プロローグ〜未来の旦那さま〜
大変お待たせしました、本日より第二部開始です!
薄暗く陽の光があまり入ってこない書庫の一角。その人は隠れるように、その場所に座っていた。
『……先生?』
読んでいた本について尋ねたい事があった少女は、その人に声を掛ける。その人は顔を上げると少女を見て、ふわりと皺の目立つ目元を和らげた。
『ああ、ちょうどよかった。こちらに来なさい』
機嫌良さそうに手招きをし、少女はキョトンとしながらも元来素直な性質なので、何の疑いもなく側に寄る。
その人は一枚の姿絵を見せてくれた。
『将来、君の旦那さまになるかもしれない人だよ』
優しくそう言うその人に、だが少女は困ったように眉を八の字に下げ、首を横に振った。
『なれないわ。だってソ……わたくしとこの方は、身分の差があるもの。そんな事を望んでしまえば、この国が荒れてしまう。そんなの、もう嫌よ』
その姿絵には、とても高貴で見目麗しいお方の姿が描かれていた。
少女は彼を知っていた。将来一度は対面する事になるが、それだけだ。旦那さまになんて絶対望めない。望んではいけない。知らない事がまだまだ多い少女でも、そのくらいはわかるのだ。
痛みを堪えるように、ギュッと胸に抱えた本を握り締め、俯く。そんな少女をその人は、優しく髪を梳いて宥めてくれた。
『そうでもないよ。確かに一番目は難しいけれど、二番目以降なら、比較的誰でもなれるんだ』
『……二番目?』
不安そうな顔のままその人を見上げれば、その人は少女に言い聞かせるように両肩に手を乗せ、言った。
『君は愛し、愛される幸せな結婚を望んでいるかい?』
そう言われて、少女は即座に首を横に振る。幸せな結婚という最も幸福な形を、まるで怯えるようなその態度に苦笑していたら、少女は一段と困ったような表情を見せる。
『そうだ。望んでいないね? なら、君はそこを目指しなさい』
『どうして?』
『この子は君にきっと惹かれる。だから、もし会ったら――――』
――結局、姿絵に描かれた彼を旦那さまに望む道は完全に潰えたけれど、少女は、その時に交わした約束を、ずっと守っている。
本日のみ2話更新します。
次回は6時更新です。




