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第98話 カロリーナの家へ

 夏休みが終了し、2学期目の始業式。久しぶりに全員が揃ったクラスで、担任のバルバネス先生から誘拐事件の顛末について説明があった。


「このクラスに、無茶をしでかしたバカがいたが、バカのお陰で実行犯たちは逮捕、処分された。これでしばらくは女生徒も安心して外を歩けるだろう。ただ、念のため当分の間は1人での行動はするなよ。特にユウキ、わかったな!」


「…はい」

「よし、今日はこれで終了だ。明日から通常授業だぞ」


 学園が再開し、9月も終盤に差し掛かった頃、一時落ち着いていた食料品の価格が再び高騰し始め、マヤのため息が多くなってきた。


 マヤの買い物に付き添って、ユウキも商店街の食料品店を見ることがある。確かに小麦や芋といった主食を中心に、肉類や果物なども価格が高くなっており、販売量も以前と比べると少ないようだ。ただ、生産地に影響を与えるような天候不順も大きな気象災害の話も聞いたことがない。それなのに、何故、食料価格が高騰するのか不思議だった。


 ダスティンの家は、店の販売や侯爵家に納品する武器防具の売り上げ、ユウキを除く下宿人の家賃で賄っており、それで生活は十分成り立っていたが、ここに来て食料品が高騰した影響で、遣り繰りが厳しくなっていた。


「以前、王家から頂いた金貨はダスティンさんが、「ユウキが将来使うから」と言って仕舞ってしまったし、バルコムおじさんが預けてくれたお金はマヤさんが受け取ってくれないし、どうしたもんかな…」


 夕飯の準備をしているマヤの後姿を見ながら、ユウキは考え込んでしまうが、何の解決策も見当たらない。


 夕飯のメニューも段々貧相になってきているが、誰も文句を言わず、もくもくと食べる。女の子とはいえ育ち盛りなので、やはりお腹いっぱい食べられないと辛い。

 その日の夜遅く、ユウキの部屋に「ちょっといい?」とカロリーナが訊ねてきた。


「あのね、以前話したと思うけど、私の実家さ、ハウメアーで農業しているって言ったよね。だから、食料分けてもらえないか訊ねてみようと思うんだ」

「ホント! 分けてもらえるなら嬉しいけど…。大丈夫なの?」

「うん、実は手紙を出してみたのよ。そしたら、一度来てみろって」

「わあ、嬉しい。でも、分けてもらえたとして、どうやって運ぶの?」

「うん…、何かいいアイデアないかな」


「う~ん…。そうだ、冒険者組合に相談してみよう。組合で馬車を持っていたはず。ダメ元で貸してもらえるか聞いてみよう」

「わかった。ねえ、ユウキ、せっかくユウキの部屋に来たんだし、今晩一緒に寝ていい?」

「モチロンだよ。えへ、カロリーナと手を繋いじゃおっと」


 翌日、学園の帰りにユウキとカロリーナは冒険者組合を訪ねていた。中に入ると顔見知りになった冒険者たちが声をかけてくる。2人はにこやかにあいさつを返すと、受付に行ってリサを呼び出した。

 出てきたリサに要件を伝えると、早速、組合長室に案内された。


「ほう、カロリーナの実家はハウメアー有数の大規模農家なのか。食料を分けてもらうために馬車を貸してくれと…」

「はい。やっぱり難しいですか?」

「いや、貸してやろう。ただし、条件がある」

「条件って何ですか」


「実は、組合内の酒場も食料が手に入りにくくなっていてな。うちの分も分けてくれるなら馬車を貸す。もちろん分けてもらった分の金は払うぞ。適正価格でだが」

「うーん…、一度、両親に手紙を送ってみます。聞いてみないとわかりませんから」


「よし、手紙はうちの冒険者に運ばせよう。その方が早い。手紙の運搬は組合からの依頼にする。リサ、手続きを頼む」


 数日後、カロリーナの両親から大丈夫であると手紙が来た。早速、冒険者組合に伝えると、直ぐに馬車を貸してくれることになった。カロリーナに同行するのはユウキ、フィーア、ヒルデと組合からリサ。ララはダスティンの急ぎの手伝いがあり、フィーアは女の子の日が始まったことから留守番することになった。


 ハウメアー市までは往復で6日かかるほか、カロリーナの実家で過ごす期間を含め、4人は学園に10日間の臨時休学届を出すと身支度を整え、2頭引きの馬車を準備して待っていたリサと合流し、王都の西門からハウメアー市に向けて出発した。


「私、あのパーティ以来、すっかり「痛い女」ってあだ名になってしまって…。うう、もうお嫁にいけないのかな…」

 リサが手綱を取りながら、めそめそする。


「(わ、話題を変えよう)そ、そういえばカロリーナ、自由貧乳同盟はどうなったの?」

「あっさり崩壊したわ。だって、私とララとシャルしか集まらなかったんだもの」

「そ、そう。結成から崩壊まで早かったね(地雷を踏んだ!)」


「今回だって、リサさんが同行してくれなければ暴れてたわよ。何、同行者が暴力的おっぱいの持ち主ばかりって、疎外感半端ないじゃない。嫌がらせなの」

「まあまあ、偶然だよ偶然。落ち着いて、どうどう」


 途中の村や町を経由して3日目にハウメアー市に到着した。ハウメアー市は人口10万人程度の、王国では中堅規模の都市だ。市の近くに大きな川が流れており、この川が運んだ豊かな土壌を利用して穀倉地帯が広がり、他にも野菜の栽培、畜産が盛んに行われている。ハウメアー周辺は王国の食料生産の約半分を担っているとのことであった。


「凄いね。市の周囲に広がっている畑、広々としてキレイ」

「でもね、この畑を維持するの大変なのよ。穀物や野菜を育てるためには肥料が必要でしょ。肥料は堆肥を使うんだけど家畜の糞だけでは足りないから、人糞も使って堆肥を作るのよ。ハウメアーのほかにも、近隣の村や町、王都からも人糞を運んでるの」


「へー」

 カロリーナの説明にユーリカ(ハウメアー市出身)以外の3人は素直に感心する。


「家のお便所の汲み取りをお願いしている業者さんも、ここに運んでいるのかな」

「多分そうですね。想像すると複雑です」

 必要な事とはいえ、ヒルデが微妙な顔をして言った。


 ユウキたちは一度市中に入って宿の手配をし、馬と馬車の保管をお願いする。手配した宿はハウメアーでも中堅の宿で、大浴場もあり、食料を運搬する業者も利用するため大きな厩も持っている。後で知ったが、ハウメアーの冒険者組合の支部は王都に匹敵するくらいの規模を持つとのことだった。


「さあ、私の家に行きましょう。父が迎えが来ているの」


 宿の前には、大きな荷馬車と大柄で良く日焼けした、逞しい男性が1人立っており、ユウキたちが出てくると、大きな声でカロリーナの名前を呼んだ。


「カロリーナ、夏休みぶりだな。元気そうだが、あんまりおっきくなっていないな!」

「もう! パパ、どこを見て行ってるのよ!」

(パパ! カロリーナってパパって言ってるんだ。か、かわいい)


「こちらの皆さんがお友達かい。お、ユーリカちゃんも来てくれたのか。ご苦労だったね」

「パパ、こっちの黒い髪の子がユウキ。この子は1学年下のヒルデ。エルフの子よ。あとこちらは王都の冒険者組合のリサさん」

「よろしくお願いします。この度は色々無理言ってすみません」


「いいんですよ。さ、家に向かいましょう。荷馬車ですが、皆さん乗って下さい」


 ガタゴトと荷馬車に揺られていると、郊外に出て、のんびりとした農道を進み始めた。ユウキはどこまでも広がる畑と所々に雲が浮かぶ透き通った青い空を見て「なんて美しい風景だろう」と感動すら覚えていた。ヒルデもこの素晴らしい風景に感動しているらしく、胸の前で手を組み、流れる景色をじっと見つめている。


「みんな、見えて来たよ」


 カロリーナの声にユウキは荷馬車の前方を見る。地平線の手前に、柵に囲まれた白壁の平屋建ての家が何棟も立っている。一番大きい建物が、住居なのだろう。そういえばカロリーナは使用人も大勢雇っていると言っていた。建物の中には使用人の宿舎も含まれているに違いないと思った。


「さあ、着いたよ」


 大きな建物の前で荷馬車が止まり、カロリーナとパパさん、ユーリカが降りて、玄関の方に向かって行く。ユウキたちも慌ててその後を追った。


「みんなー、ただいまー」カロリーナが大きな声で帰宅を告げると、

「わー、お姉ちゃんだ! お姉ちゃんが帰ってきたー!」


 ドタタタタと大きな足音を立てて、5歳から10歳くらいの男の子3人と女の子2人が家の中から走ってきて、カロリーナに纏わりついた。

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