表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/620

第74話 陰謀

 春になり,2年生に進級を控えたある日,ユウキたちは家のリビングで,わいわいと新学期の準備を進めていた。


「最近,スラムの街娼や女性の浮浪者が大勢行方不明になっているそうですわ。スラムの住人から王国憲兵隊に捜索願が出されているみたいです。また、学園からもいなくなった女生徒がいるという噂もあります」


「なにそれこわい」


「無差別誘拐なのかな。スラムの人を誘拐するということは、身代金目的ではないみたいだね。何か目的があるのかな?」

「私たちみたいな美少女は気をつけなければならないね」

「外を歩く時はまとまって行動した方がいいわね」


 ユウキとカロリーナの話にララが相づちを入れたのを聞いて、ユーリカがはっと気がついたようにララを見て言った。


「ふと思ったんですが、ララさんはどっから湧いて出たんですか?」


「あのね、私をボウフラみたいに言わないでよ」


「実はララがここに住むのは、ボクのお願いでもあるんだ。みんなゴメンね」

「そういう訳よ。今日からよろしくね」

「そうだったんですか。少し前から部屋を増築していたんで、不思議だなと思ってたんですよ」


「じゃあ、アルはどうしたの」

「アルね、学園寮に入ったよ。昨年の武術大会で1回戦で負けたでしょ。相当ショックだったみたいで、あれからずっとヘラクリッド君と山籠もりしたり修行に行ったりしているよ。だから寮の方が都合がいいんだってさ」


「あらあら、ララさんったら、彼氏を男に盗られちゃったんですか、プークスクスクス」

「違うわよ、私が振ったの。あんなやつ」


 フィーアが嫌みったらしい笑みを浮かべるが、ララが髪をパサッとかき上げ、さばさばとした感じで言った。


「なんか今、無駄にかっこよかった」

「ありがと、ユウキ。でも「無駄」は余計よ」



 ある建物の地下室。ここに、5人の男女が互いに向き合って話をしている。一方はマルムトと腹心のマグナ、護衛のアイリ。反対側に、最近王都で急激に信者を伸ばしている宗教団体「新世界の福音」の大司教イズルードと司教ゲラド。ゲラドはユウキを異端者として罵った男だ。


「それで、首尾はどうなのだイズルード」

「はあ、先のゴブリンキングの軍団は、これからと言うときに学園生徒によって討伐されてしまいましたが、もう1体のキングについては騎士団の捜索にも引っかからずに、着実に群れを大きくしております」


「ゴブリンの増殖には人間の女が不可欠。スラムから大量に調達したほかに、教団の信徒からも送り込みました。おお、そういえば、マルムト様の周辺を嗅いでいた女生徒も捕まえて送り込みましたぞ」


「ゴブリンの胎児は成長が早いですからな。若い女は回転が利きます。今頃はたくさんの子を産んでることでしょう。ぐへへへ」


 嫌な笑い方をしてゲラドが言う。マルムトは表情を変えず、


「ふん、今度は失敗するなよ。大規模な群れが王都に迫れば、王都防衛を担う第1騎士団が出撃せざるを得ない。他の騎士団には手を回してある。応援なしで対峙せざるを得まい」

「今後の計画には、第1騎士団が邪魔だからな、弱体化させる必要がある」


「マルムト様、騎士団はよいとして、下地作りも大切です。騎士団弱体化と合わせて工作を進めませんと」


「イズルード、何かいい案があるのか」


「マルムト様、国の安定には何が最も大事かご存じですか」

「軍事力か? 民を押さえつけるための警察力か?」

「軍事力もそうですが、一番は流通です。それも食料流通」

「食料か…」


「そうです。食料さえ行き渡っていれば、民は満足し、多少の政治不安は意に介しません。しかし、食糧が不足し、国民が飢えに苦しんだらどうでしょうか。たちまち、食料を求めた国民が暴動を起こし、国内の荒廃に結びつきます。民は増税は我慢できても飢えは我慢できません」


「なるほど。我々が食料流通を妨害し、国内不安を煽るわけだな。そこにつけ込むと」

「ご明察です」

「だが、我々が権力を確保しても、食料を与えて動乱を押さえるには工夫が必要だな」

「はい。その点は我々にお任せください」


「わかった、任せよう。それと、流通妨害は一気に行わず、少しずつ実施するのだ。我々の計画が露見しないようにな。その点は十分に気をつけろ」

「わかっております」


「マルムト様、暴動が起こった際に、王家の信用を失墜させる手がもうひとつあります」

「ゲラド、その手とはなんだ」


「民衆の不安を煽るため、スケープゴートとして「魔女」をでっち上げるのです。その魔女を王家が擁護していたから、食糧が不足したと噂を流すのです。これで、王家の信用は地の底まで落ちるでしょう」


「その上で、魔女を捕らえ、王家共々処刑すれば、民衆の信頼を得る事ができるかと…」


「相変わらず下衆なやり方を考えるな。まあいい、誰をでっち上げるのだ。候補はいるのか、フェーリスか?」


「いいえ、違います。わかりませぬか」

「誰だ。もったい付けず教えろ」

「この大陸には存在しない髪の色をした女がいるでしょう、黒い髪の女が」

「あいつか…」


「あの女はマクシミリアン王子のお気に入り。魔女としては最高の人材です」

「それに、死者を生き返らせるという、悪魔の所業を万人の前で行いました。魔女以外の何物でありましょうか。あのような者、生かしておいては後々の禍になります」


「いいだろう。だが気をつけろ、あの女の後ろにはオプティムス侯爵家がいるからな」

「はい、いずれ侯爵家も連座の対象です。恐れるに足りません」


「2人に重ねて言っておく。決して焦るな、今年はまだ事を起こすときではない、下地作りを主に行うのだ。いいな、俺も協力者を引き続き集めるとする」


 退室するマルムトとその護衛たちの背中を見て、イズルードは行動を起こすべく部屋を出て行った。1人残ったゲラド。


「マクシミリアンとあの魔女め、俺に恥をかかせおって…。今に思い知らせてやる…。ククク、ウワハハハッ」


薄暗い地下室に、ゲラドの笑い声だけが響き渡るのであった…。

ユウキ

「第2部の1年生編はこれで終わりです。次回から第2部2年生編が始まります」

カロリーナ

「学園祭とか楽しかったね~。2年生編も楽しいといいわね」

ユウキ

「ホントだね。ただ、怪しげな動きもあるのが気になる…」

カロリーナ

「まあ、あまり気にしないで行きましょう。考え過ぎると、おっぱいが垂れるわよ」

ユウキ

「どーいう理屈よ!もう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ