第91話 誘拐犯との戦い
冒険者組合では、オーウェンが冒険者たちを集めて話をしていた。
「集まったのは10人か」
「この組合と関わりの深い女の子が行方不明になった。恐らく誘拐されたに違いない。俺はこの子を探して助けることに決めた。お前ら手を貸してくれ、これは正式な依頼だ。助け出せたら1人金貨1枚出す。当然俺も行く」
「なんで憲兵隊に任せておかないんだ。誘拐犯探しは俺達の仕事じゃないだろう」
冒険者の最もな疑問に対し、オーウェンは、
「誘拐された子はな「黒髪の美少女」のユウキだ。アイツはな、昨今の魔物の増加と女性の誘拐事件が関連しているのではないかと当たりをつけていた。だから俺も、アイツには情報があったら提供するようお願いしていたんだ。だから俺にも関係がある」
「あの子か…、話は分かった。オレも助け出すのは賛成だ。しかし、どこを探せばいいんだ。闇雲に動いても仕方ないだろう」
「あの…、わたし、夕方に馬車が南門を出るのを見たわ。普通は夕方に門を出ることはないから、不思議に思ったんだけど」
女性の冒険者の発言を受け、オーウェンはリサに王都周辺の地図を持ってこさせると、南門からの街道を調べ始めた。
「ん、ここかも知れねえ。主街道からこの林を抜ける支道がある。この先に今は使われていない貴族の別荘跡があったはずだ。夜間は長距離移動はできねえし、ここなら人目につかねえから隠れるにはもってこいだ」
ユウキは拘束魔法で動けなくなった髭面の男を縛り上げて床の上に転がすと、マジックポーチから魔法剣を取り出し、部屋を出た。
(マジックポーチを取り上げられなくてよかった。早くリースちゃんを助けなきゃ)
屋敷内のいくつかの部屋で、遭遇した誘拐犯を魔法で拘束し、抱かれていた女たちを助けていくが、リースの姿は見当たらない。
(リースちゃん…、どこにいるの。ここがこの階の最後の部屋。頼むからここにいて)
部屋の扉は内側から閉められており、開けることができない。ユウキは取っ手の部分を剣で壊し、思いっきり蹴り破って中に入った。
リースは全裸にされて両腕を頭の上で縛られ、身動きできないでいる。男の手がいやらしく体をまさぐり、非常に気持ちが悪い。
(ひいっ! 誰か、誰か助けて…、怖い、怖いよ…)
助けを呼びたいけど、恐怖で声が出ない。涙が頬を伝う。リースが諦めかけた時、入り口の扉が「ドカン!」と音を立てて壊れ、外から1人の人影が飛び込んできたのが見えた。
「た、助けてぇ!」
「リースちゃん! こぉの外道! リースちゃんに何をしている!」
ユウキはリースの姿を見て頭に血が上り、リースに手を出そうとしていた男に飛び掛かると、魔法剣で男の体を肩口から縦に切り裂いた。両断された男は声も出せず、自分に起きたことも理解できないまま、命を絶たれて床に転がった。
男を倒したユウキがリースに近付き、縛られていた両手を自由にし、抱き起す。
「リースちゃん、大丈夫? ゴメンね、直ぐに助けに来れなくて」
「う、うわーん。ユーキさーん。怖かった、怖かったよー。わああん」
「うん、怖かったね。でも、もう大丈夫だよ。さあ、服を着て。早くここから逃げよう」
一旦、リースと女性たちを元の部屋に集め、全員の無事を確認したユウキは、
「全員を連れては戦えない。だから、みんなここにいて。ボクが誘拐犯を排除して、安全を確保したあと迎えに来る。逃げるのはそれからだ。いいね」
「ユ、ユウキさん…」
「大丈夫、リースちゃん、心配しないで。ボクに任せて」
「う、うん。気をつけてね」
扉を閉め、内側から鍵を閉めさせると、ユウキは再び、屋敷内に戻り、拘束していた髭面以外の男たちに剣を突き刺し、殺していった。
ユウキは本来、争いを好まない優しい性格だが、何人もの女性を誘拐しては玩具のように弄び、魔物に与え、自尊心や理性を破壊し、命まで奪うという野蛮な行為を行ってきた誘拐犯達を許す事はできず、命を奪うことに全く躊躇いは感じていなかった。
さらに、屋敷内を進むと下に降りる階段があった。慎重に様子を伺いながら降りて行くと大広間に出た。大広間の先には出入口と思われる大きな扉がある。ユウキは周りを見回すが、人の姿は見えなかった。
(誰もいない。誘拐犯はあれだけ? これなら逃げられるかな……)
周囲を見回しながら考えていると、扉が「バン!」と開き、むくつけき男たちが30人ばかり、ドヤドヤと入ってきて、ユウキと鉢合わせしてしまった。
ユウキを見た、リーダーと思われる大男が、「なんだお前は!」と大声を上げる。
ユウキが剣を構え、じりじりと後ずさりすると、大男はニヤリと笑い、
「ジードのヤツが捕まえてきた女か? 剣なんか持ちやがって、面白え、俺たちとヤルってのか。ジードはどうした」
「ジードって、あの髭面の男? アイツは縛って転がしておいた。それ以外の男は全てあの世に送ったよ。あなたが誘拐犯のボス?」
「何だと、お前のような小娘が殺ったって言うのか。おい、誰か見てこい!」
リーダーの命令に1人の男が2階に上がり、慌てた様子で戻って来た。
「アニキ! その女の話はホントですぜ。ジードは転がされて気を失ってやす! 後は全部殺されてますぜ!」
「ほう、可愛い顔してやりやがったな…。テメエら、この女を殺せ!」
アニキと呼ばれた男が叫ぶと、男たちが一斉に飛び掛かってきた。ユウキは、腕に暗黒の霧を纏わせると男たちに向かって放つ。視界が奪われた男たちの動きが止まると、すかさず、魔法剣を構えて飛び込んで剣を振るう。
ユウキよって切り裂かれ、倒れていく男たち。ユウキはさらに霧の魔法を放ち、視界を奪って、動きを止めたところを狙って斬り倒していく。
ユウキが10人ほど倒した時、アニキと呼ばれた大男がバトルアックスを振り上げて掛かってきた!
「うらあ!」
頭上から振り下ろされたバトルアックスを魔法剣で受け止めると「ガキイン!」と大きな音がして、火花が飛んだ。
「う、く…」
体格差に物を言わせ、大男はギリギリとバトルアックスを押し込んで来る。頭上で魔法剣を支えて押さえるが、パワーに劣るユウキは力負けし、床に片膝をついてしまう。
「だ、だめ。もう、支えられない。ま、魔法を…、くそっ、集中できない」
「負けられない…。助けを待つ人たちがいる。リースちゃんも待ってる! 負けたくない!」
「だあっはあっはっはあ! 力こそ正義! お前など、おれの敵ではないわ!!」
これが最後と大男が力を込める。ユウキは必死で耐える。その時、
「ギャアッ」「グワッ!」「えひゃい!」
入口の方にいた誘拐犯たちが悲鳴を上げるのが聞こえた。
「ユウキ! 大丈夫か!」
ユウキの名を呼んで飛び込んできたのは冒険者組合のオーウェンだった。




