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第82話 脱出

 ユウキ達がオークやオーガと戦っている頃、出入り口を守備するカロリーナとフレッドは窮地に追い込まれていた。


「まずいわね、私はあと1回くらいしか魔法が使えないわよ。フレッド君は?」

「ぼくはもうだめだ。魔力切れ」


 外からは侵入しようとするゴブリン達が、魔法で作った防壁を壊そうと盛んに衝撃を与えてくる。


「ヤバい、防壁が壊れそう。仕方ない最後の魔力、アイス・ウォール!」

「あとは、この防壁がもつ間にユウキさんたちが来てくれることを祈るしかないね」


 そこに奥から足音が近づいてくる。カロリーナとフレッドは顔を見合わせた。


「誰か来た! もしかして向こうは片付いたの?」

「おおーい」

「ん、この声は、ララ?」


「ララ一人なの? なーんだ」

「なーんだとは何よ! 応援に来たのに! このペタリーナ!」

「ペタリーナって、この貧乳女、言うに事欠いてペタリーナって言ったな! どこを指して言ったのよ! 胸か!胸なのか!」


 睨み合う2人に、フレッドはまた始まったと思ったが、魔法防壁が破られそうになっているのに気づき、2人に声をかける。


「ま、まずいよ。防壁が突破される。どうする」

「ララ、魔法石はまだある?」

「あるよ。ほとんど使ってない」

「よし、広間の入り口まで戻るわよ。急いで!」


 広間まで撤収してきた3人が、出入り口を見ると魔法防壁を突破したゴブリンが大挙して入り込んでるのが見えた。カロリーナとフレッドはララから魔法石を分けてもらうと投擲の体勢に入る。


「よし、私とララはゴブリンの先頭に向かって、フレッド君は列の中ほどめがけて投げるよ。せ~~の! えいっ!」


 3人が投げた魔法石は、床に落ちると衝撃で壊れ、その瞬間、狭い範囲に密集していたゴブリンを多数巻き込んで炎を巻き上げた。


「よっし! 上手くいった。ララ、もっと魔法石を頂戴」

「は~い、カロリーナには特別価格で1個、金貨1枚ね。貸しにしておくから」

「こ、このアマ…」


 魔法石の攻撃で多数のゴブリンを撃退した3人のもとにユウキを始め全員が集まってきた。カロリーナは、魔法防壁は打ち止めなこと、ララの魔法石を使って撃退はしたが、外には多くのゴブリンがいるらしいことを説明した。


「ここに留まっていても仕方ないし、様子を見ながら出ましょう。ララの魔法石で遠くに追いやって、その隙に逃げるのがいいとボクは思うんだけど」


「リーダーの指示に従うわ。私たち魔法組はもう魔力が底をついているし」

「あたしも矢がない。接近戦は苦手かな…」

「俺も賛成。魔法組を守りながらの撤退戦は厳しいと思う」


 カロリーナ、シャルロット、イグニスの発言に全員が賛同し、ゴブリンとは戦闘を避け、撤退することにした。今度はララから魔法石を受け取った男子が殿を務める。


「魔法石、今渡したので最後よ。大切に使ってね」


 ユウキたちは廃城の出入り口からそっと外を伺うと、魔法石の攻撃に怯んだゴブリンが街道の左右の茂みに隠れて待ち伏せをしているのが見えた。


「よし、ヘラクリッド君、イグニス君、左右のゴブリンを追い払って。炎が立ち上がったら全員で一気に街道に抜けるよ。疲れているかもだけどガンバロウ。準備はいい? じゃお願い!」


 ヘラクリッドとイグニスが街道の左右に潜んでいるゴブリンに向かって魔法石を投げつける。それぞれの集団の中に落ちた魔法石が火の玉となってゴブリンを巻き込む。


「今だ!走れ!」


 全員で、廃城前の街道を全速力で走り抜けるが、ユウキとユーリカ、シャルロットを除く女性陣が早々と息切れしたので、あまり距離は稼げなかった。しかたなく、徒歩で帰途につくが、ユウキ達の目の前に、街道を塞ぐ形でホブゴブリンが10体ほど現れ、立ちはだかった。


「しつこい男は嫌われるんだけど」

「ここは、ボクとユーリカ、カロリーナが半分引き受ける。ヘラクリッド君とイグニス君、ケント君が半分よろしく、それでいいかな」


「あ、あの、聞き間違えたかな。私の名前が呼ばれたように聞こえたんだけど…」

「うん、呼んだよ。さあ! カロリーナも前衛デビューだ!」

「ぎゃああ、ユウキの鬼、悪魔、おっぱいお化け! 黒乳首!」

「し、失礼な! 黒くないよ、きれいな桜色だよ! あっ…」

 ユウキの胸に男子の視線が集まる。


「えーと、カロリーナの墓碑銘は「貧乳の女王ここに眠る。来世は巨乳になることを夢見て」でいい?」


「ララさん…、あなた達、実は結構余裕あるでしょ。」


 フィーアが呆れたように言う。でも、このピンチに余裕を見せる友人達に安心感も覚える。

 ユウキたちがいざ戦おうとしたとき、突然、ホブゴブリンが「ギャアア」と声を立てて倒れた。あっという間に10体を倒して現れたのはバルバネス先生だった。


「お前らの帰りが遅いから迎えにきたんだが…。なんだ、こんなのが出るなんて聞いてねえぞ。何かあったのか?」


 先生が来たことで安心したユウキ達は廃城での出来事を説明した。

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