第62話 モーガンとの勝負
「えっと、剣ではなく、この武器が私に合っているということですか?」
「そうだ。ハルバードは切断力、打撃力に優れ、中距離から接近戦までこなせる武器だ。騎士団でも好んで使う者がいるし、ハルバードを装備した部隊もある」
「では、訓練を始めようか」
「ユーリカちゃんはここにいる全員と総当たりで戦ってもらう。遠慮はいらん、全力で当たりたまえ。自分が納得するまでな」
「では始め!」
「カロリーナ、ユーリカに防御魔法かけてくれない? 防御魔法があるとケガを恐れて腰が引けるのを防ぐことができる。今、ユーリカに必要なのは、勇気と自信、恐れずに相手に向かっていく心を持つことなんだ」
「うん、わかった。ユーリカ、防御魔法行くよ。思いっきり戦って!」
カロリーナの魔法でユーリカの体が淡い光に包まれる。
(ほう、ユウキちゃんいいことを言うな。マクシミリアン様が気にかけるのもわかるな)
ユーリカは騎士と訓練を始めた。相手の剣に向けてハルバードを振るう。
(あれ? 剣よりこっちの方がしっくりくる。剣と違って細かい技が要らない分、戦いやすい。よーし、思いっきり行く!)
ユーリカは相手の動きをみながら、頭上、胴体とハルバード振るうが騎士の剣に躱され当てることができない。そのうち、相手の一撃を受けて倒れる。防御魔法があるからダメージは少ない。
「よし、交代だ。次!」
「行きますよ!」
次の相手は女性騎士。レイピアを構えて突進してくる。ユーリカは体を捻って突進を躱し、ハルバードを叩きつけるが、素早い身のこなしであっさり躱され、剣の一撃をもらってしまう。
「動きが大きくて隙だらけですよ。もっと小さく動いて!」
女性騎士の言葉に反応し、ユーリカは歯を食いしばり、相手を捕えるべく、ハルバードを縦横に振るう。
カロリーナはユーリカの体に纏う防御魔法の状況を見ながら、重ね掛けをしていく。
5人、10人と相手をしていくうちに、体力は尽きかけ、息も荒くなり、ハルバードも大振りとなってきた。しかし、ユーリカはあきらめない。せめて一発でも相手に当てたいという気持ちがユーリカを奮い立たせる。
(ユーリカ。うん、それでいいんだよ。まずは技術よりも気持ち。勇気とくじけない心、これが大切なの)
ついに20人を相手にユーリカは戦い切ったが、力尽きて倒れてしまった。騎士には一発も入れられなかったが、今は自分がここまでやれたという満足感で一杯だった。
「ユーリカ、気絶しちゃったね」
「いや、初めての武器で俺達相手にここまでやるなんて、すげえぞ」
「うん、私の部下に欲しい~」「まだまだ成長するぞ楽しみだな」「胸が大きい」
騎士もユーリカの健闘を褒めてくれる。
「ねえ、カロリーナさん」
「なによ」
「寝てても胸の形が崩れませんよ。訓練の成果って凄いですね」
「だから何が言いたいのよ! どうせ私には関係ない事ですよーだ。フィーアの意地悪!」
「さあ、ユウキちゃん。つぎは私と勝負だ。いいかい」
「はい、約束ですからね」
王国騎士とフィーア、カロリーナが見守る中、ユウキとモーガンの勝負が始まった。
ユウキは訓練用のスモールソード、モーガンはバスタードソードを構え対峙する。
(ほう、構えの基本ができている。そしてあの目、一瞬で戦士の目になった)
「行くぞ! そおおりゃああ!」
モーガンがもの凄い剣速でユウキを切りつける。常人では絶対に躱せない一撃をユウキはスモールソードを相手の剣の腹に当てて軌道を逸らす。
モーガンは軌道を変えられた剣を強引に立て直し、横薙ぎにユウキの胴を狙うが、ユウキも剣を切り上げて防ぐと、そのまま相手に振り下ろす。しかし、モーガンはこれを読んでバックステップで空を切らせる。
この勝負を見ていた騎士は驚愕していた。
「な、なんだ、あの女の子。副騎士団長の一撃を躱して反撃したぞ」
「我々でもあの初撃を躱すのは難しいというのに…」
「あの子、凄いじゃない。部下に欲しい~」
「あの子も胸が大きい」
モーガンの高速の斬撃が嵐のようにユウキに襲い掛かるが、ユウキはそのすべてを剣を合わせて捌き、何とか隙を見つけて反撃の機会をうかがう。
(何とか、隙を見つけて…)
一瞬、目を離した隙をつかれ、大きく剣を跳ね上げられて、ユウキの胴体ががら空きとなった。
「わあ!」
「ユウキ! 危ない!」カロリーナの叫びが響く。
そこに横薙ぎに飛んできたバスタードソードが襲い掛かる。
(剣を下ろしていては間に合わない! ここは相手の胸に飛び込む!)
ユウキに剣が当たる直前、大きく踏み込んで剣に空を切らせ、勢いでモーガンに体当たりし、体勢を崩させる。
「ぬう!」「あうっ!」両者が同時に呻く。ユウキは体が小さい分、ダメージが大きい。
(体中が痛い…。でも、モーガンさんは体勢を崩している。チャンス!)
ユウキは自ら作ったチャンスに賭け、体を半回転させてその回転力を剣に乗せ、モーガンの首筋に向けて剣を振りぬこうとする。
ガキン!と金属同士が当たる音が響き、ユウキの剣はモーガンに当たる直前で防がれてしまい、ユウキは大きく後退して距離を取った。
「今のはいい判断だったが、惜しかったな」
「…………」
ユウキとモーガンは距離を置いたまま、動かない。
「ユウキ、動かなくなっちゃったね…」
「相手の隙を窺っているのでしょうが、見つからなくて動けないのでは」
「おお、先に動いた方が負けるってやつね」
(付け入るスキが見当たらない。体力は向こうが上、じり貧になる前に攻撃だ!)
「行きます!」
ユウキはそう叫ぶと、モーガンに向かって上から、下から横からとフェイントを交えながら切りかかる。モーガンはユウキの猛攻をいなしながら、バスタードソードの重い一撃を撃つ。ユウキは何とか剣で防ぎ、再び攻撃を加えるが、次第に息が上がって来た。
(く、苦しい。動き続けてきたから…酸欠?)
「そろそろかな…」
ユウキの様子を見ていたモーガンは、ユウキの動きが鈍ったのを見て反撃に転じた。ユウキの斜め上からの袈裟懸けを剣で弾き飛ばし、横から高速で切りつける。ユウキは後退して何とか避けるが、腹を蹴り上げて吹き飛ばす。
「あうっ!」
悲鳴を上げて床に転がったユウキが、何とか立ち上がり、構えた所にモーガンの手刀がユウキの手に振り下ろされ、剣を叩き落した。
「私の勝だな」
「はい…、悔しいですけど」
2人の勝負に、その場にいた全員が拍手を送るのであった。
「はあ、やっぱり勝てなかったな」
「でも凄かったよ。騎士さんたちも驚いていたもん」
「でも、モーガン様の最後、女の子のお腹に蹴りは、どうかと思いますわ」
「ああ、あれはえげつなかったね」
「あれはボクの体勢を崩すための蹴りだから、力はそれほど入ってないんだよ」
「そうなの? でもねえ…」
「はは、もうそれくらいで許してくれないか。さあ、遅くなったし家まで送るよ」
訓練場からの帰り道、ユーリカはまだ気を失っていたため、モーガンが背負って運んでくれている。
「いや、今日は楽しかったよ。できればまたお願いしたいね」
「はい! ボクも意外と楽しかったです。またいつか、手合わせしてください」
「ユウキったら意外と負けず嫌いだね」
カロリーナはユウキを見て半ば呆れたように言うのだった。