第66話 準々決勝
「準々決勝はA、Bリングで2試合ずつか。ユーリカは…、おっとAの第1試合だね。相手は1年Sのアイリさんか。フィーアが強いって言ってたね」
「相手が誰だろうと、全力を尽くすのみです」
「その意気だよ、ユーリカちゃん。いや、瞬殺の女神様」
「あっ、モーガンさん。どこ行ってたんですか。それに、何ですか瞬殺の女神様って」
「いや、他の試合も見に行ってたのさ。瞬殺の女神様は、1,2回戦の戦いぶりからついたあだ名だよ」
「そうなんだ。てっきり、巨乳で男を瞬時に悩殺するから付いたんだと思った」
「あ、カロリーナ。急に出て来たね。販売会終わったの?」
「まだだけど、私の分は終わったから応援に来たの。いや~、ユウキのお陰で稼がせてもらいましたわ」
「ボク、何もしてないけど、聞きたくないから教えなくていい」
「そう? あ、ユーリカ、審判が呼んでるよ」
「ホントだ。じゃみなさん、行ってきます!」
「では、準々決勝を始める。両者中央へ」
審判の言葉に、ユーリカとアイリは中央で対峙した。アイリは長さ2.5mほどの短槍を武器としている。
審判の注意説明の後、礼をして両者は離れる。ユーリカが見ていると、アイリは自身に防御魔法をかけているのが見えた。
(私は、ダスティンさんとララが作ってくれた武器と防具を信じるのみ!)
「試合開始!」
審判の宣言とともに、ユーリカは戦斧を横に持ち、アイリに向かって突進し、間合いに入ったところで戦斧を横払いした。
アイリは戦斧を槍の柄で抑え、すぐさま高速の連続突きを浴びせてくる。ユーリカは自分に当たる軌道のみ戦斧の腹で防御し、いったん距離を取った。
距離をとったユーリカに向かって、アイリは距離を詰め、上に、下にと槍を突いてくる。アイリの高速の突きに、戦斧の柄で軌道を逸らすのが精一杯。なかなか攻撃に転じることができず、次第に追い詰められてくる。
「ユーリカ頑張れー」
ユウキとカロリーナの声援が飛ぶ。
「ユーリカちゃんの相手、中々の実力者だね。あの年の女の子であれほどの腕前、相当訓練を積んできたに違いない」
(モーガンさんの言うとおりだけど、ユーリカだって一生懸命努力してきた。気持ちだって負けてない。だって、ユーリカの目はあきらめてない。ん?)
ユウキの目に相手側のリングサイドにマルムトが立っているのが見えた。マルムトは無表情な目で、試合を見つめているが、時折、アイリに何か声をかけている。
(マルムト王子…、国王様が言ってた。仲間を集めてるって。アイリもその一人なの)
「ユーリカ、攻撃に転じて! このままでは押し込まれる! 攻撃は最大の防御だよ。戦斧を使いこなして! 戦斧の使い方は叩き切るだけではないよ! 自分の武器を信じて!」
「いっけー! 悩殺の女神様!」
(ユウキさん…、そうです! 今の私、気持ちが負けてます! さっき言ったじゃないですか、この鎧を信じるって。多少のダメージが何です、行きます! あと、カロリーナ、後で覚えてなさいよ)
ユーリカは、自分の胸元に向かってきた槍をあえて受ける体制を取る。「カキン!」と澄んだ音がして、穂先が胸の曲線に沿って滑り、ユーリカの後ろに逸れて行った。
「チャンスです!」
ユーリカは、槍が逸れて体が伸び切ったアイリに向かって戦斧の石突を体の真ん中に打ち付け、返す勢いで刃を槍の柄に叩きつけた。その瞬間、「きゃあっ」という悲鳴とともに、鈍い音がして槍が叩き落されるとともに、アイリが仰向けに倒れる。
ユーリカは、ここが勝負の決め所とアイリに戦斧を振り下ろすが、その時、
「アイリ! とどめが来る。体を回して回避しろ! そして槍を持って立て!」とマルムトの声が飛んだ。
その声が届いたアイリは「ハイ!」と大きな声で返事をし、ユーリカの振り下ろした戦斧を間一髪躱して、立ち上がった。
「マルムト王子…。いけない、アイリが」
「あれがマルムト王子様?一言で味方を立て直すなんて凄いね。せっかくユーリカがおっぱい防御で作ったチャンスだったのに」
「カロリーナ、おっぱい防御って…」
リングの中では二人が距離を置いて、動きを止めている。
(チャンスだったのに、今度はどう来る?何か仕掛けてきそうです)とユーリカが考えていると、アイリは右手に持った短槍を背中側に回し、左手を前に出した。
(来る!)
アイリが、体を左に回転させながら、回転力を乗せた短槍をユーリカに叩きつけてきた。ユーリカは、戦斧で槍を迎え撃つが、勢いを増した槍の力に弾かれてしまい、胴体をアイリの前に晒してしまった。アイリはその隙を見逃さず、槍を横薙ぎにユーリカの胴に叩きつけた。その衝撃でユーリカは戦斧を離し、「ウグッ!」とくぐもった声を出して倒れてしまった。
「あっ!ユーリカ!気をしっかり!武器を拾って立ち上がるのよ!」
ユーリカはユウキの励ましが聞こえていたが、胴を打たれた衝撃で、息が詰まり、声が出せない。何とか、顔を上げるとアイリが勝ち誇った顔でユーリカを見下ろしているのが見えた。アイリは槍をユーリカに向けてきた。止めを刺すつもりだ。
(くうっ、まだ…、まだ終わりたくない。バルディッシュは…、あ、あんな遠くに。な、何か…、ここで終わったら、今まで協力してくれたみんなに顔向けできない)
立ち上がろうともがくユーリカにアイリが近づいてくる。その時、ユーリカの手に触れるものがあった。
(これは! まだ、まだ終わらないわよ!)
「ユーリカの目に光が戻った。カロリーナ、ユーリカはまだあきらめてない。応援よ!」
「わかった! ユーリカァ!ファイトォオオオ!」
「ユーリカちゃん!最後まであきらめるな!」
(みんなの声援が聞こえる。アイリ、もっと、もっと近寄ってこい…)
アイリは、ユーリカがもう動けないと確信し、確実に止めを刺そうとユーリカの側まで来て槍を振り上げた。ユーリカはその瞬間、
「今だ!」と叫んで、勢いよく立ち上がり、驚くアイリの首に腕を巻きつけ、足を引っかけてリングに倒すと、腰から抜いたダガ―を首に押し付けた。
「勝者、ユーリカ!」