第36話 暴君魚
鋭いナイフのような角。
分厚い鎧のような鱗。
頬まで裂かれたかのように大きく開く口。
その口からは鋭い牙が二本。
血のように真っ赤な目。
暴君魚が真っ赤な目をギョロリと此方に向けて、まるで見下すように私達を見ていた。
「早々に出てきてくれてありがとう!!!!!!」
パートナーのギンタさんがやられて、怒るシシリーさんは魔法の布を出現させ、暴君魚の角を目掛けて投げる。
ギンタさんを切りつけたであろう角を。
だけど、布は角に届くことはなかった。
なぜなら。
『させない』
ギンタさんが角に巻き付こうとした布に攻撃したからだ。
「ギンタ!? どうして!?」
『あの御方の命令は絶対。近づけさせない』
「くっ!!」
鋭い嘴でシシリーさんを攻撃するギンタさん。
戸惑いながらもシシリーさんは布で攻撃を防ぐ。
ユラユラとする動きや口調からギンタさんの様子がおかしいのは解る。何がギンタさんを可笑しくさせたの?
『ふむ。あのペンギン、毒にやられてるみたいだにゃ』
タマがそんな事を急に言い出した。
毒? 毒であんな状態になってるの?
でも、いつ頃、ギンタさんは毒を・・・・・・。あの時、攻撃されたときに?
「攻撃されたときに毒を・・・・・・?」
『下僕の言うとおりで間違いないにゃ。あの時に毒を盛られたに違いないにゃ』
「その毒でギンタさんの様子がおかしくなったってこと?」
『ワガハイの猫の目で見たところ、彼奴、ギンタは毒で操られてるみたいにゃ』
「操られてる? 普通、毒って体に異常が出るものじゃない? そんな毒があるの?」
『ワガハイも見た時は信じられなかったにゃ。現に彼奴はその毒で操られてるにゃ』
毒を受けたものを操る毒。
信じられないような毒の存在に驚くしかできない私は、どうすればいいのか動けない。
どうすれば、ギンタさんを止められる?
肝心なときに私の頭と体は動かない。情けない・・・・・・。
「それなら、あの魔法魚をどうにかすればいいじゃないですか」
ハリーさんはそう言って、暴君魚に植物属性の魔法、蔓の鞭で攻撃をするが暴君魚はバリアを張って退け、せせら笑うようにハリーさんを見て、水中に潜っていった。
「これならどうだ!!」
今度は蔓の網を繰り出し、暴君魚を捕らえようとするが鋭い角で切り裂かれてしまう。
それにハリーさんは悔しそうに顔を歪めた。
『おい、下僕! ボサッとしてないでおみゃあも動くにゃ!』
暴君魚に果敢に挑むハリーさんに対し、私は何もしていない。
そんな私に痺れを切らしたのかタマがせっついてきた。
動けって言われても私に・・・・・・、ああ、あるね。私にはアレがある!!
「ハリーさん!! 私が暴君魚を誘き寄せます!!」
「そんなこと出来るんですか!?」
「出来ます!! 暴君魚!! コッチに来い!!!!!!」
右手を暴君魚の方へ向け念じると右手の甲に肉球マークが浮かび上がると右手と暴君魚を結ぶように光り輝く線が出来上がった。
これで暴君魚はもう動けない。
余裕ぶっていた暴君魚もさすがにヤバいと気付いたのかジタバタと暴れ始めるけど、もう遅い!!
「こ、これは・・・・・・。どういう魔法なんですか!?」
「ん~。猫魔法かな?」
「ね、猫魔法?」
「詳しい話は後でね! ハリーさん、暴君魚が揚がったら、また蔓の網をお願いします!」
「は、はい!! 了解しました!!」
「タマ! シシリーさん達の様子は!?」
『まだ戦ってるにゃ。ペンギンはコッチを襲う気配はにゃい。思いっきりいけにゃ!!』
ハリーさんに指示をタマにシシリーさん達の様子を聞いて、暴君魚を引き揚げる準備を整えると力を込める、するとフワリと暴君魚が宙に浮かんだ。
よし、いける!! このまま一気に!!
「きゃっ!!」
思いっきり揚げてやろうと意気込んだとき。
私の横スレスレに何かが飛んできた。
突然の事に私はバランスを崩し、倒れそうになったけどハリーさんが支えてくれたお陰で倒れることはなかった。
「大丈夫ですか!? 何があったんですか!?」
「急に横スレスレに何かが飛んできて・・・・・・」
「横スレスレに?」
「は、はい」
ハリーさんと一緒に飛んできたものを確認する。
キラリと光る宝石のような手の平サイズの石が転がっていた。
「宝石・・・・・・じゃないね」
『下僕!! 何してるにゃ!? 早く招き猫の力に集中するにゃ!!』
タマの焦り声と同時にブツリと何かが切れた音が聞こえた。
「あっ・・・・・・」
私の右手と暴君魚を結んでいた光り輝く線が消え、自由になった暴君魚は再び水中へと潜っていった。
他に気を取られ、集中できなくなったから消えたの?
『招き猫の力は招くものに対して集中しないとこうなるにゃ』
「そんな!! 折角、いいところまで行ったのに!!」
「メアリーさん!! 危ない!!」
ハリーさんの叫びであの宝石のような石が私に向かって飛んできていることに気付く。
ヤバい!! このままじゃぶつかる!!
『猫パンチ!!』
ぶつかりそうと思った瞬間、タマが石を弾き返した。
タマ!! そんなこと出来たの!?
『大丈夫か下僕?』
「タマ! ありがとう! そんなこと出来たんだね!?」
『フッ。ワガハイの猫パンチは強烈にゃ。痛っ!!』
「タマ!!」
エッヘンと胸張っていたタマの後頭部に石がぶつかる。
格好良く決めてたのが台無しだよ。
それはそうと、この石は何処から?
「ハリーさん。この石に覚えはありますか?」
「・・・・・・・・・・・・」
「ハリーさん?」
「メアリーさん。俺達はピンチかもしれないです」
「はい?」
「川を見て下さい」
言われるがまま川を見る。
其処にはキラリと体を光らせ、目は鈍い光を放つ大量のジュエルフィッシュが私達を睨んでいた。




