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第73話 ユウキの心とララの気持ち(後編)

「え、何言ってるの。からかってるの?」

「ホントの事だよ。これを知ってるのは国王様と執事長のギルバートさんだけ」


「ボクね、この世界の人間じゃないんだ。地球と言う星の日本という国に住んでいたんだ。ある日、ボクとお姉ちゃんで買い物に出かけたら、地震と津波っていう天災が起こってね。その影響で2人でこの世界に飛ばされてきたんだ」


(なに、ユウキ。何言ってるの?)


「ボクとお姉ちゃんが飛ばされた先は、この国の北方「黒の大森林」の中。2人で彷徨っているうちに、ゴブリンに襲われて、お姉ちゃんはボクを庇って大けがを負って、その後亡くなった」


「ボクもゴブリンにお腹を食べられて死にかかったけど、ある人が助けてくれてね、ボクを保護してくれたんだ。もう、6年前になるかな」

「ボクは、そこでこの世界の事や剣術を学んだ。そして、保護してくれた人の「広い世界を見て色々と経験してこい」という助言に従って、王都に行く事にした」


「その途中でララに知り合ったの」

「そんな…、とても信じられない」


「ここからは国王様たちも知らない話。ララだけに言うね。ただ、誰にも言わないって約束してくれる?」

「う、うん、約束する。絶対に言わないわ」


「うん、ありがとう」

「ボクね、この世界に来た時、男の子だったんだ」


(え、お、男の子? ユウキはどこから見ても女の子…。え、何言ってるの?)


「びっくりした? ボク、「高階優季」は日本の小学校に通う男の子だったんだ」

「この世界に転移したとき、お姉ちゃんの「望」は14歳、弟の「優季」は9歳だった」


「さっき、ゴブリンに襲われた話をしたよね。死にかけたボクを助けるために「ある人」はどうしたと思う」


「わ、わからない」


「まだかろうじて生きていた「望」の体をボクに移したんだ、「望」の願いだからって。その結果、ボクは生き延び、女の子になった。そしてお姉ちゃんは亡くなった…」


 ララは言葉が出ない。大きく目を見開いてユウキを見つめる。


「そ、そんなこと、ありえない。人の体を移すなんて…。どんな魔法でもできるわけがない。ユウキ、私をからかってるんでしょ、そうだよね」


「事実だよ」


「お姉ちゃんを殺したのはボクだ。ボクがゴブリンに食べられているうちに逃げればお姉ちゃんは助かったのに、そうお願いしたのに、お姉ちゃんはボクを庇って…」


 ユウキはそこまで言うと、ララの胸に縋り付いて、声を殺して泣き始めた。ララは黙ってユウキを見つめることしかできない。


「ふふ、気持ち悪いでしょう。ボクはバケモノみたいなもんだよ。魔法の力で男から女になったバケモノ。それがユウキなの」


「異世界から来たからこの世界の理が通じない。だから暗黒魔法が使える。ねえ、知ってる?暗黒魔法は本来アンデットしか使えないんだよ」


「で、でも、ユウキは生きてるじゃない」


「うん、ボクは生きている。生きた人間が暗黒魔法を使える。正にバケモノだよ、そんなバケモノがこの世界にいていいのかな。みんなの好意に甘えて生きてていいのかな。みんなこれを知ったらどう思うだろうね…」


「ユウキ…」


「そう思い始めたら、頭の中がぐしゃぐしゃになって、悲しくなって…」

「でも、お姉ちゃん最後の言葉は「ボクに幸せになってほしい」だった。だから、頑張らなくちゃと思うんだけど、今の気持ちじゃ頑張れない。ボク、どうしたらいいの……」


「バケモノだから戦いを呼び込むの? 大切な人を危険にさらすの? だれも助けられないの? ボクはバケモノじゃないよ、人間だよ。今はただの女の子なのに…」


 ユウキは、そう言ってひとしきり泣いた後、そっとララを手で押して自分から離し、悲しみを浮かべた顔で言った。


「ゴメンね、ボクなんかが抱きついて、気持ち悪かったでしょう」

 その言葉を聞いた瞬間、ララは「べチン!」とユウキの頭をひっぱたいて、大きな声で怒鳴りつけた。


「この、バカチン!」

「いた!」


「このアホユウキ! 誰がバケモノだって? 誰が不幸を呼ぶって? あんたは何を言ってるのよ! このバカチンユウキ!」

 ララはもう一度、ユウキの頭を「バチン!」と叩いた。


「あいた!」


「ねえ、ユウキ。ユウキは私の大切な友達よ。今の話を聞いてもその気持ちは変わらない。私は「今の」ユウキが大好きなの。自分の姿を見てみなさいよ。可愛くて、悔しいけど胸が大きくて、女らしくて…。どこから見ても「女の子」じゃないの」


「どこがバケモノなのよ。世の中バケモノよりひどい考えの大人たちはたくさんいる。でもユウキは違う。優しくて、友達思いで、大切な人を守るためならどんな危険にも飛び込んでいく」


「スラムの時だって、周りが止めるのも聞かずに私を助けるために来てくれたでしょう。嬉しかった。ユウキは私のヒーローなの!」

「だから自分がバケモノだなんて、ここにいちゃいけないなんて言っちゃダメ。ずっと私たちの側にいて、お願いよ」


「ユウキをヒーローと思ってるのは私だけじゃない、ここに住む友人たちをよく見てみなさいよ」


「フィーアは私たちと出会った頃は、いかにも貴族のお嬢様っていう雰囲気で私たちと話していたけど、今は、凄く自然体で私たちと接してくる。最近はとてもお嬢様とは思えない言動も多いわ。表情も明るくなった。多分、これがフィーアの本当の姿なんだわ。これはね、ユウキが側にいたからよ。ユウキが彼女の殻を外したの、彼女に新たな世界を与えたのよ」


「カロリーナはユウキをいつもいじってくるけど、ユウキに命を助けてもらってからはユウキのためなら死んでもいいと思うくらいユウキの事大好きよ。以前、こっそり話してくれたの。「どんなことがあっても最後までユウキを信じるのはララと私だけだから、何があっても絶対にユウキを助けてあげようね」って」


「ユーリカはユウキのお陰で変われたよ。以前は私たちの話に合わせていただけだけの、どこか自信なさげなところがあった。でも、あの武術大会の一件から彼女は大きく飛躍した。負けない気持ち、友人を信じる気持ち、何より自分に自信を持つようになった。ユーリカを変えたのはあなたよ、ユウキ」


「どう、これでも自分を「災いを呼ぶ女」というの? 違うでしょう。みんなユウキがいなかったら変われなかったよ。ユウキは、ユウキは幸せを呼ぶ女の子なの!」


「ララ…」


「それにお姉さんにお願いされたんでしょ。「幸せになりなさい」って。ユウキは今迷ってる。でもいいのよ。これから、ゆっくりとユウキの幸せを探していきましょう。私たちもお手伝いする。だから、だから自分を卑下して悲しいこと言わないでちょうだい。お願いよ」


「ララ、ありがとう。ボク、少し元気が出てきたよ。ララに話してよかった」

「ふふ、笑顔が戻ってきたわね。ユウキは笑っている顔が一番よ。でも、ユウキの秘密をいっぱい知っちゃった。これ、2人だけのないしょの宝物にするね」


「うん! ボク、一番最初に出会ったお友達がララでよかった! これからもずっと一緒にいてね」


「モチロンよ。ユウキと私は親友だもの。ずっと一緒よ」


「ねえ、ユウキ。聞きたいんだけど、その体、お姉さんから移してもらったって言ってたけど、お姉さんって巨乳だったの?」

「え、いいや、ペッタンコだったよ。ララと同じくらいかな、ララより小さかったかも」

「それなら何でユウキは巨乳になったのよ…。解せぬ」


 ーーーーーーーーーーーーーーー


「寝てしまったか…」

 その後も色々と話をしている内に、安心したのか、ユウキは寝てしまった。ララはユウキの寝顔を見る。


「可愛い顔しちゃって、まったく」


「でも危険だわ。ユウキがこんなに思い詰めていたなんて、全然わからなかった。普段の言動からは想像もつかなかった。何が親友よ、ララの鈍感」

「私、勝手にユウキの事、強い女の子って思ってた。でも、心の奥底はこんなにも壊れやすい、ガラス細工のような子だったなんて…」


「支えてあげなくちゃ、壊れないよう支えなくちゃ。これはフィーアもカロリーナもユーリカもできない。私しかできない」

「きっとユウキもそう思ったから、私に助けてもらいたいから秘密を話してくれたんだわ。心配しないで、ずっとそばにいるよ。だから、いつでも頼ってね」


「それに何、ユウキの過酷な人生。ハードモードでしょ、こんなことってありうるの? 可哀そうすぎる。元の世界にはご両親もいるでしょうに…。お姉さんまで亡くして、体もつくりかえられて、可哀そうだよ。神様ひどすぎるよ…」


 ララはギュッとユウキの体を抱きしめた。



翌朝…。

「おはよう、ユウキ。あらあら鏡見てごらんなさいよ、ひどい顔してる。マヤさんに頼んでお風呂沸かしてもらうね」


 部屋をでて行こうとするララの背中にユウキは、


「ララ、ありがとう。ボクゆっくり眠れたよ、もう大丈夫」と言葉をかけた。


 ユウキがお風呂に行ったのを見て、ララは工房に行き、作業をしているダスティンに、ここに下宿させてくれるようお願いするのであった。

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