またいぬになれたら
君がいない夕方は、世界が止まっているように見えて、駐車場のバーはいつまで経っても開かない。
変わる気がない信号。
橙色の太陽光は無限の時間を想像させる。
急いでいるのは右折の矢印信号機とスーパーのタイムセールくらい。
今日はやけに道が混んでいる。ハンドルが汗ばむ。
君と出会ったのはファストフードのアルバイトだった。上がる時間の関係でよく一緒に帰って、仲は自然に深まり、気づいた時には深い話をする関係になっていた。年下の君は僕に気遣っていたのは最初だけで、僕に対して人生の先輩のような顔でアドバイスしてきた。ただご飯や酒を飲むときは甘え上手だったね。君があまりにおいしそうに食事をするから、僕が随分と前に無くしていた食に対するこだわりとかを思い出させてくれたね。バイト戦士の僕には2人分の食事代なんて余裕だったからな。
自然に惹かれて、僕から告白した。いや自然ではないか。
君は僕のことを先輩として大好きだったし、僕は後輩として君を好きだった。君は僕が君のことを恋愛対象として全く見ていなかったことに安心を感じてくれていたのだろうけど、会って過ごす時間とか、君に急かされたLINEの返信が、君の相談に向き合うことが、君を好きになるには十分だった。
信じてくれなかった。好きっていったらウソつき。本当かな?なんて
信じてもらえるまでに何か月かかったかな。ただ証明した。
好きって言ったら、「知っている。わたしも好き」って返ってくることがあまりに嬉しくて、何回も言いすぎて「うるさい!!!!」なんて言われる日があったね。
一生好きって言ったら、一生も絶対も存在しないなんて君が言うから、僕は君を一生好きなことを証明するために小さなことから、僕の言葉の絶対性を見せつけてプレゼンしたね。
あれだけ吸っていた煙草は辞めて、君の好きな髪型にして、ファッションの勉強もして、あまりジャージで外出しないように心掛けた。君の隣を歩くことが、恥ずかしくないように、自信をもって手をつないで歩けるように頑張ったよ。漢字がプリントされているジャージを羽織っていた僕の口から「モノトーンやらきれいめカジュアル、チェスターコート」なんて単語
滑稽、ただ不安になる
ちゃんと君と釣り合っているのかな?
僕を好きな君でいて。
当然、僕は好きなままだよ。
原付が横をすり抜ける。
君がバイトに間に合うように送ったバイク国道
化粧の時間がかかった時が腕の見せ所
夜のバイク、二人でみた街の光
君を送って帰る家路、走る背中は冷たかった
君と乗らないバイクは乗らない
やけに、やけに寒いから
君を送って帰り道
バイクはもう乗っていない
車で送れる僕になったけど
暖房効く車内、無性に寒さが恋しくなって
窓を開けて右手を出す
寒かった。
窓を閉め、温度が戻る。
ただ僕の左手だけはいつまで経っても冷えていた。
次に会えるのはいつだろう。
君と私の日常は一緒にいないと進まない。
春になったらバイクに乗って、君が待つ、家に帰りたい。
「もう会いたい」
思わず溢れた言葉に口を押さえる。
唇も冷たかった。
途中から詩っぽくした。
自分から地元を出る決断をしたけど、やっぱり寂しい。
年下彼女にいぬみたいにしっぽふりすぎたせいで、一人で生きて行けそうにないなーと。
つらくなったので初めて文にした。少し気が晴れた。