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第89話 カロリーナの過去

 臨海学校2日目。


「今日は、午前中は自由行動、午後は地曳網体験、夜は獲れた魚介で海鮮バーベキューだって」

「地曳網かあ、面白そう。楽しみだねララ」

「うん、じゃあ最初は一緒に海水浴しよう。昨日は結局泳げなかったもんね」

「私も一緒に行く!」


 ユウキとララが海岸に向かっていると、カロリーナもやってきた。今日は可愛い水玉のワンピースの水着を着ている。


「宿泊所の売店で買ったのよ。昨日もこうすればよかった。後から聞いたら、ビーチバレーでは色々見えてたって…。うぐぐ、色々ってどこよ。どこが見えていたのか誰も教えてくれないし…、恥ずかしすぎる。ポロリはユウキの役目なのにぃ」


「まあまあ、気を取り直して楽しもうよ」


 3人が波打ち際でパシャパシャと水をかけあったりして遊んでいる。少し離れたところからユウキたちを見ているフィーアとユーリカ。


「あの3人、本当に仲が良いですね。楽しそうに遊んでます」

「ユーリカさん、カロリーナさんを取られたようで寂しいのではなくて」

「まあ、そういう気持ちもない訳ではないのですが…。フィーアさん、カロリーナってどんな子に見えます?」

「カロリーナさん? そうですね…。明るくて、可愛くて、グループのムードメーカですね。それでいて、周りをよく見ていて、気配りもできる良い子だと思います」


「…………」


「フィーアさん、カロリーナは王都に出てくるまで、引っ込み思案の気の弱い女の子でした。友達もいなくて、いつもいじめられてて、近所に住んでいた私だけが唯一の話し相手だったんです」


「え…、まさか」


「ホントです。王都の学園に入れば変わるかなって思って、一緒に入学したんですけど、結局変わらなくて。ユウキさんに私が無理やり会わせてお友達になってもらったんですよ。ユウキさんはあの通りの人見知りのない方ですので」


「結果的に良かったと思います。カロリーナがあんなに明るくなるなんて…。小さい頃のカロリーナを知ってる私とすれば信じられないくらい。本当にユウキさんに感謝しています」


「カロリーナにとってユウキさんは、命を助けてくれただけでなく、心の扉も開いてくれた大切な人なんです」


 ララとカロリーナがユウキに抱き着く。その勢いでユウキは「ドボン!」と海の中に倒れ込んだ。咽ながら涙目になって抗議するユウキにララとカロリーナは大声を出して笑う。その様子をフィーアとユーリカはしばらく見つめていたが、3人に合流するため歩き出した。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 午後の地曳網は、あらかじめ地元の漁師さんが設置していた網を、参加生徒全員で掛け声を上げながら、漁師さんの指示のもとバランスに注意して引いている。バランスが崩れると網がよれて魚が逃げてしまうためだ。

 揚がってきた網の中には大小さまざまな魚やタコやイカに似た生き物がたくさん入っている。ユウキはみんなと一緒にはしゃぎながら魚を追いかけている。


(この世界の魚も日本で見たのと似ている。タコみたいなのもいるよ。おもしろーい)


「ユウキ! そっちにもいるよ! 捕まえて」

「わかった、任せて!」

 ユウキは、みんなと一緒に夢中になって魚を捕まえるのであった。


 夕方になると、お楽しみの海鮮バーベキューが始まった。魚だけではなく、漁師さんが差し入れてくれた色々な貝もあるので豪華だ。

 ユウキはララやカロリーナ、フィーアたちと一緒に貝を食べている。元の世界のホタテ貝に似ていて、この地域独特の魚醤をかけると香ばしくて美味しく、少しだけ元の世界が懐かしくなった。


「そういえば、ララさん。アルさんとは本当に別れたのですか」

「わ、別れたも何も、アルとはただの幼馴染っているだけで、恋人ではないし」

「そうですか…、アレ見てください」


 フィーアが指さした方を見ると、ヘラクリッドとアルが、寄り添って話をしながら一緒にバーベキューを食べている。その様子は何やら恋人同士のようだ。


「うげ、キモ!」カロリーナの容赦ない一言が飛ぶ。

「あ、あの2人に一体何が…。ボク、男同士はちょっと無理だな」

「私、昨晩あの2人が裏庭の茂みの中から出てくるの見ました。アル君、お尻のあたりをさすっているように見えましたけど」


 ユーリカの暴露に、ヒルデがビクリと反応し、何かを想像して、顔を赤らめて固まる。


「あ~あ、アルはね、武術大会1回戦で負けてから、ヘラクリッド君とずーっと修行してるんだ。2人で山籠もりとかしてたしね。もう私なんか見えてないよ。何の修行をしてたんだか。アルのご両親が見たら泣くよ」


「アル君はララに興味はなかったと。体形は男と変わらないのにね」

「むか! 人の事言えないでしょ。ペタリーナは!」

「む~、またペタリーナって言った~」


「神聖隊か…」

「ユウキさん、その「神聖隊」ってなんですか?」

「うん、男の同性愛者で構成された兵隊のこと。愛する者二人一組のペアで共に戦うことで士気が高まるらしいよ」


「名称が無駄にカッコいいですね」

「近寄りたくはないわね。暑苦しそう」


 ヘラクリッドとアルの仲睦まじそうな様子を見て、女の子たちは複雑な気持ちになるのであった。


「臨海学校、もう終りね…」


 ララとカロリーナが名残惜しそうに言う。夏休みに入ると、ユウキ以外の下宿人は夏休み終了近くまで里帰りする予定だ。ダスティンの武器屋は3人の生活になる。今がとても楽しかっただけに、ちょっぴり寂しく感じるユウキだった。

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