第72話 ユウキの心とララの気持ち(前編)
にぎやかだった学園祭が終わって2ヶ月ほど経ち、武術大会や美少女コンテストの噂もなくなって、平常通りの学園生活となり、ユウキ達も日々変わりなく、勉強に運動に明け暮れていた。ただ、学園祭終了後、ユウキの心に漠然とした不安感が、何とも言えない感情が宿るようになり、時折遠くを見つめ、不安そうな顔をすることが多くなった。
ユーリカは、ユウキと夕方と朝の訓練を一緒にするようになり、時間が空いた休みの日にはユウキやカロリーナと騎士団の訓練所に顔をだして、稽古をするようになった。
ララはユーリカの鎧づくりの時に行った装備系魔法石作成に興味を持ち、休みの日はダスティンと武具作りをしている。ダスティンはララの腕を気に入っており、この前、ユーリカとお揃いの鎧をユウキにも作ってくれた。
フィーアはマヤとすっかり仲良くなり、最近は料理と裁縫を習っている。なんでも貴族の嗜みとして必要なことなんだそうだ。また、リースとリタもマヤの所に遊びに来るようになり、ダスティンの武器店は毎日賑やかだ。
そんな穏やかな日々が過ぎ、季節は冬になって、学園も冬休みになった。フィーア、カロリーナ、ユーリカは年末年始を実家で過ごすために帰省し、ユウキとマヤ、ダスティンの3人だけの生活となった。そんなある日の夕方、リビングで3人がのんびりと過ごしてている。
「静かだね。しかし、もうすぐ新年か。4月に王都に出て来たばかりで、1年たってないのに色々な事があったな」
「お前は色々ありすぎだろ。まさかこの俺が女の子の下宿屋をやるとは思わなかったぞ」
「オヤジさんには感謝してます。マヤさん、お酒もっと注いであげて」
「3人だけも久しぶりだね。どう、肩揉んであげよっか」
「いらんいらん。お前こそ、そんなでっかいの胸に付けて肩が凝るだろうよ」
「もう、オヤジさんのえっち!」
ダスティンがお酒を切り上げて風呂に行き、1人になったユウキは考え事をしていたら、玄関をノックする音が聞こえた。
「ん、誰だろう。こんな時間に」
「こんばんは。お邪魔します」
玄関を開けて入ってきたのはララだった。
「あれ、ララ、ラナンには帰らなかったの」
「うん。アルがね、武術大会の負けが相当ショックだったみたいで、ヘラクリッド君と一緒に「修行するんだ」とか言って、山籠もりに行っちゃった」
「え、この寒いのに、山籠もりって…バカなの」
「だから暇でさ。なら、ユウキとお話ししたいなっていうことで、来ちゃった」
「うん、ララなら大歓迎だよ」
「ユウキなら、そう言ってくれると思った!」
ダスティンが風呂から上がってリビングに入ってきた。
「ん、なんだ。ララか、来てたのか」
「はい! お邪魔してまーす」
『はい、皆さん。夕飯の準備が出来ましたよ。ララ様もご一緒にどうぞ』
『今日は寒いので、お鍋にしてみました』
「おお、体が温まりそう。ボクお鍋大好き!」
「いただきまーす」
「そうだ、ダスティンさん。はい、お土産」
「おお、麦酒じゃねえか。ララ、気が利くな。おい、ユウキ、ジョッキだジョッキ」
「はいはい、待ってて、持ってくるから」
お腹がいっぱいになってユウキやララが満足した頃、ほろ酔いになったダスティンは「もう寝る」と言って自室に戻って行った。マヤは後片付けで台所に行き、2人は暫くの間、他愛もない話で盛り上がっていたが、一緒にお風呂に入ろうということになった。
「うむむ、ユウキのおっぱいは相変わらずのド迫力ね」
「なんか、この1年、ずっとおっぱいおっぱい言われてたような気がする…」
「また、少し大きくなったんじゃない?」
「そうかな…」
「ん…、どうしたの? 元気ないね」
「え、なんでもないよ」
「ねえララ、眠くなるまで少しお話しない?」
「ん、いいよ」
2人はユウキのベッドに並んで毛布をかぶっている。ララがこの家に泊まるときは、いつもユウキと一緒に寝ており、それが当たり前となっている。
「王都に来て、学園に入学して、もう次の年になる。なんだかあっという間だった気がするな。フィーアやカロリーナ、ユーリカ、親友と呼べる友達もできた」
「みんなと一緒の学園生活はとても楽しい。たくさん笑ったり、泣いたり…、あれ、泣かされた方が多いような気もするよ、変だな」
「ふふっ、そういえばユウキ、いつも恥ずかしい目に逢ってたね。みんなでユウキをからかって、思い出すとおかしいな」
「うん…」
「ねえララ、ララは何でボクに話しかけてきたの。ラナンの宿で」
「ねえ、何で?」
「う~ん。特にこれと言った理由はないかな」
「……」
「宿の食堂に入った時、1人でご飯食べている美人の女の子がいたから、なんか珍しくて、話しかけてみようかなって思ったの。もし、お友達になれればラッキーかなって」
「そうなんだ…」
「そんな顔しないでよ。私は声をかけて良かったと思ってるよ。だって、こんなに仲良くなった友達って初めてなんだもん」
「ユウキって不思議な子だよね。戦いでは凄く強いのに、普段は泣き虫だし、なにより、とても純粋な気持ちを持ってる」
「私、ユウキに声をかけてよかった。だって私、ユウキの事、と~っても大好きになったんだもん。大切なお友達よ」
「ありがと、とっても嬉しい」
ユウキは、ララの胸に、ポスンと頭を寄せる。
「どうしたの? 今日のユウキ、ちょっと変よ。いや、しばらく前から変だったね。時々ふっと暗い顔をする時があった。どうしたの?」
「……」
「悩み事? 話してみなさいよ」
「うん、笑わないでね。ボク、最近、考えること多くて」
「考えること?」
「うん、ボク、王都に来てはいけなかったんじゃないかなって。色々危ない目に逢うことが多くて…、自分だけならいいんだ。でも、いつもみんなを巻き込んでしまう」
「ボクのせいでララはスラム街で怖い目に逢ったし、クレスケンからボクを守ろうとして命の危険にさらされた」
「そんなこと…」
「そんなことあるよ、野外訓練ではカロリーナが大けがをしたし」
「それはユウキのせいではないでしょ」
「そうだけど…」
「でも、ボクの勝手な行動で、結果的にフィーアやヘラクリッド君、フレッド君をゴブリンとの戦いに巻き込んでしまった。勝ったからよかったけど、もし、負けていたらと思うと、あの時のボクの判断、間違ってたらと思うと怖くなる」
「オヤジさんだってそう。ボクと言う厄介者の保護者になってしまった。結局、多くの人に迷惑をかけてしまってる。そう思うと、胸が苦しくなるんだ」
「ボクは、自分を大切にしてくれる人を守りたい。一緒にいたい。でも、迷惑はかけたくない、どうしたらいいのかわからないよ」
「ユウキ…」
「この前の謁見式でね。ボク、国王様に呼ばれて、いつの日にかマクシミリアン様とフェーリス様を巻き込んだ政争が起きるかもしれないって言われて、2人の側にいてくれって言われた」
「その時は、「任せて下さい」って言ったけど、今は怖いよ。ボクが側にいると逆に危険を呼び寄せてしまうんじゃないかって」
「それに、マクシミリアン様の顔を見ると、胸が苦しくなって、正常な判断ができないんだ。これじゃあ守るものも守れないよ。そう思うと辛くて…」
(ユウキ、もしかしてマクシミリアン様のことを…。ユウキが…恋? まさか…)
「ねえ、ララはボクがどこから来たか知ってる?」
「え、イソマルト村でしょ」
「違うよ。ボク、この世界の人間じゃないんだ」