として立つ箱庭の出来上がりだ。この大屋敷もそうやって乗っ取ったって訳?」


「っ! ロディっ‼︎」


 この上なく冷徹に笑うプロディージの言葉に激昂するオーリムを尻目に、『女王』という言葉に反応した人がフィーギス殿下を中心に何人か居る。

 この前も聞いたそのワードが今回の鍵なんだなとぼんやりと思いながら、さてこの事態をどう収集つけようかと頭を悩ませた。



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