第92話 ユウキとダスティン
オーウェンに続いて、冒険者がなだれ込んできて、誘拐犯たちと戦い始めた。実力は冒険者の方が上なので、誘拐犯はじりじりと押され始め、1人また1人と倒れていく。
大男は、急展開の動きに理解が追い付かず、「何事だ! 何が起こったんだ」と喚く。
「貴様が誘拐犯の親玉か! 逃がさねえぞ、観念しやがれ!」
オーウェンが叫び、素早く大男に近づくと、両手持ちの大剣を大男めがけて振り下ろした。大男は完全に虚をつかれ、防御することもできず、右腕の肘から先をバトルアックスごと切り落とされた。
「ウギャアアァ! 腕が、俺の腕がぁ!」
大男は腕を押さえてよろめく。ユウキは、この隙を逃さず、魔法剣を横に薙いで、大男の膝裏を切り裂いた。膝の関節を斬られた大男は立っていることができず、大きな音を立てて倒れる。
この間に、残りの誘拐犯も冒険者たちによって半数は取り押さえられ、半数は死体となって転がっていた。
「ユウキ、無事だったか!」
「オーウェンさん。助けに来てくれたんですか。ありがとうございます。助かりました」
「本当に心配したぞ。ここにはお前だけか?」
「あ、いえ、上の階に誘拐された女性たちが30人ばかりいます。あと、ボクを誘拐した髭面の男を捕えてあります。髭面以外は…」
「わかった、もう言うな。おい!」
オーウェンが合図をすると、数人の冒険者が上の階に向かって行った。その様子をぼんやり見ていたユウキに声をかける者がいた。
「やあ、ユウキ君。危ない所だったねえ。ケガはないかい」
「あ、あなたは王国憲兵隊のアレックスさんとフレデリカさん。どうしてここに?」
「まあ、話せば長くなるから簡単に言うと、帰って来ない君をダスティンさんが心配して憲兵隊に捜索願を出したんだ。王都の女性誘拐が活発になったこともあって、捜索隊を編成しようとしてたら、冒険者組合も君を探しに出かけるというので、便乗させてもらったのさ」
(ああ~、またオヤジさんに迷惑かけちゃったな…。今頃、心配してるだろうな)
「でも、どうやってここを知ったんですか」
「それはな」とオーウェンが来て言うには、たまたま招集をかけた冒険者の中に、不審な馬車を見た者がいて、その馬車が向かった方向で、隠れ家となりそうな所を探したらここが怪しいと睨んで来てみたのだと言うことだった。
「ほとんどカンのようなものだったが、当たってよかったぜ」
「すみません。ボクなんかのために迷惑をかけて」
「このバカ野郎!」
そういうが早いか、オーウェンのげんこつがユウキの頭に飛んできて、ゴチン!と大きな音を立てた。
「あいた!」
「俺はな、情報があったら教えろとは言ったが、危ないマネまでしろと言った覚えはないぞ。正義感の強いお前の事だ。たまたま遭遇した誘拐の現場を見て、後先考えずに飛び込んで行ったんだろう? 俺はな、そんな無鉄砲なヤツが好きだがな、お前を死なせたくないんだよ。だから迷惑なんじゃない。俺がお前を助けたかっただけだ。お前が女たちを助けたかったようにな」
「オーウェンさあん、ごめんなさいい」
ユウキはオーウェンの優しさに思わず泣きそうになってしまった。そこに、助け出されたリースが、ユウキの胸に飛び込んできた。
「ユウキさん! うわああああん、ありがとう~。助けてくれてありがとう~」
「リースちゃん…。無事でよかった。よかったあ」
2人はしっかり抱き合う。
「う~ん、感動の場面だね。こっちとしては誘拐犯の親玉らしき人物を2人も生きて捕らえることができてよかったよ。これで、事件の全容解明に一歩進むことができるよ」
アレックスはそういうが、オーウェンは、そうは簡単にいかないだろうと思うのであった。
冒険者たちや途中で合流した憲兵隊と一緒に王都に戻ってきたユウキは、後日話を聞くと言うことで、ひとまず家に帰された。ユウキが誘拐犯に捕まってから、もう2日経っている。しかも、今は深夜だ。
「オヤジさん、怒っているだろうな…。もう寝ているかな。あれ、家の灯りが付いている」
「た、ただいま…」
玄関の戸を開けて、恐る恐る声をかけて中に入ると、阿修羅のような顔をしたダスティンが仁王立ちしており、ユウキに思いっきりげんこつを落とし、雷すら可愛く思えるような大きな声で怒鳴りつけてきた。
「この大バカモンが! 思いっきり心配をかけおって!」
「ご、ごめんなさい。うう、頭が割れるように痛い…」
「ある程度の顛末は憲兵隊が来て話していったから知っている。無鉄砲にもほどがあるぞ、俺やマヤがどれだけ心配したと思っているんだ。このバカ者が!」
ダスティンがユウキの無事を確かめるように優しく抱きしめる。
「グス、ごめんなさい、オヤジさん。ボクとても怖かった。でも、リースちゃんを助けなきゃと思ったら…。」
「わかっている。俺はお前の親みたいなもんだからな、そんな事お見通しだ」
「ただな、親にあまり心配をかけるもんじゃない。いいな」
「うわああああん、オヤジさああん。ごめんなさい、ごめんなさいぃ」
「大きな声で泣くな、近所迷惑だ。ホレ、マヤにも顔を見せてやれ」
『ユウキ様…』
「マヤさん、ゴメン、ゴメンね心配をかけて。うう…」
『泣かないでくださいユウキ様。ほら、可愛いお顔が台無しです。でも本当に無事でよかった…。お腹すいたでしょう、すぐに食事を用意しますから待っててください』
「うん、ありがとう。実はお腹ペコペコなの」
「ユウキ、俺たちに心配をかけた罰だ。明日からしばらくの間、お前が便所掃除当番だ。マヤ、手伝うんじゃねえぞ。いいな」
「………え? そ、そんなぁ〜」
与えられた罰に、ガックリと肩を落とすユウキだった。