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第68話 準決勝、そして武術大会の終わり

「いよいよ準決勝だね。筋肉君の相手は3年生のマグナさん。ユーリカの相手は2年生のシャニーさんか、2人ともオーソドックスな剣士タイプだね」


「ここまで来たら全力を尽くすのみです。がんばります」

「うん、精一杯応援するね。まあ、ユウキはちょっとダメっぽいけど」


「ええ、ユウキさんの応援がないと寂しいですけど、その分ララさんお願いします」

「まっかせて~」


「やあ、ララ君、ユーリカ君」

「あ、マクシミリアン様!」

「こんにちは!」

「あら、そちらの方は…」


「はい! マクシミリアン兄様の妹で、フェーリスと申します。あの、ユウキさんは?」

「ユウキですか…、あそこです」


 ララが指さした先に、シートの上に膝を抱えて俯く、真っ白に燃え尽きたプロボクサーのような姿をした少女がいた。その姿にマクシミリアンとフェーリスは息を飲む。


「ど、どうなさったんですか」

「聞かないであげてください…」


 マクシミリアンとフェーリスが首をかしげながら、準決勝用に設営された王族席に戻ると、準決勝開始のアナウンスがあった。


「最初は筋肉君だね」

「マグナさんは学園最強の呼び声が高い方ですね。既に騎士団からの声もかかってるみたいですよ」

「王様の前で瞬殺されないことを祈ろう」


 ヘラクリッドとマグナの戦いは、一方的になりかかっていた。ヘラクリッドも1人でゴブリンチャンピオンを倒すほどの実力者だが、マグナはそれ以上だった。ヘラクリッドの繰り出す剛拳はことごとく空を切り、最強の技ショルダーチャージを出す隙が作れない。マグナは、ヘラクリッドの拳が来るたびにカウンターを合わせて、ダメージを与えていく。


「うぬ、これほどまでの実力者とは…。全く勝てる気がしませぬ。しかし、このままでは終わらせません、この技で決める!」

「バンカーヴァスター!」


 ヘラクリッドが右腕に闘気を纏わせ、強烈な一撃を放った。その瞬間、ズドオオオン!と轟音が響き、リングの中央が3m四方にわたって粉砕された。しかし、マグナはバックステップでヘラクリッドの一撃を躱し、大きく飛び上がって、上から大剣の一撃をヘラクリッドの頭に叩きつけた。

 頭に受けた打撃で、ヘラクリッドは意識を刈り取られ、自分が空けた穴に頭から倒れ込み、あっという間に勝負が付いたのだった。


「筋肉君は負けちゃったか。残念だけど相手が強すぎたね。さ、次はユーリカの番だよ。でも、リング交換で少し時間がかかるみたいだね」


「全く、あの筋肉バカは…。この時間に少し動いて体を暖めます」


 ユーリカがバルディッシュで素振りをし、体がほぐれたタイミングでリングの交換も終わり、試合開始の呼び出しを受けた。


「行ってきます!」

「かんばれー! ユーリカ! えいえいおー」


「準決勝第2試合、ユーリカ・マリス対シャニー・ブレンドン。それでは試合開始!」


「ほう、第2試合は女子同士か。あの、ユーリカという娘、戦斧持ちか。それにいい装備をしている」


「はい父上、ユーリカ君はユウキ君の友人です。あの武器装備もユウキ君がお世話になっているドワーフの武器職人が設えたと聞いてます」


「ほう、それは楽しみだ。そういえばユウキはどうした。友人の試合だというのに姿が見えないではないか」


「お父様、それがですね、ユウキ様なんですが、グラウンドの隅で燃え尽きてました」

「なんだ、それは…」


 対戦相手のシャニーはレイピアを正中に構え、こちらの動きを見極めようとしている。


(正統派か…。やりにくい相手だ。だから、こっちから打って出る!)


 ユーリカは頭上で戦斧を1回転させると、しっかりと握り直し、シャニーに向かって突撃した。シャニーはユーリカが振り下ろす戦斧を剣でしっかりと受け止め、腕力ではじき返すと、胴を狙って鋭い突きを入れてくる。


 ユーリカは突きを横にした戦斧の柄で叩いて軌道を逸らすと、そのまま相手の胴を狙って横に薙ぐ。シャニーは体を後ろにずらして戦斧の一撃を避けるが、ユーリカはそれを読み、石突で胸元を突きにかかる。


「いいぞー、ユーリカ! 押してるよー!」

 ララの声援が飛ぶ。


(ララの声援が聞こえる。うん、私、落ち着いてます。でも、シャニーさん、動きが早い)


 ユーリカの突きを紙一重で躱したシャニーは、距離を取って柄を持つ右手を大きく体に引き付け、左手を伸ばして剣の刃に添える。そして、大きく体を沈み込ませると「はあっ!」という掛け声とともに、右腕を伸ばしながら、ユーリカに突撃してきた。


 カキイン!という音とともに、レイピアの剣先がユーリカの胸当てに当たって、剣の軌道が逸れるが、速度を持ったシャニーの体がユーリカに体当たりして、衝撃でユーリカが弾き飛ばされ、バルディッシュも落としてしまった。


「あうっ!」

「チャンス!」


 バランスを崩してよろめくユーリカに、シャニーのレイピアが迫る。ユーリカは、腰の鞘からダガ―を抜いて、シャニーの剣をなんとか受け止めるた。


「やるわね…」

「はあはあ、ま、まだまだイケますよ」


 腕の力でシャニーの剣を跳ね上げると、空いたみぞおちに肘を打ち付ける。「うぐっ!」という声とともに息が吐き出されてしまい、シャニーは息が詰まってたたらを踏む。その間に、バルディッシュを拾い上げると、シャニーに思いっきり叩きつけた。


 ーーーーーーーーーーーーー


「ユウキ、ユウキ、ユウキったら! 学園祭終わったよ。帰るよ、立って。ほら」

「…うう、ララ…。うう、ふええ…」


「もう、まだ泣いてるの? 泣かない、泣かない。ほら、みんな来てるよ」


「ユウキ、ごめんなさい。ユウキがこんなにショック受けるなんて想像できなかったよ。ホラ、枕とクッションは全部回収してきたから、もう泣き止んで。お願い!」

カロリーナが回収してきたクッションなどをユウキに見せながら泣き止むよう懇願する。


「ほ、本当に? 本当に全部取り戻したの?」


「ホントです。ウソついたらユーリカとララに殺されてしまいます。先ほどは命の危険を感じました」


 ユウキは顔をやっと上げると、マクシミリアンとフェーリス、モーガンもいることに気づいた。ユウキが泣いている理由を知ったマクシミリアンとフェーリスは微妙な顔をし、モーガンは笑っている。ユウキは、気恥ずかしさと悲しさで胸がいっぱいになり、また俯いてしまった。


 その後、何とかユウキをなだめたユーリカたちはユウキを連れて家に帰って来た。何とか元気を取り戻したユウキは、家に着く頃にはいつものユウキに戻っていた。


「ユーリカ、準優勝だってね。おめでとう、ゴメンね、応援できなくて」

「いいんですよ、ここまでこれたのはユウキさんのお陰です。これからも訓練お願いしますね。それと、これからもずっとお友達でいてくださいね。」


「うん! モチロンだよ。ユーリカは大切なお友達、だよ」


「はい、でもマグナさんは強かったです。私、ほとんど瞬殺されました」


「悩殺の女王様が瞬殺されたか…、奥が深いね」

「カロリーナ、あなたには後で色々言いたいことがありますので」

「ひいっ!」


 家に着いたユーリカはユウキを泣かせた原因に、マヤも絡んでいると知って激怒し、リビングに正座をさせたフィーア、カロリーナ、マヤの3人に説教を続けている。


「もうどのくらいになる…?」

『かれこれ2時間にはなろうかと』

「いつ許してくれるのかな。もう足の感覚がないよ」

「侯爵家令嬢たる私が、土下座の上に正座とは…、とてもお父様やお母様に見せられないです。たははは…」


「お前たちは一体何をしでかしたんだ?」

 ダスティンが不思議そうな顔で、正座をする3人を眺めていた。

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