第79話 絶体絶命の危機
目の前に現れた2体のオーガ。オーガについてフィーアが教えてくれる。
「オーガは強靭な肉体を持ち知能も高い魔物です。特に女の方「オーグリス」は魔法を使う危険な怪物です。北方の黒の大森林が棲み処と聞いてましたが、こんな所にもいるなんて…」
「待って! まだ何かいる。しかも大勢!」
ユウキが新手の存在に気づいた。オーガの背後から、一回り小さい怪物が集団で現れた。30体程度はいる。
「オークだ! オーガに従っているんだ!」
フレッドが新手の怪物の正体に気付いた。
オークは好戦的な魔物で、黒い皮膚を持ち、赤い目をした怪物だ。身長160cm前後で腕が長い。武器はこん棒、大剣など。肉食で特に人間の肉を好み、日の光に弱く、洞窟や廃城に住むと言われている。また、どんな生き物とも交配が可能で、ゴブリン同様、人間の女たちには危険な存在だ。そのオークが多数、よく見ると上位種のハイオークの姿も確認できた。
「とんだ訓練になってしまいましたわね…」
フィーアがぼそりと呟く。
魔物の群れとユウキたちは約10mの距離を置いて睨み合っている。魔物も武装した人間の強さを知っており、うかつに仕掛けてこない。
「フィーア、みんな、一旦下がろう。入り口近くの広間まで戻るんだ。多分他の部屋にも潜んでいるはず。ここで戦ったら包囲されるし、退路を断たれる危険がある」
「フレッド君、お願いがあるの」
ユウキはフレッドを呼び寄せると、あることをお願いし、フレッドが「わかった」と言うと、全員に向かって「出口に向かって走れ!」と叫んだ。
全員部屋を出た後、フレッドがユウキに言われた通り防壁魔法を発動してオーガたちがいた部屋の入り口を塞いだ。
「これで少しは持つはず。今のうちに逃げよう」
「ユウキさん! 階段の下!」
ユウキが階段の下を見ると、オーク数十体が待ち構えているのが見えた。
「フィーア、風魔法で奴らを薙ぎ払って道を開いて。ヘラクリッドとイグニス、ユーリカが前衛に。カロリーナ、フレッドは3人の後ろで支援! ララとシャルは灯りをお願い。ケントとフィーアは前衛から抜けてきたヤツを叩いて! ボクは殿を引き受ける!」
「わかりました! 行きますよウインド・ボルテッカー!」
フィーアは雷を纏った竜巻をオークの集団に向けて放った。強烈な竜巻に捕らえられたオークたちが体を切り刻まれて不気味な悲鳴を上げ、無残な死体となって飛び散った結果、1本の道が開いた。その道に向かって前衛の3人が飛び出し、残りの7人もそれに続く。オーガのいた部屋の蓋はまだ機能しているようだが、そう長くは持たないだろう。ユウキは(早く、急いで)と心の中で前を行く仲間たちに呼びかけた。
階段下の広間を抜け、ユウキが伸ばしてきた糸を見ながら迷うことなく出口に向かう。長い通路を進むうち、後ろから生き残ったオークの群れが追いついてきた。
「このままでは追いつかれてしまう。みんな全員前を向いているな。よし、今なら魔法を使える!」
ユウキは迫るオークの群れを魔法で作った黒い霧で覆った。漆黒の闇で目を塞がれたオークたちは歩みを止め、右往左往している。
「今のうちに!」
通路の半ばに差し掛かった時、ユウキたちが休憩を取った部屋の戸が少し空いていたので、そっと覗いてみると、女の子たちが小用をした壷にオークが数体集まって壷を奪い合っていた。その光景を見たユウキは嫌悪感を抱き、ララを呼び寄せると、
「ララ、合図したらこの部屋の中に炎の魔法石を投げ入れて」
ララは「わかった」と返事をすると、腰に付けたポーチから炎の魔法石を取り出す。
「準備はいい? 3,2,1、今!」
ユウキの合図で投げ入れられた魔法石は、床に当たって割れ、大きな炎を上げた。その瞬間、ユウキは扉を閉め、つっかえ棒をして中から開けられないようにした。
「これで中のオークは焼け死ぬか、息が出来なくなって死ぬかだね。汚らわしいやつらには相応しい死に方だよ」
「ユウキって結構、魔物に対しては冷酷だね」
「ララ…、以前、話したけど、あの件があって以来、魔物だけは許せなくて」
「そうか…、そうだったね。ゴメン」
「ううん、いいんだ。さ、進もう」
ユウキとララが最初の大広間に着くと、フレッドが両脇の奥に続く入口を防壁魔法で塞いだ。
「これで暫く時間が稼げると思うよ」
「ありがとう、フレッド君。じゃあ、直ぐに外にと行きたいところだけど、安全かどうか確認が必要ね。シャルとケント君、外の様子を見に行ってくれる?」
「りょーかい」
「わかった」
出口に到着したシャルとケントが、そっと外の様子を伺う。
「静かだな。こっちは特に何もないようだけど…。シャル、そっちはどうだい」
「ケ、ケント、マズイ、マズイよ。ゴブリンだ。ゴブリンが沢山こっちに向かって来ている。ホブも見えるよ。ど、どうする?」
「なんだって! とにかく一旦みんなの所に戻ろう」
シャルとケントの報告を聞いて、ユウキたちは状況が悪くなる一方であることに驚いた。さすがのヘラクリッドやユーリカも顔を青ざめさせている。ユウキはそんなみんなを見回し、何とかしなければと考える。
(ここはリーダーとして役割を果たさなきゃ。みんなに希望を与えるんだ、生き残れるっていう希望を。ボクは絶対に諦めないぞ、大切な友人たちを守るんだ!)
その時、フレッドが設置した防壁が魔物に破壊される音が広間に響いた。




