第81話 オーガとオーグリス
オーガと対峙するヘラクリッド。オーガは鉄のこん棒、ヘラクリッドはカイザーナックルを装備し、2人とも上半身裸だ。
『おもしれえ。俺様とガチンコでやろうってのか?』
「力と力の勝負は男の本懐。全身全霊の我が力、見せてくれようぞ!」
『ウラアアアアア!』
オーガがこん棒でいっぱい殴りかかってきた。
「ふんぬうううううう!」
ガキン!という音をさせて、ヘラクリッドはナックルで受け止める。
ヘラクリッドはストレート、左右のフックを相手の顔面に向け、上半身のバネの反動を利用し、速度を載せて打ち込むが、オーガも体を左右に振って躱す。さらに、ヘラクリッドのパンチが空振り、体が流れた隙を狙って、こん棒の一撃を加えてくる。
横から来るこん棒の一撃を躱したヘラクリッドの顔面に、オーガの拳がめり込む。
「ぬおう! 凄まじい衝撃。しかし、負けられぬ!」
自分自身に気合を込め、オーガに向かって前進する。こん棒と拳の混成攻撃に反撃ができない。腕を顔の前で十字に組み、防御を高めてオーガに向かって進む。
『なんてタフな野郎だ。おらおら、死にくされ!』
「うぬぬう! 吾輩の肉体は砕けぬ!折れぬ!己の筋肉を信じるのみ!」
十字に組んだ腕に容赦ない攻撃が加えられる。しかし、亀のように防御を固めたおかげで急所には致命的な一撃を喰らっていない。ヘラクリッドは少しずつ歩みを進め、オーガの目の前に近付いた。近づいたヘラクリッドにオーガは鬱陶しそうにこん棒で薙ぎ払いをかけるが、大振りになって隙を作ってしまった。
「ここぞ!」
ヘラクリッドは、オーガが自ら作ったチャンスを逃がさない。すかさずレバーに下からの左フックを撃ち込む。『うがあっ』と唸るオーガの前で腰を低く屈め、固く握った拳を、膝のバネを跳ね上げた勢いのまま、オーガの顎に打ち込んだ。
ヘラクリッドのアッパーを受けたオーガは10cmほど浮き上がり、すとんと床に落ちて倒れそうになる。しかし、ヘラクリッドはそれを許さず、ダメージを受けて反撃もままならないオーガの顔面に、強烈な左右のフックを連続で打ち込む。
オーガの顔の骨が砕ける鈍い音がし、意識を刈り取ったと確信したヘラクリッドは、気を込めた右拳による全力のストレートを顔面の中心に炸裂させた。
オーガを倒したヘラクリッドが大きな声で勝鬨を上げる。そしてオーガに向かって、「敵ながら見事であった」と称賛を送るのであった。
一方、オーグリスと対峙しているユーリカとフィーア。
「あら、アンタのダンナ、倒されたみたいですわよ。あなたも降伏したら?」
『フン、降伏したら許してくれるとでもいうの?』
「まさか、首を刎ねるだけですわ」
『なら、戦うしかないさね。アンタらを殺すだけさ』
オーグリスの両腕に風の流れが巻き起こり、空気の塊を2人に放った。想像以上の強力な打撃に、吹き飛ばされてしまう。フィーアが床に叩きつけられる前にユーリカが抱き留めた。
「うぐうっ!」
「きゃああっ、ユーリカさん! 大丈夫ですか!」
「え、ええ大丈夫」
ユーリカはフィーアを庇った衝撃で一瞬息が出来なくなったが、深呼吸してダメージを回復させると、落としたバルディッシュを拾って立ち上がった。
「くっ…、思ったより魔法の威力が強いです」
「なら魔法を使う前に切り伏せる! フィーアは支援をお願いします」
ユーリカは、戦斧を振りかぶってオーグリスに叩きつけるが、オーグリスも持っていた大剣を使って防いだ。戦斧と大剣の刃がぶつかり火花を散らす。しばらく力比べをしていたが、そこにフィーアの魔法が飛んできた。
「ウインドカッター!」
真空の刃で対象を切り刻む魔法が飛んできたが、オーグリスも自分の前に風の壁を作って、フィーアの魔法を無効にする。
「悔しい…。魔法の展開が私より早いなんて」
『魔物はね、人間より強い魔力を持つんだよ。私に敵うと思っているのかい。お目出度いお姉ちゃんだねえ。ホラ、喰らいな! ヒートライトニング!』
オーグリスから放たれた幾筋もの強烈な輝きを持った熱電流が奔流となってフィーアに襲いかかった。フィーアは魔法から逃げようとしたが、足がもつれてしまい、その場で尻もちを着いてしまった。顔を上げると、目の前に電流が迫ってくる。電撃を受けるという恐怖に思わずギュッと目を瞑った。
「フィーア! 危ない!」
ユーリカが咄嗟に腰からダガーを抜き、フィーアの前方めがけて投げつけた。電流は鉄製のダガーに集まり、そのまま、床に落ちて電流は地面に吸収されていった。
「あ、ありがとう、ユーリカさん。もうダメかと思いました…」
「よくもフィーアさんを! 今度はこっちの番です。はああああっ!」
ユーリカが走ってオーグリスに接近し、体を回転させながら、戦斧を横薙ぎに振るった。オーグリスは大剣で防ぐが、ユーリカの勢いに体勢を崩した。その隙を見のがさず、連続して戦斧を叩きつける。オーグリスは大剣でかろうじて防ぐが、徐々に劣勢になる。
『うっとおしいね! この乳デカ女は!』
「大きなおっぱいには夢と希望が詰まっているんです! 小さなおっぱいには負けません!」
オーグリスがフィーアに使った放電魔法をユーリカに放とうと、魔力を腕に込め始めた。この至近距離で魔法を受けたら黒焦げになってしまうに違いない。しかし、ユーリカはオーグリスと切り結んでいるので、動くことができない。
「そうはさせません! ウインドカッター!」
フィーアがオーグリスの魔力を纏った腕を狙って真空の刃を放った。魔法の発動準備が仇になって防御することができず、「ズバアッ!」という音がして、腕が斬り落とされた。
『うぎゃああああ! こ、この小娘えええ!』
叫ぶオーグリスの隙を狙って、ユーリカが戦斧を首めがけて振り下ろし、首を刎ね飛ばした。首を失った体は血しぶきを上げながら床に倒れ込む。
「はあ、はあ…、倒しましたが、強敵でした。魔法を使う魔物がこんなに強いなんて…」
「ユーリカさん、何度も助けてくださって、ありがとうございます」
「はい、フィーアが無事でよかったです。さあ、みんなの所に行きましょう」
フィーアとユーリカは広間の床に転がったオーグリスの首を拾い上げ、手持ちの布に包んで、戦利品として持ち帰ることにした。ユウキと合流を果たしたフィーアとユーリカは、お互いの勝利と無事を喜び合うと、オーグリスの首をマジックポーチに収容するようユウキにお願いしてきた。
「だって、途中で腐ったら臭いでしょ。そうだ、ハイオークの首も持って帰りましょう」
「ええ~、わかったよ…。イヤだな~」




