第67話 ララとユーリカ激怒する
「や、やった。勝った…」
ユーリカはアイリを見る。アイリは信じられないという顔をして、呆然と床に倒れたままだ。ユーリカは起こそうと手を差し伸べるが、アイリはその手を払いのけると、自分で立ち上がり、「マルムト様。申し訳ありません」と言って、リングから降りて行った。
ユーリカはその後姿をしばらく見つめていたが、バルディッシュを拾い上げると、ユウキたちの待つ応援席に歩いて行った。
「ユウキさん…」
「ふふ、なんて顔をしてるのよ。せっかくの美人が台無しだよ。勝利おめでとう。最後まであきらめない気持ち、目で分かったよ。この勝利、ユーリカの実力よ」
「ありがとうございます。嬉しいです。ホントに…。モーガンさんもありがとう」
「ユーリカ! がんばったね。褒めて遣わす」
「カロリーナには、後で言うことがあります。何ですか、悩殺の女神って」
「聞こえてた!」
「おーい、みんなー。お昼にしませんかー」
「あっ、フィーア、ララ。こっちだよ、こっちー」
フィーアとララを含めた女の子5人は、グラウンドの木陰にシートを広げてランチを始めた。モーガンも誘ったが、「女の子ばかりの中に入るのは…」と辞退されてしまった。
「やっぱりマヤさんのお弁当は美味しいね」
「ユーリカさん、準決勝でアイリさんに勝ったんですってね。凄いです。アイリさんは1年生の中ではユウキさんに次ぐ実力者と言われてる方ですよ」
「そうなんですか。本当に強かったです。みんなの応援がなければ負けてました」
フィーアが素直に褒めるので、ユーリカは少し気恥ずかしくなりながらも、嬉しさを隠せなかった。
「ユーリカ凄いよね。アルなんて1回戦で負けて、すっかり落ち込んで、家に帰っちゃったよ。男のくせに肝っ玉が小さいんだから、まったく…」
「まあまあ、男は肝っ玉が小さくても、ちんちんが大きければいいじゃないですか」
「み、見たことないし!」
「午後の準決勝と決勝は、特設リングで行うようですね。国王様も見に来るとか。あとマルムト様が準々決勝辞退したそうですよ。対戦相手の筋肉野郎が不戦勝しました」
「へえ、何だろうね。王族だから何かあるのかな」
(……。準決勝には、ボクたち1年Cクラスから2名出る。対戦相手の2名は王子の息がかかった者として見ていいのかな)
「お~い、みんな~」
「あ、フレッド君。どうしたの」
「うん、串焼きの差し入れ。結構おいしいよ、みんなで食べてくれ」
「あ~、男子は串焼きだったね。どう?」
「忙しくて目が回りそうだよ。すぐ戻らなきゃいけないんだ。ユーリカさん。午後も頑張れよ」
「ありがとうございます。いただきますね、うん、美味しい」
「そういえば、女子の小物販売はどうなの? ボク、ずっとユーリカの側にいたから見てなくて。そういえば、何も提供してないや」
「いやいや、ユウキ様にはご協力を頂きました」
「そういえば、そんな事言ってたね。ボク、何かしたっけ」
「うちのクラスのお客さん女の人ばかりだけど、一瞬、男の人が殺到したって言ってたわね。あれ、何だったの?」
ララが不思議そうに、カロリーナに聞いてきた。
「あれはですね、フィーア様、言ってもよろしいでしょうか」
「どうせ、バレることです。発言を許します」
「はっ!ありがたき幸せ。実は、あの時間は「ユウキ嬢の香りが詰まった枕&クッション」のオークション販売を行ったのですよ」
「ボクの香りが詰まった?」
「はい。ユウキ様の古い寝巻を縫い直し、中に、ユウキ様が以前愛用していた下着や古着を詰めた枕&クッションです。抱き枕は作成時間がなくて断念しました」
「もう、男どもが殺到して凄かったわよ。値段も天井上がり。手に入れた男どもは今晩から天国を味わうでしょうねー」
ユウキは一瞬、呆然とした後、
「うわああああああん! な、なんてことしてくれるのよー。ボク、ボク恥ずかしくてもう街を歩けないよー。バカバカバカバカ! フィーアとカロリーナのバカ! 取り返してきてよ。返してもらってよー。でないと、でないとボク、二人を嫌いになっちゃうよぉー」
わあわあと泣き始めたユウキを見て、ララとユーリカも怒り出した。
「2人とも、やっていいことと悪いことがあるのでは? ユウキさん可哀そうですよ」
「あなたたち、ユウキを泣かせたわね…。許さないわよ」
「あ、あの…、お2人とも怖いです。ユーリカさん。武器を構えないでください。それ、刃のある実戦用ですよね。ハイ、私たちが悪うございました」
「すぐ、取り返しに行くわね」
「ハイ、それはもう、今すぐに! あの、ララさん、それ炎の魔法石ですよね、破裂させないでくださいね。ここ火の海になってしまいます」
「まずは、ユウキに謝罪!」
「はいっ! 魂から謝罪申し上げます。誠ににかたじけのうございました。平に、平にご容赦ください!」
「よし、直ぐに返してもらいに行くのよ!」
「ははっ! 仰せのままに!」
フィーアとカロリーナは一目散に駆け出した。
「ほら、ユウキ。もう泣き止んで。あの2人には取り返しに行かせたから。あ~あ、もうぐしゃぐしゃ。せっかくの美人がひどい顔」
「うん…グスッ、ありがとうララ。グスグス、うう、ふええぇん」
「全く、あの2人はどうしようもないですね、ユウキさんをこんなに泣かせて…」
「どうしたんだい。さっきフィーア譲とカロリーナちゃんが、必死な顔で吹っ飛んでいったけど。あれ、ユウキちゃん泣いてるのかい」
「モーガンさん。え、ええ…、ちょっと…」
「わはははは! あの2人は面白いことするね~」
「笑い事じゃないです。ユウキが可哀そうです」
ユウキはまだべそべそしている。
「まあ、確かにね。そういえば、学園の見回りに来ている配下のヤツが、なんかいい枕を手に入れたとか何とか言ってたな…。もしかしてそれか?」
「多分それです! お金は返しますから、取り返してきてください! 今すぐ!」
「わ、わかった!」
モーガンも必死な顔で駆け出していった。