第75話 エルフの新入生
ユウキたち5人の少女は一緒に登校していた。昨今の女性行方不明事件で、街中は憲兵隊の姿が多く見える。また、学園側でも自宅通学者には護衛を付けたり、武装して通学することを許可している。
このため、ユウキとユーリカもダガ―を帯剣し、不測の事態に備えている。
「なんか物々しいね。仕方ないとはいえ」
「ええ、そうですね。行方不明者はまだ誰も見つかっていませんし、不安ですね」
「行きも帰りもみんなで行動しないといけないね」
カロリーナとユーリカが、周りを見回しながら話をしている。ユウキもいつも以上に気を配っていて、登校するだけなのに疲れてしまうなと思うのであった。
学園に入ると、掲示板に1年生のクラス編成が張り出され、大勢の1年生が真剣に自分の名前を探している。この学園では1年生のクラス編成がそのまま2年、3年と持ち上がるシステムなので、1年生のクラス編成はその後の学園生活に大きく影響するので見ている生徒は真剣だ。
「わあ、懐かしいね。ボクたちもあんなだったのかな。あれ、あの子…」
「どうしたのユウキ?」
「うん。あの子、1人ぽつんとしているから、気になって…」
「あら、珍しい。あの方、エルフですのね」
「エルフを知ってるの? フィーア」
「ええ、私の実家とエルフの方々は貿易関係で交流がありますので」
「へえ、そうなんだ。ボク、ちょっと声をかけてみようかな」
ユウキがエルフの女の子に近付き、二言三言話した後、こちらに戻ってきた。女の子は安心したように、学舎の中に入って行く。
「あ、ユウキ戻ってきた。どうだったの?」
「うん、後でわかるよ」
「え~、今教えてよ、もう、いじわるね」
カロリーナは不満そうに言うが、ユウキは後で後でと誤魔化すので諦めた。
ユウキたちは学園2階の2年生の教室に入って、クラスメイトにあいさつする。
「みんな、おはよう」
「あれ、フィーア、何で一緒に入って来るの? あなたSクラスでしょ。ここはCクラスよ。ホラ、行った行った」
カロリーナがシッシッと手を振るが、フィーアはにこやかにカロリーナの頭をペシンと叩く。
「いえ、2年生から私はCクラスです。Sはつまんないんですもん。お父様の権力を使ってクラス替えしてもらいました。てへ」
「あたた…、何が「てへ」よ。無駄に権力使ってからに、このお嬢様は。フィーア、恐ろしい子…」
「でも、これで全員一緒のクラスだよね。ボク、嬉しいな。楽しくなりそう」
「まあ、ユウキが喜んでるからいいか」
「よーし、全員そろったな。担任は引き続き俺、バルバネスだ。ホレ、さっさと2年のクラス委員を決めろ」
自ら立候補する者はいなかったので、推薦となった。カロリーナがニヤッと笑って手を上げようとしたが、それよりも早くユウキが手を上げ、男子はフレッド、女子はカロリーナを推薦し、結果、この2人に決まった。
「やられた…。ユウキに押し付けようと思ったのに、先手を打たれた」
「たまにはカロリーナも苦労しなさい。いつもボクだけ酷い目に逢ってるんだからね」
ユウキの言葉にフィーアもユーリカもくすくすと笑う。ユウキはみんなで他愛もないことで笑いあうこの雰囲気が大好きだった。いつまでも大切にしたい時間だと思う。笑うユウキを見てララも安心するのだった。
始業式が終わり、ユウキとカロリーナたちが玄関を出ると、門の入り口に1人の女生徒が大きなカバンを持って立っていた。
「ヒルデ、お待たせ。さ、行こう」
「みんな、紹介するね。新入生のヒルデ。1年Aクラスだって」
「あら、Aクラスですか優秀なのですね。私はフィーア。よろしくお願いします」
ララ、カロリーナ、ユーリカもそれぞれ自己紹介する。
「ところで、そろそろ教えてくれませんか。ヒルデさんとどこに行くんです?」
「うん、ボクたちの家だよ。実はヒルデ、入寮手続きがあるの忘れてて、寮に入れず困ってたんだ。だから僕の家においでよって言ったの」
「なるほど、また女の子が増えるのですか。ダスティンさんの困った顔が目に浮かぶようです」
「ヒルデ、お部屋代、ひと月銀貨3枚だけど大丈夫?」
「はい、大丈夫です。すみません、ユウキさん。皆さんもよろしくお願いします」
ヒルデを連れて武器屋街に入り、ダスティンの武器店に到着した。武器店と言う意外な場所にヒルデは驚いている。
「着いたよ、入って入って。お~い、オヤジさ~ん、ちょっとお願~い」
「なんだ、うるさいぞお前ら」
工房の奥から、ダスティンがのっそりと出て来る。ダスティンを見たヒルデはびっくりして、思わず「あっ、ドワーフ…」と口走ってしまい、慌てて手で口を塞いだ。
「ん、何だ。エルフの小娘じゃねえか。ここはお前のようなモンが来るところじゃねえぞ」
「違うのオヤジさん。この子ヒルデって言うんだけど、下宿探してるんだって。ここ、この間増築した部屋1つ空いてるでしょう。お願いできないかな」
「はあ、ダメだダメだ。エルフの小娘に貸す部屋なんぞない!」
「もう、そこを何とかお・ね・が・い。おじさま」
ユウキが手を合わせて上目遣いでダスティンを見てくる。ダスティンはこれをされると弱かった。娘におねだりされているようで…。
「ユウキからのお・ね・が・い」
「う、む…だ、だめ…じゃない…」
「やった! ありがとうオヤジさん、よかったね、ヒルデ!」
「あ~あ、鋼の男ダスティンもユウキにゃ激甘だね~。もっと粘ると思ったけど、簡単に落ちちゃった」
カロリーナが呆れたように言い、ダスティンは女の子たちに目が合わせられない。黙って工房に戻って行った。
夕飯後、みんなでテーブルを囲んで話をしている。ダスティンはさっさと自室に行ってしまった。
「う~ん。私、エルフって初めて見たけど美人ねー。ユウキとフィーアも美人だけど、ヒルデはまた違った感じよね。薄緑色の髪もピンと張った耳も似合ってる」
カロリーナがヒルデをまじまじと見て、感心しているが、視線を下に向けると、ギロリとヒルデを睨みつけ、胸を指さして憎々し気に、
「でも、許せないのはその胸ね。なに、その大きさは。何センチ? 言いなさい!」
「ひうっ! は、86cmです…」
「はい、ユウキ!」「88cm」
「ユーリカ!」「96cm」
「くう~、このデカ乳三銃士め! 何が私らと違うって言うのよ~。風船女かお前ら!」
「エルフってのは、私ら同様スレンダーなイメージでしょ、それなのに何? そのデカさは。ケンカ売ってるの?」
「ひうう…、怖いですこの人…」
「まあまあ、カロリン落ち着いて。しかし、また超乳力者が増えてしまったか。はあ…」
とララがため息をつき、
「ああ、お乳の歴史がまた1ページ…」
とカロリーナが嘆く。
「デカ乳三銃士とか、超乳力者とか、よくまあポンポン言葉が出てくるもんだね」
「ユウキさん、フィーア感動してますよ。色々なワードが出てきて、新鮮楽しいです」
そこに、お風呂の湯加減を見に行ってたユーリカが戻ってきて、カロリーナとララに向かって早くお風呂に入るように勧める。
「ホラ、そこの絶壁シスターズ! 早くお風呂に入ってきてください。後がつかえますから」
「くっ! ユーリカめ、強者のセリフが憎らしい…」
「絶壁シスターズ! 絶壁! あーっははっは! ほーっほほほ! く、苦しい。笑い死ぬ」
「あの笑い方…、とても上級貴族のお嬢様とは思えないね」
ユウキが呆れたように、がっかり残念系お嬢様を見る。
「あ、あはは…は。(わたし、ここでやっていけるかな…。不安、とっても不安)」
ヒルデは、この大陸北西のロディニア王国と国境を接するエルトリア国の出身であった。
エルトリア国はエルフの治める国で、王国とは友好関係を結んでいる。農業が盛んで食料を中心とした貿易も盛んだ。ただ、エルフの特性か、閉鎖的で変化を望まない風土に不満を持ったヒルデは、親の反対を押し切り、外の世界を見るため、王立高等学園に入学したと話をしてくれた。
「そうなんだ? ボクも同じような理由で田舎から出てきて、学園に入学したんだ」
「ユウキさんもそうなんですか? 色々教えてもらえると嬉しいです」
「ただ、一人で行動するのは止めてね。最近、女性を狙った誘拐事件が多発していて、犯人は捕まっていないんだ」
「怖いですね…。気をつけます」
そこにお風呂から上がった2人がリビングに入ってきた。
「ほら、お風呂空いたよ。次の人どうぞ」
「あー、絶壁で表面積少ないから、洗うの早くて助かるわー」
カロリーナの自虐ネタが炸裂し、フィーアが再び大爆笑してしまった。




