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戦い終わって日が暮れて

 ボースがゴブリンキングのガンダルを瞬殺した直後、チャンピオンの群れを撃退したリシャールやレオン達が集まってきた。リシャールはガンダルやシャーマンの死体を見て、討伐を成功させたジェス達を労った。


「ジェス、リム、ラビィ。ご苦労だった。お前たちがシャーマンを倒してくれたお陰でチャンピオンどもを全滅させられた。しかし、どうやってシャーマンの魔法に対抗したんだ? こっちは2体のシャーマンにアンジェリカとスバルが、かなり苦戦させらたんだが」


「これです。ジャン様がこれを持たせて下さり、接近戦を仕掛けろと作戦を授けてくださった結果です」


 ジェスとリムは利き腕と反対の腕に装備した、魔法を無効化する円形盾ラウンドシールドを指さした。リシャールはなるほどと納得したと同時に、ジャンがそこまでデキる男に成長したのかと感心し、嬉しくなった。


「ボース、やったな!」

「ヒャ~ッハッハッハ! さすが死神じゃ。クリスチーナも惚れなおすじゃろうて」

「……俺は俺の仕事を全うしただけだ。大事な家族を守る…それだけが俺の仕事だ…」


 レオンはニカッと笑って右手をボースを差し出した。しかし、ボースはチラと一瞥しただけで、その手を握ろうとしない。


「……俺は利き腕を人に預けるほど自信家ではない…」

「なら、代わりにワシが握手してやろう。喜べレオン。ヒャ~ッハッハッハ!」

「あ、ああ…。ありがとうオババ…」


 レオンの何とも言えない表情に、リシャールやジェス達は声を上げて笑いあう。皆、少数精鋭でゴブリンの大群を退けたという達成感に満たされていた。リシャールに寄り添って笑うアンジェリカだったが、はたと何かに気付いた。そう、ジャンとシェリーがいない。


「リシャール様、ジャン様とシェリー様がいないようですけど…」

「そういえばそうだな」

「ほら見て、こちらに来たようよ。あら? 3人いるわね、誰かしら」


 スバルが指差した方向を見ると、確かに3人の人影が近づいて来る。2人はジャンとシェリーので無事な姿にホッと安堵するが、もうひとりは見たことのない女の子だ。しかも、遠目でもわかるほどの美少女だ。だが、何か違和感を感じる。


「リシャール様、あの女の子誰でしょう」

「さあ、んん!?」

「リシャール様! あ、あれって…」

「あれはラミアです。確かジャン様が討伐すると言っていたはずですが…」


 伝説級の魔物の出現に、レオンとボースは再び武器を構えた。一応、アンジェリカとスバルも、いつでも魔法を放てるよう警戒するが、リシャールは皆の前に出て抑えるように言った。


「皆、少し待て。どうも様子がおかしい」


 その言葉に改めて3人を見る。困ったような表情のジャンを真ん中にして、左隣にぷりぷり頬を膨らませるシェリーがいて、右隣にジャンの腕を抱いて、幸せそうな顔でべったりとくっついているラミアの少女がいる。一体、彼らに何があったのか。疑問符だらけの頭で見ていると、皆の前まで来たジャンが魔物は全て倒したことを報告した。


「お、おう。ご苦労だった。ジャンの的確な指示でジェス達もシャーマン達を倒したとのこと。よくやった。だが、その子はいったい…」

「……兄さん、これには色々と訳があって。実は、かくかくしかじかで…」


 ラミアの村の存在と、お婿さん探しに村から出て来たラミアという想像外の理由にリシャール達は絶句した。呆然と見つめるリシャールの前にカリンがしずしずと進み出て来た。見れば見るほど物凄い美少女だ。しかも、見事な巨乳がこれでもかと存在を主張している。しかし、下半身は立派な蛇体。尻尾の先が地面にのの字を書いている。器用だなとリシャールの隣で観察していたアンジェリカは思った。


「ジャンさんのお兄様ですか? お初にお目にかかります。わたしはカリンと申します」

「あ…ああ。ご丁寧にどうも。リシャールだ。よろしく…」


 カリンと名乗ったラミアの少女が頬をうっすらと桃色に染める。


「あの…。わたし、ジャンさんのお嫁さんになりたいと思って…。お兄様にお許しをいただきたく存じます…」

「ええっ!? いや…その…ええっ、ジャンのお嫁さん!? 一体なにがあったんだ? 急な話で即答は出来かねる。考える時間を…くれ。母上にも相談しないと…」


「リシャール様、そういう次元の話ではないと思います」(アンジェ)

「そもそも、彼女は魔物だよ」(スバル)


「わたし、ジャンさんが大好きなんです。彼はわたしの運命の相手なんです。どうしても結婚したいです。お願いします!」

「ダメです! ぜーったいダメです! 蛇女が何を言ってるんですか! ジャン様はあたしが結婚したいと思ってるんです。蛇女はお呼びじゃありません!」


「誰ですか、あなたは。さっきから蛇女、蛇女って失礼な」

「あたしはラビィ。ジャン様との結婚を夢見る専業主婦希望のレディーです!」


 ひんやりとした視線でラビィを睨むカリン。一方、ラビィも「ぐぬぬ…」と唸りながらカリンを睨みつける。ラビィを見るカリンの眼が赤く光った。その瞬間、ラビィの目がうつろになり、しゃがみ込んで、何かを呟きながらぴょんぴょん跳ね出した。


「ラビィぴょこぴょこ みぴょこぴょこ 合わせてぴょこぴょこ むぴょこぴょこ…」


「ど、どうしたんだ。ラビィは…?」

「ラビィ、しっかりしなさい!」


 ジェスとリムがラビィを捕まえて、がくがく揺すったり、ぱんぱんと往復ビンタを入れるが、ラビィはうつろな瞳のまま、ぶつぶつと意味の分からない言葉を呟いている。


「無駄だよ。それがカリンの…ラミアの能力、魔眼の効果だから」(ジャン)

「ま、魔眼…?」(ジェス)


「そう。人間には無効だけど、魔物や獣の血が濃い獣人、亜人には効果があるんだって。なんでも一定時間、頭が「くるくるパー」になるらしいよ」

「お、恐ろしい…」(全員)


 邪魔者を強制排除したカリンは、再びリシャールに寄って結婚の許可を得ようと懇願する。しかし、今度はカリンの前にブラコンプリンセスのシェリーが立ちはだかった。


「誰があなたとジャンの結婚を許すもんですか! ジャンは私のモノなの! さっさと山に帰りなさい。でないとその蛇体を蒲焼きにするわよ!」

「なんですか、あなたはさっきから。ジャンさんとわたしに嫉妬ですか!? いい年して弟離れができないなんて、頭おかしい変態なんですか!」


「なんですって、この蛇女!」

「あっ!」


 シェリーがカリンの頬を平手打ちした。パンといい音が響く。静まり返る傍観者達。


「やったわね、このブス!」

「いたっ!」


 カリンも平手打ちをやり返す。そして、がっぷり四つに組み合ってバトルを始めてしまった。巨乳美少女同士の激しく美しいキャットファイトに、ただただ傍観せざるを得ないリシャール達。止めようにも怖くて近づけない。戦う美少女の周囲をうつろな瞳で跳ねまわるラビィの姿が実にシュールで、アンジェリカとスバルの恐怖を誘う。


「シェリー様って、あんな感じの人だったっけかなぁ」(ジェス)

「ちょっと認識を改めないといけないわね…」(リム)


 秘かに憧れていた王女様の狂態にジェスが絶望する。だが、このままいつまでも見ている訳にはいかない。このままでは双方怪我をしてしまう。ここはひとつ大人の威厳というものを見せなければとレオンが両者を止めに入った。


「まあまあ、お二人とも喧嘩はお止めなさい。結婚するしないはともかく、ジャン様のお気持ちだってあるのですぞ。それに、そんなみっともない姿を見せては、ジャン様に嫌われますぞ」


「うるさい! 邪魔をするなヒゲ親父!」(シェリー)

「あっちいけ、臭いんだよ加齢臭!」(カリン)


 美少女二人の罵声を浴びてレオンの顔が引き攣った。


「もう止めてよ、二人とも。喧嘩なんかしているとボク、二人を嫌いになっちゃうよ!」


 我慢しきれずジャンが喧嘩する二人の間に割って入った。悲しそうな顔のジャンを見てシェリーとカリンは取っ組み合いを止め、「ごめんなさい」とお互いとジャンに謝った。さらに、レオンの方を向いて頭を下げた。


「村長様…。はしたなくも村長様に罵声を浴びせるとは、お恥ずかしい限りです。本当に申し訳ありませんでした」

「わたしも謝ります。加齢臭なんて本当の事を言ってすみませんでした」


「カリンは本当に謝っているの?」(ジャン)


「ははは、興奮していると言動が荒くなるのは仕方ありません。落ち着いたなら村に戻りませんか? 皆も心配して待っているでしょうから、早く安心させてあげましょう」

「ヒャ~ッヒャッヒャ! さすが村長、人間ができているのう。ついこの間まで寝小便しては親に怒られて泣いていた小僧とは思えんのじゃ」

「オババ、あのな…ついこの間って、30年以上前の話だろうが。それ」

「ヒャ~ッヒャッヒャ。ワシにとっては30年前もついこの間よ。ヒャッヒャッヒャ!」


 カリンの登場で場が混沌としてしまったが、討伐隊全員無事に任務を遂行した事に喜び、意気揚々とアレーナス村への帰途についた。ただ、アンジェリカはなんだか最近、自分が少し空気になってきているようで、何となく不安になるのだった。


「大丈夫よアンジェ、わたしも同じ。空気だから」

「それ、喜んでいいの?」

「周りの人達が凄く濃すぎるのよねー。少々の個性じゃ埋もれちゃうわ」


 明るく話すスバルに困惑するアンジェリカだった。


(確かにスピカ、アルディス大司教、アレーナス三人衆、シェリー様にカリン…。濃すぎるよね。ユウキとの旅で出会ったド変態共に全く引けを取らないわ。新婚旅行だったよね、この旅って。新婚旅行らしかったので最初だけじゃない…。なんでこうなった?)


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 村に戻ると大勢の村人達が出迎えてくれた。レオンから魔物を全て討伐し、周辺にも残存個体がいない事、村の平和が守られ、安心して暮らしが続けられることを報告すると、一斉に大歓声とともに感謝の声が上がり、その場で祝勝会の開催も決まって、村人達はその準備を始めた。


「あんた…」

「クリスチーネ。ただいま」

「お帰り、ボース。愛しの旦那様」


 ボースの無事な姿におかみさんが抱き着いて喜びの涙を流した。子供達も「父ちゃん、父ちゃん」といって縋り付く。ボースの顔はいつもの柔和なニコニコ顔に戻っており、大きな手で妻や子供達の頭をなでている。また、キリカ婆さんの周囲には雑貨屋常連の子供達が集まり、村長のレオンの前で村役場職員がビシッと整列し、「お疲れさまでした!」と敬礼していた。


 その光景と村人たちの笑顔にリシャールやアンジェリカは、村の平和を守れて良かったと改めて思ったのだった。アンジェリカの肩を抱き、感慨に耽るリシャールの元にスバル(男)やミッキー、シトリ達が近寄ってきた。


「リ…リシャール様、みんな。村を守ってくれてありがとう…」

「それと、酷いことを言ってしまって、申し訳ありませんでした。俺達を守ろうとしてくれたことは理解していたんですが、拒絶されたことでカッとなってしまって…。ガキじゃあるまいし、お恥ずかしいです」

「わたし達も…。あの…、嫌な態度を取ってごめんなさい…」


 リシャールはスバルの肩に手を置いて笑った。


「こちらこそ、キツイ言い方をして悪かった。私の言葉をちゃんと理解してくれると信じていたからな。何とも思ってないよ。私達は友達だろう?」


「あ…ああ! リシャール様やアンジェリカ様達は俺らの友達だからな!」

「スバル、オレらも祝勝会の準備に入ろうぜ!」

「そうよ! 美味しい物いっぱい用意しなくちゃ! 鶏の唐揚げはシェリー様、ビッグソーセージはアンジェリカ様とスバル様がお好きよね。シルディ、早速準備するわよ」

「了解、シトリちゃん!」


 バタバタと準備のため散って行ったスバル達の背中を見て、リシャール達も手伝いのため動き始めたのだった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 日が落ちた村の中央広場では大きな篝火がいくつも焚かれ、村の人達が料理や酒を持ち寄い、大人も子供も全員参加で盛大に祝勝会が開催された。当然、その中心にいるのはリシャール達イザヴェル王国の人々と村長レオン、食料品店の親父ボース、雑貨屋のキリカ婆さんだ。


 料理は美味く、酒も美味い。村長レオンは村の男達とがっぱがっぱと酒を飲み、ボースは奥さんに「あーん」をしてもらって、照れくさそうに食べている。戦闘モードとのギャップが凄まじく、その様子を眺めていたジェスとリムは、どっちが本当のボースなのか分らなくなっていた。


 なお、少し離れた場所ではキリカ婆さんが子供たちに囲まれ、魔物との戦いの話をせがまれていた。キリカ婆さんが大袈裟に話をする度に子供達は大きな歓声を上げる。婆さんは嬉しくて益々調子に乗って話を盛って話すのだった。


 リシャール王子はスバル(男)やミッキー始め、大勢の村の人達と楽しそうに酒を飲み、アンジェリカとスバル(女)、プルメリアはビッグソーセージを悩まし気に口に運んで、頬を赤らめながらもぐもぐする。シェリーやラビィは村の男達にちやほやされていい気分。その中で、ジャンはというと人々の間をうろうろと歩き回り、ある人物を探し回っていた。


(……どこにいるのかな…。いないな…。誰かに聞いてみるか…)


 輪になって楽しそうに飲み食いしている中学生の集団に近づき、ナナミはどこにいるか聞いてみると、友人のミウ、レックスらと席を外したとの事であった。


(どこに行ったんだろう…。探してみるか…)


 祝勝会場から抜け出たジャンはきょろきょろと辺りを見回したが、ナナミの姿は見当たらない。途方に暮れたジャンの背後から声が掛けられた。


「ジャンさん。どうされたんです?」

「カリンか。君はどうしてここに?」


「わたしはこの通りの姿ですので、皆を驚かせるからと目立たない場所で食事してました」

「そう…。なんかごめんね」

「ジャンさんが謝ることないですよぉ~。ところで、おひとりで何を?」


「うん、人を探してるんだ。ボクくらいの年齢の女の子で、友人達と席を外したらしいんだけど…」

「あ、その子達なら見ました。向こうの建物の陰に行ったみたいです」

「そうなんだ。ありがとうカリン。行ってみるよ」

「あ、わたしも」


 ジャンはカリンが教えてくれた建物の方に向かった。


(こっちは公民館か? 表側にはいないな。裏側か? 一体何の用事があるんだろう)


 訝しながら公民館の裏手に回ったジャンとカリンは、そこで驚愕の光景を見たのだった。

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