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第84話 ギルドマスター

 ユウキは今、冒険者組合の3階にある「組合長室」にいて、先ほどユウキを助けてくれた男性と向かい合わせに座っている。なんとなく居心地が悪く、もじもじしていると、綺麗な女性がお茶を持ってきてくれた。ユウキは一口お茶を頂いたら、少し落ち着いた。


 その間、男性はユウキの事をジッと観察している。


(この娘が街で噂の「黒髪の美少女」か…。確かにかなりの美人だ。おまけにこの大陸では見かけない長い黒髪。ふむ…、確かにいい体をしている。しかも結構鍛えられているな)


(確か、ゴブリンキングを単独で討伐したとか、不思議な方法で女の子を蘇生させたという話も聞こえてきている。本当なのか? この姿からは想像もつかんな)


「あ、あの…」

「おお、すまんな。そうだな、まずは自己紹介と行こうか」


「俺は、この冒険者組合の組合長、オーウェンだ。組合長はカッコ悪いから、勝手にギルドマスターって皆に呼ばせてる。元Aクラス冒険者で女房と子供2人の妻帯者だ。だから俺に惚れるなよ。あと、さっきは怖い思いをさせて悪かったな。アイツらには後で厳重注意しておくから許してくれないか」


「わかりました。えと、ボクはユウキ、ユウキ・タカシナって言います。15歳で王国高等学園の2年生です。あと、オーウェンさんには惚れることはないと思います」


「おっと即答か、残念だな。ところで聞きたいことってなんだ」


「はい、実は…」


 ユウキは、先般の廃城での出来事を詳しく語った。本来いるはずのない魔物、オーガとオーグリスがオークを率いて群れを作っていたこと、それらと戦闘して討伐したこと、廃城から脱出しようとしたら、ゴブリンの大きな群れにも襲われたこと。さらに、他のクラスでも同様にゴブリンやオークの群れに襲われ、けが人や行方不明の子が出たことなど。また、昨今の女性の誘拐はこの件に関係しているのではないかという自分の推測も話した。


「そう考えたから、冒険者の目で、今の魔物の状態はどうなっているのか聞きたかったんです。以前と比べて増え方はどうなっているのか、生息域は変わっているのかなって」


 オーウェンは黙ってユウキの話を聞き、話が終わると、今の現状を説明してくれた。


「お前の話、中々興味深いな」

「まず、魔物の件だが、確かにゴブリンやオークなどの人型が増えているのは確かだ。組合にもひっきりなしに討伐依頼が来ている。中には上位種もいて、冒険者にもけが人や犠牲者が出ていて、人手が足りない状態だ」


「………」


「それに、お前たちが遭遇した以外にもオーガの目撃があったり、中にはキュクロプスがいたなんて眉唾な話もある」


「キュクロプスって何ですか」

「単眼の巨人だ。身長は3mほどもある化け物だ。オーガと同じく北方の黒の大森林ににしか生息しないと言われている」


「以前も魔物が急に増えることはあったが、今の増え方は異常だ。何か要因があると俺も睨んでいる。もし、それがお前の言う通り女性の誘拐事件と絡んでいたら…。まずいな」


「ユウキ、ゴブリンやオークってのはな、メスが極端に少ないから、人間の女をさらって子を産ませるのは知ってるな?」


「はい…」


「それだけじゃねえ、エルフやドワーフの女、その他の魔物の雌にも子を産ませることができる。要は何でもいいんだ」

「そ、そんな…、そんなおぞましいこといが…」

「可能なんだよ、アイツらは。その中で最も受胎率がいいのが、人間だ」


「アイツらの子は3ヶ月ほどで生まれてくる。人間は丈夫だからな、何度でも子を産ませさせられるんだ。それこそ死ぬまでな」


「うう…(想像したら気持ち悪くなってきた)」


「何となく話が繋がってくるな。ただ、誰が何の目的で行っているかだが…、それはわかんねえな。オーガの出現といい、わからねえ事ばかりだ。まあ、組合は憲兵隊じゃないから依頼をこなして行くしかないんだが…」


「組合長、あまり女の子を怖がらせてはいけませんよ。はい、これでも食べて」

「あ、ありがとうございます。お姉さん」

 先ほどお茶を出してくれた女性が、剥いたリンゴを出してくれた。ユウキは一切れ取って口に入れると、程よい甘みと酸味が口中に広がり、気持ち悪さが和らいだ気がした。


「組合長じゃない! ギルドマスターと呼べと言ってるだろ!」


「まあいい、ユウキ、何か気づいたことがあったら俺に知らせろ。受付に言えばここに通してもらえるようにしておく。リサ、下の受付に伝えておいてくれ」


「それとユウキ、お前ら学生がオーガやオークの群れを撃退したって言ってたな。そうだな、今度の休日、武装して組合に来い。実力を確かめてやる」


「ええ~、断ってもいいですか」


「ダメだ、必ず来い。おっと、長話をしていたら外が暗くなってしまったな。リサ、誰か手の空いている冒険者にユウキを家まで送らせろ。報酬は酒を3杯までタダにしてやれ」

「わかりました。さ、ユウキさん、行きましょう」


 オーウェンは退出するユウキの背中を見ながら、王家の世継ぎ問題、宗教団体の暗躍、女性の誘拐・行方不明事件と組合の存続にも繋がる諸問題が一つに結びついて行くのを感じている。ただ、誰が魔物を大量発生させて何を成そうとしているか、目的がわからなかった。

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